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第4話 なぜか俺がリーダーに選ばれる

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「え……何……?」

 視界には入ってこないが、耳には届いてくる。
 クラスメイトたちの叫び声や苦しそうな声、呻き声。 
 俺たちが抜けてきた壁の向こうでは、悲惨な光景が広がっているのだとすぐに理解できた。

「ね、ねぇ御影くん……。 向こうに行って様子、見てきてよ」

 声が聞こえた方へ顔を向けると、潤んだ瞳で見つめてくる湊川の姿が目に映る。
 本当は行きたくないのだが、彼女のそんな表情を見てしまうと頷かざるを得なかった。

「わ、分かった……」

 恐る恐る一歩を踏み出し、先程来た道へと戻ろうとした。
 が、ガシャンと音をたてゆらりと揺れる甲冑が目に入る。

「わッ!」

 突如最後の試練であった動く甲冑が、剣を俺の目の前に振り下ろしてきた。
 あまりに唐突、あまりに速い出来事に、俺は進む足を止めるどころか怖気付いて一歩後ろに下がってしまう。

「あぁ、申し訳ございません。 来た道へ戻ることはできませんので、その場でお待ちください」

 ひさじぃのその言葉を聞き、俺は湊川の傍へと戻った。

「だとよ」

「ぅぅ、そっかぁ……。 ……みんな、大丈夫かな」

 そう言いながら湊川は、祈るように両手を強く握り締める。
 彼女の気持ちを察した俺は、悲鳴が聞こえ続けている壁をじっと見続けた。

(この試練がもし夢じゃない場合だとして、無事にクリアできるヤツと言ったら……。
 何でもできちまう篠宮と、運動神経のいい本田くらいじゃないか……?)

 耳をつんざくようなクラスメイトたちの悲鳴が聞こえる中、この心苦しい時間を必死に耐えていると――――徐々に、悲鳴が聞こえなくなってきた。
 そんな様子に違和感を持ち、俺たちが互いに顔を見合わせていると、壁側から二人の少年の姿が現れる。

「篠宮くん……と本田くん!」

 俺たち以外の生徒が見えたことに、湊川は嬉しそうな笑顔を彼らに見せた。
 だがそんな彼女とは反対に、俺の表情は曇る。

(あれ……? 篠宮って…………一番最後に来るんじゃなかったっけ……?)

 そのまま篠宮たちは俺たちと同じ甲冑の試験をクリアし、俺たちの時と同様にペンダントが光に変わり二人の胸に吸い込まれた。
 だがここで、おかしな点がある。

 どうして二人は、何も驚かないのだろうか?

 突然ペンダントが胸の中へと吸い込まれたりしたら、現実では有り得ないため驚くはずだ。
 それに甲冑から剣を振り下ろされる瞬間も、二人は何も動じていない様子だった。作業のように甲冑の攻撃をかわす。
 まるで二人には、心がないかのように思えるほど。

「よかった! 二人共クリアできたんだね!」

 湊川は二人を迎えるよう、彼らの目の前まで走って行った。
 だが二人の表情が暗いことに違和感を覚えたのか、次第に湊川の表情も曇りだす。

「ねぇ……どうしたの? クリアできたんだよ? どうして、喜ばないの……?」

 そこで湊川の脳裏に別のことが過ったのか、首を傾げて尋ねかけた。

「あ……そうだ、みんなは? 他のみんなはどうしたの? 迷子になっちゃったの?」

「「……」」

 湊川の言葉に二人は口を開かずずっと口を噤んだままでいた。
 そんな二人の様子を少しの間窺って、どうやら湊川も俺たちを襲った不幸を悟ったようだ。

「え……嘘……でしょ? 嘘よね!? みんなは!? みんなはどこにいるの!? ねぇ!」

 問いかけに答えてくれるのは口の軽そうな篠宮だと思ったのか、湊川は篠宮の両腕を掴んで必死に訴えている。
 一方篠宮は、複雑な表情で湊川から顔を背けていた。

「ねぇ篠宮くん、教えてよ! みんなはどこにいっちゃったの!? まだみんなが迷路に残って行き詰っているんだったら、助けに行こうよ! みんなで力を合わせてさ!
 早くみんなを助けに行こう!」

 そう言いながら篠宮の腕を引っ張り、俺がひさじぃに止められた先へ連れて行こうとした。当然甲冑は襲ってくるだろう。
 だが別の理由で、篠宮は感情を爆発させるかのように湊川の腕を振り払った。

「今更遅いんだよ! 死んだやつらを助けに行って何になる! 何にもねぇだろ、諦めろ!」

「ッ……。 そんな……」

 力強く発せられた篠宮の言葉に、現実を突きつけられた湊川は両手で顔を覆い静かに泣き始めた。 
 そんな彼女を慰めることもできない俺たち3人は、黙ってこの時間を待つしかできない。
 クラスメイトなんて友達と思ったことはなかった。
 むしろ腹を立てたことの方が多いだろう。
 けれど、全員死んだと聞いて喜ぶような精神構造を俺はしていない。はっきり言って複雑な気分だった。

「では、皆さん試練が終了したみたいですね。クリア者は4人ですか……。まぁいいでしょう。 扉を開けますので、中へとお進みください。
 中は先程いた白い部屋へと繋がっています。そこで続きをお話しましょう」

 ひさじぃからの話が終えた後、俺たちの後ろにある扉はゆっくりと開かれた。
 そこに死者を労ったり尊ぶような様子は感じられない。

「……行こうぜ」

 重たい空気の中、本田はがなおも泣いている湊川の背中を優しく前に押しながら先へと進んでいく。
 そんな二人につられ、俺と篠宮も中へと入った。
 白い部屋の中央へ着くと、休む時間もなく再びモニターにひさじぃの姿が映し出される。

「試練、本当にお疲れ様でした。4名様、ご無事で何よりです」

「「「……」」」

 何も言葉を発する気力すらない俺たち。そんな俺たちに構わず、ひさじぃは言葉を続けた。

「では、この中でのリーダーなのですが……御影様に、決定いたします」

「は……?」

 どう見たってこの中では俺が一番能力が低い。
 運動神経のいい篠宮と本田、湊川だって運動ができる方だ。
 この三人の誰かが選ばれるのなら分かるが、俺がリーダーに選ばれる理由はさっぱり分からない。

「いや、何で俺なんですか。俺が一番リーダーに向いていないでしょう」

 顔からでも分かりそうな程に嫌そうな表情を見せながら、ひさじぃにそう問いかけた。
 ひさじぃは少しも迷うことなく答えを返す。

「能力的に、御影様が一番いいのでございます。確かに体力や運動神経では篠宮様の力が想像以上でした。だが今回の冒険では、能力も大事になってきます。
 御影様の能力ならば、リーナ姫様のもとへ辿り着くのが一番早いかと」

「能力って……その能力が一番駄目そうな……」

 その言葉を聞いて、篠宮が重たい口をそっと開く。

「御影くんは……何の能力だったんだ?」

「それは……言えない」

「どうして?」

「またお前が俺をからかうに決まってるからだ」

 勘違い男なんて、言えるわけがない。
 ここまで何度からかわれてきたか分かったもんじゃないくらいなのだから。

 篠宮の発言に俺はそっぽを向きながら答えると、ひさじぃが早速冒険についての話を切り出した。

「では早速ですが、今から皆さんにはリーナ姫を助けに行ってもらいます。リーナ姫のいる、魔王の城へと向かってもらうわけですが……。
 魔王の城の扉を開けるには、あるアイテムが必要でして。それは“四葉のクローバー”です」

「四葉の……クローバー?」

 先程まで泣いていた湊川の気持ちが落ち着いたのか、話に混ざってきた。

「えぇ。その四葉のクローバーは4つの宝石によって構成されているのです。 そのアイテムを城の扉の前にある台に置けば、扉は開かれ……」

「その四葉のクローバーのアイテムは、どこにあるんだよ」

 本田の被せるように尋ねた疑問はもっともだとは思ったが、それ以上にひさじぃがなぜそんなことを知っているのかが俺には気になった。
 言い伝えのようなものでも伝わっているのだろうか?

「それが大変なことに、その4つの宝石がバラバラの地域へと行き渡ってしまったようなのです。 
 だからこれから皆さんには、各地域で4つの宝石を手に入れてから魔王のいる城へと向かってほしいのです」

「それで……リーナ姫を救い出したら、願い事を3つ叶えてくれるんだよな」

 最終確認かのように、篠宮は静かな声で尋ねかけた。
 その問いに対し、ひさじぃはゆっくりと頷く。

「えぇ、もちろんでございます」

(俺がリーダーで……4つの宝石を集める? ……何か面倒だなぁ。
 篠宮はこんなことをしてまでも叶えたい願い事って、一体何なんだろうか……?
 というより、本当に願いを叶える力なんてものがあるとは……)

 考えていると試練会場とは正反対の扉が開かれた。

「では、皆さんの健闘を祈ります」

 その言葉を最後に、ひさじぃの映ったモニターは消えこの空間は扉の先以外真っ白になる。
 この状況で誰が最初に言葉を発するのか。 
 俺はリーダーに選ばれたというのに黙って仲間のことを見渡していると、本田がゆっくりと口を開いた。

「じゃあ……こうしていてもあれだし、とっとと行こうぜ。 早く姫を助けて、俺たちの世界へ戻ろう」

「あぁ……そうだな」

 本田の言葉に篠宮が頷いてそう返すと、二人揃って開かれた扉の方へと歩き出した。
 そんな彼らに続くよう、俺と湊川も二人の後ろを素直に付いていく。
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