47 / 185
Mission:大地に光を
第47話:教団 ~スパイだから気付かれない~
しおりを挟む
「大地の光」は、今から二十年ほど前に設立された宗教団体だった。仏教系の大きな宗派から、創設者である富士隆が独立させたのが始まりだった。
大地の光という名前ですらなかった当初の規模は実に小さく、教義もよく練られ、かなりしっかりした、まっとうな宗教団体だったと言えよう。
それが変わったのは、創設から十二年、富士隆が急死した時だった。
独身だった彼の跡を継ぐものは、はじめ一人もいなかった。
そもそも、彼の親族にとって、有名宗派から独立し、そこから白い目で見られていた富士隆の死は、ある意味歓迎すらされていた。
しかし、彼の死から二ヶ月、跡継を名乗り出た者がいた。
甥の隆之だった。
大学院に入ったばかりの彼は、院をすぐにやめ、親の反対を押し切って跡を継いだ。勘当同然だったという。
檀家の者たちは跡継ぎが出たことを喜んだ。
しかし、その喜びはすぐに消え失せる。隆之は、隆とはまるで違う男だった。
教団は変わった。名前も大地の光と変え、活動は不穏な方向へと向かった。
大地の光では、自己献身、あるいは自己犠牲が求められるようになった。
他者に尽くす、という姿勢は、代表が富士隆だった頃からあったが、隆之はそれに自己犠牲を加えた。それが全ての始まり、そして全てを体現している。
当初からいた信者は、団体の変化についていけず、半分以上が大地の光を去った。
しかし、教団は新しい信者を増やし、隆之は二年で教団の規模を倍にした。
その数、千五百名。十分な人数だと判断した隆之は、自分の目的を達成するため、次の行動に出る。
隆之は教団の構造を変え、ピラミッド式にした。一般の信者の上に、自らを絶対的な管理者とおき、信者の中でも序列を設けたのである。
同時に、自らを預言者と称するようになった。代表交代から三年、信者は献身の限りを尽くして体力の限界を迎え、判断能力を失っている者も多かった。
隆之はそれにつけこみ、信者を簡単に絡め取ってみせた。
その裏で、隆之は、とあるシステムを設けた。幹部候補生制である。
優秀な者を幹部候補生とし、教団の運営を任せるようになった。システムは成功、一年に十名ほどの幹部候補生が誕生し、信者はますます増えるようになった。
しかしその頃、公安警察及び公安庁が教団に目をつけた。
信者の一人が、過労死と思われる不審死を遂げ、遺族が教団に責任があるのでは無いかと疑ったのである。
公安庁は、海外に似た事例があったことから、若干の警戒を始めた。
警察もまた、信者の死の直前の不自然な様子に、腰を上げて動き始めた。
しかし、所詮は疑いにしか過ぎず、教団の規模も大きくはない。
だが、新興宗教である以上、手遅れになれば被害は甚大だ。そこで、公安警察と公安庁は、一人ずつ、幹部候補生としてスパイを送り込んだ。
隆之は、はじめそれには気づかなかった。
活動はそこから一年続いた。教団の真の目的が、二人の諜報員に見えかけていた。
大地の光という名前ですらなかった当初の規模は実に小さく、教義もよく練られ、かなりしっかりした、まっとうな宗教団体だったと言えよう。
それが変わったのは、創設から十二年、富士隆が急死した時だった。
独身だった彼の跡を継ぐものは、はじめ一人もいなかった。
そもそも、彼の親族にとって、有名宗派から独立し、そこから白い目で見られていた富士隆の死は、ある意味歓迎すらされていた。
しかし、彼の死から二ヶ月、跡継を名乗り出た者がいた。
甥の隆之だった。
大学院に入ったばかりの彼は、院をすぐにやめ、親の反対を押し切って跡を継いだ。勘当同然だったという。
檀家の者たちは跡継ぎが出たことを喜んだ。
しかし、その喜びはすぐに消え失せる。隆之は、隆とはまるで違う男だった。
教団は変わった。名前も大地の光と変え、活動は不穏な方向へと向かった。
大地の光では、自己献身、あるいは自己犠牲が求められるようになった。
他者に尽くす、という姿勢は、代表が富士隆だった頃からあったが、隆之はそれに自己犠牲を加えた。それが全ての始まり、そして全てを体現している。
当初からいた信者は、団体の変化についていけず、半分以上が大地の光を去った。
しかし、教団は新しい信者を増やし、隆之は二年で教団の規模を倍にした。
その数、千五百名。十分な人数だと判断した隆之は、自分の目的を達成するため、次の行動に出る。
隆之は教団の構造を変え、ピラミッド式にした。一般の信者の上に、自らを絶対的な管理者とおき、信者の中でも序列を設けたのである。
同時に、自らを預言者と称するようになった。代表交代から三年、信者は献身の限りを尽くして体力の限界を迎え、判断能力を失っている者も多かった。
隆之はそれにつけこみ、信者を簡単に絡め取ってみせた。
その裏で、隆之は、とあるシステムを設けた。幹部候補生制である。
優秀な者を幹部候補生とし、教団の運営を任せるようになった。システムは成功、一年に十名ほどの幹部候補生が誕生し、信者はますます増えるようになった。
しかしその頃、公安警察及び公安庁が教団に目をつけた。
信者の一人が、過労死と思われる不審死を遂げ、遺族が教団に責任があるのでは無いかと疑ったのである。
公安庁は、海外に似た事例があったことから、若干の警戒を始めた。
警察もまた、信者の死の直前の不自然な様子に、腰を上げて動き始めた。
しかし、所詮は疑いにしか過ぎず、教団の規模も大きくはない。
だが、新興宗教である以上、手遅れになれば被害は甚大だ。そこで、公安警察と公安庁は、一人ずつ、幹部候補生としてスパイを送り込んだ。
隆之は、はじめそれには気づかなかった。
活動はそこから一年続いた。教団の真の目的が、二人の諜報員に見えかけていた。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる