上 下
7 / 23

恋が始まる

しおりを挟む
翌日は水曜日で、ビールの配送がお休みの日だった。
ユニフォーム姿の昴に会えないのは、ちょっと寂しい。

昴が働くカイロジスティクスは、物流企業の中では中小企業に属するベンチャー企業だ。

日本各地で点々と興るクラフトビールの魅力に目を付けた甲斐社長が、全国のクラフトビールを一手に集め、各地の飲食店などに再分配するビジネスを立ち上げたのは十年前。

水曜日は、各地から運び込まれるビールの搬入作業のために、昴は倉庫に張り付きなのだと言う。



夜、締めの作業を終えてごみ袋をまとめて裏口に出ると、昴が、停車したアメリカンバイクに腰かけて待っていた。倉庫での作業を終えて自分のバイクでフォレストまで来てくれたようだった。

街灯に照らされた柔らかそうなベルジャンホワイトの髪が、小雨でしっとりと濡れている。飛びついて抱き着きたい衝動を抑えて、私は微笑みかけた。

大急ぎで帰り支度を終え、昴のもとに駆け寄ると、昴は私の髪を撫で、顔にかかる束をそっと耳にかけてくれた。
そうやって髪を整え終えると、パールホワイトのシンプルなヘルメットを被せてくれた。


「似合うじゃん」


そう言って微笑んだ昴のバイクの後ろに乗り、山道を下る。

この町のメインストリートに当たる街道をしばらく走り、細い道に折れると、田畑が広がる開けた場所にぽつんと立つプレハブのような建物の前で、昴はバイクを止めた。

農耕器具のもの置き場だったと思われるその場所に、昴の住まいがあった。

大きなシャッターが下りた建物の脇にある、すりガラス製のアルミサッシのドアを開けると、すぐ横にステンレス製の大きめのシンクがあり、二階建てほどの天井高のがらんとしたスペースの片隅にはラグが敷かれていた。ラグの周辺には、生活に必要な道具たちが置かれていた。

保健室のようなパイプ製のベッド、冷蔵庫代わりのクーラーボックス、キッチン代わりのカセットボンベ式のコンロ、奥にはビニールのカーテンで仕切られたスペースがあり、即席でしつらえたシャワールームがあるようだった。

コンクリートの床からは、ひんやりと冷気が立ち上ってくる。壁には断熱効果もなく、隙間からは冷たい空気が吹き込んでいる。

昴はアウトドア用のランタンを灯し、どこからか拾ってきたような、破れたラブソファーの上に毛布を敷いて、私専用の座席を用意してくれた。そばに置かれたテーブルには、ポータブル式のレコードプレイヤーやラジオが置かれている。



「今日も一日、よく頑張りました」



昴は言って、ビール瓶のケースにベニヤ板を乗せて作ったテーブルに、グラスを一つ置いて缶のビールを注いだ。

東京、渋谷のブルワリーの、フレッシュホップのペールエール。マスカットのような爽やかな香りと優しい苦味が、渇いたのどを心地よく潤してくれる。

「たまりばのマスターのおすすめ。どう?」

「美味しい」

答える私を、テーブルに頬杖をついて満足そうな顔で見つめてくる。そんなにじっと見られたら、どぎまぎしちゃって飲みづらい。



「たまりばのマスターとは仲良しなの?」

「うちの甲斐社長と、マスターが親友でさ、店に置ききれないレコードを倉庫で預かってるんだ。咲良と会った日、あの時は倉庫にあるマッコイズのレコードをすぐに持ってきてくれって言われて、俺が出庫して出向いたの」

