街がまるごと異世界転移

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第一章 島が異世界転移

カイセンテンプラ

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「それでは、皆様の紹介も終わりましたところで、食事をとりながら話を進めていきたいと思います。」

そういうと村岡さんは、お盆の上に乗った器に軽く手をそえながら、料理についての説明を行う。

「今回は、こちらの料理で『海鮮天ぷら』を用意しています。左から主食の米と、汁物である味噌汁。それに、真ん中の皿にありますのが、海鮮…つまり魚などの海の生き物や、野菜を『天ぷら』という方法で調理した料理となります。天ぷらは、そのまま召し上がっていただいてもよろしいですが、好みに応じて右にある塩やに付けて召し上がっていただけます。」

次に、手元にあったカトラリー(フォーク・ナイフ・スプーン)を手にとり食事の作法について説明する。

「食事で利用するカトラリーですが、今回はアストロメリア王国の作法を存じ上げないため、こちらで用意できるひととおりをそろえてあります。
また、手で直接食べる習慣でありましたら、そのようにしていただいても結構です。作法に気を使い食事を楽しめなくなっては勿体もったいないですから、気兼ねなくいつものように召し上がってください。」

そう言いつつ、軽く微笑みを浮かべて次に箸を手に取る。

「我々の国では、料理の種類によって使い分けますが、一般的にこの『箸』を使って食事します。
今回の料理も箸を使って食べる料理になります。このように持ち、二本の棒で挟んだり、すくったり、刺したり、挟んで切ったりなどして食事します。」

「『ハシ』ですか。こちらのカトラリーのみ拝見したことがないですね。」

ケスラーさんが興味深そうに箸を持ってつぶやいている。確かに箸ってやっぱ特殊だよな。地球でも欧米では使ったことない人がほとんどだろうし。
でもフォークとかナイフとかはあるんだな。それなら、よほど上品な食事会でもでなければ、普通に異世界でも食事できそうだ。

「興味がある方は、実際にご使用されてみてください。慣れるまで少しかかると思いますので、今日使えるようになるかはわかりませんが、慣れると用途別に持ち変える事が少なく便利ですよ。
本日は病み上がりということで、流石に医師にもお酒はひかえるよう言われて用意できていませんが、医師が問題無いというようであれば、明日以降は、お酒も召し上がっていただいてかまいません。
説明が長くなってしまいましたが、それでは、食事にしましょう。」

お酒の話のあたりで、ディータさんは笑顔になっていたが、俺たちも王国に行くことがあったら成人年齢だから酒が飲めるのかな?まぁ、テンプレな展開なら、飲食物について日本以上は期待できないかもな。でも、精霊酒とかファンタジーな酒もあるんだろうか…。
すると、異世界組は、さっそくフォークやスプーンなどを手に天ぷらや味噌汁の器に手を伸ばしていた。ケスラーさんは、箸をどのように使うのか島側の人間が食事で使用するところを見ようとしているみたいだ。

「では、いただきます」

「「「「いただきます!!」」」」

村岡さんが先に言ったので、給食のノリで「いただきます。」を合わせていった。
声を揃えて合唱が起きたことで、食事をとろうとした異世界組が全員固まる。その様子に千歳は、「あーテンプレな反応だなぁ~」と思うが、口にはしない。
するとケスラーさんが質問してきた。

「あのー、さきほどの『いただきます』というのは、何かのお祈りのようなものなのでしょうか?」

異世界でも宗教によっては、神に感謝して食事をとる事があるのかな?流石にまだ場がなごんでいない状況で、俺からは説明しずらい。いくら異文化(異世界)交流といえども、大人のおじさん達が食事しているところで、注目を集めてまで説明できるほどの自信のある説明と猪突さはないよ。
そう思っていると柊さんが返事していた。

「あー、これは食事の素材や料理人への感謝をこめた言葉で、我々の国では食事前に言う一般的な言葉ですね。宗教的な意味は特にないのですが、習慣となっているので口にしてしまいますね。」
「料理の素材というと、魚や野菜などですか?」

「はい、魚はもちろんですが、野菜や穀物などの植物も命を持って成長しているところを私たちの糧として、その命を奪っています。そのため、その命をいただくことの感謝のために言うのではないかと私は思っています。」

どう思っているかについて、細かい点では各自違うかもしれないが、日本人であればだいたいそんな考えだよなぁ~と俺も思っていた。次は、料理の味に驚いてくれるのかな?と、異世界組の食事の様子に興味はありつつも、ジロジロ見るのは失礼なので自分も食事に手を付ける。

