僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
25 / 185
Mission:インサイダー・パーティー

第25話:聴取 ~証人だから手が出せない~

しおりを挟む
 廣田の元婚約者であるナオに連絡を取り、彼女が県警本部に来ることになったのは、伊勢兄弟が帰ってから一週間ほど、日曜日の午後である。

 兄弟が寄越したメールは短いものだったから、ナオの聴取を担当する春日の負担は大したものではない。
 しかし、「こちらが何を訊きたいか悟らせるな」と、章から厳命が出た。
 本命の質問を、どうカモフラージュするか。
 仕事とはいえ、それをいちいち考えねばならんというのが春日には面倒くさい。

 諏訪は気楽にやれと言うが、自分が関わり合いになりたくないのが見え見えだ。

 女の子との食事をキャンセルしてまで計画を練った春日は、少々うんざりしつつ、しかし女の子と話せることに期待しつつ、手配した小部屋に赴いた。
 ナオは、時間丁度に現れた。
 彼女の顔を確認した春日は、そっとポケット内のレコーダーのスイッチを入れる。

 伊勢兄弟の話と三嶋の憶測からナオの人物像として魔女のような女を想定していたが、予想は完全に外れていた。
 黒髪ボブカットの清楚系で、三十路のはずなのに若々しい。

「本日は、県警本部にまでご足労いただき、ありがとうございます。
 石井奈緒さんですね」
 ふだんの関西弁を完全に封印し、春日はナオに茶を出しながら優しく語りかけた。
 情報を出してくれる貴重な人間なので、扱いは丁寧である。

 はい、と返した彼女は、やはり清楚そうに見える。
 足元にバッグを置いた彼女がゆったりと腰掛けると、ただのパイプ椅子が急に豪華に感じられた。美人だ。
「今回、お話を聞かせていただく春日と申します」

 春日は微笑んで彼女と目を合わせ、一礼してみせる。
 ナオの視線は、自分に釘付けだった。
 自惚れでもなんでもなく、見とれられているのには違いない。
 事件が終わったら、プライベートで彼女に声をかけてみようと春日は決めた。

「株式会社アライヴの件について、貴重な情報を頂いたのですが、いくつか確認したいことがございまして、ご連絡いたしました次第です」
 春日が前口上を並べていくのを、ナオはぼうっとした表情で聞いている。
 人の話聞いてんのか、と内心で毒づくが、元役者の意地で、顔には全く出さない。

「石井さんは、金融関係にはお詳しいのですか?」
「いいえ。私は文系でして、数学の関わる分野はちょっと……」
「お仕事は?」
「高校で国語教師をしています」
 ナオは、京都の進学校の名をあげる。伊勢兄弟の出身高校だから、彼女は自らの母校に勤めている形だ。

「それはそれは、遠くからありがとうございます」
「いえ、今週末はこちらで人と会う約束があったものですから……」

「アライヴ代表、廣田龍平とは、いつからのお知り合いですか?」
 章の元カノだから、高校からだということは百も承知だが、建前上は知らないことになっているので、カモフラージュの質問を投げる。
「高校の時から、お付き合いしていました。こないだ別れたんですけど」

 ナオは平然と答える。
 そういう質問をされても嫌がらないあたり、やはり外見から漂う繊細さとは裏腹な面がありそうだ。

「廣田の金回りが急に良くなったということですが、具体的にいつからでしょう?」
「四年ほど前から一年ほど前までです」
「どの程度変化した、とか説明していただけます?」

「いえ、それほど大きな変化では無いんです。
 例えば、すごくいい食事に連れて行ってくれたりプレゼントを買ってくれたり。
 株価が下がってたりしたはずなのに」
「他には?」
「……車を買ってました。引っ越しもしていましたし」

 春日の顔が少しだけ曇る。いい予感がしない。
 しかし、ナオはそれには気づいていないようだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...