29 / 34
第二十九夜 不滅
しおりを挟む
洞の底は、焦熱地獄へと変わっていた。
炎が骸を焼き、灰となった骸の下から、新たな骸が自ら裁かれようとするように現れる。
際限なく繰り返されるそれは、この異界に無間の地獄を再現するかのようだった。
その地獄を造るひとり、祭塚一条は決して減ることのない骸たちに苛立っていた。
骸羽織の裾を翻し、周囲数メートルの骸を焼き払う。だが次の瞬間には、地面を砕いて骸が現れ、その数を補ってしまう。物量が多すぎる。幾ら燃やしても切りがない。
祭壇の前で、一歩も動かずにいる秋水を睨む。一体どれほどの霊力を溜め込んだのか。あまりの物量に呆れるのを通り越して逆に感心すらしてしまう。
あまりやりたくはないが、あの男を倒すには最大火力を持って一息に蹴りをつけるしかない。
無手の一条に、一体の骸兵が刀を振り下ろす。一条は刃を躱し、その腕を掴む。炎で骸の兵を一瞬で消し炭にし、次の瞬間には、一条の手には灰で固めた白い刀が握られていた。
一条の炎で生まれた灰は、すべて彼の支配下に置かれる。だから本来であれば、一条はこの手の物量攻めは滅法強いのだ。恐るべきは、その火力すら上回る秋水の物量だった。
だがもう準備は整えた。洞のなかには、消し炭にされた骸たちの灰が積もりに積もっている。
その灰の全てに、一条は全霊の力で霊気を行き渡らせる。
瞬間、空間を埋め尽くすほどの炎の柱が上がり、積もっていた灰は刃へと形を変えて、骸たちを一掃する。群勢を維持するのが間に合わないほどの圧倒的な火力。その地獄の維持を続け
ながら、一条は一気に秋水へ肉薄する。
骸の灰から造った刀剣に赤黒い火が灯る。一条は雄叫びを上げ、秋水に刀を叩き込んだ。
肉体を極限まで強化し、斬って、斬って、斬りくる。無常の炎と絶え間なくに叩き込まれる刀に、秋水の体は焼き切られ、端々から消し炭へと変わっていく。だが……。
灼け崩れた顔のまま、秋水は穏やかなに笑った。圧倒的なまでの不死性。斬った場所も、消し炭にした箇所も、まるで海を穿つかのように一瞬にして再生してしまう。
「無駄だよ。ここでは僕がルールだ。君がどれだけの火力を用いようが、僕は死なない」
秋水の骨刀が膨大な生命力を彼から吸い上げ、新たな柄の部分から新たな骨を形成する。
それは秋水の体躯よりも広がり、彼の背後に巨大な骨の武者を造り上げた。
骸の武者は、数メートルはある骨刀を持ち上げ、一条に振り下ろした。
刀で防ぐが、とても骸の武者の怪力には耐えられない。一条は血反吐を吐きながら、地面に叩き伏せられた。そのまま秋水は、一条の体を地面から出した骨で縫い付けた。
「たいした膂力と頑丈さだ。あの一撃を受けて五体満足ときてる。魂魄偽装だっけ。君の家の術式。魂の上に、別の魂の情報を被せて能力を強化するなんてよく出来るよね」
だがその魂魄偽装も、いまの一撃で剥がされた。一条の髪も肌も、元の色に戻っていた。もう鬼種の力は使えない。悔しいが、今の秋水に対抗するには力が足りない。
意識を奪おうと、秋水が近づいてくる。だが彼が間合いに入った瞬間、一条は骸羽織に霊力を流した。骸羽織は裾の端から刃の形状へと変わり、地面と体を縫う骨を切断しながら秋水へと突き進んだ。針山のような幾つもの刃を、秋水は骨刀から造り上げた盾で容易く防ぐ。だが、拘束さえ解ければそれで充分だ。一条はすぐさま起き上がると、秋水から距離を離す。同時に周囲の灰を爆散させる。灰は濃霧のように一条の姿を隠した。灰の霧のなかを走った。
この異界において秋水は最強だ。 だが同時に、彼の天敵もこの異界には存在する。
姿を消した彼女の縁を辿り、一条は勝つための逃走を始めた。
