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「準備は整った。二人は本当によく頑張ってくれたと思う。だがやっとスタート地点に立っただけだ」
俺たちは外から話の聞くことの出来ない部屋で円卓を囲んでいた。
ここまでに二か月ほどの期間を費やしている。
時間に迫られているというわけではないが、のんびりしていても仕方がない。
「はぁ~。これでやっとスタートですのね。中々に大変な時間でしたわ」
「そうですね。けれど有意義な時間でした。私一人で魔法の練習していましたよ」
「な、なんですって!? 私だけこっそり努力していたと思っていたのにエリーゼもだったのですの!」
当然四六時中一緒にいるわけではない。
彼女らには彼女らの家があり、俺たちはまだ結婚なんてしていないのだから、夜を共にしたりすることも貴族のしきたりではできない。
もっともできたとしても、俺は二人に手を出すほどの根性はまだないのだけど。
「ははは。俺も一人で特訓していたよ。しかし魔法の存在は全く知れ渡らないな」
「エトワイアは一人の特訓禁止ですわ! 既に一人だけ魔力も多いのですから」
「そうですよ。エトワイアが特訓していたら、私たちはいつまで経っても追いつけないじゃないですか」
「別に追いつく必要はないだろ。俺は俺、二人は二人。だからこそ俺は二人の事が大切なんだ。俺のコピーが欲しいってわけじゃない」
二人は俺の言葉に顔を染めた。
王子になって性格が変わったのか知らないが、可愛い女の子相手にすらすらと言葉が出てくるのでなんだか不思議な感じがする。
本来は可愛い女の子なんて見るだけで緊張していたはずだったんだが。
「分かりましたわ。私たちにできることをやればいいのですわね。
それよりも……これを本当に着るんですの……?」
アリゼッタの目線は円卓に置いてあるものに向いている。
それは市民の服、よりもさらに質の低い服。俺たちは顔も名前も知られているので、普通の格好をしていたら街を歩くと気付かれてしまうのだ。
そう思って侍女に無理矢理用意させた服、というよりは変装道具に近い。
こんな服を王子に着させたりしたらメイド長に怒られてしまいます、と言っていたが金貨一枚と微笑み一つでコロリだ。
流石は王子の容姿。鍛えて磨かれていることでもあるしな。
「これを着るだけじゃ足りない。俺はともかくとして二人はあまりに可愛すぎる。その高貴なるオーラはボロを着ていても漏れ出てしまうことだろう」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですわ。それにエトワイアだって高貴なオーラは私たち以上に出ているのと思うのだけど」
「そう言ってもアリゼッタ、心の中では喜んでいるんでしょう? 私は可愛いと言われて素直に嬉しかったですから」
「それはまぁ……その、ね……。足りないってことは他にも何か?」
「ああ、とりあえず着替えようか」
俺はくたびれた服装に中二病心をくすぐる黒の全身コートを着こんだ。
これも所々破けており、明らかに中古の品と分かるものだ。
アリゼッタは簡素なゴスロリといった服装だ。
こちらは新品で作らせたものだが、かぶらせた大きな魔女ハットのような帽子で怪しげ満点の仕上がり。
エリーゼは茶色を基調としたケープ。
これは中古で仕入れてもらったのでほつれなどが見え、中々の残念さだ。
だがやはりというか二人は引き締まった体に整った顔立ちのせいで、地味な服装をその素材が完全に圧倒していた。
これではただのコスプレイヤーでしかない。
ということで土魔法で顔を僅かに汚し、用意していた伊達眼鏡を二人に装着させた。
アリゼッタは黒縁の眼鏡がさらにコスプレイヤー感を増したが、エリーゼは銀ぶち眼鏡なのでまるで司書のような感じとなった。
そして俺は顔にペイントを施した。
笑われた。
俺たちは外から話の聞くことの出来ない部屋で円卓を囲んでいた。
ここまでに二か月ほどの期間を費やしている。
時間に迫られているというわけではないが、のんびりしていても仕方がない。
「はぁ~。これでやっとスタートですのね。中々に大変な時間でしたわ」
「そうですね。けれど有意義な時間でした。私一人で魔法の練習していましたよ」
「な、なんですって!? 私だけこっそり努力していたと思っていたのにエリーゼもだったのですの!」
当然四六時中一緒にいるわけではない。
彼女らには彼女らの家があり、俺たちはまだ結婚なんてしていないのだから、夜を共にしたりすることも貴族のしきたりではできない。
もっともできたとしても、俺は二人に手を出すほどの根性はまだないのだけど。
「ははは。俺も一人で特訓していたよ。しかし魔法の存在は全く知れ渡らないな」
「エトワイアは一人の特訓禁止ですわ! 既に一人だけ魔力も多いのですから」
「そうですよ。エトワイアが特訓していたら、私たちはいつまで経っても追いつけないじゃないですか」
「別に追いつく必要はないだろ。俺は俺、二人は二人。だからこそ俺は二人の事が大切なんだ。俺のコピーが欲しいってわけじゃない」
二人は俺の言葉に顔を染めた。
王子になって性格が変わったのか知らないが、可愛い女の子相手にすらすらと言葉が出てくるのでなんだか不思議な感じがする。
本来は可愛い女の子なんて見るだけで緊張していたはずだったんだが。
「分かりましたわ。私たちにできることをやればいいのですわね。
それよりも……これを本当に着るんですの……?」
アリゼッタの目線は円卓に置いてあるものに向いている。
それは市民の服、よりもさらに質の低い服。俺たちは顔も名前も知られているので、普通の格好をしていたら街を歩くと気付かれてしまうのだ。
そう思って侍女に無理矢理用意させた服、というよりは変装道具に近い。
こんな服を王子に着させたりしたらメイド長に怒られてしまいます、と言っていたが金貨一枚と微笑み一つでコロリだ。
流石は王子の容姿。鍛えて磨かれていることでもあるしな。
「これを着るだけじゃ足りない。俺はともかくとして二人はあまりに可愛すぎる。その高貴なるオーラはボロを着ていても漏れ出てしまうことだろう」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですわ。それにエトワイアだって高貴なオーラは私たち以上に出ているのと思うのだけど」
「そう言ってもアリゼッタ、心の中では喜んでいるんでしょう? 私は可愛いと言われて素直に嬉しかったですから」
「それはまぁ……その、ね……。足りないってことは他にも何か?」
「ああ、とりあえず着替えようか」
俺はくたびれた服装に中二病心をくすぐる黒の全身コートを着こんだ。
これも所々破けており、明らかに中古の品と分かるものだ。
アリゼッタは簡素なゴスロリといった服装だ。
こちらは新品で作らせたものだが、かぶらせた大きな魔女ハットのような帽子で怪しげ満点の仕上がり。
エリーゼは茶色を基調としたケープ。
これは中古で仕入れてもらったのでほつれなどが見え、中々の残念さだ。
だがやはりというか二人は引き締まった体に整った顔立ちのせいで、地味な服装をその素材が完全に圧倒していた。
これではただのコスプレイヤーでしかない。
ということで土魔法で顔を僅かに汚し、用意していた伊達眼鏡を二人に装着させた。
アリゼッタは黒縁の眼鏡がさらにコスプレイヤー感を増したが、エリーゼは銀ぶち眼鏡なのでまるで司書のような感じとなった。
そして俺は顔にペイントを施した。
笑われた。
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