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第1章 深淵に答えよ

第10話 イルカショーとデートの終わり

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 さて、俺たちはイルカ館についたわけだが。

「人、多いな」

「です」

 予想していたよりも人が多くて、後ろの方に座ることができず、前の方に座ることになってしまった。これでは水をかぶる危険があるな。まぁいいか。一応折り畳み傘があるからなんかあったらそれで何とかしよう。

「始まるまでは後5分か。楽しみだな」

「楽しみなことの待ち時間は長く感じますよね~」

 ほんとその通りだな。軽く美佳と雑談しながら待っていると、イルカがショーをするための水槽の奥に一人の女性が現れた。

『皆様! 今日はイルカショーにお集まりいただきありがとうございます!』

 あの女性はキャストさんか。ってことはもう始まるのか?

『皆様! ステージの右側にご注目ください! 今日のステージを担当するミキくんとリューくんです!』

 キャストさんのいう通りに右側を見ると、先ほどまで鉄柵で仕切られていた部分が開かれていて、そこから2頭のイルカが水面から飛びあがりながら中央側へきた。

「「「おお~!!」」」

 観客からも声が上がる。イルカに2頭は中央で飛び上がって片方がとても高く飛び、片方が回転するパフォーマンスを見せた後、キャストさんの元へ行った。

『はい、ではイルカちゃんたちの自己紹介の時間です! 先ほどとても高く飛び上がってくれたのが大き目な体格のミキくんです!』

 キャストさんがそういうと、キャストさんの右側にいたイルカが体を水面から上げて手をバタバタする。確かに隣のイルカより少し体格がいいかも?

『ではこちら、回転してくれた方のリューくんです!』

 今度は左側にいたイルカが水の中に潜り、真ん中からジャンプして、またも回転して入水した。

『回転が大好きなんですね~。今日はこの子たちが様々なショーをしてくれます! すごいな、と思ったら是非、拍手をお願い致します!』

 すると会場で拍手が巻き起こる。

『はい! ありがとうございます! それでは最初のパフォーマンスに挑戦してみましょう!』

 奥の方から、大きなしなる棒をもって男性キャストさんが出てきた。そしてステージの水槽の上にそれを差し出す。

『それでは今から、この子たちがこの棒を飛び越えてくれます! じゃあまず、リューくん、いけるかな?』

 キャストさんが聞くとイルカ、リューくんは鳴き声を上げて応じる。

『それでは、行ってらっしゃい!』

 リューくんは水の中に潜ると、回転しながら水面から飛び出してきて、棒を飛び越えた。再び会場中に先ほどよりも大きな拍手が巻き起こる。

『やっぱりリューくんは回転が大好きですね』

「すごいなイルカショー。見に来てよかったな」

「ほんとですね。すごい迫力です。それにあの子たちもあまり水が飛ばないように工夫してるみたいで、ほんと努力が見えますね」

 そうだったのか。確かにあの高さのジャンプからの飛び込みにしては水しぶきが少ないな。

『次はミキくんが行きます! ミキくんは高いジャンプが得意なので棒の高さを少し上げてみましょう!』

 男性キャストさんが棒を高く掲げる。地味に大変そうだな。女性キャストさんがGOサインを出すと同時にミキくんは潜り、圧倒的な高さで棒を飛び越える。

 観客も盛り上がってきたのか、歓声と拍手が大きくなってきた。

『ミキくんのハイジャンプもすごいですね! では次はボールタッチをやってみましょう!』

 天井から吊られたボールが下がってきた。高いな。俺だはどう頑張っても届かない高さだ。ステータスが上がった今でも届く気はしない。

『ではこういうのが得意なミキくんから行きましょう!』

 指示を受けたミキくんは余裕だとでも言わんばかりに飛び上がり、ボールをタッチして見せた。

『では次はリューくん! いけるかな?』

 リューくんはなぜかその場でくるくると回りながら潜っていった。そして、回転しながら飛び上がり、ボールに尻尾でタッチした。

『リューくん、パフォーマーですね……』

 心なしか、女性キャストさんが少し呆れているようにみえる。ちなみにだが美佳は先ほどから目を輝かせて集中してイルカショーを見ている。こういうのもしかしたら初めてなのかもな。

『最後のショーは自由演目です!』

 女性キャストさんがそういうと、イルカたちは同時に深く潜っていく。そして、リューくんの回転飛びと、ミキくんのハイジャンプが交差するところから始まる。そして、イルカたちは交差が得意なのか、その後も交差をメインとした飛び方でショーを見せてくれた。

 最後の最後ではなんとミキくんが回転、リューくんがハイジャンプを見せてくれた。

『これにて本日のイルカショーは終了となります! 大変混雑しておりなますので、館内を出る際はお気をつけてご移動ください!』

「終わったな」

「ええ、とってもすごかったです。今日悠斗さんとここにこれたことは一生の思い出です!」

 ちょっと重い気もするがそう思ってもらえると嬉しいものだ。

「なぁ美佳、今度は一緒に動物園にでも行かないか?」

「もちろんいいですよ! 悠斗さんにお誘いいただけるなんて嬉しいです」

「そういってもらえてよかった。じゃあ二階を見に行くことにしよう」

「はい。悠斗さん」

 イルカ館からの渡り廊下をわたって二階に入ると、ふれあいスペースのようなものが最初に目に入った。

「悠斗さんこれ! ナマコでですよ!」

 美佳がナマコを触って喜んでいる。アグレッシブなお嬢様だな。

「悠斗さんもどうです?」

「遠慮させてくれ」

 俺はこういうの苦手なんだよ。少し先に進むとカブトガニの飼育スペースがあった。カブトガニって飼育できるんだな。その奥には深海の魚たちが展示されている。なかなか面白い見た目しているな。

「美佳、深海魚、面白いぞ」

「遠慮させてください」

 む、どうやら深海魚は苦手らしい。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ほかにもいろいろなところを回っていると、いつの間にか15時になっていた。そろそろ帰る時間になるな。

「美佳、そろそろ帰る時間じゃないか?」

「もうそんな時間ですか?」

「ああ、あっという間だったな」

「ほんと、いい思い出をいただきましたね」

「そうか、それはよかった」

 二人で駐車場の方に行くと、美佳の家の車は朝と同じところに止まっていた。ずっと同じところで待っていたのだろうか。なかなか長時間待たせたし、申し訳ないな。

「悠斗さん、乗ってください。帰りますよ」

「了解」

「悠斗さん、今日は本当にありがとうございました。とっても楽しかったです!」

「俺もだよ。ありがとな、美佳」
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