上 下
15 / 26

第33話 森神様②

しおりを挟む
「―これは困った事になったな」

 詰所での仕事を終え、俺と父上は街から使用人の運転する馬車に乗って『分家』の屋敷へと向かっていた。仕事を終えた後は屋敷に戻り、当主様に報告する為の資料としてまとめる必要があるからだ。

 そして、父上が疲れたようにため息を吐いた理由は、考えるまでもなく街で聞いた『森神様』の件だろう。そんな父上の向かいに座っている俺は、気遣うように言葉を返す。

「お疲れのご様子ですね。やはり、『森神様』の事でしょうか?」

「ああ、そうだ……残念ながら『森神様』が街に迫った場合、我々だけで対処出来ないだろう。『宮廷魔導士』と呼ばれる彼女であれば別かもしれないが……あれ程の『魔物』を相手にする力は我々には無いのだからな」

「それ程の強さを持っているのですか? その『森神様』というのは?」

「うむ……あれはまだ、お前が生まれる前の事だったか。今回と同じように『森神様』が暴れ回っていた事があってな。だが、その時にはまだ『森神様』という呼称も無く、他の魔物と同じように扱われていたのだ。そんな折、街に万が一被害が出る前に、と腕利きの者達を集め、討伐隊として派遣したのだが……結果は全滅だ。『森神様』等という名前は、その話を聞きつけた者達が神聖化しただけに過ぎん。実際、こうして再び我々に危害を加えかねないところまで来ているのだからな」

 腕利きの討伐隊が全滅……それって、かなりやばい状況なんじゃないか?

 しかも、『宮廷魔導士』の肩書きを持ってるリリア先生の話が真っ先に出てくるくらいって……俺、よく今まで生きてたよな。

「では、万が一の場合はリリア先生にも協力をお願いするのですか?」

「そうしたいのは山々だが……彼女は『宮廷魔導士』だ。国家のお抱えである彼女を我々の領地の事で勝手に巻き込むわけにはいかないのだ。難しい話だが、『森神様』の件は我々だけで早急に対処するべきだろう……だが、アシック。その場合、お前達は危害が及ぶ前に街の人を連れて避難しなさい」

「え? 何故ですか? 僕も戦わせて下さい」

「駄目だ。これは子供の遊びではないのだからな。いくら魔法の才能が優れているとはいえ、まだ年端も行かぬ我が子を戦場に立たせる事を許可出来るわけもないだろう」

 それもそうか……実際、なんだかんだ言って、俺はまだ初級魔法しか使う事が出来ないし。

 とはいえ、簡単に引き下がったら男が廃る。

 住んでいる街に危害が及ぶなら、俺だって戦いたいんだ。

「しかし、『分家』とはいえ、僕も『ユーグ家』の子です。避難の誘導が大事である事は充分承知していますが、それは母上達を優先するべきです。男児たる者、戦わずに逃げるなど、それこそ『ユーグ家』の名前に泥を塗ってしまいます」

「はは、言うようになったな。そうだな……そこまで言うのならば、もし、お前が中級魔法を使えるようになったら考えてやっても良い」

「中級魔法を……?」

「ああ、それならば私も文句は言わない。最低でも中級魔法を使えなければ、相手をしても危険なだけだ。それが出来ないというのであれば、参加する事は認めん」

 中級魔法って魔法学校でも中学年でようやく覚えるレベルなのに……なるほど、父上は完全に俺を連れて行くつもりはないって事か。

 けど、父上は知らない。

(……まだ不完全だけど、中級魔法っぽいものは使え始めてきたんだ)

 間に合うかは分からないが、ただじっとしているのは性に合わない。

 俺は父上と二人馬車に揺らされる中、ひっそりと決意を固めたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身バレしないように奴隷少女を買ってダンジョン配信させるが全部バレて俺がバズる

ぐうのすけ
ファンタジー
呪いを受けて冒険者を休業した俺は閃いた。 安い少女奴隷を購入し冒険者としてダンジョンに送り込みその様子を配信する。 そう、数年で美女になるであろう奴隷は配信で人気が出るはずだ。 もしそうならなくともダンジョンで魔物を狩らせれば稼ぎになる。 俺は偽装の仮面を持っている。 この魔道具があれば顔の認識を阻害し更に女の声に変える事が出来る。 身バレ対策しつつ収入を得られる。 だが現実は違った。 「ご主人様は男の人の匂いがします」 「こいつ面倒見良すぎじゃねwwwお母さんかよwwww」 俺の性別がバレ、身バレし、更には俺が金に困っていない事もバレて元英雄な事もバレた。 面倒見が良いためお母さんと呼ばれてネタにされるようになった。 おかしい、俺はそこまで配信していないのに奴隷より登録者数が伸びている。 思っていたのと違う! 俺の計画は破綻しバズっていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

処理中です...