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第32話 森神様
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「―レナルド様。もう少し『本家』の方に税の徴収を下げるよう言っちゃくれませんかね?」
あれから数日。
俺は久しぶりに父上と共に街の方へと繰り出していた。
リリア先生は俺が中級魔法を使える可能性を感じたのか、少し指導が厳しくなったというか……いや、口調は丁寧なんだけど、なんて言うか「私の全てを伝授させます」みたいな真に迫った雰囲気を感じるんだよなぁ。
それはそれとして、今は街に仮設した詰所で領地の人々の声を聞いているところだ。
最近はリリア先生やユミィと魔法の勉強をする事が多かった為、なかなか顔を出す事は無かったが、以前まではこうして父上と共に出向いて領地改善の為に尽力していた。
そして、今は街で店をまとめている『ガット商会』の商人であるクラック・ガットさんの話を聞いている。
俺は父上のすぐ横に置かれた椅子に座り、後で父上に資料として渡す為にガットさんと父上の話を紙にまとめていた。
普段は母上がやっている事だが、母上が参加出来ない時はこうして俺が代わりに引き受けることも多い。
これも『分家』の長男として行う立派な仕事だし、おかげで嫌でも字が上手くなったよね。
そんな俺の前で、ガットさんは呆れた様子で本家の愚痴をこぼしていた。
「うちらの支払ってる税がそこらの領地よりも高い所為で、俺達の生活はカツカツですよ……もし、レナルド様が交渉してくれなかったら、街の奴らみんな飢えちまってたかもしれないくらいですからね。こればっかりはレナルド様には頭が上がりませんよ」
「そうですね……そちらの交渉を進めているのですが、何分、当主様もなかなか頑固なお方でしてね。とはいえ、領地の人々の生活が掛かっていますし、早急に改善してもらえるようお伝えしておきましょう」
「ぜひお願いしますよ。俺達にとってはレナルド様だけが頼りなんです」
ガットさんはそう言って座っていた椅子から腰を上げ掛けたが、ふと俺の方に視線を向けると、同情するような声を向けてきた。
「にしても、アシック様も大変じゃないですかい? 向こうの息子はそこらの悪ガキ引き連れて遊び呆けてるでしょう? アシック様がこんなに頑張って働いてるってのに……アシック様があの悪ガキ達に絡まれてたりしてないか心配ですよ」
「いえ、大丈夫ですよ。リーヴ様とは仲良くさせて頂いています。とはいえ、領地を統べる人間としては少々度が過ぎているところはあるかもしれません。私の方からそれとなく注意しておきますよ」
「か~、レナルド様に似て、相変わらずアシック様は御立派だ。店の手伝いもせず遊び呆けてるうちの娘やリーヴ様に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいですよ。言っておきますけど、誰も向こうが『本家』だなんて思ってませんからね? 俺達にとっちゃ、レナルド様やアシック様こそが『本家』だと思ってます」
「ありがとうございます。ただ、ガットさんの娘さんは八歳ですし、まだ遊びたい頃でしょう。もう少し様子を見てから手伝いを頼んだ方が素直に応じると思いますよ。周りの友人達が親の手伝いをしているのを目にすれば、自分からやろうという気持ちが生まれるかもしれませんから」
「はあ~……こいつぁ驚きました。やっぱり、アシック様やレナルド様は頭の出来がそこらの人間と違いますわ……にしても、アシック様と同じ歳とはいえ、よくうちの子供の年齢なんて覚えてましたね? 俺なんかしょっちゅう忘れる所為で、嫁さんや娘にしょっぴかれてますよ」
「ええ。この領地でご相談頂いている方々の事は大体頭の中に入れるようにしていますから」
「いや~……こりゃあ、うちの娘の代もアシック様には頭が上がらなさそうだ。頼りになる次期当主様のおかげで、将来も安心して子供達をこの街に住まわせられるってもんです」
「はは、大袈裟ですよ」
いや、ほんと、我ながらこんな話をする子供ってどうなんだろう?
大人とばかり話している所為で、老け込むのが早いというか……他の人よりも早くお年寄りっぽくならないと良いけど。
そんな中、ふとガットさんは父上の方に視線を向けると、真剣な表情である事を口にした。
「それはそうと……お二人は『森神様』が暴れまわってる、って話は知ってます?」
「『森神様』が……? 今までそのような事は無かったはずですが……」
『森神様』とは、この領地の近くにある森に住む巨大な猪の守り神の事だ。
世間一般で言えば『魔物』だが、基本的に人に危害を加える事が無く、また手に負えない相手の為、長らく森を守る『森神様』として崇められていた。
「そうなんです。『森神様』が森の中で暴れてる所為で狩りも出来ないし、山菜も全く取りに行けないんですよ。……はあ、まったくこっちは生活が掛かってるっていうのに、勘弁して欲しいもんですよね。しかも、噂じゃあこの街の近くでも見掛けた、なんて聞きますし……」
「それはまずいですね……分かりました。念の為、衛兵達に見張りを頼んでおきましょう」
「すいません、レナルド様。うちの子達も不安がってるんで、よろしくお願いします」
『森神様』が暴れるなんて……一体、何があったんだろう?
結局、ガットさんが帰った後も同じように街の人々からやはり『森神様』の話があり、俺達はその対応に追われる事になるのだった。
あれから数日。
俺は久しぶりに父上と共に街の方へと繰り出していた。
リリア先生は俺が中級魔法を使える可能性を感じたのか、少し指導が厳しくなったというか……いや、口調は丁寧なんだけど、なんて言うか「私の全てを伝授させます」みたいな真に迫った雰囲気を感じるんだよなぁ。
それはそれとして、今は街に仮設した詰所で領地の人々の声を聞いているところだ。
最近はリリア先生やユミィと魔法の勉強をする事が多かった為、なかなか顔を出す事は無かったが、以前まではこうして父上と共に出向いて領地改善の為に尽力していた。
そして、今は街で店をまとめている『ガット商会』の商人であるクラック・ガットさんの話を聞いている。
俺は父上のすぐ横に置かれた椅子に座り、後で父上に資料として渡す為にガットさんと父上の話を紙にまとめていた。
普段は母上がやっている事だが、母上が参加出来ない時はこうして俺が代わりに引き受けることも多い。
これも『分家』の長男として行う立派な仕事だし、おかげで嫌でも字が上手くなったよね。
そんな俺の前で、ガットさんは呆れた様子で本家の愚痴をこぼしていた。
「うちらの支払ってる税がそこらの領地よりも高い所為で、俺達の生活はカツカツですよ……もし、レナルド様が交渉してくれなかったら、街の奴らみんな飢えちまってたかもしれないくらいですからね。こればっかりはレナルド様には頭が上がりませんよ」
「そうですね……そちらの交渉を進めているのですが、何分、当主様もなかなか頑固なお方でしてね。とはいえ、領地の人々の生活が掛かっていますし、早急に改善してもらえるようお伝えしておきましょう」
「ぜひお願いしますよ。俺達にとってはレナルド様だけが頼りなんです」
ガットさんはそう言って座っていた椅子から腰を上げ掛けたが、ふと俺の方に視線を向けると、同情するような声を向けてきた。
「にしても、アシック様も大変じゃないですかい? 向こうの息子はそこらの悪ガキ引き連れて遊び呆けてるでしょう? アシック様がこんなに頑張って働いてるってのに……アシック様があの悪ガキ達に絡まれてたりしてないか心配ですよ」
「いえ、大丈夫ですよ。リーヴ様とは仲良くさせて頂いています。とはいえ、領地を統べる人間としては少々度が過ぎているところはあるかもしれません。私の方からそれとなく注意しておきますよ」
「か~、レナルド様に似て、相変わらずアシック様は御立派だ。店の手伝いもせず遊び呆けてるうちの娘やリーヴ様に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいですよ。言っておきますけど、誰も向こうが『本家』だなんて思ってませんからね? 俺達にとっちゃ、レナルド様やアシック様こそが『本家』だと思ってます」
「ありがとうございます。ただ、ガットさんの娘さんは八歳ですし、まだ遊びたい頃でしょう。もう少し様子を見てから手伝いを頼んだ方が素直に応じると思いますよ。周りの友人達が親の手伝いをしているのを目にすれば、自分からやろうという気持ちが生まれるかもしれませんから」
「はあ~……こいつぁ驚きました。やっぱり、アシック様やレナルド様は頭の出来がそこらの人間と違いますわ……にしても、アシック様と同じ歳とはいえ、よくうちの子供の年齢なんて覚えてましたね? 俺なんかしょっちゅう忘れる所為で、嫁さんや娘にしょっぴかれてますよ」
「ええ。この領地でご相談頂いている方々の事は大体頭の中に入れるようにしていますから」
「いや~……こりゃあ、うちの娘の代もアシック様には頭が上がらなさそうだ。頼りになる次期当主様のおかげで、将来も安心して子供達をこの街に住まわせられるってもんです」
「はは、大袈裟ですよ」
いや、ほんと、我ながらこんな話をする子供ってどうなんだろう?
大人とばかり話している所為で、老け込むのが早いというか……他の人よりも早くお年寄りっぽくならないと良いけど。
そんな中、ふとガットさんは父上の方に視線を向けると、真剣な表情である事を口にした。
「それはそうと……お二人は『森神様』が暴れまわってる、って話は知ってます?」
「『森神様』が……? 今までそのような事は無かったはずですが……」
『森神様』とは、この領地の近くにある森に住む巨大な猪の守り神の事だ。
世間一般で言えば『魔物』だが、基本的に人に危害を加える事が無く、また手に負えない相手の為、長らく森を守る『森神様』として崇められていた。
「そうなんです。『森神様』が森の中で暴れてる所為で狩りも出来ないし、山菜も全く取りに行けないんですよ。……はあ、まったくこっちは生活が掛かってるっていうのに、勘弁して欲しいもんですよね。しかも、噂じゃあこの街の近くでも見掛けた、なんて聞きますし……」
「それはまずいですね……分かりました。念の為、衛兵達に見張りを頼んでおきましょう」
「すいません、レナルド様。うちの子達も不安がってるんで、よろしくお願いします」
『森神様』が暴れるなんて……一体、何があったんだろう?
結局、ガットさんが帰った後も同じように街の人々からやはり『森神様』の話があり、俺達はその対応に追われる事になるのだった。
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