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巨大な木々が立ち並び、樹上に家屋がいくつも立っているのが目に映る。
生命を感じさせる様々な種類の苔が、幻想的な風景をさらに増す。
家々の全てが木で作られているのだが、丸太を組み合わせたログハウスのような作りではない。
大きな木を彫って作り上げた部品をいくつも組み合わせたような、そんな作りだ。
「凄いですわ……。こんな場所があっただなんて……」
「ええ、そうですね。しかし……」
「ああ、そうだな。どうやらお客さんのようだ……」
俺たちの目の前には何の素材かは分からないが、明らかに鉱物ではない装備で武装した獣人が5人歩いてきていた。
持っているクワのような武器も鉄や石ではなく何かの骨のような感じだ。
「あーちょっと待ってくれ。俺たちは敵じゃあないんだ!」
俺は二人に手で制止をかけ声を上げた。
すると最も精悍な雰囲気を持つ男が前に出てくる。
俺には耳が何かを判別する程の動物知識はない。
強いて言うなら犬のような感じではあるが、体つきはまるで熊のような男だ。
「アミーニャが報告してきた三人組ってのはお前らか? …………日陰族の連中ではねぇようだな……」
じろりと観察するように見られたのは、日陰族というものかを判別するためだろう。
俺も獣人たちを観察しているわけだし、ここはお互い様だ。
「ああ、さっきの狐の耳の女の子か? なら、多分そうだ。日陰族ってのはよく分からんが……」
「ふむ……。じゃあお前らは一体なんなんだ? なんのためにここにやってきた?」
正直に言うべきか少し迷ったが言うことにした。
おそらくではあるが誰かの強力を得ないと、俺たちは国に戻れないと考えたためだ。
「俺たちは人間だ。あんたらは……獣人……ってことでいいのか? なんのためってのは俺たちにもよく分からないんだ」
俺の言葉に五人はざわざわと話し始める。
「人間って……言い伝えでしか聞いたことのないあれか?」「隊長、人間って初めて見たです」「耳が小さくて尻尾がない、変な奴らだな」
「しかも弱そうだ」「とりあえず話だけでも聞いてみるのが良いんじゃないでしょうか?」
そんな彼らを尻目にアリゼッタたちが俺に話しかけてくる。
「私たちがのことを全く知らなかったわけじゃないみたいですわね」
「そうですね。こちらは何も知らなかった……あ、いえ、エトワイアはご存じだったのでしょうか」
「あーいや、知らないよ。単語を知ってたくらいの話だ」
「受け入れてくれるでしょうか?」
「ん~」
チラと目を向けると話は終わったようで、先ほどの男がまた前にやってきた。
「怪しい、怪しいが、敵意は感じられないというのが俺たちの結論だ。
で、これからどうしようと思ってるんだ? なんのために来たのか分からないんだろ?」
「そう聞かれると困るんだが……俺たちは俺たちの国に帰りたい。アントーラ大陸に戻るにはどうすればいいんだ?」
「ふん。ここに来たのに帰り方が分からないのか? 何かわけありか? 大陸を渡るには海を越えなきゃならんと思うが、はっきり言って無理だ。諦めろ」
知識として大陸が海で分かれているというのは分かっていたが、はっきり無理だと言われてしまうと困る。
確かに海を越えるとなると現実的ではないと思うが。
「そういわれてもな……。船とかはないのか?」
「そういう問題じゃねぇんだ」
「船の問題ってわけじゃないのか? じゃあ一体……」
言いかけた途端、カンカンカンと鐘というよりはもっと鈍い音だが、それを激しく打ち鳴らす音が耳に届く。
同時に男たちの顔が険しく引き締まる。
「ちっ、わりぃが話は後だ。俺たちはすぐ行かなきゃならん」
俺はその鐘の音に何となく嫌な予感を覚えたが、勝手に動き回るわけにはいかないだろうとその場で五人の背中を見送った。
「何だったのでしょうか?」
「ちょっと嫌な感じを感じましたわ」
「ん、そうだな……。日陰族……鐘の音……なんとなく関係してそうだよな」
俺たちが話していると、ジッと視線を向けられているのに気付く。
不安げな表情で俺たちを見てきていたのは、先ほどの狐の耳の――アミーニャと呼ばれた女の子だった。
生命を感じさせる様々な種類の苔が、幻想的な風景をさらに増す。
家々の全てが木で作られているのだが、丸太を組み合わせたログハウスのような作りではない。
大きな木を彫って作り上げた部品をいくつも組み合わせたような、そんな作りだ。
「凄いですわ……。こんな場所があっただなんて……」
「ええ、そうですね。しかし……」
「ああ、そうだな。どうやらお客さんのようだ……」
俺たちの目の前には何の素材かは分からないが、明らかに鉱物ではない装備で武装した獣人が5人歩いてきていた。
持っているクワのような武器も鉄や石ではなく何かの骨のような感じだ。
「あーちょっと待ってくれ。俺たちは敵じゃあないんだ!」
俺は二人に手で制止をかけ声を上げた。
すると最も精悍な雰囲気を持つ男が前に出てくる。
俺には耳が何かを判別する程の動物知識はない。
強いて言うなら犬のような感じではあるが、体つきはまるで熊のような男だ。
「アミーニャが報告してきた三人組ってのはお前らか? …………日陰族の連中ではねぇようだな……」
じろりと観察するように見られたのは、日陰族というものかを判別するためだろう。
俺も獣人たちを観察しているわけだし、ここはお互い様だ。
「ああ、さっきの狐の耳の女の子か? なら、多分そうだ。日陰族ってのはよく分からんが……」
「ふむ……。じゃあお前らは一体なんなんだ? なんのためにここにやってきた?」
正直に言うべきか少し迷ったが言うことにした。
おそらくではあるが誰かの強力を得ないと、俺たちは国に戻れないと考えたためだ。
「俺たちは人間だ。あんたらは……獣人……ってことでいいのか? なんのためってのは俺たちにもよく分からないんだ」
俺の言葉に五人はざわざわと話し始める。
「人間って……言い伝えでしか聞いたことのないあれか?」「隊長、人間って初めて見たです」「耳が小さくて尻尾がない、変な奴らだな」
「しかも弱そうだ」「とりあえず話だけでも聞いてみるのが良いんじゃないでしょうか?」
そんな彼らを尻目にアリゼッタたちが俺に話しかけてくる。
「私たちがのことを全く知らなかったわけじゃないみたいですわね」
「そうですね。こちらは何も知らなかった……あ、いえ、エトワイアはご存じだったのでしょうか」
「あーいや、知らないよ。単語を知ってたくらいの話だ」
「受け入れてくれるでしょうか?」
「ん~」
チラと目を向けると話は終わったようで、先ほどの男がまた前にやってきた。
「怪しい、怪しいが、敵意は感じられないというのが俺たちの結論だ。
で、これからどうしようと思ってるんだ? なんのために来たのか分からないんだろ?」
「そう聞かれると困るんだが……俺たちは俺たちの国に帰りたい。アントーラ大陸に戻るにはどうすればいいんだ?」
「ふん。ここに来たのに帰り方が分からないのか? 何かわけありか? 大陸を渡るには海を越えなきゃならんと思うが、はっきり言って無理だ。諦めろ」
知識として大陸が海で分かれているというのは分かっていたが、はっきり無理だと言われてしまうと困る。
確かに海を越えるとなると現実的ではないと思うが。
「そういわれてもな……。船とかはないのか?」
「そういう問題じゃねぇんだ」
「船の問題ってわけじゃないのか? じゃあ一体……」
言いかけた途端、カンカンカンと鐘というよりはもっと鈍い音だが、それを激しく打ち鳴らす音が耳に届く。
同時に男たちの顔が険しく引き締まる。
「ちっ、わりぃが話は後だ。俺たちはすぐ行かなきゃならん」
俺はその鐘の音に何となく嫌な予感を覚えたが、勝手に動き回るわけにはいかないだろうとその場で五人の背中を見送った。
「何だったのでしょうか?」
「ちょっと嫌な感じを感じましたわ」
「ん、そうだな……。日陰族……鐘の音……なんとなく関係してそうだよな」
俺たちが話していると、ジッと視線を向けられているのに気付く。
不安げな表情で俺たちを見てきていたのは、先ほどの狐の耳の――アミーニャと呼ばれた女の子だった。
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