上 下
34 / 46

34

しおりを挟む
 俺たちの歩みが早すぎるのか、意外と中が狭かったのかは分からないが、アリゼッタのマップ上での終点が見えるところまで来ていた。
 中で寝泊りしたのは二日だけ。交代で火の番を行い夜を過ごした。
 パチパチと燃えるオレンジの炎が二人の顔を薄く照らし、苔が放つ黄色の光とはまた違う雰囲気を出していた。
 勿論、夜を共に過ごしたと言っても何もない。
 洞窟内部は涼しいのだが、身体を使って温め合うなどといったことはしない。
 俺たちは魔法で寒気を遮断することができるのだ。残念ながらな。

 ここまで他に宝箱もいくつか見つけている。
 奇妙にも殺された魔物の死骸もいくつも見つけている。

 不安と期待が入り交り、何かあるとするなら最奥の地点。
 それを表すかのように赤の光点がマップ上で煌々と輝いている。

「大きな点ではありませんが……不穏な気配を感じますね」

「そうですわね。ここまで大丈夫だったからと言って次も大丈夫だと考えるのは安易過ぎますわ」

 3人で呼吸を整え目を向ける。
 角を曲がればすぐ目の前。準備は万端、後は足を踏み入れるだけだ。
 冷たい空気が俺たちの間を通り抜け通路の先へと流れ込む。
 嫌な気配を感じつつ後方を確認し俺は意を決した。

「よし、いこう! 警戒は怠らないようにな」

「勿論ですわ!」

「ドキドキしますね」

 俺たちの足音が鳴り響き到着したのは大きなホールのような場所。
 まるでボスの居場所であるが……中にいたのは人だった。
 いや、違う。人のように見える……が、正解だろうか。

 まるで祭壇のように装飾されたホールは、今までの岩づくりの洞窟とはまるで違う雰囲気を放つ。
 そう、あの最初に見つけた宝箱の台座のような物で地面が覆われて中心が盛り上がっているのだ。

 そして中心にたたずんでいたのは……頭に角を生やし背中から二翼の翼を生やした男だった。
 整った顔がゆっくりとこちらに向き口が開く。放たれたのは地の底を這うかのような低音。

「人間か……? こんなとこに……何の用だ?」

 それはこちらが言いたい台詞だった。
 一体目の前の男は誰で、何を目的としてここにやってきたのだろうか。
 だが、俺が考えを整理する前にアリゼッタが語気を荒げていた。

「あなたこそなんですの! 魔物が喋れるなんて聞いていませんわ!」

「くっくっく。俺が魔物……? 魔物はお前たちの方だろ? 人間!」

「わ、私達が魔物ですって! 一体何を言っているんですの! どう見てもあなたには角や翼が生えていますわ!」

 男は口に手を当て楽しそうに笑った。
 魔物というアリゼッタが作り上げた言葉も自然に受け入れている。
 肌の色も髪の色も俺たちとさほど変わりがないが、俺にはある一つの予感があった。
 ゲーム的な言葉で言うならば魔族という人種。
 魔物が現れるなら魔族も現れる可能性もあった。それを失念していた。

「これか……。なるほど、角や翼が生えていれば魔物なのか? じゃあ牙は?爪は? お前ら人間にもちゃんとついているだろう?」

 角を触りながらの冷静な口調。翼を撫でながらの落ち着いた雰囲気。
 感じられるのは余裕。おそらく俺たちには何もできないと思っている。
 けれど……言葉以上の悪意は感じてはいない。敵意だけはびしびしと放ってきているが。

「き、詭弁ですわ! じゃあ、あなたは一体誰なんだというの!?」

「人間とはいえ気が強くていい女だな」

 値踏みするようにアリゼッタを見て笑うので、俺は前にでて言い放ってやった。

「だろ? 二人とも俺の女だからな。で、魔族がいったい何をしているんだ?」

 俺の言葉に僅かに眉を動かして驚きを表した。

「ほ……う……。俺たちの事を知っているとは普通じゃないな、男」

「魔族というんですの? それは……?」

「魔物の人間版という感じですか? エトワイア」

「ああ。いや、詳しくは俺にも分からん。こいつに聞いてみるしかないだろうな」

 そんなやり取りをする俺たちの事を、魔族の男は楽しそうに眺めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

うちの兄がヒロインすぎる

ふぇりちた
ファンタジー
ドラモンド伯爵家の次女ソフィアは、10歳の誕生日を迎えると共に、自身が転生者であることを知る。 乙女ゲーム『祈りの神子と誓いの聖騎士』に転生した彼女は、兄ノアがメインキャラの友人────つまり、モブキャラだと思い出す。 それもイベントに巻き込まれて、ストーリー序盤で退場する不憫な男だと。 大切な兄を守るため、一念発起して走り回るソフィアだが、周りの様子がどうもおかしい。 「はい、ソフィア。レオンがお花をくれたんだ。 直接渡せばいいのに。今度会ったら、お礼を言うんだよ」 「いや、お兄様。それは、お兄様宛のプレゼントだと思います」 「えっ僕に? そっか、てっきりソフィアにだと………でも僕、男なのに何でだろ」 「う〜ん、何ででしょうね。ほんとに」

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...