上 下
10 / 26

第28話 魔法の師匠⑥

しおりを挟む
「………………………………………………」

「え~と……」

 そして、本家の屋敷へ呼び出された俺に待ち受けていたのは、不機嫌そうに眉毛を八の字にする当主様の姿だった。

 この執務室に訪れてからというもの、すでに五分程経過しているが、その間、当主様は一言も口にせずにただ俺を睨むばかりで、気まずくなった俺は困惑しながら声を上げる。……もう帰りたいんだけど。

 そんな風に俺がどうにか苦笑いを浮かべつつ当主様の言葉を待っていると、当主様はまるでオークのような大きい目で俺を睨み付け、その体格に違わぬ声で俺の名前を呼んだ。

「……アシックよ」

「あ、はい」

「先日はユミィに新しい師匠を紹介する為、その場は黙っておったが……貴様、ユミィの事を呼び捨てで呼んでいたな? さらに、口調についても生意気なものだった……『分家』の子の分際で、『本家』の長女たるユミィにそのような無礼をして良いと思っておるのか?」

 ですよね~。

 まあ、俺もこうなるのは嫌だったから敬語を使うようにお願いしてたけど、ユミィから何度もお願いされて断れなかったからなぁ……。

「しかぁし!」

 当主様に迂闊な事を言わないよう俺がタイミグを見計らっていると、当主様は机の上にバンと手を置き睨み付けるような目で俺へと視線を向け、こんな事を口にしてきた。

「貴様がおらねば、ユミィが魔法を使う事が出来なかったのもまた事実……こればかりは認めねばなるまい」

「え……?」

 あれ? なんか思った反応と違うんだけど?

 てっきり、ただ文句を言われるだけかと思ってた……父上は父上であえて何も言わずに立っているだけだし、もしかして、こうなる事が分かってたのか?

 そんな当主様の反応に置いてきぼりを食らっていると、当主様は椅子にドカッと音を立てて腰掛けながら偉そうに腕を組むと俺へと視線を向けてくる。

「遺憾……いーや! 誠に遺憾ではある―が! アシックよ!」

「は、はい」

「特例も特例だ! その功績を認め、仕方なく貴様のその無礼を許してやろう!」

「は、はあ……えーと、それはお嬢様の呼称についてお許し頂けたという事でしょうか?」

「ふん! 呼び方も話し方も好きにするが良い! ただし、ユミィを泣かすような事があれば……分かっているだろうな?」

 そう言って、ギロリと俺を睨んで来る当主様は本物のオークにしか見えない。……これは気を付けないと。

 もはや魔物の如く恐ろしい顔を見せる当主様に俺が苦笑いを浮かべていると、近くで様子を見ていた父上がゆっくりと当主様の隣へと移動してくる。そして、父上は隣で腰掛ける当主様に笑みを向けると、確認するように声を掛けた。

「では、当主様。アシックの件はもうよろしいですかな?」

「ふん……もう良い。それよりも、例の話を聞かせてやれ」

「ええ。では、そうさせてもらいます」

 例の話って何だ?

 俺が困惑した表情を浮かべていると、父上は俺の方に視線を向けてくる。

「アシック」

「はい、父上」

「今日、お前をここに呼んだのは先程の件の他にもう一つ話があっての事だ」

「もう一つ……ですか? 何のお話でしょう?」

 思い当たる節が無く俺がそう聞き返すと、父上は真剣な表情を返しながらとある名前を口にしてきた。

「―『ヴェンレット家』のことは知っているな?」

「『ヴェンレット家』……? それは、すぐ近くの領土を治めているグラン・ヴェンレット伯爵様の家系の事でしょうか?」

「そうだ。実はそのグラン・ヴェンレット伯爵からお前に話があったのだ」

「伯爵様が僕に……?」

 何だろう……俺、伯爵様と会った事は無い筈だけど。

 そういえば、リーヴから貴族のパーティに『ヴェンレット家』の次女がよく参加しているって聞いた事があるけど……もしかして、リーヴの奴が変な事を吹き込んだんじゃないだろうな?

 頭の中でニシシと笑うリーヴを恨みそうになっていると、父上は少し表情を崩して言葉を続ける。

「なに、伯爵様からのお話は簡単だ。詳細は直接会って話すが、お前に頼みがあるとの事だ」

「公爵家の出であるとはいえ、『本家』の長男であるリーヴ様ではなく、『分家』の私に……ですか?」

「ああ。伯爵様からの頼みはこうだ―」

 一体、どんな頼みなんだ……。

 俺がそんな伯爵様からの頼み事に疑問を抱いていると、父上は俺の表情を伺った後、残りの言葉を言い切るように口にした。

「―『ヴェンレット家』の次女、ミルト・ヴェンレットに魔法のコツを教えてやってくれ、と」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身バレしないように奴隷少女を買ってダンジョン配信させるが全部バレて俺がバズる

ぐうのすけ
ファンタジー
呪いを受けて冒険者を休業した俺は閃いた。 安い少女奴隷を購入し冒険者としてダンジョンに送り込みその様子を配信する。 そう、数年で美女になるであろう奴隷は配信で人気が出るはずだ。 もしそうならなくともダンジョンで魔物を狩らせれば稼ぎになる。 俺は偽装の仮面を持っている。 この魔道具があれば顔の認識を阻害し更に女の声に変える事が出来る。 身バレ対策しつつ収入を得られる。 だが現実は違った。 「ご主人様は男の人の匂いがします」 「こいつ面倒見良すぎじゃねwwwお母さんかよwwww」 俺の性別がバレ、身バレし、更には俺が金に困っていない事もバレて元英雄な事もバレた。 面倒見が良いためお母さんと呼ばれてネタにされるようになった。 おかしい、俺はそこまで配信していないのに奴隷より登録者数が伸びている。 思っていたのと違う! 俺の計画は破綻しバズっていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...