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終章 決戦

終章-22:死闘の時、義勇魔法士 対 絶望の魔獣

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 《乱死の叫び》の薄暗い魔法力場の効力に、多重結界魔法で必死に耐えていた梢達。
 幾重にも展開した魔法防壁の上からでも、死の呪詛の効力を受けて全身から力が抜けて行き、膝を屈していた梢達の身体に、ゆっくりと活力が戻り始める。
「力が……戻って来てる?」
「確かに。あと、聞き覚えがある歌も聞こえるね?」
「舞子が好きやった【精霊歌姫】の歌やで!」
 自分達の身体を重くしていた《乱死の叫び》の効力が明らかに弱まり、温かい魔法力場に包まれたことを感じた梢達。その梢達にミツバが言う。
「ええ。どうやら命彦さんが企てた、【精霊本舗】の起死回生の策が成功したようです」
「歌が聞こえて、舞子の魔力を魔法力場から結構ビンビン感じられるっちゅうことは、まさか!」
「そのまさかでしょうね?」
「ウチの新人小隊員、思った以上に有望だったかもよ?」
 梢と勇子、空太が笑い合い、戦意を高揚させて立ち上がる。
「さあ、舞子達の援護があるうちに、決着を付けましょう! 動ける魔法士は攻撃を再開して!」
 梢の指示が響き、結界魔法から付与魔法を纏った勇子が飛び出した。梢と空太も攻撃魔法で援護する。
 背後の三葉市から戦場へと拡散する温かい融合魔法力場は、ファントムロードの発する死の魔法力場を押し戻し、義勇魔法士達に力を与えるが、結界魔法の上からとはいえ、《乱死の叫び》の呪詛を少しの間浴び続けていた義勇魔法士達は非常に弱っており、融合魔法力場の援護があってもすぐに動ける魔法士は限られていた。
 実際、梢の指示で即座に飛び出した前衛の戦闘型魔法士は、勇子を入れて僅か4人である。
 【ヴァルキリー】小隊の、〔騎士〕の学科魔法士である角持ち少女と、〔闘士〕の学科魔法士である双子の少女達が前衛に立っていた。
「とうりゃああぁぁーっ!」
 〈双炎の魔甲拳:フレイムフィスト〉と火の精霊付与魔法の相乗効果で燃え上がった右拳で、〔闘士〕学科の固有魔法《フレア・ラッシュ》をファントムロードに叩き付ける勇子。
 数重にも展開された精霊結界魔法の、幾つかを叩き割ったものの、残った魔法防壁に勇子の魔法攻撃は受け止められた。
 その勇子に追撃して、双子の少女達も同じく〔闘士〕学科の固有魔法である《エアロ・レイド》を叩き込む。
「「はあぁぁーっ!」」
 それでも多重魔法防壁を突破することはできず、ファントムロードが勇子達へ、反撃である漆黒の追尾系魔法弾を多数放った。避ける勇子達に際どく迫る追尾系魔法弾を、角持ち少女が間一髪で結界魔法を具現化し、受け止める。
 4人で固まっていた勇子達へ、再度攻撃魔法を放とうとするファントムロードに、後衛の魔法士達による攻撃魔法が降りかかった。
 梢や空太の他に、【ヴァルキリ―】小隊の眼鏡少女の魔力も感じて、勇子が煽るように口を開く。
「へえ、あんたらも動けたんかい? 舞子らの援護を受けても、もう戦える力があるんは、ウチらだけかと思ってたわ」
「……認めるのは腹立たしいが、歌咲舞子の援護と共に、貴様のところの小隊長が施した呪詛も役に立った」
「一緒にお嬢様の結界魔法へ退避した他の魔法士達は、歌の援護があっても、まだ立ち上がれていませんでしたからね?」
「私達が歌の援護を受けてすぐ行動し得たのは、恐らく別の呪詛にかかっていたからだと、お嬢様も言ってらっしゃいました。僅かにあった違いが、この差を生んだと」
 不本意ですがと、しかめっ面で少女達が言う。その言葉を聞いて勇子は苦笑した。
 てっきり融合魔法力場の援護が、見下していた舞子によるモノだと気付いて、しかめっ面をしていると思いきや、どうも少女達のしかめっ面の原因は、舞子に助けられたことより、命彦の〈悦従の呪い蟲〉の効力で、自分達が助けられていたことの方らしい。
 会ってからたった数日で、舞子以上に嫌われたと見える命彦。
 命彦の少女達に対する過去の言動を思い返し、ある種当然と思った勇子は、苦笑しつつ言う。
「ほーん、良かったやんけ。ウチらも舞子と命彦のおかげで……命彦の店にある魔法具を借りてたおかげで、無事やったわ。本来は眷霊種魔獣の読心対策で借りた装身具型魔法具やけど、《乱死の叫び》が陰闇の精霊を介した魔法やからか、魔法防御がええ感じで助けてくれよった」
 勇子が、激しい回避行動で〈地礫の迷宮衣〉の上にまろび出た〈陰陽の首飾り〉を、〈地礫の迷宮衣〉の内側に押し込んで言う。
「お互い命彦と舞子に助けられたんや。ここはちっと借りを返さんといかんやろ?」
「それは……同意する」
「舞子さんに借りを作る以上に、あの助平小隊長に借りを作ったままという方が、私的にはおぞましいですわ」
「同感ですね」
 勇子と角持ち少女、双子少女が、ファントムロードの背後の上空で、眷霊種魔獣を相手にまだ戦ってる命彦を視界の端に入れて言う。
 そして、勇子が口を開いた。
「後ろの魔力に気付いとるか? 起き上がれる魔法士達が空太達に合流した。皆で魔力を結集して、魔法攻撃を行うつもりらしいで?」
「ええ。先に仕かけて、崩しますわよ」
「防御は私が担当する。全力で突っ込め! ここで終わらせんと、ホントに都市が終わるぞ!」
「この歌の援護が終わる前に、ケリを付けましょう!」
 勇子達が最後の一勝負とばかりに、魔法力場に魔力を込めて、霊体種魔獣【霊王】に突貫した。

 勇子達の突貫する少し前に、合流して魔法を詠唱していた空太と【ヴァルキリー】小隊の眼鏡少女、そして、動ける少数の義勇魔法士達は、全員の魔力を一つにまとめた精霊融合攻撃魔法で、一気にファントムロードへ総攻撃するつもりであった。
 空太の代わりに結界魔法を展開し、その場の全員を守っていた梢が口を開く。
「1000人の魔法士と戦える高位魔獣を相手に、たった30人程度で戦いを挑むって、普通に無謀よね?」
「はい。しかし、相手が霊体種魔獣であれば、まだ勝算はありますよ、姉さん?」
 通信網が回復したミツバが、魔法機械達に勇子達の援護をさせつつ言うと、梢が苦笑した。
「そうね。霊体種魔獣は魔力で身体を構築しているために、総じて魔法攻撃に弱い。高位魔獣に分類されるファントムロードとて、この種族特有の弱点を持ち合わせてるわ。常に展開している結界魔法の魔法防壁さえ貫通させられれば、ファントムロードに相当の損傷を与えることができる。問題は、幾重にも展開されたこの周囲系魔法防壁を、私達の攻撃だけで突破できるかどうかよ。……私も源伝魔法を使おうかしら?」
 梢の最後の発言を聞いて、ミツバが慌てる。
「いけません! 確かに神樹家の源伝魔法を使えば、あの高位魔獣を倒すこともできるでしょうが、その源伝魔法の制御が、姉さんは怪しいではありませんか! 母さんも、姉さんは源伝魔法の修練が不足していると、暴走の危険性を指摘しておられました。この現状で使うのは危険過ぎます!」
「分かってるわ、ただの冗談よ、冗談。……でも、こういうことが起こると分かっていたら、私も命彦や命絃みたいに、きちんと自分の家系の源伝魔法を修練しとくべきだったわ。過去の自分が悔やまれる」
「悔やんでも仕方ありません。今は、できる最善を尽くしましょう」
 後悔の表情を浮かべる梢にそう答え、魔法機械〈オニヤンマ〉と〈ツチグモ〉の編隊を、ミツバは上下からファントムロードの魔法防壁に突撃させた。
 十重二十重に展開されたファントムロードの精霊結界魔法は、勇子達と魔法機械達によって幾度も攻撃を受けているが、未だ貫通を許さず、攻撃を跳ね返し続けている。
 魔法攻撃に貫かれ、魔法機械が次々に行動不能にされている時。
