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第38話 森神様⑦
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やがて、我に返ったリーヴはまるで信じられないものを目にしたかのように俺の方に指を指してきた。
「あ、アシックが魔法を使ってる……? そ、そんな話聞いた事無いぞ!?」
「うん、まあ、言ってないからな」
「う、うそだろ……今まで一度も使えなかったじゃんか!」
「前までは間違いなく使えなかったよ。でもまあ、今はユミィも含めてもう初級魔法は余裕で使えるけどね」
「ゆ、ユミィも……?」
そう聞くと、リーヴは俺の背中に隠れるユミィに視線を向けながら安堵したように息を吐いた。
「な、何だ……ユミィも魔法が使えるようになったのか―って、ま、待てよ! 初級魔法は余裕で使えるって言ってなかったか!?」
「うん、言ったね」
「そ、それってまさか……初級魔法は全部使えるって事か?」
「そういう事」
「そ、そんな……」
あまりにも衝撃的な事実に、リーヴはアホっぽく口を開いたまま立ちつくしてしまう。そんなリーヴを見ていると、すぐ近くに居たリリア先生が小さな声で俺へと声を掛けてくる。
「……良いんですか? あなた方の話では、魔法が使えるという事は『本家』の息子さんには秘密にしておいた方が良いという話でしたが……」
「はい。もうそろそろ良い頃だと思って……というか、正直に言うと、いい加減下に見られてるのが嫌になってきていましたし」
俺だって男だ。プライドくらいある。
そんな俺の心境を察してくれたのか、リリア先生は小さく笑みを返してくれた。
「まあ、そうですね……むしろ、今まで黙っていられただけでもすごいですよ。自分の感情を優先せずに我慢が出来る男の子というのは好感が持てます」
「はは、おだてても何も出ませんよ……それより、ここも危険かもしれません。ひとまず、門から離れて街の中央に避難しましょう」
「分かりました」
俺の声にリリア先生が頷いた事を確認し、ユミィを連れて街の中へと避難しようとした時だった。
「グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「も、門が破壊された!?」
『森神様』から逃げようと入った街の門があっけなく壊されてしまったのだ。
雄叫びと共に巨大な猪―『森神様』が街へと姿を現し、俺が警戒しながら声を上げると、リーヴ達が泣きそうになりながら驚いて声を上げる。
「う、うわ!? な、ななななななんだあれ!?」
「ひぃ!? り、リーヴ様! な、何なんですかあれ!?」
「り、リーヴ様~!」
「し、知らねえって! お、おい! アシック!」
「さっき言ってた『森神様』って呼ばれてる魔物だよ! 良いから、リーヴ達も早く逃げろ!」
「「ひいいいいいいい!」」
ユミィとリリア先生の手を取り、リーヴ達の方へと声を掛けると取り巻きコンビが慌てた様子で叫びながら真っ先に走り去って行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待てお前ら! 先に逃げるなよ! お、俺を置いて行くんじゃねぇ!」
「リーヴも早く走れ! ここは危険だ!」
「ああもう! 何なんだよ、一体! 走れば良いんだろ、走れば!」
そう言うと、愚痴をこぼしながらも涙目で俺の横に付いて走るリーヴ。
あまりの恐怖に『森神様』を見て震えるユミィの方を心配そうに見るリーヴを横目に、俺は街の中央へと一目散に走っていく。すると、狭い通りに入り、『森神様』がつっかえてくれた。
「良かった……さすがにこれ以上は追って来れな―」
しかし―
ドゴォォォォォン!
「あ、アシック様……」
「うそだろ……」
震えるユミィの声と俺の呟きと共に轟音が鳴り響く。
なんと『森神様』はその巨大な鼻を薙ぎ払い、つっかえていた建物を壊してしまったのだ。
それを目にしたリリア先生が恐怖と悔しさの入り混じった声を上げる。
「『天位級』……これ程とは……」
「リリア先生! 早く逃げましょう!」
「は、はい……!」
鼻息を荒くした『森神様』はギョロと大きな目で俺達に目を付けて来た事を察し、俺はリリア先生達の手を取って再び逃走を図る。くそ! 本当に規格外だよ、色々!
そして、そんな俺達を追うように街の壁を破壊しながらひたすらに走ってくる『森神様』を見つつ俺はリリア先生へと話を向ける。
「一体どこまで追って来るんだ……! このまま逃げていても振り切れる気がしませんよ……!」
「猪種は一度目にしたものを追い続ける習性があります……! 残念ですが、恐らく私達はあの魔物に完全に狙われてしまったのでしょう……」
「それじゃあ、あの魔物を振り切る方法は―」
「……向こうがやられるか、こちらがやられるか……二つに一つでしょうね」
リリア先生の言葉に思わず俺達は息を飲む。
衛兵の助けは来ないし、父上達も……それなら、今は俺達がやるしかない。
俺は手を引いているユミィへと視線を向ける。憔悴しきり、目の前の魔物に恐怖する姿がある。
(このままじゃ、いずれ追い付かれる……どうすれば―)
そうして頭を回していた時だった。
突然、『森神様』がピタリと動きを止め、周囲をキョロキョロと見回し始めたのだ。
「い、一体どうしたんだ……?」
「さ、さあ……」
あまりにも唐突な事に足は止めずに『森神様』の方に視線を向ける俺とリリア先生。とはいえ、これはチャンスだ。
だが、ふと『森神様』がある一点に目を止めた事に気付き、俺は何気なくそちらの方に視線を向けると―
「あ、あれはガットさんの娘!?」
そこには、ついさっき街に入ったはずの商人であるガットさんの娘が居た。
「あ、アシックが魔法を使ってる……? そ、そんな話聞いた事無いぞ!?」
「うん、まあ、言ってないからな」
「う、うそだろ……今まで一度も使えなかったじゃんか!」
「前までは間違いなく使えなかったよ。でもまあ、今はユミィも含めてもう初級魔法は余裕で使えるけどね」
「ゆ、ユミィも……?」
そう聞くと、リーヴは俺の背中に隠れるユミィに視線を向けながら安堵したように息を吐いた。
「な、何だ……ユミィも魔法が使えるようになったのか―って、ま、待てよ! 初級魔法は余裕で使えるって言ってなかったか!?」
「うん、言ったね」
「そ、それってまさか……初級魔法は全部使えるって事か?」
「そういう事」
「そ、そんな……」
あまりにも衝撃的な事実に、リーヴはアホっぽく口を開いたまま立ちつくしてしまう。そんなリーヴを見ていると、すぐ近くに居たリリア先生が小さな声で俺へと声を掛けてくる。
「……良いんですか? あなた方の話では、魔法が使えるという事は『本家』の息子さんには秘密にしておいた方が良いという話でしたが……」
「はい。もうそろそろ良い頃だと思って……というか、正直に言うと、いい加減下に見られてるのが嫌になってきていましたし」
俺だって男だ。プライドくらいある。
そんな俺の心境を察してくれたのか、リリア先生は小さく笑みを返してくれた。
「まあ、そうですね……むしろ、今まで黙っていられただけでもすごいですよ。自分の感情を優先せずに我慢が出来る男の子というのは好感が持てます」
「はは、おだてても何も出ませんよ……それより、ここも危険かもしれません。ひとまず、門から離れて街の中央に避難しましょう」
「分かりました」
俺の声にリリア先生が頷いた事を確認し、ユミィを連れて街の中へと避難しようとした時だった。
「グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「も、門が破壊された!?」
『森神様』から逃げようと入った街の門があっけなく壊されてしまったのだ。
雄叫びと共に巨大な猪―『森神様』が街へと姿を現し、俺が警戒しながら声を上げると、リーヴ達が泣きそうになりながら驚いて声を上げる。
「う、うわ!? な、ななななななんだあれ!?」
「ひぃ!? り、リーヴ様! な、何なんですかあれ!?」
「り、リーヴ様~!」
「し、知らねえって! お、おい! アシック!」
「さっき言ってた『森神様』って呼ばれてる魔物だよ! 良いから、リーヴ達も早く逃げろ!」
「「ひいいいいいいい!」」
ユミィとリリア先生の手を取り、リーヴ達の方へと声を掛けると取り巻きコンビが慌てた様子で叫びながら真っ先に走り去って行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待てお前ら! 先に逃げるなよ! お、俺を置いて行くんじゃねぇ!」
「リーヴも早く走れ! ここは危険だ!」
「ああもう! 何なんだよ、一体! 走れば良いんだろ、走れば!」
そう言うと、愚痴をこぼしながらも涙目で俺の横に付いて走るリーヴ。
あまりの恐怖に『森神様』を見て震えるユミィの方を心配そうに見るリーヴを横目に、俺は街の中央へと一目散に走っていく。すると、狭い通りに入り、『森神様』がつっかえてくれた。
「良かった……さすがにこれ以上は追って来れな―」
しかし―
ドゴォォォォォン!
「あ、アシック様……」
「うそだろ……」
震えるユミィの声と俺の呟きと共に轟音が鳴り響く。
なんと『森神様』はその巨大な鼻を薙ぎ払い、つっかえていた建物を壊してしまったのだ。
それを目にしたリリア先生が恐怖と悔しさの入り混じった声を上げる。
「『天位級』……これ程とは……」
「リリア先生! 早く逃げましょう!」
「は、はい……!」
鼻息を荒くした『森神様』はギョロと大きな目で俺達に目を付けて来た事を察し、俺はリリア先生達の手を取って再び逃走を図る。くそ! 本当に規格外だよ、色々!
そして、そんな俺達を追うように街の壁を破壊しながらひたすらに走ってくる『森神様』を見つつ俺はリリア先生へと話を向ける。
「一体どこまで追って来るんだ……! このまま逃げていても振り切れる気がしませんよ……!」
「猪種は一度目にしたものを追い続ける習性があります……! 残念ですが、恐らく私達はあの魔物に完全に狙われてしまったのでしょう……」
「それじゃあ、あの魔物を振り切る方法は―」
「……向こうがやられるか、こちらがやられるか……二つに一つでしょうね」
リリア先生の言葉に思わず俺達は息を飲む。
衛兵の助けは来ないし、父上達も……それなら、今は俺達がやるしかない。
俺は手を引いているユミィへと視線を向ける。憔悴しきり、目の前の魔物に恐怖する姿がある。
(このままじゃ、いずれ追い付かれる……どうすれば―)
そうして頭を回していた時だった。
突然、『森神様』がピタリと動きを止め、周囲をキョロキョロと見回し始めたのだ。
「い、一体どうしたんだ……?」
「さ、さあ……」
あまりにも唐突な事に足は止めずに『森神様』の方に視線を向ける俺とリリア先生。とはいえ、これはチャンスだ。
だが、ふと『森神様』がある一点に目を止めた事に気付き、俺は何気なくそちらの方に視線を向けると―
「あ、あれはガットさんの娘!?」
そこには、ついさっき街に入ったはずの商人であるガットさんの娘が居た。
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