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Mission:大地に光を
第87話:呑気 ~能天気とは相容れない~
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今日も今日とて、三嶋は兄のもとへ行く。運転手は亮成、お目付け役は薫だ。薫は羨ましかった。三嶋は兄との会食だといってうまい飯を食べる一方、自分は亮成と牛丼である。薫は惨めな気持ちを食券の半券と共に握りつぶした。元スパイの癖に、忙しく働いている自分よりいい生活をしているだなんて。
「あいつのこと、どう思ってるん? 前は同室だったんやろ」
「……何とも」
「本当に?」
「本当って……今は一人で二人部屋使えてラッキーって思っとるけど」
「あっそう」
頬杖をついた薫はため息を一つついて、無料の紅しょうがを牛丼に存分にかける亮成の姿を眺めていた。自分より何歳も歳上なのに、仕事をまるでしていない幹部の呑気な姿を見るだけでため息が出る。
「……最近、スパイが多いなァ」
三年前に二人。そしてこの三年間に教団に入ってきたわずか四人の幹部候補生からさらにスパイが一人出た。あまりにも多すぎる。
「国のこととか、Y計画のことが外部に漏れてるんちゃう?」
亮成はおっとり答える。
「おい、外で言うなや」
「薫こそ、スパイの話なんか外でしたらあかんやろ」
箸をかちかち鳴らしながら答える亮成に薫はだんだん腹が立ってきた。
「亮成はええよな」
「何が?」
「いつも暇そうやん」
「部長やないからなぁ」
「俺が睡眠時間をどれだけ削ってると思ってるん? ちょっとは幹部らしい働きくらいせえや」
つい語気が荒くなる。だが亮成は全くひるまない。
「でも、博実を送るのは立派な幹部の仕事やろ。薫やって、幹部やからこの場におるわけやん」
三嶋を兄の元へ送り迎えするだけで幹部を横につけるというのは通常ありえない。これは、一般信者だと三嶋に立場を利用して言いくるめられたり、協力者とされてしまうのを予期してのことである。絶対的に信用を置ける幹部を、どうしても三嶋のお目付け役にする必要があった。
「で、今日は俺が選ばれた、と」
「うん、僕が推しといたんや」
亮成はのんびり頷いた。殺意が湧いてくるが必死で薫はこらえる。
「……ろくでもない仕事が回ってきたもんやわ」
「え、薫は楽しくないん? 外食できるやん」
「お前、ほんま呑気やな。陰で何て言われてるのか知らんの?」
「知らんけど」
「…………」
啖呵を切ったはいいが、薬理部でこっそり呼ばれているあだ名を面と向かって彼に言う気はならなくて薫は黙り込んでしまった。
「帰ろ」
「え?」
「薫、忙しいんやろ」
亮成は薫の分も皿を片付けると、店の入り口付近まで歩いて振り返って言った。
嫌味が全く通じていない亮成に小さく舌打ちをしながら、薫は牛丼屋を後にした。
「あいつのこと、どう思ってるん? 前は同室だったんやろ」
「……何とも」
「本当に?」
「本当って……今は一人で二人部屋使えてラッキーって思っとるけど」
「あっそう」
頬杖をついた薫はため息を一つついて、無料の紅しょうがを牛丼に存分にかける亮成の姿を眺めていた。自分より何歳も歳上なのに、仕事をまるでしていない幹部の呑気な姿を見るだけでため息が出る。
「……最近、スパイが多いなァ」
三年前に二人。そしてこの三年間に教団に入ってきたわずか四人の幹部候補生からさらにスパイが一人出た。あまりにも多すぎる。
「国のこととか、Y計画のことが外部に漏れてるんちゃう?」
亮成はおっとり答える。
「おい、外で言うなや」
「薫こそ、スパイの話なんか外でしたらあかんやろ」
箸をかちかち鳴らしながら答える亮成に薫はだんだん腹が立ってきた。
「亮成はええよな」
「何が?」
「いつも暇そうやん」
「部長やないからなぁ」
「俺が睡眠時間をどれだけ削ってると思ってるん? ちょっとは幹部らしい働きくらいせえや」
つい語気が荒くなる。だが亮成は全くひるまない。
「でも、博実を送るのは立派な幹部の仕事やろ。薫やって、幹部やからこの場におるわけやん」
三嶋を兄の元へ送り迎えするだけで幹部を横につけるというのは通常ありえない。これは、一般信者だと三嶋に立場を利用して言いくるめられたり、協力者とされてしまうのを予期してのことである。絶対的に信用を置ける幹部を、どうしても三嶋のお目付け役にする必要があった。
「で、今日は俺が選ばれた、と」
「うん、僕が推しといたんや」
亮成はのんびり頷いた。殺意が湧いてくるが必死で薫はこらえる。
「……ろくでもない仕事が回ってきたもんやわ」
「え、薫は楽しくないん? 外食できるやん」
「お前、ほんま呑気やな。陰で何て言われてるのか知らんの?」
「知らんけど」
「…………」
啖呵を切ったはいいが、薬理部でこっそり呼ばれているあだ名を面と向かって彼に言う気はならなくて薫は黙り込んでしまった。
「帰ろ」
「え?」
「薫、忙しいんやろ」
亮成は薫の分も皿を片付けると、店の入り口付近まで歩いて振り返って言った。
嫌味が全く通じていない亮成に小さく舌打ちをしながら、薫は牛丼屋を後にした。
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