「「……廻る四象は一連として、万象を作り、万物を無に帰す。轟け《四象精霊砲》!」」
 伝達系の精霊探査魔法で思念伝達網を再構築し、〔精霊使い〕の学科魔法士である空太と眼鏡少女の主導による、義勇魔法士達の魔力を結集した融合魔法攻撃が完成して、放たれた。
「行くとすれば、ここね! ミツバ!」
「お任せを!」
 荷電粒子砲のように空を駆ける一条の融合魔法攻撃を見ると同時に、梢はミツバに空太達を任せて駆け出した。
『勇子! 範囲系魔法弾は残ってる?』
『とっときが一発残っとるで! 今装填したわ!』
『よしっ! おいしいところあげるから、合わせてよ!』
 走りつつ無詠唱で伝達系の精霊探査魔法《旋風の声》を発し、勇子と一瞬で意思疎通した梢は、一際魔力を放出して、呪文を詠唱する。
「地礫の天威、水流の天威、火炎の天威、旋風の天威。精霊の円環、融く合し束ねて神の衣と化し、相乗四象の加護を与えよ。包め《四象融合の纏い》」
 淡い4色の色相環を作って輝く、分厚い融合魔法力場を身に纏い、梢は一気にファントムロードに迫った。
 空太達の融合魔法攻撃を受けて、ファントムロードの展開する魔法防壁がガリガリ削られて行く。
 時間をかけてありったけの魔力と精霊を注ぎ込んだためか、空太と眼鏡少女、義勇魔法士達は座り込んでいたが、その甲斐はあり、《四象精霊砲》はたった一撃で半分近い周囲系魔法防壁を突き破った。
『あとは……任せたよ』
 空太が梢や勇子を見て、思念で短く言う。
 第6位階という、高位の学科魔法士に数えられる者としての意地を見せた、空太と眼鏡少女。
 そして、実力は低くとも自分達にできることをして、戦士の誇りを見せた義勇魔法士達。
 その全員に答えるように、失われた結界魔法が再展開される一瞬の空隙を利用して、梢と勇子達の、たった5人の前衛が、魔法攻撃を合わせる。
「「「《エレメンタル・ランペイジ》!」」」
 融合魔法力場の一撃が3つ、時間差で魔法防壁に叩き込まれ、それによって魔法防壁の3分の2が砕けた。
 そして、〔闘士〕の学科魔法士たる勇子や双子少女達と入れ換わるように、〔武士〕学科を修了していた梢が、自分で作成したお手製の魔法具たる日本刀へ、融合魔法力場を全力で集束させて斬り降ろす。
「《精霊刃・重ね斬り》!」
 集束した融合魔法力場の刃が、魔法防壁をまとめて斬り裂き、あと1枚と迫った。
「今よ!」
 梢が叫ぶと、背後からフレイムフィストの回転式弾倉を回した勇子が、捨て身で突貫した。
 一瞬の連続攻撃に危機感を抱いたファントムロードが、勇子の眼前に集束系魔法弾を具現化する。
「構わず進め!」
 捨て身の勇子は当然回避できず、自ら魔法弾に突っ込むところだったが、突然勇子の前に移動系魔法防壁が2重に具現化された。〔騎士〕の学科魔法士たる角持ち少女の援護防御である。
「せぇりゃあああぁぁーっ!」
 魔法弾にぶつかりつつも、勇子は融合魔法力場で包まれた右拳を残った魔法防壁に叩き付けた。
 ゴガンと衝撃が腕に走り、魔法防壁が砕けると同時に、回転式弾倉内の魔法結晶も砕ける。
 そして、魔法防壁の内側に突如として生じた火と風の範囲系融合魔法弾が、ファントムロードを呑み込んだ。
「とっときの魔法結晶、《風火の融合槌》を封入したモンや! 高かったんやぞっ!」
「オアアアアーッ!」
 勇子がニヤリと笑って叫ぶと、ファントムロードは自らの具現化した魔法防壁の内側で融合魔法弾に蹂躙され、消え去った。
 梢達がその場に座り込む。気付くと舞子達の歌も止んでいた。
「やっと勝ったわ」
「ホンマやで」
 梢と勇子が笑い合った時だった。ドゴンッと【迷宮外壁】が砕けた。
「「……っ!」」
 驚いて立ち上がった2人が見たのは、【迷宮外壁】にめり込む命彦とメイアの姿であった。 
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