僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
82 / 185
Mission:大地に光を

第82話:後悔 ~覆水、盆に返らない~

しおりを挟む
「おはよう」
 辻の声で、はっと目が覚めた。両手にじんと痛みが走る。椅子に後ろ手に縛られていた。自分はいつの間に寝てしまっていたのだろう。亮成が打ち込んだ点滴のせいだろうか。あれはきっと、薬理部の用意した睡眠薬に違いない。医師を擁する薬理部だ、麻酔や睡眠薬の類は容易に手に入るだろう。

「体調はどう? 情報課の三嶋博実くん」
「……え?」
一瞬、聞き間違いかと思った。
「あれ、違うん? 確かにそう話してくれたんやけどなぁ。情報課課長、三嶋博実、って」
 三嶋は声を失った。自分が喋った? そんなはずはなかった。全く記憶にない。自分は寝ていただけではなかったのか。

「公安かと思ったけど、違ったねぇ」
 辻は微笑んでいた。今までに見たこともないような冷たい笑顔だった。
「私……いや僕は、そんな課は知りませんよ。警察官ではありますが、捜査二課であって……そんな課ではありません」
「嘘つかんといて」
 ぴしゃりと辻は言う。自信満々だ。

「富士さんが言うてはったよ。三嶋くんの家は警察とは縁遠いはず。まさか警察のスパイとして潜り込んだ裏切り者だなんて、ってな。私も残念やったわ」
 辻はわざとらしく首を振った。

 そこで三嶋は気がついた。
 だ。
 だが、それはありえない。三嶋は即座に否定する。

 自白剤とは、一言でいうと酒だ。酒のようなものに酔わせて酩酊状態になったところに質問を投げかけ、嘘を考える気力もない状態では真実を答えるだろうというシステムである。寝起きでうとうとしている夫が、つい妻の名前と浮気相手の名前を間違えるのを待つというレベルの話だ。有効な自白剤の存在など、聞いたことがない。

 実用に足る自白剤を薬理部が完成させていた、ということだろうか?
 そういえば、辻が言っていたじゃないか。攪乱剤の開発過程で、副産物も生まれたと。もしや、それが自白剤なのではないか?

 考えにくいが、もしそうであれば、あのプロ公安が同時に二人も摘発された理由に説明がつく。何らかの理由で自白剤を打たれ、そのせいで全てを話してしまったのだとすれば。

 わかるのが遅かった。罠にかかってから罠の仕組みを知るだなんて、自分はなんと馬鹿なのだろう。
 保安部の男性信者が睨みつけるのを避けるように三嶋はうつむいた。悔しい、だがどうにもならない。
 その思いが頭に渦巻く中、三嶋は教団の措置をただ待っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...