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Mission:インサイダー・パーティー
第13話:法律 ~帳簿に何も載っていない~
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「三嶋さん、とりあえず帳簿は全部見ました。けど、この帳簿、まずいんですか?」
数字の羅列が得意でない多賀は、流し読みをしたことは伏せて尋ねる。
「俺なんか、インサイダー取引が何かすら、分かんないっすけど!」
諏訪の方は、もはや開き直ったようだ。
「まあ、知らなくてもしょうがないと思います。
……インサイダー取引というのは、簡単に言うと、内部情報をもとに株取引をすることなんです。法律で禁じられています」
「内部情報って例えば?」
「裕くんの会社が不祥事を起こしたとしましょう」
「おいおい、不祥事じゃなくてもいいだろ」
三嶋は裕のツッコミを無視して続ける。
「そして、諏訪くんが伊勢自動車の株をいっぱい持ってたとします。
裕くんが諏訪くんに、『これはオフレコだけど、うちの会社で、リコール騒ぎになりそうなんだ』と言ったら、諏訪くんはどうします?」
「リコールだなんて、縁起でもない!」
裕の反論はまたもや切り捨てられた。
可愛らしい顔をした三嶋だが、笑顔できついことを言う。
「応援のため、もっと株を買ってあげます!」
「馬鹿ですか諏訪くんは」
三嶋の常に隙のない愛想笑いが、かえって諏訪にダメージを与えている。
「株ってそういうもんじゃないんすか?」
「違いますよ。リコールなんかになったら、イセ(株)の株価は下がります。
リコールが発表される前、つまり、株価が高いうちに全部売ってしまうのが、一般的な得策ですね」
「……正しい説明だけど、イセの管理職としては、やっぱり腑に落ちない」
「続けます。ここでイセ(株)の手持ち株を全部売った諏訪くんは、阿鼻叫喚している株主たちを尻目に低被害で済みましたね」
「そうっすね」
「逆に言えば、他の株主よりは得したわけです。大荒れの株主総会の中、諏訪くんは落ち着いて出席してられるでしょう」
裕は噛み付くのをやめた。
大荒れの株主総会を想像したのか、眉間にしわを寄せ、こめかみに手を当てながら、黙って三嶋の話を聞いている。
「ここで、どうして諏訪くんが得をしたのかというと、裕くんという友達がいたからですね。これって、ずるくありませんか?」
「……確かに」
「これを規制してるのが、えーっと」
「『金融商品取引法』です」
法学部出身の多賀が、助け舟を出す。
「今、アライヴ(株)はこれに違反したという情報が入ってきてるんですよ」
「なるほど」
諏訪は納得したというように頷いた。
「でも三嶋さん、インサイダーがあるなんて、どうやってわかったんですか?
この帳簿、いくら見てもわからないんですけど」
「いや、私もわかりませんよ。そんなもの、この帳簿からわかったら捜査なんかいらないじゃないですか」
「はい?」
「アライヴ(株)がインサイダーをしているというタレコミが入ったんです。……入ったんですが、証拠がないんですよ。だから、我々が証拠を掴んでから、でかい捜査に乗り出そうというわけです」
「へぇ。タレコミって誰から?」
「廣田の元カノさんです」
裕がぶっと吹き出した。つばが資料に飛んで、慌てて裕はシャツの袖で資料をぬぐい始める。
「お知り合いですか?」
「章の高校時代の彼女だよ。龍平がその彼女を取ったのも、章と龍平の仲が悪くなった理由の一つだ」
ちょうどその時、情報課の扉が大きな音を立てて開いた。
「来たよ!」
自社製の愛車を飛ばしてきた章が期待に顔を輝かせ会議室の入り口に立っていた。
数字の羅列が得意でない多賀は、流し読みをしたことは伏せて尋ねる。
「俺なんか、インサイダー取引が何かすら、分かんないっすけど!」
諏訪の方は、もはや開き直ったようだ。
「まあ、知らなくてもしょうがないと思います。
……インサイダー取引というのは、簡単に言うと、内部情報をもとに株取引をすることなんです。法律で禁じられています」
「内部情報って例えば?」
「裕くんの会社が不祥事を起こしたとしましょう」
「おいおい、不祥事じゃなくてもいいだろ」
三嶋は裕のツッコミを無視して続ける。
「そして、諏訪くんが伊勢自動車の株をいっぱい持ってたとします。
裕くんが諏訪くんに、『これはオフレコだけど、うちの会社で、リコール騒ぎになりそうなんだ』と言ったら、諏訪くんはどうします?」
「リコールだなんて、縁起でもない!」
裕の反論はまたもや切り捨てられた。
可愛らしい顔をした三嶋だが、笑顔できついことを言う。
「応援のため、もっと株を買ってあげます!」
「馬鹿ですか諏訪くんは」
三嶋の常に隙のない愛想笑いが、かえって諏訪にダメージを与えている。
「株ってそういうもんじゃないんすか?」
「違いますよ。リコールなんかになったら、イセ(株)の株価は下がります。
リコールが発表される前、つまり、株価が高いうちに全部売ってしまうのが、一般的な得策ですね」
「……正しい説明だけど、イセの管理職としては、やっぱり腑に落ちない」
「続けます。ここでイセ(株)の手持ち株を全部売った諏訪くんは、阿鼻叫喚している株主たちを尻目に低被害で済みましたね」
「そうっすね」
「逆に言えば、他の株主よりは得したわけです。大荒れの株主総会の中、諏訪くんは落ち着いて出席してられるでしょう」
裕は噛み付くのをやめた。
大荒れの株主総会を想像したのか、眉間にしわを寄せ、こめかみに手を当てながら、黙って三嶋の話を聞いている。
「ここで、どうして諏訪くんが得をしたのかというと、裕くんという友達がいたからですね。これって、ずるくありませんか?」
「……確かに」
「これを規制してるのが、えーっと」
「『金融商品取引法』です」
法学部出身の多賀が、助け舟を出す。
「今、アライヴ(株)はこれに違反したという情報が入ってきてるんですよ」
「なるほど」
諏訪は納得したというように頷いた。
「でも三嶋さん、インサイダーがあるなんて、どうやってわかったんですか?
この帳簿、いくら見てもわからないんですけど」
「いや、私もわかりませんよ。そんなもの、この帳簿からわかったら捜査なんかいらないじゃないですか」
「はい?」
「アライヴ(株)がインサイダーをしているというタレコミが入ったんです。……入ったんですが、証拠がないんですよ。だから、我々が証拠を掴んでから、でかい捜査に乗り出そうというわけです」
「へぇ。タレコミって誰から?」
「廣田の元カノさんです」
裕がぶっと吹き出した。つばが資料に飛んで、慌てて裕はシャツの袖で資料をぬぐい始める。
「お知り合いですか?」
「章の高校時代の彼女だよ。龍平がその彼女を取ったのも、章と龍平の仲が悪くなった理由の一つだ」
ちょうどその時、情報課の扉が大きな音を立てて開いた。
「来たよ!」
自社製の愛車を飛ばしてきた章が期待に顔を輝かせ会議室の入り口に立っていた。
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