37 / 185
Mission:インサイダー・パーティー
第37話:対話 ~白々しさも悪くない~
しおりを挟む
会場の隅から離れた伊勢兄弟は何事もなかったかのように歓談の輪に溶け込む。
「一応、本職側の仕事でパーティーに来たわけだから、それは果たさないとねぇ」
「まあ、単に挨拶して駄弁るだけって言ってしまえばそれまでだけど」
「あとパーティーってどのくらい?」
「一時間半くらいじゃない?」
「じゃあ、その間に廣田にアポ取らなきゃな」
章が珍しく廣田の名前を呼んだことに、裕は驚いた。
「アポ?」
「やっぱりパーティー中じゃ逃げられるだろ。場所を変えて追い詰めないと」
「アポ取った時点で逃げられなきゃいいけど」
「言い方さえ考えれば大丈夫だと思うけどなぁ」
「どこに誘いだすんですか?」
前回はファミレスだった。
多賀としては、やはりカフェのように洒落た場所での攻防を期待したい。
「考え中だけど、居酒屋にするつもり」
「……なんで居酒屋?」
裕もやはり、気の利いた場所を期待していたのだろう。
しかし章はそういう風情をまったく解しようとはしてくれない。
「怪しまれない場所だし、気負わなくていいじゃないか。
個室のある居酒屋にすれば、内容だってほとんど気にせず話せる 」
「そんな場所に、タキシード着た龍平が来るかっていう話だよな」
「何だよ、僕らだって着てるじゃないか」
「俺らは誘う側だろ」
「僕が何とかするから、そこは考えずにいこう。……あ、廣田久しぶり!」
まるで、会場内で初めて廣田を見かけ、声をかけたかのように装って、章は廣田の元へかけよる。
廣田は意外そうな顔で振り返った。
「どうしたんだ章。久しぶりだなぁ」
「いや、熱田重工のパーティーに廣田が来てるってのが意外でさ」
「ああ、俺の叔父さんが熱田重工のお偉いさんだから。親戚なんだ」
「へえ、それは初めて聞いた。まさかここで出会うなんて、思ってもみなかったよ。
な、パーティーももうすぐ終わっちゃうし、あとで飲み直しに行かないか?」
「飲みに行くの? どこ?」
「駅前にそこそこいい居酒屋がある。そこでどう?」
「……いいんじゃない? 行くよ」
裕は若干不安がっていたが章の見立ては正しく、廣田はすんなりと居酒屋行きに賛成した。その反応があまりに素直で、多賀には被疑者であるはずの彼が罠にでもかかったかのように見えた。
廣田からすると、久しぶりに旧友に話しかけられて嬉しかったのは確からしい。
「学生気分を思い出すのも悪くないね」
普段のスタイリッシュな姿とは対象的に、廣田は可愛らしくはにかんだ。
「一応、本職側の仕事でパーティーに来たわけだから、それは果たさないとねぇ」
「まあ、単に挨拶して駄弁るだけって言ってしまえばそれまでだけど」
「あとパーティーってどのくらい?」
「一時間半くらいじゃない?」
「じゃあ、その間に廣田にアポ取らなきゃな」
章が珍しく廣田の名前を呼んだことに、裕は驚いた。
「アポ?」
「やっぱりパーティー中じゃ逃げられるだろ。場所を変えて追い詰めないと」
「アポ取った時点で逃げられなきゃいいけど」
「言い方さえ考えれば大丈夫だと思うけどなぁ」
「どこに誘いだすんですか?」
前回はファミレスだった。
多賀としては、やはりカフェのように洒落た場所での攻防を期待したい。
「考え中だけど、居酒屋にするつもり」
「……なんで居酒屋?」
裕もやはり、気の利いた場所を期待していたのだろう。
しかし章はそういう風情をまったく解しようとはしてくれない。
「怪しまれない場所だし、気負わなくていいじゃないか。
個室のある居酒屋にすれば、内容だってほとんど気にせず話せる 」
「そんな場所に、タキシード着た龍平が来るかっていう話だよな」
「何だよ、僕らだって着てるじゃないか」
「俺らは誘う側だろ」
「僕が何とかするから、そこは考えずにいこう。……あ、廣田久しぶり!」
まるで、会場内で初めて廣田を見かけ、声をかけたかのように装って、章は廣田の元へかけよる。
廣田は意外そうな顔で振り返った。
「どうしたんだ章。久しぶりだなぁ」
「いや、熱田重工のパーティーに廣田が来てるってのが意外でさ」
「ああ、俺の叔父さんが熱田重工のお偉いさんだから。親戚なんだ」
「へえ、それは初めて聞いた。まさかここで出会うなんて、思ってもみなかったよ。
な、パーティーももうすぐ終わっちゃうし、あとで飲み直しに行かないか?」
「飲みに行くの? どこ?」
「駅前にそこそこいい居酒屋がある。そこでどう?」
「……いいんじゃない? 行くよ」
裕は若干不安がっていたが章の見立ては正しく、廣田はすんなりと居酒屋行きに賛成した。その反応があまりに素直で、多賀には被疑者であるはずの彼が罠にでもかかったかのように見えた。
廣田からすると、久しぶりに旧友に話しかけられて嬉しかったのは確からしい。
「学生気分を思い出すのも悪くないね」
普段のスタイリッシュな姿とは対象的に、廣田は可愛らしくはにかんだ。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説


王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。


断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる