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1章 月が落ちた日
第9話 旧友
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『神聖アルト国』へ対抗する為、レオハルトは『会議の間』に『ケルム王国』の『王国騎士団』の隊長達を招集していた。
集められた中にはレイシア、そして『王国騎士団』全軍を実質的にまとめている前国王の娘―ヴィーク・ケルム・ヴァーリオンも参加しており、ケニカも参謀として参加している。
他にも『王国騎士団』の名立たる隊長達が集まる中、レオハルトの旧友であるイエガー・カーマインの姿もあった。
彼らは皆、『王国騎士団』の隊長をそれぞれ任されており、その一人であるイエガーはとらえどころのない飄々とした様子で『会議の間』に貼られた地図へ関心を寄せながら口を開いた。
「ハッ! ったくよ……中立国だった『イル』に攻め込むなんて、あの馬鹿、今度は一体何考えてやがるんだか」
そう言って、イエガーはレオハルトへと視線を向ける。
レオハルトとイエガーは腐れ縁であり、レオハルトが王族に入ってからも態度を崩さずに接する数少ない人物でもあった。
また、彼は同時に〝王都防衛軍第一部隊〟に席を置いていたこともあり、同じく〝第一部隊〟に席を置き、レオハルトを処刑しようとしたルーレック・シュバノスとは深い因縁がある。
現在、『神聖アルト国』にある『王都シュバイツァー』は本来は王政であるものの、王族が何者かによってほとんど殺害されてしまっていた。
その為、一時的に『王都防衛軍』が中心となって代わりに政治活動を執り行っているらしく、その筆頭であるルーレックが実質的に『王都シュバイツァー』を動かしている人物となっている。
実際、各国への弾圧も彼の提案によるものだと言われており、イエガーはかつての同僚のそんな蛮行に呆れかえっていたのだった。
そんなイエガーの呟きに、レオハルトは今までの情報をまとめるようにして言葉を返す。
「戦争をするきっかけが欲しいんだろう。恐らく、向こうはこちらが軍を割いて『イル』の救援に向かうことを読んで誘っているんだ。つまり、これは『イル』という国を使って私達をおびき寄せ、開戦させる為の陽動ということだな」
「ンなことは分かってるけどよ……やり方が気に入らないって言ってんだ。他の国にデカい顔してるのもそうだが、ルーレックの馬鹿のやり方は気に入らねぇ……卑怯なことばっか思い付きやがるからな」
イエガーはかつて同じ部隊に所属していた男の顔を思い出しのか、「チッ……」と大きく舌打ちをして見せる。
彼の態度は隊長としては多少問題はあったものの、『神聖アルト国』の強引なやり方に対しては、この場に居たほとんどの意見が同じ考えを持っていた。『神聖アルト国』は『イル』を餌に『ケルム王国』を誘い込んでいるのだ。
「……あえて大国を襲撃せずに小国を襲い、我々がその救援に入ったところで戦いを仕掛ける。……そうして、こちらが手を出せば奴らにとっては攻め入る口実ができるからな」
「馬鹿に付ける薬はない、ってか。……まあ、確かに、あの馬鹿見てりゃそれが良く分かる。あれは筋金入りの馬鹿だ。『イル』に住んでる連中だって、戦争したくないから加盟しなかったのによ……自分勝手な野郎だ」
「……そういうやり方をする国だということは、お前もよく知っているだろう?」
「……ま、違いねぇ」
諌めるレオハルトの言葉に、イエガーは座っていた椅子と頭の間に腕を入れてため息を吐いていた。
それを見届けたケニカは表情を引き締めると、『ノード大陸』の地図へ向かい『ケルム王国』の近くに書かれた『イル』を指して説明を始める。
集められた中にはレイシア、そして『王国騎士団』全軍を実質的にまとめている前国王の娘―ヴィーク・ケルム・ヴァーリオンも参加しており、ケニカも参謀として参加している。
他にも『王国騎士団』の名立たる隊長達が集まる中、レオハルトの旧友であるイエガー・カーマインの姿もあった。
彼らは皆、『王国騎士団』の隊長をそれぞれ任されており、その一人であるイエガーはとらえどころのない飄々とした様子で『会議の間』に貼られた地図へ関心を寄せながら口を開いた。
「ハッ! ったくよ……中立国だった『イル』に攻め込むなんて、あの馬鹿、今度は一体何考えてやがるんだか」
そう言って、イエガーはレオハルトへと視線を向ける。
レオハルトとイエガーは腐れ縁であり、レオハルトが王族に入ってからも態度を崩さずに接する数少ない人物でもあった。
また、彼は同時に〝王都防衛軍第一部隊〟に席を置いていたこともあり、同じく〝第一部隊〟に席を置き、レオハルトを処刑しようとしたルーレック・シュバノスとは深い因縁がある。
現在、『神聖アルト国』にある『王都シュバイツァー』は本来は王政であるものの、王族が何者かによってほとんど殺害されてしまっていた。
その為、一時的に『王都防衛軍』が中心となって代わりに政治活動を執り行っているらしく、その筆頭であるルーレックが実質的に『王都シュバイツァー』を動かしている人物となっている。
実際、各国への弾圧も彼の提案によるものだと言われており、イエガーはかつての同僚のそんな蛮行に呆れかえっていたのだった。
そんなイエガーの呟きに、レオハルトは今までの情報をまとめるようにして言葉を返す。
「戦争をするきっかけが欲しいんだろう。恐らく、向こうはこちらが軍を割いて『イル』の救援に向かうことを読んで誘っているんだ。つまり、これは『イル』という国を使って私達をおびき寄せ、開戦させる為の陽動ということだな」
「ンなことは分かってるけどよ……やり方が気に入らないって言ってんだ。他の国にデカい顔してるのもそうだが、ルーレックの馬鹿のやり方は気に入らねぇ……卑怯なことばっか思い付きやがるからな」
イエガーはかつて同じ部隊に所属していた男の顔を思い出しのか、「チッ……」と大きく舌打ちをして見せる。
彼の態度は隊長としては多少問題はあったものの、『神聖アルト国』の強引なやり方に対しては、この場に居たほとんどの意見が同じ考えを持っていた。『神聖アルト国』は『イル』を餌に『ケルム王国』を誘い込んでいるのだ。
「……あえて大国を襲撃せずに小国を襲い、我々がその救援に入ったところで戦いを仕掛ける。……そうして、こちらが手を出せば奴らにとっては攻め入る口実ができるからな」
「馬鹿に付ける薬はない、ってか。……まあ、確かに、あの馬鹿見てりゃそれが良く分かる。あれは筋金入りの馬鹿だ。『イル』に住んでる連中だって、戦争したくないから加盟しなかったのによ……自分勝手な野郎だ」
「……そういうやり方をする国だということは、お前もよく知っているだろう?」
「……ま、違いねぇ」
諌めるレオハルトの言葉に、イエガーは座っていた椅子と頭の間に腕を入れてため息を吐いていた。
それを見届けたケニカは表情を引き締めると、『ノード大陸』の地図へ向かい『ケルム王国』の近くに書かれた『イル』を指して説明を始める。
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