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 目頭の舌から目尻にかけて太い線を引き、そのまま折り曲げて顎の方へ払う。
 それを黒の塗料で行ったのだが、鏡を見たら金髪碧眼にそれは確かにおかしい感じであった。
 〇ののけ姫みたいな感じを意識してみたのだが完全な失敗だ。
 ポジティブに変装にはなるので良しとすることにした。

 まずは農地改革と牧畜関連の改革からやろうと思っている。
 異世界といえば農業を改革していくのは基本。
 知識をひけらかすようであるが、そこに暮らす人々が豊かになるのだから問題はない。

 というわけで俺たちは王城から離れ、王都内の農業を行っている場所へと赴いていた。
 やはりというか視線を集めてしまったが、俺たちの素性に気付いた人間はいない様子だ。
 怪しすぎて目が合うと背けられてしまう程であったが。

「やっぱりこんな格好は恥ずかしいですわ」

「そう? 凄く似合っていて可愛いと思いますよ。むしろ前着ていたドレスがそんな感じじゃなかったですっけ?」

「ドレスと街を歩く格好は違いますわ。そ、それに眼鏡と帽子もつけてますし」

「ふふ、私も眼鏡と帽子をつけてますよ。でもいいじゃないですか、エトワイアは堂々としてるんですから」

「それって間接的に俺の事を罵倒していないか?エリーゼ。エリーゼは確かに一番普通の格好だとは思うが」

 のどかな街並み。そこを歩きながら3人で会話しながら歩いていく。
 適度に湿り気のある風が俺たちの間を通り抜け、日の光が黒が多めの服を僅かに温める。
 ローゼンストーン王国は農地、工業地、住宅地とおおまかな区域分けがされており、農地がある西方面は歩けばそれなりに時間がかかる。

 既に俺は農業と牧場用の土地が隣接する場所を購入し、既に数人かの人も雇っている。
 王城から一人執事を派遣してはいるが、その執事チャールズ以外は俺たちの素性を全く知らない。

「ここがエトワイアの言っていた場所ですか。中々に広い場所ですねぇ」

「本当ね。けどなんで私たちが農業を行うわけ?」

「ただ指示をするだけでも農業の改革は行える。けれどそれでは民草の本当の支持は得られない。
 俺たちが汗水たらして仕事する事で、人々は俺たちに付いてくるようになるんだ」

 行おうとしているのは金稼ぎでも国作りでもない。
 人々の信頼を得て支持を集める事。同じ土俵に立ってやってみせないと、人は本心からは認めてくれない。

「といっても一からやるのは流石に時間がかかり過ぎる。だから魔法の力と人の力、その上で効率の良いやり方を皆に見せつけてやるわけだ」

 住み込みもできるようになっている牧舎の中へと入ると、農夫の格好をしているが凛とした佇まいのチャールズが出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、エト様」

 エトというのはこれから外で活動するときの俺の名前だ。
 アリゼッタはアリゼ。エリーゼはリーゼと名乗ることにしている。

「ああ、これからよろしく頼む。頼んでおいたものは用意できているか?」

「はい、勿論でございます。このようなものを何に使われるのですか……?」

「それは成功してからのお楽しみだ」

 チャールズに用意しておいて貰ったのは白に灰色が混じった粉。純度が若干低いが紛れもない石灰だ。
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