炎が骸を焼き、灰となった骸の下から、新たな骸が自ら裁かれようとするように現れる。
際限なく繰り返されるそれは、この異界に無間の地獄を再現するかのようだった。
その地獄を造るひとり、祭塚一条は決して減ることのない骸たちに苛立っていた。
骸羽織の裾を翻し、周囲数メートルの骸を焼き払う。だが次の瞬間には、地面を砕いて骸が現れ、その数を補ってしまう。物量が多すぎる。幾ら燃やしても切りがない。
祭壇の前で、一歩も動かずにいる秋水を睨む。一体どれほどの霊力を溜め込んだのか。あまりの物量に呆れるのを通り越して逆に感心すらしてしまう。
あまりやりたくはないが、あの男を倒すには最大火力を持って一息に蹴りをつけるしかない。
無手の一条に、一体の骸兵が刀を振り下ろす。一条は刃を躱し、その腕を掴む。炎で骸の兵を一瞬で消し炭にし、次の瞬間には、一条の手には灰で固めた白い刀が握られていた。
一条の炎で生まれた灰は、すべて彼の支配下に置かれる。だから本来であれば、一条はこの手の物量攻めは滅法強いのだ。恐るべきは、その火力すら上回る秋水の物量だった。
だがもう準備は整えた。洞のなかには、消し炭にされた骸たちの灰が積もりに積もっている。
その灰の全てに、一条は全霊の力で霊気を行き渡らせる。
瞬間、空間を埋め尽くすほどの炎の柱が上がり、積もっていた灰は刃へと形を変えて、骸たちを一掃する。群勢を維持するのが間に合わないほどの圧倒的な火力。その地獄の維持を続け
ながら、一条は一気に秋水へ肉薄する。
骸の灰から造った刀剣に赤黒い火が灯る。一条は雄叫びを上げ、秋水に刀を叩き込んだ。
肉体を極限まで強化し、斬って、斬って、斬りくる。無常の炎と絶え間なくに叩き込まれる刀に、秋水の体は焼き切られ、端々から消し炭へと変わっていく。だが……。
灼け崩れた顔のまま、秋水は穏やかなに笑った。圧倒的なまでの不死性。斬った場所も、消し炭にした箇所も、まるで海を穿つかのように一瞬にして再生してしまう。
「無駄だよ。ここでは僕がルールだ。君がどれだけの火力を用いようが、僕は死なない」
秋水の骨刀が膨大な生命力を彼から吸い上げ、新たな柄の部分から新たな骨を形成する。
それは秋水の体躯よりも広がり、彼の背後に巨大な骨の武者を造り上げた。
骸の武者は、数メートルはある骨刀を持ち上げ、一条に振り下ろした。
刀で防ぐが、とても骸の武者の怪力には耐えられない。一条は血反吐を吐きながら、地面に叩き伏せられた。そのまま秋水は、一条の体を地面から出した骨で縫い付けた。
「たいした膂力と頑丈さだ。あの一撃を受けて五体満足ときてる。魂魄偽装だっけ。君の家の術式。魂の上に、別の魂の情報を被せて能力を強化するなんてよく出来るよね」
だがその魂魄偽装も、いまの一撃で剥がされた。一条の髪も肌も、元の色に戻っていた。もう鬼種の力は使えない。悔しいが、今の秋水に対抗するには力が足りない。
意識を奪おうと、秋水が近づいてくる。だが彼が間合いに入った瞬間、一条は骸羽織に霊力を流した。骸羽織は裾の端から刃の形状へと変わり、地面と体を縫う骨を切断しながら秋水へと突き進んだ。針山のような幾つもの刃を、秋水は骨刀から造り上げた盾で容易く防ぐ。だが、拘束さえ解ければそれで充分だ。一条はすぐさま起き上がると、秋水から距離を離す。同時に周囲の灰を爆散させる。灰は濃霧のように一条の姿を隠した。灰の霧のなかを走った。
この異界において秋水は最強だ。 だが同時に、彼の天敵もこの異界には存在する。
姿を消した彼女の縁を辿り、一条は勝つための逃走を始めた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる