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第28話 魔法の師匠⑥
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「………………………………………………」
「え~と……」
そして、本家の屋敷へ呼び出された俺に待ち受けていたのは、不機嫌そうに眉毛を八の字にする当主様の姿だった。
この執務室に訪れてからというもの、すでに五分程経過しているが、その間、当主様は一言も口にせずにただ俺を睨むばかりで、気まずくなった俺は困惑しながら声を上げる。……もう帰りたいんだけど。
そんな風に俺がどうにか苦笑いを浮かべつつ当主様の言葉を待っていると、当主様はまるでオークのような大きい目で俺を睨み付け、その体格に違わぬ声で俺の名前を呼んだ。
「……アシックよ」
「あ、はい」
「先日はユミィに新しい師匠を紹介する為、その場は黙っておったが……貴様、ユミィの事を呼び捨てで呼んでいたな? さらに、口調についても生意気なものだった……『分家』の子の分際で、『本家』の長女たるユミィにそのような無礼をして良いと思っておるのか?」
ですよね~。
まあ、俺もこうなるのは嫌だったから敬語を使うようにお願いしてたけど、ユミィから何度もお願いされて断れなかったからなぁ……。
「しかぁし!」
当主様に迂闊な事を言わないよう俺がタイミグを見計らっていると、当主様は机の上にバンと手を置き睨み付けるような目で俺へと視線を向け、こんな事を口にしてきた。
「貴様がおらねば、ユミィが魔法を使う事が出来なかったのもまた事実……こればかりは認めねばなるまい」
「え……?」
あれ? なんか思った反応と違うんだけど?
てっきり、ただ文句を言われるだけかと思ってた……父上は父上であえて何も言わずに立っているだけだし、もしかして、こうなる事が分かってたのか?
そんな当主様の反応に置いてきぼりを食らっていると、当主様は椅子にドカッと音を立てて腰掛けながら偉そうに腕を組むと俺へと視線を向けてくる。
「遺憾……いーや! 誠に遺憾ではある―が! アシックよ!」
「は、はい」
「特例も特例だ! その功績を認め、仕方なく貴様のその無礼を許してやろう!」
「は、はあ……えーと、それはお嬢様の呼称についてお許し頂けたという事でしょうか?」
「ふん! 呼び方も話し方も好きにするが良い! ただし、ユミィを泣かすような事があれば……分かっているだろうな?」
そう言って、ギロリと俺を睨んで来る当主様は本物のオークにしか見えない。……これは気を付けないと。
もはや魔物の如く恐ろしい顔を見せる当主様に俺が苦笑いを浮かべていると、近くで様子を見ていた父上がゆっくりと当主様の隣へと移動してくる。そして、父上は隣で腰掛ける当主様に笑みを向けると、確認するように声を掛けた。
「では、当主様。アシックの件はもうよろしいですかな?」
「ふん……もう良い。それよりも、例の話を聞かせてやれ」
「ええ。では、そうさせてもらいます」
例の話って何だ?
俺が困惑した表情を浮かべていると、父上は俺の方に視線を向けてくる。
「アシック」
「はい、父上」
「今日、お前をここに呼んだのは先程の件の他にもう一つ話があっての事だ」
「もう一つ……ですか? 何のお話でしょう?」
思い当たる節が無く俺がそう聞き返すと、父上は真剣な表情を返しながらとある名前を口にしてきた。
「―『ヴェンレット家』のことは知っているな?」
「『ヴェンレット家』……? それは、すぐ近くの領土を治めているグラン・ヴェンレット伯爵様の家系の事でしょうか?」
「そうだ。実はそのグラン・ヴェンレット伯爵からお前に話があったのだ」
「伯爵様が僕に……?」
何だろう……俺、伯爵様と会った事は無い筈だけど。
そういえば、リーヴから貴族のパーティに『ヴェンレット家』の次女がよく参加しているって聞いた事があるけど……もしかして、リーヴの奴が変な事を吹き込んだんじゃないだろうな?
