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4章 魔法士小隊

4章ー11:模擬戦の内容と、魔法訓練施設

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 舞子が模擬戦の必要性を理解したところで、命彦達が内容について話を詰め始めた。
「そいで肝心の模擬戦の内容はどうするんや?」
「まず見るべきは接近戦と砲撃戦でしょ? 近距離魔法戦闘での対応力と、遠距離魔法戦闘での対応力を、それぞれ見るべきだよ」
「そうね。あ、今ポマコンで学習課程カリキュラムを調べたんだけど、〔魔法楽士〕って修得する精霊攻撃魔法が、異常系魔法弾を放つ《声歌せいかわざわい》1つだけみたいよ? 精霊付与魔法は地水火風の4種に、陰闇と陽聖の精霊の2種、あと声歌の精霊を追加して、合計7種類も修得するみたいだけど。これって完全に前衛系よね?」
「ふむ。ということは、接近戦では純粋に戦闘力を試し、砲撃戦ではいかに攻撃魔法を潜り抜けて、間合いをつぶせるかを見るべきか」
『そうですね、それが適切かと思われます』
「あ、でも待って命彦。〔魔法楽士〕は精霊付与魔法を修得するけど、使い方は戦闘型や探査型の魔法学科と全然違うわよ? 〔魔法楽士〕の付与魔法は、魔法力場を自分の歌や楽器演奏に乗せて、周囲に限界まで拡散させるからね」
 ポマコンから視線を外し、〔魔法楽士〕の情報を告げるメイア。
 メイアの言葉に勇子が思い出したように困り顔を浮かべ、命彦も舞子の顔を見て確認した。
「せやった。【精霊歌姫】もそれっぽい使い方を公演会ライヴでしてたっけ? しっかし、魔法力場の拡散って、戦闘型や探査型の使い方と真反対の使い方やんか」
「うーむ。舞子、魔法力場の拡散ができるんだったら、力場自体の制御はできるわけだろ? 力場の集束も同じようにできたりしねえの?」
「……申し訳ありません。同じ精霊付与魔法でも、魔法学科が違えば使い方も随分違うみたいで。魔法力場を操作する根本は同じですが、拡散はできても集束はできませんでした。自分の肉体に付与魔法を展開し、魔法力場を纏うことは私にもできますが……魔法力場を集束させるというのは、訓練自体をしたことがありませんから、想像イメージしにくいんです」
 自分を恥じるように肩を落とした舞子は、命彦を見て言葉を続けた。
「一昨日迷宮において、命彦さんが《旋風の纏い》で力場集束を使っている姿を一度見ましたが、すみません。どうすればあれと同じことができるのか、私にはさっぱり分かりませんでした」
 命彦に迷宮で救われた後、自分でも色々と試して失敗し続けたのだろう。
 舞子は目線を少しづつ下げて、遂には俯いてしまった。
「自分の学校で戦闘型や探査型の魔法学科の戦闘訓練を見てた時、皆は使ってへんかったんか?」
「絶対に付与魔法の力場集束を使って、訓練してる筈だけどねえ……」
「私達、戦闘訓練の動きにばかり気を取られ、魔法に関してはそこまで注意して見ていませんでした。精霊付与魔法は、自分達も一応使えましたから。教官の話が聞けていれば、使い方の違いに気付けたかもしれませんが、戦闘訓練の観察は、常に校庭に面した校舎の屋上で行っていて、教官と生徒達の会話や指示内容まではとても……」
「聞こえんかったわけやね? 芽神女学園のデカい校舎のさらに屋上からやったら、校庭からも相当遠いし、まさか他学科の教官に、盗み見してた実習授業の話を聞きに行くわけにも行かへん。そもそも教えてくれんやろうし」
「そうだね。教官が独断で、他の魔法学科の生徒に魔法技術を教えたら相当問題だ。その教官のクビが飛ぶよ。魔法学科によっては学費も結構違うし、生徒間に技術修得の不均衡が生じる。保護者に知れたら訴訟沙汰もあり得るからね?」
「知人の生徒にも聞けず、教官にも聞かれへんかったら、そら独学でって思うわ。ホンマ苦労したんやねぇ、えらい夢を抱いてもうたが故に。自業自得とも言えるけど……その苦労と努力、夢を諦めん一途さは、ウチが認めたる。ようやったで」
「あははは……ありがとうございます。まあ、そうした苦労や努力も、現状はほとんど役に立っていませんけどね? 魔法力場の集束も結局できませんし」
 勇子のやや上から目線の賞賛に、はずかしそうに応じた舞子だったが、すぐに乾いた笑みを浮かべ、しょぼんと肩を落した。
 その舞子の肩に手を置き、メイアが励ます。 
「別にいいのよ、舞子? 〔魔法楽士〕は限定型の魔法学科。歌や踊り、演奏で人々を慰労いろうしたり、娯楽を与えて集団の心理を先導する、心象操作を目的に設立された魔法学科でしょ? 戦闘型や探査型の魔法学科と付与魔法の使い方が違うのは、至極当然のことだわ」
「メイアの言うとおりだ。気落ちする必要はねえよ。というか、一度見て同じことをできる方がおかしい。そういうのは天才だけのわざだ。だからこそ凡人は修練し、努力する。模擬戦で魔法力場の集束がどういうモノか、もう一度見ればいい。そして、実体験として感じろ、使い方の違いを。俺達も使い方を教えるからさ?」
「はい! ありがとうございます……私、本当に全力を尽くしますからっ! 倒れるまでしごいていただいて構いません!」
 舞子の引き締まった表情を見て、命彦達が淡く笑った。
「いよっし、ほいじゃ模擬戦の内容決定や。接近戦と砲撃戦で対応力を見る。但し、接近戦は舞子の実力を見ると同時に、魔法力場の集束もきっちり体感させる。砲撃戦はとりあえず、距離のつぶし方を見ると。あ、武具型魔法具の使用はやめとこか? の実力を計りたいし。そいで模擬戦の相手やけど、誰がするん? ウチは接近戦やってみたいで!」
「じゃあ、砲撃戦は俺が担当しよう。本来は空太に任せたいところだが、この【魔狼】小隊で1番結界魔法の扱いが上手い空太が攻撃役をすると、いざという時、舞子が怪我をするのを防げねえからさ?」
「じゃあ空太は審判ね? 空太が審判だと、模擬戦で舞子の相手をする私達が思い切って攻撃できるから、舞子の実力をより確認しやすいわ。私はそうねえ……舞子の助言役をしましょう」
「僕もりょーかい。しかし、接近戦の相手が勇子でいいのかい、命彦? 付与魔法の使い方の違い、勇子が教えられるの? ぶっちゃけ魔法の加減を間違えて、舞子の首をもぎ取りそうだけど?」
「ウチが加減間違えるんは、空太をどつく時だけや!」
「僕の時こそ加減しろよっ!」
 座卓の端末をいじって依頼所の受付とやり取りしていたメイアが、もめる勇子と空太を制止し、命彦に言う。
「はいはい、2人ともどつき漫才は後にして? 命彦、訓練場の使用許可が下りたわ」
「よし、じゃあ行くぞ。舞子、ついて来い」
「は、はい」
 少し硬い表情の舞子を連れて、命彦達は談話室を出て行った。

 談話室を出た命彦達は階段を下り、依頼所の1階裏口から依頼所を出る。
 依頼所の建物の裏には、やたらと四角い外観の、市民体育館にも似た別棟があった。
 命彦達が建物に入ると、自動感知センサーで建物内の電灯が点き、眼前には壁面に立方体状の衝撃吸収材が所狭しと貼り付けられた、開けた空間があった。
「これが……訓練場ですか?」
「ああ。この建物自体が、結界魔法の効力を持つ、1つの魔法具だ」
『建物自体の内外に結界魔法の魔法防壁を展開していますから、ここであれば多少派手に魔法を使っても、周囲に被害を出さずに済みます。まあ、限度はありますが』
 命彦とミサヤが、勇子と空太を見ると、2人が揃って目を泳がせる。
 どうやらこの2人、限度を超える魔法を使って、訓練場を壊したことがあるらしい。
「建物自体が1つの魔法具ですか。……見た感じは芽神女学園にある、体育館とよく似てますね? 構造や機能も似てるんですか?」
 訓練場内部を不思議そうに見回す舞子に、メイアが言う。
「ええ。どこの魔法士育成学校にある体育館も、魔法訓練施設としてほぼ同じ造りの筈よ。数十人の〔魔具士〕や〔魔工士〕達が、数年かけて作ったの。電球から配線から、ありとあらゆる建物の部品に、異相空間処理いそうくうかんしょりと呼ばれる、魔法的処理が行われていてね? そのおかげで、魔法具としての力をこの建物は持っているわけ」 
「多くの〔魔具士〕や〔魔工士〕の手が必要だったせいで、人件費がバカみたいにかさんで、物凄い建設費用がかかってるんだけどね? あと念のために言っとくと、この建物自体が魔法具であって、建物に後付けされた設備とかは、普通の物だから魔法に滅法弱いよ。注意するようにね?」
「そやで。例えば壁面の衝撃吸収材は、建物が作られた後に設置された物やねん。せやから、魔法具の効力の対象外や。物理的にはともかく、魔法的には簡単に壊せる。まあ、衝撃吸収材は訓練で壁にふっ飛ばされた魔法士を守るためにあるわけやから、壊れるためにあるとも言えんねんけどね? そういうどうでもいい話は置いといてや」
 勇子が舞子にニシシと笑いかける。
「舞子、信じられるか? この地味でどこにでもある、そこまで広くもあらへん普通の体育館っぽい建物1つが、数十億円もの値段やねんで? 凄いやろ? 物の価値がおかしゅうて笑えへん?」
「す、数十億円! ほえー……で、でも勇子さん? 学校のもそうですけど、魔法訓練施設って、どれもほったて小屋みたいに構造が単純ですよ? 剥き出しのネジの1つ1つも不格好ですし」
「おう。不自然にでかいやろ? さすがや、よう気付いたわ。誉めたるで、舞子! ウチも最初ここを見た時は、構造から建材から全部手抜きやと思ったもん。建物としても、ろくすっぽ凄い機能あらへんしね? 数十億円って言われても、その価値がホンマにあるんかどうか、普通は疑うわ」
 あはははと笑う勇子の横で、空太も苦笑しつつ言う。
「ぶっちゃけてしまえば、魔法訓練施設って魔法への耐久性が高いだけの、ほったて小屋風体育館だからねえ? 構造が単純だから頑丈には作られてるけど、魔法にある程度まで耐えられるところが実は1番凄くて、そこに費用がほとんど注ぎ込まれてるんだよ。だから、取り柄はそこだけってわけさ。利用者からしてみると、もう一捻り利便性の高い機能が欲しいんだよねぇ」
「ホンマやわ。そこだけは空太に心底同意や。この訓練場も、冷暖房設備が後付けやから、建物の構造の問題でほとんど効かへん。夏は蒸し風呂、冬は冷蔵庫って、21世紀も折り返しのこの時代にまるで合わへんやん。はよ改修工事してほしいわ」
 勇子と空太に笑われる訓練場の怒りの声を、メイアがムッとした様子で代弁した。
「勇子も空太もバカにし過ぎよ? 魔法具は異相空間処理の仕組み上、構造が複雑で、小さい部品があるほど作りにくいって、2人とも知ってるでしょう? 予算や工事期間、人員が限られていて、おまけに制作技術上の制約まである。〔魔具士〕や〔魔工士〕にもできることに限度があるわ。普通の建物と同じように使えるだけでも、相当マシよ?」
「メイアの言うとおりだ。不格好でもいいから、建物の構造をできる限り単純化し、使う建材や部品も不自然にでかくしたのは、ひとえに建物の魔法具化のため。建物の魔法への耐久性を第一にしたからだ。あんまり笑うんじゃねえよ。ここはお前達もワリと使ってるだろうが。もっと感謝の念を持て」
 命彦が勇子達に言うが、2人は面白がって口笛を吹き、素知らぬ風を装う。
『先輩としての親切心からマイコに色々と教えてあげているのでしょうが、自分達の依頼所のことを、婉曲えんきょく的に馬鹿にしているということに、あの2人はいつ気付くのでしょうか?』
 ミサヤが、命彦とメイアにだけ《思念の声》を送る。
 反省の念を欠く2人の様子に、命彦達は顔を見合わせてため息をついた。
 命彦が舞子を見ると、舞子はしきりに訓練場を見回して歩き、面白がっている。
「……建物の魔法具化、異相空間処理ですか。また知りたいことが増えましたね」
「舞子、魔法具については別の機会に教えてやる。今は模擬戦に意識をかたむけろよ?」
「あ、はい!」
 命彦が声をかけると、舞子は固い表情で応じ、命彦達のそばへと戻った。
「よっしゃ。じゃあまずは身体をほぐそか。舞子、ウチの真似して体操しいや?」
 勇子が手足を振り、その場で体操を始めると、舞子も見よう見真似でそれに続く。
 先輩風を吹かす勇子を見て、命彦達は苦笑していた。
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