そんなやり取りの後に、異世界組も再起動して、食事をとり始める。

「これは!?」

「ほぉー。」

「ふぅむ…。」

「む、」

ディータさんは、フォークでナスの天ぷらを刺して口に入れる。
アンディは、スプーンで味噌汁を口に入れる。
レイモンドさんは、フォークで米を口に入れる。
ケスラーさんは、島側の箸の握りを見よう見まねで使って、玉ねぎの天ぷらをつかめ…ない。
見事に四者四様の反応に、俺はキタキタ異世界反応キターーっ!!と、内心叫びつつチラ見していた。


「中身は野菜のようだが、外側の皮(?)のようなものの食感がおもしろい。」

ディータさんは、初めて食べる天ぷらというものに少し興奮しているようだ。皮じゃなくて衣だけどね。

「何のスープなのかわからないが、あっさりとした味わいで、メインとなる料理が何であれ、それを邪魔することなく、それなりに合いそうだ。しかし、何のスープなのか…?」

アンディは、味噌汁の香りに驚き、濁ったスープを口に含んで、独特の味を楽しんでいるようだ。ここら辺は白味噌だからあっさりした感じになるんだよね。

「これは、豆に近いような食感ですね…。なるほど素朴な味ですが、噛めば噛むほど若干の甘みも感じるような気もします。これが主食という話でしたが、パンのように量をとってもこれなら飽きずに食べれそうです。」

レイモンドさんは、米独特のモチモチとした食感に驚いていた。やっぱり、異世界では米ないのかなぁ~。まぁ、島内にいれば、自給率100%くらいはあると思うけど。島の外では食べられないかもしれないのか…。

「なるほど、彼らは簡単に利用していますが、スプーンなどのように使い方を見てすぐ使えるようなものではなく、それなりに練習が必要ということですね。」

ケスラーさんは、箸で五・六回玉ねぎをつかみ損なって、軽くため息を吐き、他の面々と同様に使い慣れているであろうフォークで食事を始めた。

「ほぉ、これは、中の野菜のみならず、外の包みとの調和がとれて、うまい!それに、塩も澄んだ白い上質なもので、素材の味を引き立ててくれる。…さらに横の『ツユ』というソースに浸けると、また味わいが変わって楽しめる。」

ケスラーさんも天ぷらには好評価のようだった。ツユはソースか。そうっスか。
好評価で、食事をとっている異世界メンバーをみて、村岡議員がケスラーさんに向かって話しかける。

「食事を楽しんで頂けているようで、なによりです。会食ということで、食事をしながらお話を伺うつもりでしたが、食事を取ってしまってから行いましょうか。」

「それは、ありがたいですが、時間などはよろしいのですか?」

「えぇ、今日しか会えないわけではありませんし、また明日以降でもかまいません。お互いに相手の知らない情報を耳にする機会が増えて困る事はないでしょうしね。」

「そうですね。では、まず食事の方をごちそうになります。いやー、まだ少し食べただけですが、『カイセンテンプラ』というのはおいしいですね~!」

年甲斐もなく素直に食事を評価していた自分が少し恥ずかしかったのか、ケスラーさんは照れ笑いのような感じで返している。でも、ゆっくり食事できることは嬉しそうだ。
きっと、異世界メンバーの全員が同じ気持ちなんだろう。皆入室してきた時より頬が緩んでいる気がするし。

それから、島側・異世界側ともお互いに話しかける事は特になかったが、異世界組から、この魚がウマイだの、コメがすすむだの、といった声は聞こえてきていた。今日食べた海鮮天ぷらでは、エビ・イカ・キスが使用されていた。名前は違うようだが、似たような魚やモンスターなどは食べたことがあるそうで、そのあたりは特に忌避感なく食べられていたようだ。
イカを食べて、「これは、クラーケンの身か!!」なんてディータさんが呟いたのを聞いたときは、俺だけでなく島側の皆が「あぁ、やっぱりいるのか…」と思ったようであった。島という立地からして海のモンスターの話は、島民の安全のためにもこの後聞く予定なんだよな。海のモンスターと言うが、上陸可能な種類もいるかもしれないから、夏休み間近だけど、砂浜を遊泳禁止にするなどの検討もしないといけないらしい。今年は海で遊んだりは無理かな~。
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