頭の中でニシシと笑うリーヴを恨みそうになっていると、父上は少し表情を崩して言葉を続ける。
「なに、伯爵様からのお話は簡単だ。詳細は直接会って話すが、お前に頼みがあるとの事だ」
「公爵家の出であるとはいえ、『本家』の長男であるリーヴ様ではなく、『分家』の私に……ですか?」
「ああ。伯爵様からの頼みはこうだ―」
一体、どんな頼みなんだ……。
俺がそんな伯爵様からの頼み事に疑問を抱いていると、父上は俺の表情を伺った後、残りの言葉を言い切るように口にした。
「―『ヴェンレット家』の次女、ミルト・ヴェンレットに魔法のコツを教えてやってくれ、と」
「え~と……」
そして、本家の屋敷へ呼び出された俺に待ち受けていたのは、不機嫌そうに眉毛を八の字にする当主様の姿だった。
この執務室に訪れてからというもの、すでに五分程経過しているが、その間、当主様は一言も口にせずにただ俺を睨むばかりで、気まずくなった俺は困惑しながら声を上げる。……もう帰りたいんだけど。
そんな風に俺がどうにか苦笑いを浮かべつつ当主様の言葉を待っていると、当主様はまるでオークのような大きい目で俺を睨み付け、その体格に違わぬ声で俺の名前を呼んだ。
「……アシックよ」
「あ、はい」
「先日はユミィに新しい師匠を紹介する為、その場は黙っておったが……貴様、ユミィの事を呼び捨てで呼んでいたな? さらに、口調についても生意気なものだった……『分家』の子の分際で、『本家』の長女たるユミィにそのような無礼をして良いと思っておるのか?」
ですよね~。
まあ、俺もこうなるのは嫌だったから敬語を使うようにお願いしてたけど、ユミィから何度もお願いされて断れなかったからなぁ……。
「しかぁし!」
当主様に迂闊な事を言わないよう俺がタイミグを見計らっていると、当主様は机の上にバンと手を置き睨み付けるような目で俺へと視線を向け、こんな事を口にしてきた。
「貴様がおらねば、ユミィが魔法を使う事が出来なかったのもまた事実……こればかりは認めねばなるまい」
「え……?」
あれ? なんか思った反応と違うんだけど?
てっきり、ただ文句を言われるだけかと思ってた……父上は父上であえて何も言わずに立っているだけだし、もしかして、こうなる事が分かってたのか?
そんな当主様の反応に置いてきぼりを食らっていると、当主様は椅子にドカッと音を立てて腰掛けながら偉そうに腕を組むと俺へと視線を向けてくる。
「遺憾……いーや! 誠に遺憾ではある―が! アシックよ!」
「は、はい」
「特例も特例だ! その功績を認め、仕方なく貴様のその無礼を許してやろう!」
「は、はあ……えーと、それはお嬢様の呼称についてお許し頂けたという事でしょうか?」
「ふん! 呼び方も話し方も好きにするが良い! ただし、ユミィを泣かすような事があれば……分かっているだろうな?」
そう言って、ギロリと俺を睨んで来る当主様は本物のオークにしか見えない。……これは気を付けないと。
もはや魔物の如く恐ろしい顔を見せる当主様に俺が苦笑いを浮かべていると、近くで様子を見ていた父上がゆっくりと当主様の隣へと移動してくる。そして、父上は隣で腰掛ける当主様に笑みを向けると、確認するように声を掛けた。
「では、当主様。アシックの件はもうよろしいですかな?」
「ふん……もう良い。それよりも、例の話を聞かせてやれ」
「ええ。では、そうさせてもらいます」
例の話って何だ?
俺が困惑した表情を浮かべていると、父上は俺の方に視線を向けてくる。
「アシック」
「はい、父上」
「今日、お前をここに呼んだのは先程の件の他にもう一つ話があっての事だ」
「もう一つ……ですか? 何のお話でしょう?」
思い当たる節が無く俺がそう聞き返すと、父上は真剣な表情を返しながらとある名前を口にしてきた。
「―『ヴェンレット家』のことは知っているな?」
「『ヴェンレット家』……? それは、すぐ近くの領土を治めているグラン・ヴェンレット伯爵様の家系の事でしょうか?」
「そうだ。実はそのグラン・ヴェンレット伯爵からお前に話があったのだ」
「伯爵様が僕に……?」
何だろう……俺、伯爵様と会った事は無い筈だけど。
そういえば、リーヴから貴族のパーティに『ヴェンレット家』の次女がよく参加しているって聞いた事があるけど……もしかして、リーヴの奴が変な事を吹き込んだんじゃないだろうな?
頭の中でニシシと笑うリーヴを恨みそうになっていると、父上は少し表情を崩して言葉を続ける。
「なに、伯爵様からのお話は簡単だ。詳細は直接会って話すが、お前に頼みがあるとの事だ」
「公爵家の出であるとはいえ、『本家』の長男であるリーヴ様ではなく、『分家』の私に……ですか?」
「ああ。伯爵様からの頼みはこうだ―」
一体、どんな頼みなんだ……。
俺がそんな伯爵様からの頼み事に疑問を抱いていると、父上は俺の表情を伺った後、残りの言葉を言い切るように口にした。
「―『ヴェンレット家』の次女、ミルト・ヴェンレットに魔法のコツを教えてやってくれ、と」
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