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第42話 『生成り』②
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「―どうやら、彼女も同じように『魔力障害』にかかってしまっているようですね」
お医者様はリリア先生の容態を確認した後、俺にそう告げてきた。
リリア先生が寝泊まりしている部屋にどうにか連れて来た後、ゆっくりとベッドに寝かせた俺に申し訳なさそうなリリア先生の声が掛かる。
「アシックくん、すいません……あなたの師匠だというのに、今日は迷惑ばかり掛けてしまって……」
明らかに苦しそうな声に俺は首をゆっくりと横へと振ると、なるべく負担を掛けないように言葉を返した。
「いえ、気にしないで下さい。それより、僕の方こそ申し訳ありません……リリア先生の容態に気付いてあげられなくて……」
「そんな事はありません……実際、私もさっきまではそこまでの症状ではありませんでしたし……レナルドさんに比べれば、私の症状など大した事はありませんよ」
「リリア先生……」
そう言って、笑みを向けるリリア先生の顔は確かに父上よりも余裕があるように見えた。とはいえ、それでも立っている事も難しいくらいだ。大変な状態には違いない。
俺がそうして自分を責めていると、リリア先生の手が俺の手に重なる。
それに気付いてリリア先生の方に視線を向けると、先生は苦しそうにしながらもゆっくりと微笑み返してきた。
「アシックくん……私の事は構いません。お父上の―ご家族のところに行ってあげて下さい……」
「でも―」
「病気で弱った時というのは、誰しも寂しくなるものです……ご家族は大事にしてあげて下さい」
そう言ってリリア先生は笑みを作ってくる。……そういえば、リリア先生の家族はどうしているんだろう?
ふと、そんな事が気になってしまった俺はお医者様に声を向ける。
「あの、すいません。先に父上の様子を見に行ってもらっても良いですか? 私もすぐに向かいます」
「アシックくん……?」
「分かりました。では、アシック様。私は先にレナルド様のご容態を見てきます」
「はい。よろしくお願いします」
俺がそう言うと、お医者様は丁寧に頭を下げて部屋を出ていく。
それを見届けた後、ベッドに横たわるリリア先生が弱った声を返してきた。
「……私の事は放っておいても問題ないと言ったではないですか」
「そうはいきませんよ。それに、ついさっき先生も言っていたじゃないですか」
「……? えっと……何の話でしょうか?」
俺の言葉の意味を掴めず、キョトンとした表情を見せるリリア先生。こういうところは少しユミィに似てるな。
そんな事を思いつつ俺は笑顔を浮かべると、ついさっきリリア先生が話していた言葉を伝えてあげた。
「病気で弱った時というのは、誰しも寂しくなるもの……そう言いましたよね?」
「ええ、言いましたけど……それはあなたの御父上の事を言っていただけで―」
「もちろん、分かっています。しかし、父上には母上も付いてます。それに、当主様やユミィも……でも、先生は違いますよね?」
「それは―」
俺の言葉に反論しようと体を起こし掛けるリリア先生。
しかし、『魔力障害』の疲労もあるのか途中で起こし掛けた体をベッドに戻すと、深いため息を返してきた。
「……まったく、あなたという人は本当に不思議な子供ですね。魔法を覚える時は子供らしい反応を見せたかと思えば、こうしてたまに強引なところがあって……ご両親やユミィさんがあなたを自慢する気持ちがよく分かります」
「持ち上げ過ぎですよ。僕はただリリア先生に無理をして欲しくないだけです。そういえば、リリア先生から家族の話を聞いた事がありませんでしたけど……ご家族はやはり『宮廷魔導士』だったりするんですか?」
「……」
すると、リリア先生は顔を俯かせてしまう。あれ? もしかしなくても、聞いちゃまずい話だったか?
そんなリリア先生の反応に不安を抱いていると、顔を上げたリリア先生は聞き慣れない言葉を口にしてきた。
「―アシックくんは『生成り』という言葉をご存知ですか?」
お医者様はリリア先生の容態を確認した後、俺にそう告げてきた。
リリア先生が寝泊まりしている部屋にどうにか連れて来た後、ゆっくりとベッドに寝かせた俺に申し訳なさそうなリリア先生の声が掛かる。
「アシックくん、すいません……あなたの師匠だというのに、今日は迷惑ばかり掛けてしまって……」
明らかに苦しそうな声に俺は首をゆっくりと横へと振ると、なるべく負担を掛けないように言葉を返した。
「いえ、気にしないで下さい。それより、僕の方こそ申し訳ありません……リリア先生の容態に気付いてあげられなくて……」
「そんな事はありません……実際、私もさっきまではそこまでの症状ではありませんでしたし……レナルドさんに比べれば、私の症状など大した事はありませんよ」
「リリア先生……」
そう言って、笑みを向けるリリア先生の顔は確かに父上よりも余裕があるように見えた。とはいえ、それでも立っている事も難しいくらいだ。大変な状態には違いない。
俺がそうして自分を責めていると、リリア先生の手が俺の手に重なる。
それに気付いてリリア先生の方に視線を向けると、先生は苦しそうにしながらもゆっくりと微笑み返してきた。
「アシックくん……私の事は構いません。お父上の―ご家族のところに行ってあげて下さい……」
「でも―」
「病気で弱った時というのは、誰しも寂しくなるものです……ご家族は大事にしてあげて下さい」
そう言ってリリア先生は笑みを作ってくる。……そういえば、リリア先生の家族はどうしているんだろう?
ふと、そんな事が気になってしまった俺はお医者様に声を向ける。
「あの、すいません。先に父上の様子を見に行ってもらっても良いですか? 私もすぐに向かいます」
「アシックくん……?」
「分かりました。では、アシック様。私は先にレナルド様のご容態を見てきます」
「はい。よろしくお願いします」
俺がそう言うと、お医者様は丁寧に頭を下げて部屋を出ていく。
それを見届けた後、ベッドに横たわるリリア先生が弱った声を返してきた。
「……私の事は放っておいても問題ないと言ったではないですか」
「そうはいきませんよ。それに、ついさっき先生も言っていたじゃないですか」
「……? えっと……何の話でしょうか?」
俺の言葉の意味を掴めず、キョトンとした表情を見せるリリア先生。こういうところは少しユミィに似てるな。
そんな事を思いつつ俺は笑顔を浮かべると、ついさっきリリア先生が話していた言葉を伝えてあげた。
「病気で弱った時というのは、誰しも寂しくなるもの……そう言いましたよね?」
「ええ、言いましたけど……それはあなたの御父上の事を言っていただけで―」
「もちろん、分かっています。しかし、父上には母上も付いてます。それに、当主様やユミィも……でも、先生は違いますよね?」
「それは―」
俺の言葉に反論しようと体を起こし掛けるリリア先生。
しかし、『魔力障害』の疲労もあるのか途中で起こし掛けた体をベッドに戻すと、深いため息を返してきた。
「……まったく、あなたという人は本当に不思議な子供ですね。魔法を覚える時は子供らしい反応を見せたかと思えば、こうしてたまに強引なところがあって……ご両親やユミィさんがあなたを自慢する気持ちがよく分かります」
「持ち上げ過ぎですよ。僕はただリリア先生に無理をして欲しくないだけです。そういえば、リリア先生から家族の話を聞いた事がありませんでしたけど……ご家族はやはり『宮廷魔導士』だったりするんですか?」
「……」
すると、リリア先生は顔を俯かせてしまう。あれ? もしかしなくても、聞いちゃまずい話だったか?
そんなリリア先生の反応に不安を抱いていると、顔を上げたリリア先生は聞き慣れない言葉を口にしてきた。
「―アシックくんは『生成り』という言葉をご存知ですか?」
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