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短編集
短編集:メイアを見付けた日(12)
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陸上競技場ほどの広さを持つ第1体育館で、訓練型魔法機械と相対した命彦は、魔法機械が動くと同時に風の精霊付与魔法《旋風の纏い》を展開し、駆け出していた。
両者の相対距離はおよそ20m。魔法機械が身を屈めるか、一歩踏み出すかで簡単に詰められる距離だった。
メイアからすれば、まずはもっと距離を取ろうと考えるところを、命彦は敢えて加速し、自ら飛び込んで行く。
無謀にも見える命彦のその突貫を見て、メイアが目を見開いた。
「嘘! あれだけ巨体の魔法機械に自分から接近した!」
「いんや、あれでええ」
驚くメイアの横で勇子が言うと、人型の魔法機械が命彦にすぐさま手を伸ばし、一瞬止まる。
「と、止まった! どうして?」
『魔法機械がほんの一瞬、マヒコを見失ったのですよ。反射的に伸ばした己の腕によって、視界に死角ができた。腕の陰という死角がね?』
「せや。指で掴まれる前に腕の裏側から脇へ抜ける。人間も飛んどる羽虫を掴もうとして、よう失敗するやろ? あれと同じや。自分で作った視界の死角を、相手がついたんよ。感知機器が良いから、すぐに命彦の位置に気づくとはいえ、一瞬の時間差は隙でしかあらへん」
勇子の膝の上にいるミサヤの思念と勇子の発言で、魔法機械の一瞬の遅滞が命彦による誘導だと気付くメイア。
そのメイアに空太が冷静に言う。
「もう取り付いたね?」
魔法機械が自身の身体に突然腕を振り下ろした。その先に命彦がいる。
腕の陰から脇へ抜けた命彦は、背後から魔法機械に取り付いていた。
一瞬のことに再度驚くメイアの前で、命彦めがけて魔法機械が腕を振るう。
2度3度、4度と振るわれる腕。しかし、その腕は常に空を切った。
勇子がフッと笑う。
「人型っちゅうのは、得てして関節の稼働域に限界がある。特に背後は、感知機器を使って、あるいは感知系の探査魔法を使って、その姿を捕捉してても、標的が小さく、かつ動きが素早いと掴みにくい。そいで、一度背後を取ったら……」
勇子の言葉を聞いていたメイアの目の前で、ゴウンっと魔法機械が揺れた。
「命彦はすかさず攻撃する。ただし、すぐには決めに行かへん」
「体格差はそのまま攻撃力と防御力の差に繋がる。あんまりにもデカ過ぎる相手の場合だと、まずは攻撃力を削るんだ。攻撃部位をつぶすって言えば、メイアにも分かるだろ?」
空太の解説通り、命彦は人間で言う背部肩関節、魔法機械の右腕の付け根に、魔法力場を集束した拳を叩きつけていた。
たった一撃で、目に見えて魔法機械の右腕の攻撃速度が落ちる。観覧席の魔法未修者達が歓声を挙げた。
メイアも思わず身を震わす。今の場面を見たかと、自分の膝の上を見ると、シロンが四つん這いの姿勢で命彦の姿を追っていた。
シロンの行動を見てくすくす笑いつつ、勇子と空太が語る。
「一撃離脱が理想とはいえ、攻撃の有効性は彼我の戦闘力によんのがデカイ。けど、関節言うんはたとえデカイ相手でも、案外脆いもんや」
「魔獣も身を守る筋肉が薄い場所だし、機械だって可動部分はどうしても装甲が薄いよね? それはつまり、狙い目ってことだ。ただし、マトは散らすべきだよね」
メイアとシロンが見守る前で、命彦は攻撃の手をどんどん早めた。
右肩関節への攻撃から、左肩関節に移ったと思えば、一瞬で膝関節の攻撃に切り替える。
左右と上下に攻撃を散らしつつ、魔法機械の追撃を先読みするように躱し、嫌がらせのように巨体へ纏わり付いた。
振り回される腕や身震いする巨体をものともせず、徹底して巨人種魔獣を模した訓練型魔法機械に取り付き、攻撃を加える命彦。
みるみる魔法機械の破損が増え、巨体の暴威とも言うべき攻撃が弱体化して行った。
「同じとこばっか狙うと、人工知能も魔獣もこっちの攻撃を分析しよる。命彦の動きを読んで来る」
「けど、各関節部に攻撃を散らすと、人工知能も魔獣も、命彦の動きの分析に時間がかかる。次はどこを攻撃されるのか。どうすれば損傷を、痛みを減らせるのか。そう考えさせることができるわけさ」
「命彦曰く、戦闘において、自分が行う情報処理は単純化し、相手に行わせる情報処理を複雑化させると、勝率が上がるらしい。ウチも感覚的には、命彦の言うとることが分かる。処理する情報量が増えると、相手の戦い方を分析する思考自体を邪魔できるからねぇ? 分析を邪魔すれば自分の攻撃を見切られる可能性は減る。そうすれば、こっちの動きや攻撃を分析され切る前に……」
『楔の一撃を、こちらが打ち込む隙ができるのですよ? マヒコが動きます』
ミサヤの思念が聞こえると同時に、ゴガンッと魔法機械がまた揺れた。
しかし、明らかに今までとは違う揺れ方だった。
よくよく見ると、いつの間にか分厚い魔法力場を纏っている命彦の拳が、魔法機械の頭部の付け根に深々と突き刺さっている。そして、引き抜かれた拳には配線の幾つかがまとめて握られており、そのまま引き千切られた。
巨体の魔法機械がぐらついて、始めて膝をつく。
「……っ!」
メイアは命彦が攻撃に移る瞬間、命彦の姿を見失っていた。
遠間から俯瞰するように見ることで、どうにか追えていた命彦の動きや攻撃だったが、楔の一撃の時だけはその攻撃を見失っていたのである。
「今一瞬、命彦が消えたように見えたわ? もしかして……あの一撃を打つ時だけ、魔法力場に魔力を注いで加速した?」
「せや、魔法戦闘の素人にしてはよう分かったね? 体格差も一気に覆せる、想定外の有効打ってやっちゃ。制限した等速で動いて、相手の意識と認識速度を自分の動作に順応させてから、機を見て突然加速し、急所へ全力の致命打を放った。実行さえできれば、アレは簡単には躱せんし、防げん」
「メイアにも分かりやすく言うとね、最初の方はある程度制限した速度で攻撃して、魔法機械の目、というか感知機器に自分を敢えて追わせておいてから、隙が生じた瞬間だけ全速力で攻撃したんだよ。しかも、相手の想定外の急所へね?」
勇子と空太の解説を聞いて、メイアがハッとする。
メイアがこちらの発言を理解したと表情から察し、勇子と空太は話を続けた。
「想定外の速さで、想定外の位置を攻撃された。すると、攻撃された方はまず対応でけへんわけや。意識外の攻撃ってやっちゃね。魔獣でも魔法機械でも、アレは効く」
「人型の魔獣の場合、頭部や首の後ろの頚椎には、人間と同じで脳へと続く神経の束がある。勿論、人型の魔法機械の場合も同じだよ。人工知能から各部へ指令を送る通信配線網が頚椎にある。つまり、一番の急所だね?」
「せやからこそ、最も防御の意識が厚く、攻撃するんが難しい。攻撃を各関節に散らしてても、首回りはほとんど攻撃せんかった。防御意識が高いうちは攻撃せんと、命彦は最初から決めてたんやろ。頭部周りへ攻撃を意図的にずっと避けてたのは、楔の一撃だけを頭部に叩き込むための布石やったわけ」
「そのせいで、頚椎に打ち込まれた楔の一撃の効果は倍増したね? 確かシロンも、ドリル頭の四足型機獣を相手に、命彦と同じ場所を攻撃してたでしょ? 一応急所ってことは認識してるんだよね?」
シロンと視線を合わせて空太が問うと、メイアはシロンと共にコクリと首を振った。
「え、ええ。でも……あれは、四足型機獣がほとんど動きを止めてたからよ? 相手に動く余力がある状態じゃ、まず無理だわ。それをこうも簡単にやってのけた……命彦って、見かけによらず凄いのね」
唖然とするメイアに対し、勇子の膝上にいた子犬姿のミサヤが思念で端的に告げた。
『当然です』
今頃気付いたのか、とでも言いたげである子犬姿の魔獣に、メイアは苦笑を返した。
膝をついた対巨人用の訓練型魔法機械は、そのまま右腕を伸ばし、地面に着地して距離を取った命彦を捉えようとするが、明らかに動作が遅れていた。
命彦は当然のようにそれを見逃さず、攻撃を再開する。
無詠唱で精霊付与魔法《火炎の纏い》を展開した命彦は、先に使っていた風の魔法力場の内側に火の魔法力場を纏い、魔法攻撃力を増やすと共に、魔法力場を拳へ集束すると、自分に迫る魔法機械の右手首を撃ち抜いた。
伸ばした腕や指の間をすり抜けつつ、するりと手首の横に移動し、蜂の一刺しとばかりに痛撃を与えて、関節を的確に破壊する命彦。
右手首を砕かれた魔法機械が、左腕で命彦を殴打しようとすると、命彦は急に加速して魔法機械の左腕に自ら突貫した。
「ちょ、ちょっと! あれはさすがに!」
メイアが思わず腰を浮かそうとした時、勇子が言う。
「メイアとシロン、よう見とけ! おもろいモンが見れるで!」
「え、ええぇっ!」
メイアは我が目を疑った。膝の上から、シロンも身を乗り出している。
魔法力場を纏う右拳を振り被った命彦が、迫り来る魔法機械の左腕へ、上から下の軌道で自分の右拳を打ち降ろし、肉迫する左腕の軌道を下へ僅かにズラしたばかりか、自分で攻撃した反動で命彦の身体は跳ね上がり、魔法機械の左腕の上に降り立ったのである。
敵の攻撃を躱しつつ、絶好の攻撃位置へ移動する。軽業にも見えるその命彦の動きに呆然とするメイア。
一気に加速した命彦は、咄嗟に引き戻される魔法機械の左腕を滑走路のように駆け上り、一瞬で魔法機械の頭部を拳で撃ち抜いた。
2重の魔法力場を集束して纏う拳は、的確に訓練型魔法機械の顎を横へ撃ち抜き、頭部全体を揺らすと、トドメとばかりに、一瞬静止した魔法機械の顎を即座に上へと突き上げる。
ズガンと空気が震え、訓練型魔法機械の頭部が部品と共に空へ舞った。
魔法力場を集束させた右拳の、魔法機械の耐久力、魔法防御力を超える一撃。
その一撃を、横と縦から瞬時に叩き込まれ、破損していた頸椎を始めとして、魔法機械の首関節部自体が限界を迎えたのである。結果、頭部が千切れ飛んだ。
魔法機械が倒れ伏す様子を、呆けた様子のメイアはシロンと共に見届け、他の観覧者と共にパチパチと思わず拍手した。
戦闘が終わり、こちらに手を振る命彦。メイアの膝の上で、その姿をじっと見るシロン。
メイアは、この一戦は自分とシロンにとって、まさに最良の見稽古だったと確信した。
両者の相対距離はおよそ20m。魔法機械が身を屈めるか、一歩踏み出すかで簡単に詰められる距離だった。
メイアからすれば、まずはもっと距離を取ろうと考えるところを、命彦は敢えて加速し、自ら飛び込んで行く。
無謀にも見える命彦のその突貫を見て、メイアが目を見開いた。
「嘘! あれだけ巨体の魔法機械に自分から接近した!」
「いんや、あれでええ」
驚くメイアの横で勇子が言うと、人型の魔法機械が命彦にすぐさま手を伸ばし、一瞬止まる。
「と、止まった! どうして?」
『魔法機械がほんの一瞬、マヒコを見失ったのですよ。反射的に伸ばした己の腕によって、視界に死角ができた。腕の陰という死角がね?』
「せや。指で掴まれる前に腕の裏側から脇へ抜ける。人間も飛んどる羽虫を掴もうとして、よう失敗するやろ? あれと同じや。自分で作った視界の死角を、相手がついたんよ。感知機器が良いから、すぐに命彦の位置に気づくとはいえ、一瞬の時間差は隙でしかあらへん」
勇子の膝の上にいるミサヤの思念と勇子の発言で、魔法機械の一瞬の遅滞が命彦による誘導だと気付くメイア。
そのメイアに空太が冷静に言う。
「もう取り付いたね?」
魔法機械が自身の身体に突然腕を振り下ろした。その先に命彦がいる。
腕の陰から脇へ抜けた命彦は、背後から魔法機械に取り付いていた。
一瞬のことに再度驚くメイアの前で、命彦めがけて魔法機械が腕を振るう。
2度3度、4度と振るわれる腕。しかし、その腕は常に空を切った。
勇子がフッと笑う。
「人型っちゅうのは、得てして関節の稼働域に限界がある。特に背後は、感知機器を使って、あるいは感知系の探査魔法を使って、その姿を捕捉してても、標的が小さく、かつ動きが素早いと掴みにくい。そいで、一度背後を取ったら……」
勇子の言葉を聞いていたメイアの目の前で、ゴウンっと魔法機械が揺れた。
「命彦はすかさず攻撃する。ただし、すぐには決めに行かへん」
「体格差はそのまま攻撃力と防御力の差に繋がる。あんまりにもデカ過ぎる相手の場合だと、まずは攻撃力を削るんだ。攻撃部位をつぶすって言えば、メイアにも分かるだろ?」
空太の解説通り、命彦は人間で言う背部肩関節、魔法機械の右腕の付け根に、魔法力場を集束した拳を叩きつけていた。
たった一撃で、目に見えて魔法機械の右腕の攻撃速度が落ちる。観覧席の魔法未修者達が歓声を挙げた。
メイアも思わず身を震わす。今の場面を見たかと、自分の膝の上を見ると、シロンが四つん這いの姿勢で命彦の姿を追っていた。
シロンの行動を見てくすくす笑いつつ、勇子と空太が語る。
「一撃離脱が理想とはいえ、攻撃の有効性は彼我の戦闘力によんのがデカイ。けど、関節言うんはたとえデカイ相手でも、案外脆いもんや」
「魔獣も身を守る筋肉が薄い場所だし、機械だって可動部分はどうしても装甲が薄いよね? それはつまり、狙い目ってことだ。ただし、マトは散らすべきだよね」
メイアとシロンが見守る前で、命彦は攻撃の手をどんどん早めた。
右肩関節への攻撃から、左肩関節に移ったと思えば、一瞬で膝関節の攻撃に切り替える。
左右と上下に攻撃を散らしつつ、魔法機械の追撃を先読みするように躱し、嫌がらせのように巨体へ纏わり付いた。
振り回される腕や身震いする巨体をものともせず、徹底して巨人種魔獣を模した訓練型魔法機械に取り付き、攻撃を加える命彦。
みるみる魔法機械の破損が増え、巨体の暴威とも言うべき攻撃が弱体化して行った。
「同じとこばっか狙うと、人工知能も魔獣もこっちの攻撃を分析しよる。命彦の動きを読んで来る」
「けど、各関節部に攻撃を散らすと、人工知能も魔獣も、命彦の動きの分析に時間がかかる。次はどこを攻撃されるのか。どうすれば損傷を、痛みを減らせるのか。そう考えさせることができるわけさ」
「命彦曰く、戦闘において、自分が行う情報処理は単純化し、相手に行わせる情報処理を複雑化させると、勝率が上がるらしい。ウチも感覚的には、命彦の言うとることが分かる。処理する情報量が増えると、相手の戦い方を分析する思考自体を邪魔できるからねぇ? 分析を邪魔すれば自分の攻撃を見切られる可能性は減る。そうすれば、こっちの動きや攻撃を分析され切る前に……」
『楔の一撃を、こちらが打ち込む隙ができるのですよ? マヒコが動きます』
ミサヤの思念が聞こえると同時に、ゴガンッと魔法機械がまた揺れた。
しかし、明らかに今までとは違う揺れ方だった。
よくよく見ると、いつの間にか分厚い魔法力場を纏っている命彦の拳が、魔法機械の頭部の付け根に深々と突き刺さっている。そして、引き抜かれた拳には配線の幾つかがまとめて握られており、そのまま引き千切られた。
巨体の魔法機械がぐらついて、始めて膝をつく。
「……っ!」
メイアは命彦が攻撃に移る瞬間、命彦の姿を見失っていた。
遠間から俯瞰するように見ることで、どうにか追えていた命彦の動きや攻撃だったが、楔の一撃の時だけはその攻撃を見失っていたのである。
「今一瞬、命彦が消えたように見えたわ? もしかして……あの一撃を打つ時だけ、魔法力場に魔力を注いで加速した?」
「せや、魔法戦闘の素人にしてはよう分かったね? 体格差も一気に覆せる、想定外の有効打ってやっちゃ。制限した等速で動いて、相手の意識と認識速度を自分の動作に順応させてから、機を見て突然加速し、急所へ全力の致命打を放った。実行さえできれば、アレは簡単には躱せんし、防げん」
「メイアにも分かりやすく言うとね、最初の方はある程度制限した速度で攻撃して、魔法機械の目、というか感知機器に自分を敢えて追わせておいてから、隙が生じた瞬間だけ全速力で攻撃したんだよ。しかも、相手の想定外の急所へね?」
勇子と空太の解説を聞いて、メイアがハッとする。
メイアがこちらの発言を理解したと表情から察し、勇子と空太は話を続けた。
「想定外の速さで、想定外の位置を攻撃された。すると、攻撃された方はまず対応でけへんわけや。意識外の攻撃ってやっちゃね。魔獣でも魔法機械でも、アレは効く」
「人型の魔獣の場合、頭部や首の後ろの頚椎には、人間と同じで脳へと続く神経の束がある。勿論、人型の魔法機械の場合も同じだよ。人工知能から各部へ指令を送る通信配線網が頚椎にある。つまり、一番の急所だね?」
「せやからこそ、最も防御の意識が厚く、攻撃するんが難しい。攻撃を各関節に散らしてても、首回りはほとんど攻撃せんかった。防御意識が高いうちは攻撃せんと、命彦は最初から決めてたんやろ。頭部周りへ攻撃を意図的にずっと避けてたのは、楔の一撃だけを頭部に叩き込むための布石やったわけ」
「そのせいで、頚椎に打ち込まれた楔の一撃の効果は倍増したね? 確かシロンも、ドリル頭の四足型機獣を相手に、命彦と同じ場所を攻撃してたでしょ? 一応急所ってことは認識してるんだよね?」
シロンと視線を合わせて空太が問うと、メイアはシロンと共にコクリと首を振った。
「え、ええ。でも……あれは、四足型機獣がほとんど動きを止めてたからよ? 相手に動く余力がある状態じゃ、まず無理だわ。それをこうも簡単にやってのけた……命彦って、見かけによらず凄いのね」
唖然とするメイアに対し、勇子の膝上にいた子犬姿のミサヤが思念で端的に告げた。
『当然です』
今頃気付いたのか、とでも言いたげである子犬姿の魔獣に、メイアは苦笑を返した。
膝をついた対巨人用の訓練型魔法機械は、そのまま右腕を伸ばし、地面に着地して距離を取った命彦を捉えようとするが、明らかに動作が遅れていた。
命彦は当然のようにそれを見逃さず、攻撃を再開する。
無詠唱で精霊付与魔法《火炎の纏い》を展開した命彦は、先に使っていた風の魔法力場の内側に火の魔法力場を纏い、魔法攻撃力を増やすと共に、魔法力場を拳へ集束すると、自分に迫る魔法機械の右手首を撃ち抜いた。
伸ばした腕や指の間をすり抜けつつ、するりと手首の横に移動し、蜂の一刺しとばかりに痛撃を与えて、関節を的確に破壊する命彦。
右手首を砕かれた魔法機械が、左腕で命彦を殴打しようとすると、命彦は急に加速して魔法機械の左腕に自ら突貫した。
「ちょ、ちょっと! あれはさすがに!」
メイアが思わず腰を浮かそうとした時、勇子が言う。
「メイアとシロン、よう見とけ! おもろいモンが見れるで!」
「え、ええぇっ!」
メイアは我が目を疑った。膝の上から、シロンも身を乗り出している。
魔法力場を纏う右拳を振り被った命彦が、迫り来る魔法機械の左腕へ、上から下の軌道で自分の右拳を打ち降ろし、肉迫する左腕の軌道を下へ僅かにズラしたばかりか、自分で攻撃した反動で命彦の身体は跳ね上がり、魔法機械の左腕の上に降り立ったのである。
敵の攻撃を躱しつつ、絶好の攻撃位置へ移動する。軽業にも見えるその命彦の動きに呆然とするメイア。
一気に加速した命彦は、咄嗟に引き戻される魔法機械の左腕を滑走路のように駆け上り、一瞬で魔法機械の頭部を拳で撃ち抜いた。
2重の魔法力場を集束して纏う拳は、的確に訓練型魔法機械の顎を横へ撃ち抜き、頭部全体を揺らすと、トドメとばかりに、一瞬静止した魔法機械の顎を即座に上へと突き上げる。
ズガンと空気が震え、訓練型魔法機械の頭部が部品と共に空へ舞った。
魔法力場を集束させた右拳の、魔法機械の耐久力、魔法防御力を超える一撃。
その一撃を、横と縦から瞬時に叩き込まれ、破損していた頸椎を始めとして、魔法機械の首関節部自体が限界を迎えたのである。結果、頭部が千切れ飛んだ。
魔法機械が倒れ伏す様子を、呆けた様子のメイアはシロンと共に見届け、他の観覧者と共にパチパチと思わず拍手した。
戦闘が終わり、こちらに手を振る命彦。メイアの膝の上で、その姿をじっと見るシロン。
メイアは、この一戦は自分とシロンにとって、まさに最良の見稽古だったと確信した。
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