王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

こたつぬこ

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 ローゼンストーン大坑道へ行くと決まってからのアウルの段取りは迅速と言えるものだった。
 俺が忠告した危険な可能性があるという言葉を疑うことなく受け止めて、壊れた剣の代わりに良い剣を用意してくれるという。
 日本刀の技術なんかを取り入れさせたら良さそうな気がしたが、残念ながら俺にはその知識はない。
 素人の浅知恵を職人気質な男たちに話せば、反感を買うだろう。それが正しいというのならいざ知らず。
 なので俺にできることは新しい素材を見つけ出すこと。
 そのために廃坑へ行く。

 剣の製造にはしばらくの時間がかかるということで、俺はアリゼッタとエリーゼと共に街を歩いていた。
 農場の様子を見に行こうと考えたのだ。

 その時エリーゼが近付いてくる人物に目を向けながら声を上げた。

「あっ。あの方は……」

 金髪碧眼であるがくせっ毛の上に目つきも悪い男。
 まるで貴族です、と言わんがばかりの趣味の悪いごてごてした衣装を着こみ二人の供を連れ、大通りのド真ん中を闊歩していた。

「あいつがどうかしたのか?」

「貴族学校時代にアプローチをかけてきた、セントイア伯爵家の長男であるピローヌですよ。エトがいつも守ってくれていたじゃないですか」

 そう言われて思い出す。
 ゲームの攻略対象キャラではない完全なモブキャラ。
 アリゼッタのような悪役に近いが、どちらかというと噛ませ犬のような存在の男に、そういう名前がいたことを記憶している。
 メインシナリオでは絡まず、サブイベントで出てくるだけであるために、アリゼッタと協力関係にもなったりはしない男。

 陰湿な性格をしていて、ねちねちとエリーゼに絡むのを王子が助けるというシーンが三度ほど入っていた。

「あ、ああ、そうだった。でも今は変装しているから大丈夫じゃないか?」

「ええ。道を譲るのは癪だけど面倒はごめんだわ。私的に生理的に受け付けない顔をしてるのよ」

 通りの脇に逸れすれ違おうとしたのだが、やはりというかフラグは折れてはくれなかった。
 完全に俺を指さし笑い出す。

「ひゃっははははは。何だあの男! 見ろよ、きもい服装にきもい顔して、変な女を連れてるぞ!」

「ほんとですな。ぼっちゃまとはまるで違う汚らわしい格好。おい! もっと離れて歩け!」

「まるで見世物小屋から出てきたような男ですな!」

 通りの真ん中で高笑いをかます三人。おそらく一人の時はそんなことは言えないであろうピローヌも、現在は虎の威を借りている状態。
 そうは言っても俺たちの力は甚大とも言える物。むやみやたらと振り回していては、民草の支持を失ってしまう。

「行こう、二人とも。気にすんな、俺は大丈夫だから」

 エリーゼは珍しく不快感を顔に表し、アリゼッタは顔を赤くし睨みつけている。
 それでも俺の言葉に納得してくれたのか、俺の腕をとり歩み始めた。
 のだが。

「おいおい、尻尾巻いて逃げていくぞ! 女の前でだせー男だな!」

 アリゼッタが歯をぎりと食いしばる。
 エリーゼが唇を引き結ぶ。

 俺は怒りを感じてくれただけで嬉しいし満足だった。

「気にすんな。弱い奴ほどよく吠えるってな。二人をけなされたわけじゃないから俺は別に構わない」

「エトにとってはそうかもしれませんが、私、いや私たちにとっては違いますの!」

「そうです。私たちにとっては、エトがけなされたことの方がくやしいんです!」

「ありがとう、その言葉だけで十分だよ。ここでかんしゃくを起こせば市民のイメージが悪くなるだろ?」

 その言葉で渋々納得してくれたが、ピローヌは言い返さない俺たちを見て気分を良くしたのか、これで終わらせてはくれないようだ。
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