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怒り

悪夢

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翌朝、ノックの音で目が覚めた。

「咲良、母さん仕事行くね。夕ご飯はなにがいい?」

今日は休みで、一日中家でごろごろするつもりだと母には言ってあった。

「今日は母さんの肉じゃがが食べたい」

言うと、ドアの隙間から顔を出した母は、ふっくらした頬を持ち上げて微笑んで、オッケーとほほ笑んだ。そうでなくても細い目が、にっこり笑うとさらに小さくなる。

「お昼ご飯は、自分で用意できる?」

「できるよそのくらい」

「ダイニングの引き出し、あそこに食費のお財布入ってるから」

「ありがとう」

急に子ども扱いされて、なんだかくすぐったい。
母は照れ臭そうに肩をすくめたあと、ひだまりみたいな顔で言った。

「ゆっくり、休みなよ」


勤務先の高校へと出かけていく母を見送り、リビングのソファでぼんやりテレビを眺める。

昼前にはもうお腹が空いてしまった。ダイニングの引き出しに向かい、引き出しの上に立てて並べてある店屋物や宅配のメニューを引っ張り出した。

「ひさびさに越後屋さんもいいな」

懐かしいそば屋のメニューに目を落とし、ひとり呟く。

注文し、お金を用意しようと引き出しを開けた。食事代くらい自分で払えるのだけど、自室まで財布を取りに上がるのが面倒だった。

引き出しには食費専用の財布のほかに、生活費関連の通帳がしまわれている。その中に「咲良」と書かれた封筒があった。中には数冊の通帳がある。おそらく両親が私のために蓄えてくれているのであろう。

「もう大人だっていうのに」

まだ貯金してくれているのかな、と何の気なしに一冊を開いてみる。それなりに働いているから、あてにしようとかそんなつもりはなかった。単純に、父と母が、私がいない間も自分を思ってくれていることを、なんとなく確認したかったのだった。

開いて視線を落とした直後、玄関のチャイムが鳴った。まいど越後屋です、と元気な男性の声が響いた。

「相変わらず早いんだ」

私は通帳を戻し、スリッパをパタパタ鳴らして玄関に向かった。







食事を終えて、自室のベッドに寝転んだ。


昴は今頃どうしているのだろう。ちゃんと仕事はしているか。私のことなど、もう思い出すこともないのだろうか。それとも、顔も見たくないくらい、嫌われてしまったのだろうか。私は今だってこんなにも、頭の中は昴のことで一杯なのに。

昴の気持ちを確認するのが怖いから、連絡しようとは思わなかった。彼の思いを確認しなければ、まだ心は離れていないと信じ込むことができた。そんなふうに現実から逃避して、記憶の中で戯れるかのように、以前の昴との関係に思いを巡らせた。


私たちは日を追うごとにお互いの沼に溺れ合うように、思いを深め合った。一緒の時間を過ごせるときは、ほとんどと言っていいくらい体を重ね合わせていた。
二人だけですごした雨の休日、昴は飽きずに朝から晩までずっと私の秘所を舐めていたこともあった。挿入したまま、長い間、髪を撫で合ったりキスしたりして過ごした時もあった。私たちはまるで本当に一つの生き物みたいに体のどこかしらをつなぎ合わせて過ごしていた。


思い出せば否が応でも体は昴を欲しがって、ズキズキと痛むような感覚に襲われた。


「昴、会いたいよ」


昴の家族に起こった悲しい出来事さえなかったら、私たちはどこまでも深く堕ちて行っただろう。片時も離れることができずないくらいにのめり込み合っていたにちがいない。

午後の光が差し込む部屋のカーテンを引いて、そっと服を脱いだ。目を閉じて、昴の感触を思い出してみる。

昴の骨っぽく、しっとりした手のひらの感触を思い出しながら、乳房に触れた。円を描くようになぞりながら、目を閉じる。ふっくらと緩んだ乳首を指先で弄び、きゅっと勃起するまでやわやわとつねる。


もう片方の指先を舐めて濡らし、ショーツの隙間に挿し入れる。うっすらと毛におおわれた恥丘を撫で、湿り気を帯びた割れ目に指を滑り込ませた。ぴちゃぴちゃと水音が立つほどに濡れた割れ目をくすぐり、さらに愛液が滴るまで愛撫を繰り返した。

ショーツを脱ぎ捨て、全裸に。明るい日差しで温められた部屋に、私の湿った吐息が立ち込める。


うつ伏せになり、尻を高く突き上げ、両足のあわいを指先で激しくこすった。徐々に鬱血して腫れる貝肉をこね回し、雫がたれるほどに濡れたところでずるりと指を挿し入れた。

「くうっ・・・」

奥を指先でつつき、腰を突き上げる。花壺をかき回し、襞を指先で弾き、反対の指で花蕾も捏ねた。

「ああ・・・昴・・・」

くちくちと音を立て、こんどはあおむけになって両足を思いきりМの字に開く。激しく指を抜き差しし、かすかに震え出した花壺をこれでもかとさすり上げた。
足をぴんと延ばし、絶頂を呼び寄せる。

「ああっ・・・いくうっ・・・」

恍惚に顔が微笑んでしまう。

昴・・・記憶の中に昴を思い起こすだけで、こうして達してしまうほど、体も心も昴を欲している。

「いく、いく」

激しく指を動かし、絶頂の波を招き寄せる。

はあはあと息を荒げながら、下半身をがくがく震わせて、絶頂を迎えた。


これまでの疲れが出たのだろうか。私はそのまままどろんでしまった。
温かい日差しに包まれ、毛布を顎まで引き上げると、白く光る景色の夢に、少しずつ沈んでいった。


水面にゆっくりと浮かぶように、意識がうっすらと覚醒した気がした。
夢の中で昴に抱かれていた私は、またその夢に沈みたくて、再び意識を手放すように深く目を閉じた。

胸元までかけていた毛布がそっと取り去られ、むき出しになった乳房を、暖かな指先がなぞった。そのくっきりとした感触に私の皮膚が粟立つ。
稜線を辿る指の感触のリアルさに、私は陶酔するようにさらに深く眠りを貪った。

夢の中でいいから、何度も抱かれたい。

乳首にそっと触れられ、円を描くように愛撫され、ふわりとした桃色の先端がきゅっと突き立つのが分かった。温かく濡れた舌が、乳首をなぞる。甘く吸われて、背筋が反り返った。
執拗に乳房を揉まれ、熱い舌で舐られ、秘所までもが反応してぐっしょり濡れた。


「はあ・・・」

胸の上に覆いかぶさる大きな影が、熱い吐息を胸に吹きかけた。

うっすらと目を開けると、そこに、黒い髪の頭が揺れるように上下しているのが見えた。


息を呑む。

それが誰なのかすぐにわかった。そして、これが夢ではないと言うことも。

ぎゅっと目を閉じ、寝たふりを装う。

───お兄ちゃん・・・何してるの


鼻腔をくすぐる甘い香りで、陸翔がしたたか酒を飲んでいるのが分かった。

下半身を隠していた毛布が取り去らわれ、かすかな空気の揺れが全身の皮膚を撫でた。
上から熱くて硬い陸翔の体が覆いかぶさった。

両足のあわいの割れ目を、固くて熱いものが突いて来るのが分かる。

───これは何かの間違いだ。お兄ちゃんは酔って、自分が何をしているかわからないんだ

とっさにそう自分に言い聞かせ、目をぎゅっと閉じる。

くちっ・・・

濡れた花弁が陸翔の先端を迎え入れた。その先の亀裂をぬるぬると、陸翔の熱いものがこすりつけられる。

「濡れてる・・・感じてるんだね・・・」

陸翔の泣きそうな震える吐息が耳をかすめた。
私は夢中で眠ったふりを装った。

どうかこのまま、私が気づかないふりをしている間に、私から離れて・・・今ここで私が目を覚まし、兄をはねのけたとしたら、私たちの間に修復不能な溝が刻まれることは間違いない。

「今だけは、俺を受け入れてくれ・・・」

陸翔がつぶやきながら、私の片足をわずかにずらして股間を広げ、ぐにゅりと私のナカに割り入ってきた。圧倒的な大きさと熱さに、思わず声が漏れそうになる。

陸翔はゆっくりと律動を始めた。まぶたの淵に、涙が滲んでしまう。


私にとって兄はかけがえのない存在。もう大人なんだ。セックスなんか何度もしてる。たったこれくらいの間違いで関係を壊すわけにはいかない。
悲しみに震える呼吸を喉元にとどめ、自分に言い聞かせる。

無心に腰を振る陸翔に体をゆすられながら、それでも私は必死に眠ったふりをした。
ずじゅっ、ずじゅっ、っとぬかるんだ花壺をかき回され、恐怖に反して愛液がじくじくとにじみ出る。自分の心と体が真っ二つに分裂するような心地がした。

兄の衝動が醒めるのを、じっと待つ。苦しい。怖い。けど、私に触れてくるその手に、深い愛が宿っていることも、私には感じ取ることができた。


この事態をどう受け止めたらいいのか、わからない。背を向けたい。目を瞑りたい。早くこの時間が過ぎ去って欲しい。


「うぅぅっ・・・」

嗚咽にも似たうめき声を上げ、陸翔が体を震わせた。中に、熱いほとばしりが流れ込んでくる。ぬめぬめとした感触が忌まわしく、声をあげて逃げ出したい衝動を必死で抑えた。

「ごめんな・・・」

陸翔は囁きながら、ティッシュで私の秘部をぬぐった。私の体を毛布で覆い、音もなく、部屋から立ち去って行った。

私は毛布にくるまったまま泣き続けた。何がどうして、こんなことになってしまったのか分からない。

あれは私に対する陸翔の歪んだ愛情表現ではないか。
これまで私の恋愛に横やりを入れてきたのは、私に対して妹以上の感情を抱いていたからだったのだろうか。

私にとっては陸翔は唯一の兄弟だ。嫌いになることなんてできない。けど、彼の思いと衝動を、受け入れることもできない。

今日の出来事は自分の胸の奥にしまい込んでしまおう。全く気付かなかったふりでいよう。

これはきっと悪夢なんだ。あまりにも現実的な感触を持った、悪い夢だったのだ。


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