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第6話 八百屋のおじさんは大抵優しい

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 八百屋に着いて早々、繁盛していて声が聞き取りにくいだろうと思った湊川は、おじさんに向かって声をはり上げた。

「あのー! すみませーん!」

「んん?」

 湊川が声をかけると、おじさんは鋭い目でこちらを見てきたため慌てて俺は視線をそらす。

(何だよ、この人のどこが優しい眼をしているだよ……!)

 そんなことを持っていると、足元から頭のてっぺんまでじろりとねめつけるような視線を向けられた。

「何だぁ? お前さんたち、ここじゃ見ない顔だな。どこから来たんだ?」

「えぇと……」

 不審な目をして尋ねてくるおじさんに、俺は何も言えなくなり引き下がりそうになったが、湊川はめげずに言葉を返した。

「実は私たち、今日から冒険者になろうと思っているんです。だけど何もかもが初めてで、何からしたらいいのか分からず……。 
 だからまずはお金を少しでも溜めようと思ったのですが、お金ってどうしたら稼ぐことができますか?」

 俺たちの現状を包み隠さず素直に打ち明けた湊川。
 それが良かったのだろうか?
 おじさんは先程の鋭い目つきとは違い、湊川の言った通りの優しい眼をこちらに向けてきた。

「おぉ、そうかそうか。これから活躍してくれる冒険者たちということか!
 悪いけどここじゃ雇う余裕はねぇから、ゴルドを渡すことはできないんだ。 そうだなぁ、冒険者で一番早くゴルドを集めるには、やっぱりクエストをやるのがいいだろうな」

 ゴルドというのがこの世界の通貨単位なのだろう。ゴールドやらゴルドはよくゲームなんかで聞く単位だなと思う。
 もっともそれがどの程度の価値なのかはまるで分からない。
 流石にゴールド=金と直訳するわけにはいかないだろう。

 クエストはギルドで受けれる依頼の事だと予測した。というよりゲームだとそういう意味で使われることが多い。
 先程篠宮たちが言っていたことは、当たっていたということなんだろう。
 小説の世界が異世界で当てはまるってのは何とも奇妙な気がするが。

「クエストですか! そのクエストって、どこで受けることができるんですか?」

「クエストショップに行けば分かる。そこではクエストも受けられるしギルドにも入れる。色々な質問にも応えてくれるから、場所は知っていても損はないと思うぜ」

「クエストショップですか……?」

「この道を真っすぐに進んでいけ。そしたらペンと剣がクロスした看板が目印のでっかい建物が見えてくるだろうから、そこがクエストショップだ」

「ありがとうございます!」

 湊川が大きくお辞儀をしてこの場から離れようとすると、おじさんに呼び止められた。
 まさか果物や野菜を分けてくれるんじゃないか? そんな期待を抱き見つめていると、まさにそのまさかであった。
 おじさんはおもむろに大きな布のような袋を取り出し、適当に果物や野菜を中に詰めていく。
 そのままパンパンになった袋を、湊川の目の前に突き出した。

「これ、持って行きな。タダでくれてやる、餞別だ」

「え、いいんですか?」

「あぁ。お前さんたちの活躍には期待しているからな。俺の期待を裏切るんじゃねぇぞ!」

 そう言って、満面の笑みで俺たちに向けてくる。
 人は見た目で判断してはいけないと改めて思い知らされる。
 だが期待を背負うのもなんとなく重苦しいようにも感じた。

「あの、本当にありがとうございます!」

 再度丁寧にお礼を言い袋を受け取って、俺たちはクエストショップへと足を向けた。 
 道中重そうな袋を持っている湊川に本田が声をかける。

「湊川、それ持ってやるよ」

「あ、うん! ありがと」

 袋を本田に渡すと、本田は肩にかけていたリュックに野菜をしまい込んだ。
 その様子を見て湊川は笑顔を浮かべた。

「これで数日分は、食料に困らないね!」

「湊川は料理なんてしなさそうに見えるけど料理できるのか?」

「失礼ね! できるわよ!」

 俺の言葉に湊川が頬を膨らませて抗議の目を向けてくる。
 深い意味のない軽口だったのだが、じろっと睨まれて俺は視線を逸らす。
 そんな俺たちを篠宮と本田が笑って見ている時、突然俺たちの耳に子供の声と泣き声が聞こえてきた。
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