僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
上 下
16 / 185
Mission:インサイダー・パーティー

第16話:礼服 ~安い服しか持ってない~

しおりを挟む
「そうだ多賀、お前、礼服って持ってる?」
 昼を過ぎ、諏訪が交通課に行って、すこしがらんとした情報課会議室で、章が思いついたように言った。

「れ、礼服ですか?」
 聞けば、合コンは高級レストランで行われるらしく、相応のドレスコードがあるらしい。
 多賀はそんな店に行ったことなどまるでなく、高級店の存在など、半ば都市伝説とすら思っていた。

「まあ、若者ばかりだから、スーツでもいいんだけど。多賀のそれ、リクルートスーツだろ? 上下でいくらか聞いていい?」
「15,200円のスーツを、学割10%引きで買いました」

 章は一瞬硬直する。実際にいくらだったのかを計算したのか、あるいは、予想外の安さに戸惑ったのかもしれない。
 章も背広の仕立てはNEIGEらしく、一着で多賀の十倍の値段くらいはしそうである。

「ウブっぽくていいけど、ちょっとマズいかなぁ」
「で、ですよね……」
「ちゃんとした礼服とかはない?」

 多賀の下宿には、そんなものなど当然ない。では、実家はどうかというと、
「父の紋付ならあります!」
 多賀は、警察学校仕込みの、歯切れよい返事をした。

「合コン会場で着てね、それ」
「あ、いえ……」
 焦る多賀を見て、章は快活に笑う。
 しかし、一方で多賀の紋付袴に興味はあったのか、少し残念そうでもあった。

「すみません」
「いやいや、多賀の歳じゃ、普通持ってないよ。そういや、僕の長兄の古いタキシードが実家にある。兄の体格は多賀と同じくらいだったはずだから、それ着たら?」
「いいんですか?」
「ああ。明日の晩、僕の家においで。僕らの家まで、裕に送らせるから」
 多賀は思いつく限りの礼を言って、深々と頭を下げた。

 そして、翌日である。
「多賀、車出してきたから送るよ」
 定時を過ぎ、西日の差している無人の会議室で待つ多賀を、裕が呼びに来た。 

 鼻歌交じりに自動車を発進させる裕は、驚くほど運転が上手い。
「章はもっと上手いよ」
「裕さんより?」

 手先の器用さには自信があるが、運転は苦手な多賀からすれば、後ろを見ずにバックが出来る時点で人智を越えていると言っていい。
「章はセミプロだからねぇ。車だって、俺よりかなりいいの乗ってるし」
「……裕さんより?」

 イセは、主にマニアック系大衆車(矛盾がある言い方にしか聞こえないが)を生産している。
 どの車種にも、特段値段の違いはない。
 第一、裕の洒落たワゴンは、CMを見る限り、山ほど機能のついた最新型のはずだ。
 裕は完全に無視しているが、カーナビの中で様々なシステムが作動している。

 開発者側が無視していいのか、という気がしないでもない。

「章は改造車に乗ってるんだよ」
「改造車?」
 夜中に爆音で公道を走る改造車を想像した多賀は眉間にしわを寄せる。それに気づいたらしい裕は、うつむいて苦笑したので、助手席の多賀は少々焦った。
「自動車レースに出るようなタイプの改造車だよ。スピードは出るけど音は出ない」

「いっぺん乗ってみたいです」
「大喜びで乗せてくれるだろうけど、燃費も乗り心地もイマイチだから止めとけ」

 え、と多賀が反応する前に、自動車の速度は急に落ちた。
「着いたよ。俺たちの家だ」
 多賀の目の前には、タワーマンションがある。そして車内で光っていたカーナビからして、ここは都内だ。
 都内のタワーマンション、なんとセレブリティ溢れる響きだろうか。
 さすが、世帯年収が数千万近いだろう伊勢兄弟が住む家である。

「す、すごいですね……」
「いや、そんなことないよ」
 裕はすました顔で謙遜してみせた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...