79 / 185
Mission:大地に光を
第79話:接触 ~彼女はきっと見限れない~
しおりを挟む
もつれている。最高幹部たちの意見が、もつれている。
さすがは人の作った組織、同じ信条の元に集まった人間たちも意見はぶつかり合う。そして派閥もできる。派閥ができれば情報の流れが滞りやすくなる。そして、その滞った情報をこちらに流す隙が生まれる。
この教団の派閥は大きく分けて二つある。坂上弥恵派と辻真理絵派だ。坂上弥恵派には、彼女と仲の良い施設部部長の中村ゆかり、経理部部長の小田切薫、薬理部部長の医師である小林修などがいる。一方、辻真理絵派は衛生部部長の関潤一のみ。宮崎亮成はどちらかというと辻派だが、そもそも彼は幹部としての立場すら危うい。現在強いのは人数の多い坂上派だろう。
いや、誰がどちらだとかいう情報などいらない。この団体に派閥は二つある。大きく仲違いしているわけではないが、派閥トップ同士の溝は深い。それだけでいい。
女同士の争いは、得てして酷く繊細だ。表立って喧嘩することはない。だが手を取り合って同じ方向を向くことは決してありえない。
見えた。三嶋はさりげなく彼らに背を向けると、隙なく笑った。
協力者は辻真理絵。これでいく。
辻の味方の幹部は少ないし、彼女は弥恵に強い不満がある。辻の心の中には様々なものがどろどろになって溜まっている状態だ。そこをうまく利用すれば、きっとこちらの協力者にできる。
そうと決まれば話は早い。というより、協力者に接触し、情報を外部に流すシステムを一から作るのには時間がかかるので、早く行動に移しておきたい。
三嶋は辻に接触するタイミングを計る。狙うは、風呂上りのリラックスした時間だ。一見変態の所業だが、その気恥ずかしさはプロのプライドにかけて捨てる。
タイミングは完璧だった。濡れた頭をふきふき、三嶋は後ろから辻に声をかける。
「つじまちゃん」
さすがの三嶋も、背中に汗をかいていた。風呂上り直後で体がほてっているからではない。
「大事な話があるんだけど」
辻が不思議そうな顔をしてこちらを振り向いた。
「僕に協力してほしいんだ」
感触は悪くなかった。三嶋には自信があった。
彼女は随分長い時間悩んでいたように見えた。
「協力者になるん?」
「うん」
「博実、あんた幹部やろ?」
三嶋は頷いた。
「だけど、僕は警察官なんだ」
「嘘やろ?」
すがるように彼女は言う。驚くのも無理はない。彼女は、三年前の惨劇を知っている人間だ。それも、住吉志穂をまさに処分したのは彼女である。警察という単語そのものが彼女にとって最も耳にしたくない単語だろう。
それが彼女を協力者に選んだ理由でもある。彼女の心に住吉志穂は必ずや大きな傷跡を残している。しかも三嶋は数少ない辻派の人間で、面倒見のいい辻が彼を見限ることは、精神的に容易ではないはずだ。
「博実のお父さんって、警察嫌いなんじゃなかったん?」
三嶋はこっそり笑う。彼女の発言で確定した。教団が警察関係者を排除していると認めたようなものだ。
「そうだよ。でも結局僕は警察官になったんだ。いろんな風の吹き回しでね」
「お父さん、博実が警察官になった時に何も言わんかったん?」
「そりゃもちろん、警察嫌いだからね。でも、兄の仲裁があって、今は父とも和解してるよ」
辻は話をじっくり聞き、噛み砕くようにうなずいた。
「博実が警察官なんて、思いもせんかったわ」
「つじまちゃんを信用してなかったらこんなこと言わないよ」
三嶋は辻の耳元で囁くように語りかけた。
「つじまちゃんは、僕にとって特別だから」
「……わかった。私にできることをさせて」
勝った。三嶋は彼女の手を取り、しっかりと握手をした。
「よろしく」
さすがは人の作った組織、同じ信条の元に集まった人間たちも意見はぶつかり合う。そして派閥もできる。派閥ができれば情報の流れが滞りやすくなる。そして、その滞った情報をこちらに流す隙が生まれる。
この教団の派閥は大きく分けて二つある。坂上弥恵派と辻真理絵派だ。坂上弥恵派には、彼女と仲の良い施設部部長の中村ゆかり、経理部部長の小田切薫、薬理部部長の医師である小林修などがいる。一方、辻真理絵派は衛生部部長の関潤一のみ。宮崎亮成はどちらかというと辻派だが、そもそも彼は幹部としての立場すら危うい。現在強いのは人数の多い坂上派だろう。
いや、誰がどちらだとかいう情報などいらない。この団体に派閥は二つある。大きく仲違いしているわけではないが、派閥トップ同士の溝は深い。それだけでいい。
女同士の争いは、得てして酷く繊細だ。表立って喧嘩することはない。だが手を取り合って同じ方向を向くことは決してありえない。
見えた。三嶋はさりげなく彼らに背を向けると、隙なく笑った。
協力者は辻真理絵。これでいく。
辻の味方の幹部は少ないし、彼女は弥恵に強い不満がある。辻の心の中には様々なものがどろどろになって溜まっている状態だ。そこをうまく利用すれば、きっとこちらの協力者にできる。
そうと決まれば話は早い。というより、協力者に接触し、情報を外部に流すシステムを一から作るのには時間がかかるので、早く行動に移しておきたい。
三嶋は辻に接触するタイミングを計る。狙うは、風呂上りのリラックスした時間だ。一見変態の所業だが、その気恥ずかしさはプロのプライドにかけて捨てる。
タイミングは完璧だった。濡れた頭をふきふき、三嶋は後ろから辻に声をかける。
「つじまちゃん」
さすがの三嶋も、背中に汗をかいていた。風呂上り直後で体がほてっているからではない。
「大事な話があるんだけど」
辻が不思議そうな顔をしてこちらを振り向いた。
「僕に協力してほしいんだ」
感触は悪くなかった。三嶋には自信があった。
彼女は随分長い時間悩んでいたように見えた。
「協力者になるん?」
「うん」
「博実、あんた幹部やろ?」
三嶋は頷いた。
「だけど、僕は警察官なんだ」
「嘘やろ?」
すがるように彼女は言う。驚くのも無理はない。彼女は、三年前の惨劇を知っている人間だ。それも、住吉志穂をまさに処分したのは彼女である。警察という単語そのものが彼女にとって最も耳にしたくない単語だろう。
それが彼女を協力者に選んだ理由でもある。彼女の心に住吉志穂は必ずや大きな傷跡を残している。しかも三嶋は数少ない辻派の人間で、面倒見のいい辻が彼を見限ることは、精神的に容易ではないはずだ。
「博実のお父さんって、警察嫌いなんじゃなかったん?」
三嶋はこっそり笑う。彼女の発言で確定した。教団が警察関係者を排除していると認めたようなものだ。
「そうだよ。でも結局僕は警察官になったんだ。いろんな風の吹き回しでね」
「お父さん、博実が警察官になった時に何も言わんかったん?」
「そりゃもちろん、警察嫌いだからね。でも、兄の仲裁があって、今は父とも和解してるよ」
辻は話をじっくり聞き、噛み砕くようにうなずいた。
「博実が警察官なんて、思いもせんかったわ」
「つじまちゃんを信用してなかったらこんなこと言わないよ」
三嶋は辻の耳元で囁くように語りかけた。
「つじまちゃんは、僕にとって特別だから」
「……わかった。私にできることをさせて」
勝った。三嶋は彼女の手を取り、しっかりと握手をした。
「よろしく」
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる