王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

こたつぬこ

文字の大きさ
上 下
39 / 46

39

しおりを挟む
 巨大な木々が立ち並び、樹上に家屋がいくつも立っているのが目に映る。
 生命を感じさせる様々な種類の苔が、幻想的な風景をさらに増す。
 家々の全てが木で作られているのだが、丸太を組み合わせたログハウスのような作りではない。
 大きな木を彫って作り上げた部品をいくつも組み合わせたような、そんな作りだ。

「凄いですわ……。こんな場所があっただなんて……」

「ええ、そうですね。しかし……」

「ああ、そうだな。どうやらお客さんのようだ……」

 俺たちの目の前には何の素材かは分からないが、明らかに鉱物ではない装備で武装した獣人が5人歩いてきていた。
 持っているクワのような武器も鉄や石ではなく何かの骨のような感じだ。

「あーちょっと待ってくれ。俺たちは敵じゃあないんだ!」

 俺は二人に手で制止をかけ声を上げた。
 すると最も精悍な雰囲気を持つ男が前に出てくる。
 俺には耳が何かを判別する程の動物知識はない。
 強いて言うなら犬のような感じではあるが、体つきはまるで熊のような男だ。

「アミーニャが報告してきた三人組ってのはお前らか? …………日陰族の連中ではねぇようだな……」

 じろりと観察するように見られたのは、日陰族というものかを判別するためだろう。
 俺も獣人たちを観察しているわけだし、ここはお互い様だ。

「ああ、さっきの狐の耳の女の子か? なら、多分そうだ。日陰族ってのはよく分からんが……」

「ふむ……。じゃあお前らは一体なんなんだ? なんのためにここにやってきた?」

 正直に言うべきか少し迷ったが言うことにした。
 おそらくではあるが誰かの強力を得ないと、俺たちは国に戻れないと考えたためだ。

「俺たちは人間だ。あんたらは……獣人……ってことでいいのか? なんのためってのは俺たちにもよく分からないんだ」

 俺の言葉に五人はざわざわと話し始める。

「人間って……言い伝えでしか聞いたことのないあれか?」「隊長、人間って初めて見たです」「耳が小さくて尻尾がない、変な奴らだな」
「しかも弱そうだ」「とりあえず話だけでも聞いてみるのが良いんじゃないでしょうか?」

 そんな彼らを尻目にアリゼッタたちが俺に話しかけてくる。

「私たちがのことを全く知らなかったわけじゃないみたいですわね」

「そうですね。こちらは何も知らなかった……あ、いえ、エトワイアはご存じだったのでしょうか」

「あーいや、知らないよ。単語を知ってたくらいの話だ」

「受け入れてくれるでしょうか?」

「ん~」

 チラと目を向けると話は終わったようで、先ほどの男がまた前にやってきた。

「怪しい、怪しいが、敵意は感じられないというのが俺たちの結論だ。
 で、これからどうしようと思ってるんだ? なんのために来たのか分からないんだろ?」

「そう聞かれると困るんだが……俺たちは俺たちの国に帰りたい。アントーラ大陸に戻るにはどうすればいいんだ?」

「ふん。ここに来たのに帰り方が分からないのか? 何かわけありか? 大陸を渡るには海を越えなきゃならんと思うが、はっきり言って無理だ。諦めろ」

 知識として大陸が海で分かれているというのは分かっていたが、はっきり無理だと言われてしまうと困る。
 確かに海を越えるとなると現実的ではないと思うが。

「そういわれてもな……。船とかはないのか?」

「そういう問題じゃねぇんだ」

「船の問題ってわけじゃないのか? じゃあ一体……」

 言いかけた途端、カンカンカンと鐘というよりはもっと鈍い音だが、それを激しく打ち鳴らす音が耳に届く。
 同時に男たちの顔が険しく引き締まる。

「ちっ、わりぃが話は後だ。俺たちはすぐ行かなきゃならん」

 俺はその鐘の音に何となく嫌な予感を覚えたが、勝手に動き回るわけにはいかないだろうとその場で五人の背中を見送った。

「何だったのでしょうか?」

「ちょっと嫌な感じを感じましたわ」

「ん、そうだな……。日陰族……鐘の音……なんとなく関係してそうだよな」

 俺たちが話していると、ジッと視線を向けられているのに気付く。
 不安げな表情で俺たちを見てきていたのは、先ほどの狐の耳の――アミーニャと呼ばれた女の子だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

処理中です...