僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
39 / 185
Mission:インサイダー・パーティー

第39話:復縁 ~酒は入りすぎてない~

しおりを挟む
「なんでそう思うんだ?」
 廣田がゆっくりと口を開く。
「簡単だよ。お前がナオにスマホを渡していたからだ」
「スマホ?」
「ナオが、供述中にお前のスマホを持っていたという情報が入ってね」
「どこで仕入れた情報だよ章。第一、タレ込ませるメリットなんか、俺にないだろ」
 
「メリットはないよ」
 情報源についての質問を無視し、あっけらかんと章は答えた。
「そうするしかなかったんだろ。タレ込むって決めたのは、廣田じゃないからな」
「誰が決めたっていうんだよ」
「株式会社インフィニティだ」
「い、インフィニティですか?」
 思わず会話に割り込んでしまった多賀は、慌てて自分の口を手で押さえた。

「だよね、この子の反応が正しいよね」
 廣田は多賀をさして苦笑し、ビールをぐっとあおった。
「知らないかもしれないけど、インフィニティって、こんど俺たちの企業を買収する企業なんだよね。そんな企業がタレコミなんかさせるはずないだろ」
「知ってるよ。さっき聞いた。聞いて確信したのさ」
「どういうことだよ」

「ナオの浮気相手は、インフィニティの担当者だったんだろ?」
「いや、俺は知らないんだけど。ていうか、何の担当者だったんだよ」
担当者じゃないかな」
 廣田は口を開けて黙った。

「いや、ちょっと待てよ。俺とナオは別れたんだぞ?」
「別れてないだろ。ま、一度別れたけど、実際は再度くっついたという方が正しい」
「な、何を根拠に……?」
 廣田の顔色が初めて変わった。章がニヤリと笑ったような気がした。

「ナオってさ、30歳手前な上にあの性格だぞ。
 いくら自分に非があるとは言え、婚約破棄になって大人しいわけねぇだろ」
 裕の目がぱっと輝き、口元に手を当てて笑いをこらえ始めた。
「ナオちゃんて、プライド高いもんねぇ。
 友達が結婚していく中で自分は婚約破棄だなんて、絶対に嫌がるタイプだろうし」

 廣田は渋い顔で料理を口に運ぶ。そして小さくため息をついた。
「わかった、ナオと俺がまだ別れていないことは認める。確かに俺は、一度婚約破棄して実はこっそり復縁したよ。
 そんで、お前らは俺に何が言いたいんだ?」

「お前がやった犯罪を自首しろって言いたい」
 章は肉じゃがをつまむ。箸先からじゃがいもが滑って章の手に落ち、章は慌ててグラスで手を冷やす。
 その呑気さに裕は呆れ、廣田はいら立ちを見せた。
「え、犯罪? インサイダー取引してないって言ったのは章じゃないか。
 どこが犯罪なんだよ。笑えない冗談はやめてくれないか」
 廣田に罪を認める気はないらしい。追い詰めているとはとてもいえない以上、しょうがないことである。
 もっと厳しい追い討ちが必要だ。

「確かに、お前はやってもいないインサイダー取引を、裏で繋がっていたナオにタレコミさせた。
 それ自体は犯罪じゃない。けど、粉飾決算は犯罪だぞ」
 あまりに直接的すぎやしないかと、多賀の心臓が鳴る。

「酒入りすぎてない? 章、弱いもんなぁ。おい裕、止めてやれよ。秘書の君もだ」
 しかし、廣田は、顔色を変えるどころか、章を心の底から心配し始めた。
 そのあまりに自然な表情に、多賀は強い不安に襲われていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...