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第二十九夜 不滅

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 洞の底は、焦熱地獄へと変わっていた。

 炎が骸を焼き、灰となった骸の下から、新たな骸が自ら裁かれようとするように現れる。

 際限なく繰り返されるそれは、この異界に無間の地獄を再現するかのようだった。

 その地獄を造るひとり、祭塚一条は決して減ることのない骸たちに苛立っていた。

 骸羽織の裾を翻し、周囲数メートルの骸を焼き払う。だが次の瞬間には、地面を砕いて骸が現れ、その数を補ってしまう。物量が多すぎる。幾ら燃やしても切りがない。

 祭壇の前で、一歩も動かずにいる秋水を睨む。一体どれほどの霊力を溜め込んだのか。あまりの物量に呆れるのを通り越して逆に感心すらしてしまう。

 あまりやりたくはないが、あの男を倒すには最大火力を持って一息に蹴りをつけるしかない。

 無手の一条に、一体の骸兵が刀を振り下ろす。一条は刃を躱し、その腕を掴む。炎で骸の兵を一瞬で消し炭にし、次の瞬間には、一条の手には灰で固めた白い刀が握られていた。

 一条の炎で生まれた灰は、すべて彼の支配下に置かれる。だから本来であれば、一条はこの手の物量攻めは滅法強いのだ。恐るべきは、その火力すら上回る秋水の物量だった。

 だがもう準備は整えた。洞のなかには、消し炭にされた骸たちの灰が積もりに積もっている。

 その灰の全てに、一条は全霊の力で霊気を行き渡らせる。

 瞬間、空間を埋め尽くすほどの炎の柱が上がり、積もっていた灰は刃へと形を変えて、骸たちを一掃する。群勢を維持するのが間に合わないほどの圧倒的な火力。その地獄の維持を続け
ながら、一条は一気に秋水へ肉薄する。

 骸の灰から造った刀剣に赤黒い火が灯る。一条は雄叫びを上げ、秋水に刀を叩き込んだ。

 肉体を極限まで強化し、斬って、斬って、斬りくる。無常の炎と絶え間なくに叩き込まれる刀に、秋水の体は焼き切られ、端々から消し炭へと変わっていく。だが……。

 灼け崩れた顔のまま、秋水は穏やかなに笑った。圧倒的なまでの不死性。斬った場所も、消し炭にした箇所も、まるで海を穿つかのように一瞬にして再生してしまう。

「無駄だよ。ここでは僕がルールだ。君がどれだけの火力を用いようが、僕は死なない」

 秋水の骨刀が膨大な生命力を彼から吸い上げ、新たな柄の部分から新たな骨を形成する。

 それは秋水の体躯よりも広がり、彼の背後に巨大な骨の武者を造り上げた。

 骸の武者は、数メートルはある骨刀を持ち上げ、一条に振り下ろした。

 刀で防ぐが、とても骸の武者の怪力には耐えられない。一条は血反吐を吐きながら、地面に叩き伏せられた。そのまま秋水は、一条の体を地面から出した骨で縫い付けた。

「たいした膂力と頑丈さだ。あの一撃を受けて五体満足ときてる。魂魄偽装だっけ。君の家の術式。魂の上に、別の魂の情報を被せて能力を強化するなんてよく出来るよね」

 だがその魂魄偽装も、いまの一撃で剥がされた。一条の髪も肌も、元の色に戻っていた。もう鬼種の力は使えない。悔しいが、今の秋水に対抗するには力が足りない。

 意識を奪おうと、秋水が近づいてくる。だが彼が間合いに入った瞬間、一条は骸羽織に霊力を流した。骸羽織は裾の端から刃の形状へと変わり、地面と体を縫う骨を切断しながら秋水へと突き進んだ。針山のような幾つもの刃を、秋水は骨刀から造り上げた盾で容易く防ぐ。だが、拘束さえ解ければそれで充分だ。一条はすぐさま起き上がると、秋水から距離を離す。同時に周囲の灰を爆散させる。灰は濃霧のように一条の姿を隠した。灰の霧のなかを走った。

 この異界において秋水は最強だ。 だが同時に、彼の天敵もこの異界には存在する。

 姿を消した彼女の縁を辿り、一条は勝つための逃走を始めた。
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