「ビールの配送ばかりじゃないのね」

「たまりばは特別。でもおかげで、レコードっていいなって思って、マスターに音楽のこと、いろいろ教えてもらってる」

昴はポータブルのターンテーブルにLPをのせて針を落とした。暖炉の火を思わせるような暖かな音楽が、がらんどうの部屋に響いた。

昴はクーラーボックスから缶コーラを取り出すと、私の隣りに座ってプルトップを開けた。



「昴は今日、飲まないの」

「咲良を送らなくちゃいけないから」

「もう私を帰すこと、考えてるの」

「そりゃあ、ずっと一緒にいたい。でも、大事にしなくちゃ」



昴は言ってテーブルに缶を置き、私の腕を取る。ゆっくりと引いて、胸で私を抱き留めた。



「それに、咲良が酔うところが見れれば、俺、満足だから」



私のあごを指で掬って、ついばむようなキスをする。甘くてスパイシーなコーラの味の唇が触れた。

私だって、アルコールがなくても、このベルジャンホワイトがあれば、十分に酔えるのに。

昴の頬を両手で挟んで、茶色い瞳を覗き込んだ。その瞳のなかで、ランタンの小さな炎が揺れている。その温かみは昴の胸の奥からにじみ出ているものだと、強く実感する。優しくて、温かい、愛おしい生き物。


「昴、抱いて」


囁くと昴は一瞬泣きそうに目を眇めた。直後、甘く蕩けるような表情で、柔らかな唇を私のそれに重ねながら、ソファの背もたれに私の背中を押しつけた。

食むような甘い口づけをしながら、昴は私の服を一枚ずつ剥いでいく。包み隠していた昴への思いを少しずつ暴かれるような気分だ。

露わになった乳房を見つめられ、恥ずかしさに身をよじる。きゅっと尖ってしまった乳首も、恥ずかしい染みを浮かべるほどに濡れた花弁も、昴の指先が触れて粟立つ肌も、体のどこもかしこも、昴が好きでたまらないと叫んでいる。

ショーツ一枚になった私の両足を開いて、昴はソファの前にかがみ込んだ。
クロッチに鼻先を押し付け、舌で花蕾をつついて来る。

そのもどかしい刺激に背中を反らせ、昴の頭を撫でた。

ピンク色のショーツが、愛液と昴の唾液でびしょびしょになるまで、昴は布越しに刺激し続けた。

早くじかに触って欲しい、その衝動を抑えて、快楽の予感を味わうような気分で身を委ねた。


ゆっくりと、ショーツが下ろされる。

私の秘所からは濃厚な欲情をはらんだ、湿った匂いが漂っている。

恥ずかしさに眉根を寄せるけど、昴が鼻をそばめて良い匂いだって言うから、すぐに体が蕩けるような心地になる。

「咲良の、全部が好き」

両足を掴んでがむしゃらに舌でねぶられ、しゃぶりつかれ、私は腰を震わせて喘いだ。花びらの付け根が、むくむくと腫れあがる。まるでヒート中の雌犬みたいに。

昴は蜜で濡れるその柔らかな部分に、指をヌルヌルと滑らせて刺激しながら、再び私の唇を貪った。舌を絡め合わせながら、自分の匂いがして恥ずかしくなる。
それでも昴は構いもせず、私の頬を舐め、まぶたにキスを落とし、まつげを唇で噛んで、耳たぶを甘く吸った。

全ての刺激が私を少しずつ狂わせて、喘ぎ声のチューニングが少しずつ狂い出す。制御が効かず、雌猫のような声を漏らす私の唇を、また昴の唇が塞いでくる。

指先が裂け目にふれ、徐々に中へと切り込んでくる。昴の指は長くしなやかで、ずるりと滑り入って奥を突く。

顎を跳ね上げて小さく叫ぶと、昴は私の顎を甘噛みしながら、花壺の襞を指先で弾くようにうごかした。鋭くも甘やかなその刺激に、私は快楽を追い求めるように腰をはしたなくくねらせせながら、昴の背中を撫でまわした。


いきたい、言わなくても、昴は目を見つめただけでうなずいて、私の一番弱い部分に指先をあてがってくれる。茶色く輝く瞳で、私の表情をじっと見つめ、指を動かし、私が一番感じたい場所を探り当て、柔らかくこすり、甘く押し潰し、揺らし、さすり、途方もない快楽をつぎつぎと与えてくる。


自分が信じられないような声をあげるのが聞こえる。腰が勝手にいやらしく動いてしまう。本能だけにされた私は、大きな声で叫んで絶頂の淵に飛び降りた。

全身をがくがく震わせ、裂け目から勢いよく潮を吹いた。昴の手がびっしょりに濡れ、彼のジーンズまでもが濃い青に染まるのに、まだ飛沫が収まらない。


「可愛いよ咲良、いっぱい出てる」


「い、やぁっ・・・」


さっき飲んだビールのせいもあるのだろうか、体を満たした愉悦が裂け目から噴き出すみたいに、たくさん出た。

昴は服を脱いで、私を抱き上げてベッドに運んだ。あおむけに寝た私の両足を開き、体を割り入れて抱きしめる。昴の肌の温度と湿度に包まれて目を閉じた。

昴の反り返ったものを私の中にうずめた。

頬にキスを落としながら切り開くように奥に押し込まれたものを、肉襞が絞り上げるようにうごめく。中腹まで引き抜かれると、それを引き留めるように私の内側が昴に絡みついた。

どうやって動かしても、皮膚同士は溶け合うように密着し合っている。この、まるでもともと一つの生き物だったみたいにどこもかしこもぴたりと合わさるこの感覚はなんなのだろう。キスしたいと思うタイミング、打ち寄せる波のように二人の体から同時に沸き起こる律動のリズム。

昴から離れられない、離れてはいけない。


背中にしがみつき、私の体内で荒れ狂う昴のものを絞り上げた。

甘い声を漏らし、昴の肩が震えた。同時に私の中に、熱いものがあふれ出るのが分かる。

昴からほとばしったものはつなぎ目からとろりとこぼれ出た。

それでも昴は私から出ようとしなかった。呼吸を整え、何度もキスをして、再び律動を始めた。

一晩中、何度も二人で快楽の頂上へ上った。
朝日が窓から差すまで、私たちは飽きずに愛し合い続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下、私も恋というものを知りました。だから追いかけないでくださいませ。

恋愛
私の名前はレイチェル・フォンゼル。 この国の第1王子ディアーク・メイ・カスパーの婚約者だ。 名門フォンゼル侯爵家の長女である私は長年のお妃教育に耐えて、将来の王妃となるべく努力してきた。 けれど今、学園の中庭で他の令嬢とイチャイチャする婚約者を冷たく見ていた。 殿下の隣でうるるん上目遣いをしている女子生徒が、クラーラ・アメシ男爵令嬢。このピンク髪の可愛いクラーラが編入してきてから殿下の私への態度は変わってしまった。 婚約者の馬鹿全開イチャイチャ浮気現場を見て、もう殿下への気持ちは醒めてしまった。 もう殿下のための努力はやめて良いですよね! ※ゆるゆる設定でご都合主義のお話です。 ※感想欄ネタバレ配慮ないです。 ※R18です。

婚約破棄、しません

みるくコーヒー
恋愛
公爵令嬢であるユシュニス・キッドソンは夜会で婚約破棄を言い渡される。しかし、彼らの糾弾に言い返して去り際に「婚約破棄、しませんから」と言った。 特に婚約者に執着があるわけでもない彼女が婚約破棄をしない理由はただ一つ。 『彼らを改心させる』という役目を遂げること。 第一王子と自身の兄である公爵家長男、商家の人間である次期侯爵、天才魔導士を改心させることは出来るのか!? 本当にざまぁな感じのやつを書きたかったんです。 ※こちらは小説家になろうでも投稿している作品です。アルファポリスへの投稿は初となります。 ※宜しければ、今後の励みになりますので感想やアドバイスなど頂けたら幸いです。 ※使い方がいまいち分からずネタバレを含む感想をそのまま承認していたりするので感想から読んだりする場合はご注意ください。ヘボ作者で申し訳ないです。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

うちの店長レイプ犯!?

貝鳴みづす
恋愛
【注/ストーリー重視ですが、性描写多めです】 結衣はあまり人が好きではない。 極力人と関わらずに地味に生きていたのに、今日はなんだか体が熱い――!? レイプで始まる恋ってありますか? ――結衣をなぜか猛烈溺愛している新(♂)と葵(♀)。 ドSの二人に襲われる結衣を愉しみながら、三人の過去から今を追っていくラブコメストーリー。 ●は残酷描写(少しだけ。読み飛ばし可能)、★は性描写、■は挿絵ありです。視点変更あり。 恋愛要素強くてとても女性向けの官能小説です。もちろん男性も読んで下さい! *ムーンライトノベルズでも投稿しています。 四章15話挿絵upしました!

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

処理中です...