4 / 13
第4話「意識」
しおりを挟む
「その箱なんだよ?」
「クリスマスだから、丁度いいでしょう? せめてこのくらいは食べたって、バチ当たらないわよ」
神崎は白い箱から、美しいケーキを取り出した。二、三人で食べるくらいの大きさのホールケーキだ。
「……え? ここで食べちゃっていいのかよ? 持って帰るつもりだったんじゃねーの?」
「? ……元々帰ったら、一人で食べるつもりだったし。半分あげるわよ」
これを一人でと、女の甘い物に対する胃袋の在り方に、相楽は少し感心する。自分ならとてもこんなホールケーキを、一人で食べようなんて思わないだろう。
ベッド横のローテーブルの上に、神崎が買って来たおでんとケーキ、相楽が作ったつまみや酒類を並べ、二人だけのささやかな、クリスマスパーティーが開かれた。
クリスマスパーティーというには全く色気はないが、今の二人にはそれで充分だった。今日の虚しく切ない一日の締めくくりに、ぴったりだとお互い感じていた。
特に神崎には、この暖かで穏やかな心地よい空間が、本当に有り難かった。天国とはこういう所なのではと、思ったくらいだ。
ほんの少し前まで雪の降る中、いつ乗れるか分からないバスを待ち続け、空腹の中、身も心も凍えそうになりながら、惨めな今日の自分を振り返り、自分の運命を呪っていた。
そんな中、救世主が現れた。ただの友人が天使に見えたくらいだ。捨てる神あれば拾う神ありだと、玉子酒を啜りながら、神崎は今の幸せを噛み締めた。
***
ローテーブルの上に並べてあった、食べ物を食べ尽くし、酒を煽りながらテレビに映る、L字の交通機関情報を二人は眺めていたが、日付を跨いでも復旧の兆しはないようだった。
スマホを確認しても、それは同じだった。
はあっと、神崎が諦めの溜め息を吐いた。見かねた相楽はボソリと呟いた。
「……泊まっていくか?」
しばし沈黙の間が流れた。相楽は沈黙に耐えかねて、ちらっと神崎を見遣る。神崎は驚いたように目を丸くしていた。だが一拍置いて、神崎は「いいの?」と相楽に尋ねた。
更に微妙な空気が、二人の間に流れる。その後、相楽は「いいよ」と静かに答えた。
つづく
「クリスマスだから、丁度いいでしょう? せめてこのくらいは食べたって、バチ当たらないわよ」
神崎は白い箱から、美しいケーキを取り出した。二、三人で食べるくらいの大きさのホールケーキだ。
「……え? ここで食べちゃっていいのかよ? 持って帰るつもりだったんじゃねーの?」
「? ……元々帰ったら、一人で食べるつもりだったし。半分あげるわよ」
これを一人でと、女の甘い物に対する胃袋の在り方に、相楽は少し感心する。自分ならとてもこんなホールケーキを、一人で食べようなんて思わないだろう。
ベッド横のローテーブルの上に、神崎が買って来たおでんとケーキ、相楽が作ったつまみや酒類を並べ、二人だけのささやかな、クリスマスパーティーが開かれた。
クリスマスパーティーというには全く色気はないが、今の二人にはそれで充分だった。今日の虚しく切ない一日の締めくくりに、ぴったりだとお互い感じていた。
特に神崎には、この暖かで穏やかな心地よい空間が、本当に有り難かった。天国とはこういう所なのではと、思ったくらいだ。
ほんの少し前まで雪の降る中、いつ乗れるか分からないバスを待ち続け、空腹の中、身も心も凍えそうになりながら、惨めな今日の自分を振り返り、自分の運命を呪っていた。
そんな中、救世主が現れた。ただの友人が天使に見えたくらいだ。捨てる神あれば拾う神ありだと、玉子酒を啜りながら、神崎は今の幸せを噛み締めた。
***
ローテーブルの上に並べてあった、食べ物を食べ尽くし、酒を煽りながらテレビに映る、L字の交通機関情報を二人は眺めていたが、日付を跨いでも復旧の兆しはないようだった。
スマホを確認しても、それは同じだった。
はあっと、神崎が諦めの溜め息を吐いた。見かねた相楽はボソリと呟いた。
「……泊まっていくか?」
しばし沈黙の間が流れた。相楽は沈黙に耐えかねて、ちらっと神崎を見遣る。神崎は驚いたように目を丸くしていた。だが一拍置いて、神崎は「いいの?」と相楽に尋ねた。
更に微妙な空気が、二人の間に流れる。その後、相楽は「いいよ」と静かに答えた。
つづく
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
女性画家と秘密のモデル
矢木羽研
大衆娯楽
女性画家と女性ヌードモデルによる連作です。真面目に絵を書く話で、百合要素はありません(登場人物は全員異性愛者です)。
全3話完結。物語自体は継続の余地があるので「第一部完」としておきます。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる