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第33話 森神様②
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「―これは困った事になったな」
詰所での仕事を終え、俺と父上は街から使用人の運転する馬車に乗って『分家』の屋敷へと向かっていた。仕事を終えた後は屋敷に戻り、当主様に報告する為の資料としてまとめる必要があるからだ。
そして、父上が疲れたようにため息を吐いた理由は、考えるまでもなく街で聞いた『森神様』の件だろう。そんな父上の向かいに座っている俺は、気遣うように言葉を返す。
「お疲れのご様子ですね。やはり、『森神様』の事でしょうか?」
「ああ、そうだ……残念ながら『森神様』が街に迫った場合、我々だけで対処出来ないだろう。『宮廷魔導士』と呼ばれる彼女であれば別かもしれないが……あれ程の『魔物』を相手にする力は我々には無いのだからな」
「それ程の強さを持っているのですか? その『森神様』というのは?」
「うむ……あれはまだ、お前が生まれる前の事だったか。今回と同じように『森神様』が暴れ回っていた事があってな。だが、その時にはまだ『森神様』という呼称も無く、他の魔物と同じように扱われていたのだ。そんな折、街に万が一被害が出る前に、と腕利きの者達を集め、討伐隊として派遣したのだが……結果は全滅だ。『森神様』等という名前は、その話を聞きつけた者達が神聖化しただけに過ぎん。実際、こうして再び我々に危害を加えかねないところまで来ているのだからな」
腕利きの討伐隊が全滅……それって、かなりやばい状況なんじゃないか?
しかも、『宮廷魔導士』の肩書きを持ってるリリア先生の話が真っ先に出てくるくらいって……俺、よく今まで生きてたよな。
「では、万が一の場合はリリア先生にも協力をお願いするのですか?」
「そうしたいのは山々だが……彼女は『宮廷魔導士』だ。国家のお抱えである彼女を我々の領地の事で勝手に巻き込むわけにはいかないのだ。難しい話だが、『森神様』の件は我々だけで早急に対処するべきだろう……だが、アシック。その場合、お前達は危害が及ぶ前に街の人を連れて避難しなさい」
「え? 何故ですか? 僕も戦わせて下さい」
「駄目だ。これは子供の遊びではないのだからな。いくら魔法の才能が優れているとはいえ、まだ年端も行かぬ我が子を戦場に立たせる事を許可出来るわけもないだろう」
それもそうか……実際、なんだかんだ言って、俺はまだ初級魔法しか使う事が出来ないし。
とはいえ、簡単に引き下がったら男が廃る。
住んでいる街に危害が及ぶなら、俺だって戦いたいんだ。
「しかし、『分家』とはいえ、僕も『ユーグ家』の子です。避難の誘導が大事である事は充分承知していますが、それは母上達を優先するべきです。男児たる者、戦わずに逃げるなど、それこそ『ユーグ家』の名前に泥を塗ってしまいます」
「はは、言うようになったな。そうだな……そこまで言うのならば、もし、お前が中級魔法を使えるようになったら考えてやっても良い」
「中級魔法を……?」
「ああ、それならば私も文句は言わない。最低でも中級魔法を使えなければ、相手をしても危険なだけだ。それが出来ないというのであれば、参加する事は認めん」
中級魔法って魔法学校でも中学年でようやく覚えるレベルなのに……なるほど、父上は完全に俺を連れて行くつもりはないって事か。
けど、父上は知らない。
(……まだ不完全だけど、中級魔法っぽいものは使え始めてきたんだ)
間に合うかは分からないが、ただじっとしているのは性に合わない。
俺は父上と二人馬車に揺らされる中、ひっそりと決意を固めたのだった。
詰所での仕事を終え、俺と父上は街から使用人の運転する馬車に乗って『分家』の屋敷へと向かっていた。仕事を終えた後は屋敷に戻り、当主様に報告する為の資料としてまとめる必要があるからだ。
そして、父上が疲れたようにため息を吐いた理由は、考えるまでもなく街で聞いた『森神様』の件だろう。そんな父上の向かいに座っている俺は、気遣うように言葉を返す。
「お疲れのご様子ですね。やはり、『森神様』の事でしょうか?」
「ああ、そうだ……残念ながら『森神様』が街に迫った場合、我々だけで対処出来ないだろう。『宮廷魔導士』と呼ばれる彼女であれば別かもしれないが……あれ程の『魔物』を相手にする力は我々には無いのだからな」
「それ程の強さを持っているのですか? その『森神様』というのは?」
「うむ……あれはまだ、お前が生まれる前の事だったか。今回と同じように『森神様』が暴れ回っていた事があってな。だが、その時にはまだ『森神様』という呼称も無く、他の魔物と同じように扱われていたのだ。そんな折、街に万が一被害が出る前に、と腕利きの者達を集め、討伐隊として派遣したのだが……結果は全滅だ。『森神様』等という名前は、その話を聞きつけた者達が神聖化しただけに過ぎん。実際、こうして再び我々に危害を加えかねないところまで来ているのだからな」
腕利きの討伐隊が全滅……それって、かなりやばい状況なんじゃないか?
しかも、『宮廷魔導士』の肩書きを持ってるリリア先生の話が真っ先に出てくるくらいって……俺、よく今まで生きてたよな。
「では、万が一の場合はリリア先生にも協力をお願いするのですか?」
「そうしたいのは山々だが……彼女は『宮廷魔導士』だ。国家のお抱えである彼女を我々の領地の事で勝手に巻き込むわけにはいかないのだ。難しい話だが、『森神様』の件は我々だけで早急に対処するべきだろう……だが、アシック。その場合、お前達は危害が及ぶ前に街の人を連れて避難しなさい」
「え? 何故ですか? 僕も戦わせて下さい」
「駄目だ。これは子供の遊びではないのだからな。いくら魔法の才能が優れているとはいえ、まだ年端も行かぬ我が子を戦場に立たせる事を許可出来るわけもないだろう」
それもそうか……実際、なんだかんだ言って、俺はまだ初級魔法しか使う事が出来ないし。
とはいえ、簡単に引き下がったら男が廃る。
住んでいる街に危害が及ぶなら、俺だって戦いたいんだ。
「しかし、『分家』とはいえ、僕も『ユーグ家』の子です。避難の誘導が大事である事は充分承知していますが、それは母上達を優先するべきです。男児たる者、戦わずに逃げるなど、それこそ『ユーグ家』の名前に泥を塗ってしまいます」
「はは、言うようになったな。そうだな……そこまで言うのならば、もし、お前が中級魔法を使えるようになったら考えてやっても良い」
「中級魔法を……?」
「ああ、それならば私も文句は言わない。最低でも中級魔法を使えなければ、相手をしても危険なだけだ。それが出来ないというのであれば、参加する事は認めん」
中級魔法って魔法学校でも中学年でようやく覚えるレベルなのに……なるほど、父上は完全に俺を連れて行くつもりはないって事か。
けど、父上は知らない。
(……まだ不完全だけど、中級魔法っぽいものは使え始めてきたんだ)
間に合うかは分からないが、ただじっとしているのは性に合わない。
俺は父上と二人馬車に揺らされる中、ひっそりと決意を固めたのだった。
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