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俺たちの歩みが早すぎるのか、意外と中が狭かったのかは分からないが、アリゼッタのマップ上での終点が見えるところまで来ていた。
中で寝泊りしたのは二日だけ。交代で火の番を行い夜を過ごした。
パチパチと燃えるオレンジの炎が二人の顔を薄く照らし、苔が放つ黄色の光とはまた違う雰囲気を出していた。
勿論、夜を共に過ごしたと言っても何もない。
洞窟内部は涼しいのだが、身体を使って温め合うなどといったことはしない。
俺たちは魔法で寒気を遮断することができるのだ。残念ながらな。
ここまで他に宝箱もいくつか見つけている。
奇妙にも殺された魔物の死骸もいくつも見つけている。
不安と期待が入り交り、何かあるとするなら最奥の地点。
それを表すかのように赤の光点がマップ上で煌々と輝いている。
「大きな点ではありませんが……不穏な気配を感じますね」
「そうですわね。ここまで大丈夫だったからと言って次も大丈夫だと考えるのは安易過ぎますわ」
3人で呼吸を整え目を向ける。
角を曲がればすぐ目の前。準備は万端、後は足を踏み入れるだけだ。
冷たい空気が俺たちの間を通り抜け通路の先へと流れ込む。
嫌な気配を感じつつ後方を確認し俺は意を決した。
「よし、いこう! 警戒は怠らないようにな」
「勿論ですわ!」
「ドキドキしますね」
俺たちの足音が鳴り響き到着したのは大きなホールのような場所。
まるでボスの居場所であるが……中にいたのは人だった。
いや、違う。人のように見える……が、正解だろうか。
まるで祭壇のように装飾されたホールは、今までの岩づくりの洞窟とはまるで違う雰囲気を放つ。
そう、あの最初に見つけた宝箱の台座のような物で地面が覆われて中心が盛り上がっているのだ。
そして中心にたたずんでいたのは……頭に角を生やし背中から二翼の翼を生やした男だった。
整った顔がゆっくりとこちらに向き口が開く。放たれたのは地の底を這うかのような低音。
「人間か……? こんなとこに……何の用だ?」
それはこちらが言いたい台詞だった。
一体目の前の男は誰で、何を目的としてここにやってきたのだろうか。
だが、俺が考えを整理する前にアリゼッタが語気を荒げていた。
「あなたこそなんですの! 魔物が喋れるなんて聞いていませんわ!」
「くっくっく。俺が魔物……? 魔物はお前たちの方だろ? 人間!」
「わ、私達が魔物ですって! 一体何を言っているんですの! どう見てもあなたには角や翼が生えていますわ!」
男は口に手を当て楽しそうに笑った。
魔物というアリゼッタが作り上げた言葉も自然に受け入れている。
肌の色も髪の色も俺たちとさほど変わりがないが、俺にはある一つの予感があった。
ゲーム的な言葉で言うならば魔族という人種。
魔物が現れるなら魔族も現れる可能性もあった。それを失念していた。
「これか……。なるほど、角や翼が生えていれば魔物なのか? じゃあ牙は?爪は? お前ら人間にもちゃんとついているだろう?」
角を触りながらの冷静な口調。翼を撫でながらの落ち着いた雰囲気。
感じられるのは余裕。おそらく俺たちには何もできないと思っている。
けれど……言葉以上の悪意は感じてはいない。敵意だけはびしびしと放ってきているが。
「き、詭弁ですわ! じゃあ、あなたは一体誰なんだというの!?」
「人間とはいえ気が強くていい女だな」
値踏みするようにアリゼッタを見て笑うので、俺は前にでて言い放ってやった。
「だろ? 二人とも俺の女だからな。で、魔族がいったい何をしているんだ?」
俺の言葉に僅かに眉を動かして驚きを表した。
「ほ……う……。俺たちの事を知っているとは普通じゃないな、男」
「魔族というんですの? それは……?」
「魔物の人間版という感じですか? エトワイア」
「ああ。いや、詳しくは俺にも分からん。こいつに聞いてみるしかないだろうな」
そんなやり取りをする俺たちの事を、魔族の男は楽しそうに眺めていた。
中で寝泊りしたのは二日だけ。交代で火の番を行い夜を過ごした。
パチパチと燃えるオレンジの炎が二人の顔を薄く照らし、苔が放つ黄色の光とはまた違う雰囲気を出していた。
勿論、夜を共に過ごしたと言っても何もない。
洞窟内部は涼しいのだが、身体を使って温め合うなどといったことはしない。
俺たちは魔法で寒気を遮断することができるのだ。残念ながらな。
ここまで他に宝箱もいくつか見つけている。
奇妙にも殺された魔物の死骸もいくつも見つけている。
不安と期待が入り交り、何かあるとするなら最奥の地点。
それを表すかのように赤の光点がマップ上で煌々と輝いている。
「大きな点ではありませんが……不穏な気配を感じますね」
「そうですわね。ここまで大丈夫だったからと言って次も大丈夫だと考えるのは安易過ぎますわ」
3人で呼吸を整え目を向ける。
角を曲がればすぐ目の前。準備は万端、後は足を踏み入れるだけだ。
冷たい空気が俺たちの間を通り抜け通路の先へと流れ込む。
嫌な気配を感じつつ後方を確認し俺は意を決した。
「よし、いこう! 警戒は怠らないようにな」
「勿論ですわ!」
「ドキドキしますね」
俺たちの足音が鳴り響き到着したのは大きなホールのような場所。
まるでボスの居場所であるが……中にいたのは人だった。
いや、違う。人のように見える……が、正解だろうか。
まるで祭壇のように装飾されたホールは、今までの岩づくりの洞窟とはまるで違う雰囲気を放つ。
そう、あの最初に見つけた宝箱の台座のような物で地面が覆われて中心が盛り上がっているのだ。
そして中心にたたずんでいたのは……頭に角を生やし背中から二翼の翼を生やした男だった。
整った顔がゆっくりとこちらに向き口が開く。放たれたのは地の底を這うかのような低音。
「人間か……? こんなとこに……何の用だ?」
それはこちらが言いたい台詞だった。
一体目の前の男は誰で、何を目的としてここにやってきたのだろうか。
だが、俺が考えを整理する前にアリゼッタが語気を荒げていた。
「あなたこそなんですの! 魔物が喋れるなんて聞いていませんわ!」
「くっくっく。俺が魔物……? 魔物はお前たちの方だろ? 人間!」
「わ、私達が魔物ですって! 一体何を言っているんですの! どう見てもあなたには角や翼が生えていますわ!」
男は口に手を当て楽しそうに笑った。
魔物というアリゼッタが作り上げた言葉も自然に受け入れている。
肌の色も髪の色も俺たちとさほど変わりがないが、俺にはある一つの予感があった。
ゲーム的な言葉で言うならば魔族という人種。
魔物が現れるなら魔族も現れる可能性もあった。それを失念していた。
「これか……。なるほど、角や翼が生えていれば魔物なのか? じゃあ牙は?爪は? お前ら人間にもちゃんとついているだろう?」
角を触りながらの冷静な口調。翼を撫でながらの落ち着いた雰囲気。
感じられるのは余裕。おそらく俺たちには何もできないと思っている。
けれど……言葉以上の悪意は感じてはいない。敵意だけはびしびしと放ってきているが。
「き、詭弁ですわ! じゃあ、あなたは一体誰なんだというの!?」
「人間とはいえ気が強くていい女だな」
値踏みするようにアリゼッタを見て笑うので、俺は前にでて言い放ってやった。
「だろ? 二人とも俺の女だからな。で、魔族がいったい何をしているんだ?」
俺の言葉に僅かに眉を動かして驚きを表した。
「ほ……う……。俺たちの事を知っているとは普通じゃないな、男」
「魔族というんですの? それは……?」
「魔物の人間版という感じですか? エトワイア」
「ああ。いや、詳しくは俺にも分からん。こいつに聞いてみるしかないだろうな」
そんなやり取りをする俺たちの事を、魔族の男は楽しそうに眺めていた。
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