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第24話 魔法の師匠②

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「―それでは、この木に向かって魔法を撃ってみて下さい。属性は……そうですね、雷や火では木を燃やしてしまう可能性がありますし、土属性でいきましょう」

 そう言って、お師匠様は俺が黒焦げにしてしまった木の隣に植えられたもう一本の木に杖を向ける。

 俺はお師匠様の言葉に頷いてみせた後、ユミィの方へと顔を向ける。

 すると、ユミィから不安と緊張が入り混じった表情を返されてしまい、ユミィの事を案じた俺は一歩先に出ながらユミィへと声を向けた。

「じゃあ、俺が先にやるよ。ユミィはその後で良いから」

「申し訳ありません、アシック様……。まだ人前で魔法を使う事に慣れていなくて……」

「気にしなくて良いって。それじゃあ、お師匠様見ていて下さい」

「ええ。では、アシックくん、お願いします」

 お師匠様が頷いたのを確認した後、俺は頭の中で土をイメージする。

 そして、中庭にある木の方へと手を伸ばして向けると、そこに自分から土が飛んでいくようなイメージを作る。

(よし……)

 心の中でトリガーを引くような感覚が走った後、ドンッという音と共に俺の手から土が放たれ、それが木にぶつかり大きな音を立てた。

 しかし―

「あ……」

 つい力の制御を誤って木がゴゴゴゴゴゴ! とすごい音を立てて宙を舞って飛んでいってしまった。……やば。

 驚く俺の前で木は中庭の外にある木々にぶつかり、砂ぼこりを上げながらようやく静止し、ほっと胸を撫でおろす。……お師匠様に見られているから、少し気合いが入り過ぎたのかもしれない。

「すいません、ちょっと力が入り過ぎてしまったというか―」

 そう言って、俺が反省しつつも苦笑いしながら誤魔化そうとお師匠様の方に視線を向けた時だった。

「―アシックくん」

「あ、はい」

 やり過ぎちゃったし、怒られるかな?

 そう思って覚悟を決めていた俺にお師匠様が向けてきた言葉は、俺の予想の斜め上をいったものだった。

「―あなた、今、魔法を使う時に詠唱を口にしていませんでしたよね?」

「え?」

 驚いた顔を見せるお師匠様の言葉の意味がすぐに理解できず、そんな風に返してしまう。言われてみれば、父上や母上、それにリーヴも、魔法を使う時は詠唱をしてるよな……。

 これまで父上達から魔法を習おうとしていた時も、「まずは詠唱から」と教えられてたし、詠唱をした後に魔法を使おうとしていたけど……それで一度も魔法を使う事は出来なかった。

 でも、魔導書には詠唱については書かれてなかったし、実際、その通りにやって魔法が使えていたから気にも留めてなかったよ。当主様や父上の前で魔法を使った時もそうだったけど……もしかして、父上達も気付いてなかった?

 そんな風に考え事をしていると、お師匠様は俺からユミィへと視線を向けて言葉を続けていく。

「小さな声で詠唱をしているのかもしれないと思いましたが……口を動かしている様子はありませんでしたし……まさかとは思いますが、ユミィさんもアシックくんと同じように詠唱をせずに魔法を使えたりするんですか?」

「あ、えっと……はい。……そういえば、確かにこれまでのお師匠様に教わった時も詠唱の練習ばかりさせられてましたけど、アシック様の授業では一度も詠唱をしませんでした。アシック様、詠唱無しで魔法を使うというのはすごい事なのでしょうか?」

「どうなんだろう? 俺もユミィも詠唱せずに魔法を使ってたし、気にした事も無かったけど……」

「ふ、二人とも詠唱無しで魔法を……? と、ともかく……次はユミィさん、お願いします」

 あ、お師匠様の顔が何か引きつってる。

 しかし、どうにかその表情を帽子で隠すと、お師匠様は少し疲れた表情でユミィへと声を掛けたのだった。





 四月十日。晴れ。

 今日、依頼主であるデバットさん、そしてレナルドさんの紹介で二人の弟子が私に付く事になりました。どちらも、『ユーグ家』の血筋の子達だそうです。

 一人は『本家』の長女であるユミィ・ユーグさん。

 彼女は『先祖返り』をしていて、とても強い魔力を持っています。

 巷では彼女のような存在を『忌み子』と呼ぶ事がありますが……私はそんな風には思いませんでした。

 銀色の髪と黄金のような瞳はとても美しいもので、巷で言われているような『忌み子』や『呪われた子』というような存在とは程遠く、どちらかと言えば、その無邪気さも相まって『妖精』のようだとすら感じたのですから。

 加えて、ここだけの話ですが……初めて彼女を見た時、その髪と姿はあまりの美貌に、まだ十歳にも満たない彼女に軽く嫉妬してしまう程でした。

 恐らく、私だけではなく、世の中の女性のほとんどは彼女が『忌み子』という存在だと知らなければ憧れていた事でしょう。

 しかし、世の中というのは残酷で、あれ程の美貌を備えていても、これから先、彼女も『先祖返り』の宿命として周囲から良い目を向けられないのは間違いありません。

 今日、初めて彼女と話していて分かりましたが、ユミィさんはとても良い子です。

 そんな彼女も『先祖返り』というものをしただけで、周囲から奇異な目で見られてしまう……悲しい事ですが、やはりそれが世の中というものです。

 歯がゆいですが、私に出来る事はそんな彼女に魔法の制御方法を教え、周りに認められるようにお手伝いする事だけ……とはいえ、少し彼女よりも早く女性として生まれた以上、同じ女性として相談に乗れる事は何でも聞いてあげるつもりです。

 そして、もう一人は―アシック・ユーグくん。

 『ユーグ家』の『分家』の長男である彼もまた、とてもしっかりした男の子です。

 何でも、あの年齢ですでにお父上であるレナルドさんに付き添って、街の方々の悩みや相談を聞いているとか……おかげで子供を相手にするような話し方を意識せずに済んではいますが、あのような賢い子供は初めてみました。

 しかし、それ以上に驚いたのは彼の魔法使いとしての才能です。

 彼が持っていたあの魔導書……どう見ても、通常の魔力量で読む事は不可能なものでした。

 それに、あの歳で『先祖返り』をしたユミィさんに師匠として魔法を教えていたそうですし……今日は彼に驚かされてばかりです。

 さらに、あの卓越した魔法の才能……初級魔法が一通り使える等という次元ではありません。すでに彼は初級魔法を完全に習得しています。

 正直に言えば、初級魔法については彼はもう私の指導を受ける必要も無く、魔法学校に入学できるレベルです。

 というより、魔法学校は数ある初級魔法のうち、属性は一つだけ使えれば試験をクリア出来るのですが……アシックくんは全ての属性を習得している時点で入学は間違いありませんし、入学後は他の生徒よりも目立つ事は間違いないでしょう。

 ともあれ、まずは初日を終えました。

 ただ……お師匠様はやっぱり少しむず痒いので、明日からはせめて「リリア先生」と呼んでもらう事にします。

 「お師匠様」だと……ちょっと老けて聞こえるので。
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