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第29話 魔法の師匠⑦
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「―よお、アシック」
当主様達との話を終え、まだ父上は当主様と話があるという事で一人『本家』の屋敷を歩いていた時だった。
例の話を頭で整理しながら歩いていた俺の背中に聞き慣れた声が突いてきた。
俺は呆れたようにため息を吐くと、外行きの笑みを浮かべながら後ろを振り返り、その声の主の名前を口にしてやる。
「これはリーヴ様。本日もご機嫌がよろしいようで」
「ちっ、お前の方は相変わらずいけ好かねぇな。俺の前で敬語で話すなっつったじゃんか」
「そうは言うけど、無茶言わないでくれ。ここは廊下だし、当主様や奥様が聞いているかもしれないんだから」
ユミィは助けた功績があるからまだ良いけど、リーヴにまでこんな口調で話している事が当主様や奥様に知られたらどうなるか……特に奥様はまずい。
俺がついさっきのやり取りを思い出してため息を吐くと、リーヴはニヤニヤとした表情で俺の肩に寄り掛かると得意げな様子で言葉を返してくる。
「大丈夫だって、今日は母上は出掛けてるからよ。使用人にも特別に口止めしといてやる。何てったって、お前は将来俺の代わりに働いてくれる大事な下僕なんだ。変に噂が立って母上に目を付けられちゃ俺が困るからよ」
「……相変わらず、良い性格してるよ」
「はあ? 何か言ったか?」
「別に……それより、何か用か? ユミィを待たせてるんだ。思ったより早く終わったから戻らないと」
「おおっと」
そんな俺を子供っぽく……いや、実際まだ子供だけど、どうやら俺の言葉にいじり甲斐があると思ったのか、面白そうなものを見つけたリーヴは逃がさないとばかりに進路を塞いできた。
「何だよ……まだ何かあるのか?」
「最近はユミィとずいぶん仲良くしてるみたいじゃないか。それに、あれだけお前の事を嫌ってた父上とも仲が良くなったっぽいな」
「前にも言っただろ? 友達の少ないユミィの面倒を頼まれただけだって。それに、当主様が俺を認めるわけがない。ただの気のせいだよ」
「ンだよ、つまんねえな~」
そう言うと、リーヴは両腕を頭の後ろで組んで盛大にため息を吐く。
まさに年相応の子供という感じだが、俺はそんなリーヴにふと思い出した事を尋ねる事にした。
「そうだ、丁度良い。リーヴに一つ聞きたい事があったんだよ」
「聞きたい事~? 何だよ? ま、心の広い『本家』の俺様は、『無能』な『分家』のお前の質問にだって答えてやるよ」
「まあ、何でも良いけど……それで、ミルト・ヴェンレットってどんな子なんだ?」
俺がそう口にすると、リーヴは驚いた様子で大袈裟なリアクションを取りながら言葉を返してくる。
「はあ~? ミルト~? 何だよ、お前、あの泣き虫の事なんかが気になるのかよ? ってか、会った事あんのか?」
「いや、無いけど……というか、泣き虫ってどういう事だ? 俺はミルトって子の事を聞いただけだろ」
「それだよ、それ。泣き虫ミルトの事だろ? ここらの貴族じゃ知らない奴は居ないぜ? おっと、お前やユミィは貴族のパーティに出てなかったから知らなかったのも当然か~?」
そうして、俺がパーティに参加出来ない事を分かっててニヤニヤとした表情で声を上げるリーヴに嫌気が差し、俺は進路を塞いでいたリーヴの横を通り抜けようとする。
「はあ……話す気がないなら良いよ。それじゃ、俺は帰るから」
「待て待て、冗談だって~。そう怒るなよ~」
「邪魔するなよ……」
「まあまあ」
しかし、そんな俺に構うのが楽しいのか、ニヤニヤとした表情を見せるリーヴ。
そんなリーヴに呆れていると、リーヴはさらに意地の悪い笑みを浮かべながらミルトという子の事について話してくれたのだが―
「お前の言ってたミルトだけどな。あいつ、パーティに来てもいっつも一人だし、全然面白くねぇんだよ。それにオドオドしてて、この間も魔法の見せ合いで失敗して泣いてやんの! もう皆で笑っちまったよ!」
「失敗を笑うって……趣味悪いな」
「伯爵の子供の癖にまだ魔法が使えないんだぜ~? おっと、それはお前も同じだったか」
まあ、本当は使えるけどね。
「ま、でも、俺は他所じゃ完璧な公爵家の息子だからな! 本当は爆笑したかったけど、他の奴らに合わせて笑いを堪えたよ」
「ミルトって子が不憫だな……」
まあ、それはともかく魔法が不得意だというのは本当らしい。
ユミィの件を聞いて俺に魔法を教えて欲しいというのも、今の話を聞けば納得が出来るな。
そんな事を考えながら、俺はリーヴの自慢話を耳から耳に流していくのだった。
-------------------
申し訳ありません。
書籍版と違いを出すため、また連続した作品だと分かりにくかったので、第二部の表紙を第一部の表紙と統一させて頂きました。
第二部以降も第一部の表紙で連載させて頂きますので、ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
※Amazonや楽天Kobo、BOOK WALKERなどで販売中の書籍版の表紙は各キャラクターになっています。
当主様達との話を終え、まだ父上は当主様と話があるという事で一人『本家』の屋敷を歩いていた時だった。
例の話を頭で整理しながら歩いていた俺の背中に聞き慣れた声が突いてきた。
俺は呆れたようにため息を吐くと、外行きの笑みを浮かべながら後ろを振り返り、その声の主の名前を口にしてやる。
「これはリーヴ様。本日もご機嫌がよろしいようで」
「ちっ、お前の方は相変わらずいけ好かねぇな。俺の前で敬語で話すなっつったじゃんか」
「そうは言うけど、無茶言わないでくれ。ここは廊下だし、当主様や奥様が聞いているかもしれないんだから」
ユミィは助けた功績があるからまだ良いけど、リーヴにまでこんな口調で話している事が当主様や奥様に知られたらどうなるか……特に奥様はまずい。
俺がついさっきのやり取りを思い出してため息を吐くと、リーヴはニヤニヤとした表情で俺の肩に寄り掛かると得意げな様子で言葉を返してくる。
「大丈夫だって、今日は母上は出掛けてるからよ。使用人にも特別に口止めしといてやる。何てったって、お前は将来俺の代わりに働いてくれる大事な下僕なんだ。変に噂が立って母上に目を付けられちゃ俺が困るからよ」
「……相変わらず、良い性格してるよ」
「はあ? 何か言ったか?」
「別に……それより、何か用か? ユミィを待たせてるんだ。思ったより早く終わったから戻らないと」
「おおっと」
そんな俺を子供っぽく……いや、実際まだ子供だけど、どうやら俺の言葉にいじり甲斐があると思ったのか、面白そうなものを見つけたリーヴは逃がさないとばかりに進路を塞いできた。
「何だよ……まだ何かあるのか?」
「最近はユミィとずいぶん仲良くしてるみたいじゃないか。それに、あれだけお前の事を嫌ってた父上とも仲が良くなったっぽいな」
「前にも言っただろ? 友達の少ないユミィの面倒を頼まれただけだって。それに、当主様が俺を認めるわけがない。ただの気のせいだよ」
「ンだよ、つまんねえな~」
そう言うと、リーヴは両腕を頭の後ろで組んで盛大にため息を吐く。
まさに年相応の子供という感じだが、俺はそんなリーヴにふと思い出した事を尋ねる事にした。
「そうだ、丁度良い。リーヴに一つ聞きたい事があったんだよ」
「聞きたい事~? 何だよ? ま、心の広い『本家』の俺様は、『無能』な『分家』のお前の質問にだって答えてやるよ」
「まあ、何でも良いけど……それで、ミルト・ヴェンレットってどんな子なんだ?」
俺がそう口にすると、リーヴは驚いた様子で大袈裟なリアクションを取りながら言葉を返してくる。
「はあ~? ミルト~? 何だよ、お前、あの泣き虫の事なんかが気になるのかよ? ってか、会った事あんのか?」
「いや、無いけど……というか、泣き虫ってどういう事だ? 俺はミルトって子の事を聞いただけだろ」
「それだよ、それ。泣き虫ミルトの事だろ? ここらの貴族じゃ知らない奴は居ないぜ? おっと、お前やユミィは貴族のパーティに出てなかったから知らなかったのも当然か~?」
そうして、俺がパーティに参加出来ない事を分かっててニヤニヤとした表情で声を上げるリーヴに嫌気が差し、俺は進路を塞いでいたリーヴの横を通り抜けようとする。
「はあ……話す気がないなら良いよ。それじゃ、俺は帰るから」
「待て待て、冗談だって~。そう怒るなよ~」
「邪魔するなよ……」
「まあまあ」
しかし、そんな俺に構うのが楽しいのか、ニヤニヤとした表情を見せるリーヴ。
そんなリーヴに呆れていると、リーヴはさらに意地の悪い笑みを浮かべながらミルトという子の事について話してくれたのだが―
「お前の言ってたミルトだけどな。あいつ、パーティに来てもいっつも一人だし、全然面白くねぇんだよ。それにオドオドしてて、この間も魔法の見せ合いで失敗して泣いてやんの! もう皆で笑っちまったよ!」
「失敗を笑うって……趣味悪いな」
「伯爵の子供の癖にまだ魔法が使えないんだぜ~? おっと、それはお前も同じだったか」
まあ、本当は使えるけどね。
「ま、でも、俺は他所じゃ完璧な公爵家の息子だからな! 本当は爆笑したかったけど、他の奴らに合わせて笑いを堪えたよ」
「ミルトって子が不憫だな……」
まあ、それはともかく魔法が不得意だというのは本当らしい。
ユミィの件を聞いて俺に魔法を教えて欲しいというのも、今の話を聞けば納得が出来るな。
そんな事を考えながら、俺はリーヴの自慢話を耳から耳に流していくのだった。
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申し訳ありません。
書籍版と違いを出すため、また連続した作品だと分かりにくかったので、第二部の表紙を第一部の表紙と統一させて頂きました。
第二部以降も第一部の表紙で連載させて頂きますので、ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
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