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1章 月が落ちた日
第8話 戦火の狼煙
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そんな中、この報告をしたケニカはまた一つ逡巡を見せたかと思うとそれも一瞬、普段冷静な彼にしては珍しく、どこか諦めた様子であることを口にしてきた。
「それと……イルを攻めているのは、〝王都防衛軍第十三部隊〟を筆頭にした部隊だとも聞いております」
「〝第十三部隊〟……だと?」
その名を口にしたレオハルトはそれまで冷静だった表情を一変させる。
ケニカが口にした〝王都防衛軍第十三部隊〟―その部隊こそ、かつてレオハルトが『神聖アルト国』に居た際に隊長を務めていた部隊だったからだ。
〝王都防衛軍第十三部隊〟の前隊長は民間人であるレオハルトを庇って戦死し、レオハルトはそんな彼の後を継ぐようにして就任したが―結果として、『王都防衛軍』から〝反逆者〟の汚名を着せられた上、処刑を宣告された。
当時、十代程度であったレオハルトに『王都シュバイツァー』の軍である『王都防衛軍』は『魔術師』との共謀を図ったと彼に嫌疑を掛け、仲間であったはずのレオハルトを暗殺という形で処刑しようと試みたのだ。
ゆえに、レオハルトにとって彼らはすでに仲間とは言えない。
そして、その暗殺の手引きをした人間こそ、〝王都防衛軍第十三部隊〟の副隊長―つまり、当時その部隊の隊長を務めていたレオハルトの部下であるグラウス・ルートリマンだ。
グラウスはレオハルトを庇って戦死した前隊長、トニス・ルートリマンの弟でもあり、彼はその兄の代わりに軍に志願して副隊長の座に就いていた。
だが、レオハルトが退役したのなら、彼は恐らく副隊長ではなく隊長に就任している可能性は高い。突然訪れた憎き旧友との再会の可能性に、レオハルトは喉からもれる笑い声を押さえることが出来ず、顔を俯かせながら小さく肩を震わせていた。
「……」
「陛下……」
レイシアとケニカが見守る中、嘲るような笑い声をあげていたレオハルトだったが、徐々にそれは小さくなっていき、やがて俯かせていた顔をゆっくりと上げる。
燃え上がる炎のように赤い瞳を浮かべたレオハルトは、そんな瞳とは真逆に冷たい笑みを浮かべていた。
そして、聞く者を恐怖で震え上がらせるように冷たい声を上げたのだ。
「―ついに、この日が来たのか」
この場に居る誰かに向けたものでもなく、ただ静かにそう呟くレオハルト。
王としての威厳のあるものでもなく、またレイシアのように親しい人間に向けるものでも無いその静かな声は王室に静かに響き渡っていく。
「私はずっとこの時を待ちわびていた……。第十三部隊と―グラウスと再び相まみえるこの時をな……」
「……」
そんなレオハルトへと視線を向けるレイシアだったが、それでも声を掛けることはなかった。罪悪感をその顔に浮かばせた彼女は、自分がレオハルトに声を掛ける資格が無いと考えていたからだ。
レオハルトと共に長く居たケニカもまた、そんな王の姿にただ静かに目を閉じる。
あの日、目の前の主君と共に見た腐敗した『神聖アルト国』を知る彼も、少なからず『王都防衛軍』と会うことを望んでいた。
それが例え『第二次国家戦争』という戦の中だとしても、レオハルトもケニカもかつての故郷と相対しなければならなかった。
過去を精算する為、未来を創る為―新たな時代を作る王として、ケルム王は高らかに宣言した。
「各軍に召集を急がせろ。……さあ、奴らに一泡吹かせてやろうじゃないか」
「それと……イルを攻めているのは、〝王都防衛軍第十三部隊〟を筆頭にした部隊だとも聞いております」
「〝第十三部隊〟……だと?」
その名を口にしたレオハルトはそれまで冷静だった表情を一変させる。
ケニカが口にした〝王都防衛軍第十三部隊〟―その部隊こそ、かつてレオハルトが『神聖アルト国』に居た際に隊長を務めていた部隊だったからだ。
〝王都防衛軍第十三部隊〟の前隊長は民間人であるレオハルトを庇って戦死し、レオハルトはそんな彼の後を継ぐようにして就任したが―結果として、『王都防衛軍』から〝反逆者〟の汚名を着せられた上、処刑を宣告された。
当時、十代程度であったレオハルトに『王都シュバイツァー』の軍である『王都防衛軍』は『魔術師』との共謀を図ったと彼に嫌疑を掛け、仲間であったはずのレオハルトを暗殺という形で処刑しようと試みたのだ。
ゆえに、レオハルトにとって彼らはすでに仲間とは言えない。
そして、その暗殺の手引きをした人間こそ、〝王都防衛軍第十三部隊〟の副隊長―つまり、当時その部隊の隊長を務めていたレオハルトの部下であるグラウス・ルートリマンだ。
グラウスはレオハルトを庇って戦死した前隊長、トニス・ルートリマンの弟でもあり、彼はその兄の代わりに軍に志願して副隊長の座に就いていた。
だが、レオハルトが退役したのなら、彼は恐らく副隊長ではなく隊長に就任している可能性は高い。突然訪れた憎き旧友との再会の可能性に、レオハルトは喉からもれる笑い声を押さえることが出来ず、顔を俯かせながら小さく肩を震わせていた。
「……」
「陛下……」
レイシアとケニカが見守る中、嘲るような笑い声をあげていたレオハルトだったが、徐々にそれは小さくなっていき、やがて俯かせていた顔をゆっくりと上げる。
燃え上がる炎のように赤い瞳を浮かべたレオハルトは、そんな瞳とは真逆に冷たい笑みを浮かべていた。
そして、聞く者を恐怖で震え上がらせるように冷たい声を上げたのだ。
「―ついに、この日が来たのか」
この場に居る誰かに向けたものでもなく、ただ静かにそう呟くレオハルト。
王としての威厳のあるものでもなく、またレイシアのように親しい人間に向けるものでも無いその静かな声は王室に静かに響き渡っていく。
「私はずっとこの時を待ちわびていた……。第十三部隊と―グラウスと再び相まみえるこの時をな……」
「……」
そんなレオハルトへと視線を向けるレイシアだったが、それでも声を掛けることはなかった。罪悪感をその顔に浮かばせた彼女は、自分がレオハルトに声を掛ける資格が無いと考えていたからだ。
レオハルトと共に長く居たケニカもまた、そんな王の姿にただ静かに目を閉じる。
あの日、目の前の主君と共に見た腐敗した『神聖アルト国』を知る彼も、少なからず『王都防衛軍』と会うことを望んでいた。
それが例え『第二次国家戦争』という戦の中だとしても、レオハルトもケニカもかつての故郷と相対しなければならなかった。
過去を精算する為、未来を創る為―新たな時代を作る王として、ケルム王は高らかに宣言した。
「各軍に召集を急がせろ。……さあ、奴らに一泡吹かせてやろうじゃないか」
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