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第3話 メモと加工

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 青々と茂る森からこの葉擦れの音が聞こえ、小さな池から水面が揺れる音がチャプンと重ねる。
 ユゼルは意識を取り戻すと静かに揺らぐ池のほとりに倒れ込んでいた。

 生命の息吹を優しく感じさせてくれる草葉が体を撫でるのを感じつつ起き上がる。
 森と池、そして切り立った崖に囲まれた場所にいるようだ。

「手が……俺の手じゃないな。若い、若いのか」

 丁度良く池があるので姿を映しこんでみると、やはりというかそこに映った顔はまるで別人の顔が映っていた。
 ただ明らかな西洋人という訳ではなく、薄茶色の髪をしたハーフといったような顔立ちに雄二の時の面影がわずかに残っている。

「本当にイケメンだよ。ん……身長も随分と高いな。服も……」

 死ぬ間際に着ていたスーツを先ほどまでは着こんでいた。
 けれど今はその雰囲気を残してはいるが、かなり簡素な服に変えられているようだ。
 靴も先ほどまではいていた黒の革靴ではなく、野性的な雰囲気を放つ茶色の革靴。

「しっかし……一体どうすれば……ん?」

 ほとりからキョロキョロと辺りを見渡していると、最初に倒れていた場所にメモのような物が落ちていることに気付く。


『はろはろ! グラディールだよ。知的生命体に出現を見られないように飛ばしたらそんな場所になっちゃいました。
 って言っても僕はユゼルがどんなとこに立っているか知らないんだけどねー。変なとこだったらごめんね?
 それでアイテムも説明も何もなしだとハードモードが過ぎると思ったから一つだけアドバイス。
 あんまり干渉できないんだよ、この手紙も正直ギリギリ……。ってのは、まぁどうでもいいとして。
 高い場所、森、水場、この三つがあるはず。
 森と水場から素材や食料を調達して高い場所に登ってみて。そしたら進むべき場所が見えると思うよ。
 じゃ、あとはステータスとにらめっこしながら頑張ってね。
 で、肝心の部長勇者だけど、今この時より3年後の9の月10日。
 アゼラスって街の正面の門を出て南東の森そばの草原に現れるから、一応それを目指して頑張ってね。
 それじゃぁね~』


「いやいや、よく分からんし……。でもそんな詳しい時間や出現位置まで分かってるんだな。爆弾でも仕掛けとけば……いやいや、見極めるんだったか。
 ってか、ここを登るのか?」

 切り立った崖は20メートルほどの高さがあり、当たり前だが人間が素手で登れるものではない。
 それでもユゼルはそのアドバイスを信じなんとかしようと行動していく。

「いきなり登るのは不可能だよな、時間がかかりそうだ……となれば、メモ通りに食料を確保しておきたい」

 ステータスを開き詳しい説明をまずは見ようとタップした。

『採集Lv1』
アイテムを採集するときに使用するスキル。ただし、それを得るために必要な道具を持っていない場合は発動しない。
スキルレベルの上昇で習得できる数と質、そして稀にレアアイテムを入手することができるようになる。

「はは、まるでゲームだな。ゲームかぁ……。俺も休みの日はずっとやってるけど、そんな感覚なのかね」

『加工Lv1』
アイテムを加工するときに使用するスキル。ただし、それを行うために必要な道具を持っていない場合は発動しない。
スキルレベルの上昇で使用できる対象、作成物、質、必要材料の数量の減少などに影響する。

『解体Lv1』
生物を解体するときに使用するスキル。ただし、それを行うために必要な道具を持っていない場合は発動しない。
スキルレベルの上昇で取得物の数の増加、レアアイテムの入手確率などに影響する。

『剣術Lv1』
剣を振った時の攻撃力にボーナス補正がかかる。

「剣の振り方とかは自分で覚えなきゃダメってことか……。俺は元々しがないサラリーマンだったってのに」

『体術Lv1』
体の動かし方と反射神経が向上し、直接的な打撃にボーナス補正がかかる。

(これはありがたいな。ん、確かに体の動きはいいのかもしれない。若い身体だからかと思っていたが)

ユゼルは体を動かしてみて今までとの違いを感じたようだ。
もっとも大して実感できるほどの物でもない。
スキルLv1では、せいぜいが今の16歳の年齢に見合った身体能力の一割増しというところだろう。

『愉悦の鍛冶Lv0』
?????????????????????

『グラディールの加護』
ミソロジースキル、愉悦の鍛冶を習得できる。
スキルの成長補正に大幅なプラスがかかる。
頑張って、応援してるよ!

「愉悦の鍛冶はLvが0だから分からないってことだろうか……しっかし、加護の説明に応援を書くかね」

 そう口にしたがユゼルは少しだけ心が和み口元が緩むのを感じていた。
 頬をばちっと叩き気合を入れ森へと足を運ぶ。

 苔の生えた大木の根元に落ちていた細い枝を拾い上げ、加工を試してみる。
 が、残念ながら加工は発動しなかった。

「道具がないからってことなのか、枝は加工ができないということなのか」

 キョロキョロと見回して、切り立った崖の側に薄く割れた石のような物が落ちているのを見つける。
 まるで包丁のように使えそうな灰色の石だ。
 それと枝を持ったまま加工を試してみると、枝が瞬時に姿を変えた。

『木の矢』
枝を削っただけの原始的な矢。殺傷力も低く、命中精度も落ちる。

「よし、こういう感じに使っていくんだな。ええと……魔力は10消費してるのか」

 ユゼルはもう一度森へと戻り今度は少し柔らかくしなる枝と、大木に巻き付いていた薄緑色のツル植物を引きちぎった。

「あ、ツルを取る時に採集をすれば良かったか? でも、普通に取ることもできるのは出来るんだな」

 長い枝とツル、そして石の包丁を持ったまま加工を行うとステータスと同じプレートが目の前に現れる。

『作成可能物選択肢 弓 槍』

「ああ、そうか。この3つを組み合わせて槍も作れてしまうのか」

 そうは言っても石は正直槍に適したような形をしてはいない。
 ユゼルはそう考え当初の予定通り、弓を作成することにした。

『加工スキルのレベルが2に上昇』

『木の弓』
カシュ―の枝にツルを取り付けただけの原始的な弓。命中精度は低く耐久性も低い。

 よしよし、これで何かあった時の武器にはなるな。
 そう思いながらアイテムボックスを開いてみる。
 ステータス画面をタップして収納される仕組みで、入れたものがリスト化されインベントリされた。

『アイテムボックス』
 生命無きモノを自在に出し入れできる異空間収納庫。中に入れたものは時間が止まり変化することはない。
 ただし力×10kgまでの容量制限がある。

「アイテムボックスは……この世界ではどういう扱いなんだろうか。ユニークスキルに入っているということは普通は持っていないもの?
 容量は1トン入れられれば不満なんかまったくないな」

 鑑定の効果は知りたい対象物の情報を知ることができるというもので、矢や弓などの情報を知った時に使用している。
 弓と矢をアイテムボックスに放り込むと再度ユゼルは動き出した。
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