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第22話 黒髪の魔女③
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父上やユミィも同様に驚いた様子を見せる中、俺は部屋の中に居る人間を代表するように師匠へと声を投げ掛ける。
「もしかして……その『先祖返り』というのはユミィのこの現象―巷では『忌み子』と呼ばれる現象のことでしょうか?」
「ええ、そうです。しかし、なるほど……その様子だと、『先祖返り』の全てを知っているわけではなさそうですね」
「はい。僕が知っているのはこの髪を持った人間は世間では魔力がないと言われているものの、実際は真逆……誰よりも魔力の量が多い、ということくらいです」
「その認識で問題ありませんよ。あ、いえ……子供に使う表現ではありませんでしたね。ええと……それで合っています」
ふと、俺が子供であることを思い出したのか、不慣れな様子でそう言い換える師匠。
そんな師匠に微笑むと、俺は普段大人を相手にしている時のようにしっかりとした口調で言葉を返す。
「いえ、父や母に付き大勢の大人の話を聞いてきましたので、そのようにお気遣い頂かなくとも大丈夫ですよ」
「……一日の間に二度も同じ相手から驚かされることになるとは思いませんでした。あなたのような年齢で、そこまで大人を相手に話せる人間に出会ったのは初めてですよ」
「とても嬉しいですが、あまり持ち上げないで下さい。ただの慣れですから。とはいえ、まだ私も若い身であります。失礼のないよう努めますが、もし粗相があればお申し出下さい」
「……分かりました。そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね。あなたも今後は私の指導に入ってもらうわけですから、先にお名前を聞かせてもらっても良いですか?」
「これは大変失礼いたしました」
俺はそう言って、少し前へと出る。
そして、ユミィや父上の顔に泥を塗らないよう、丁寧な仕草を心掛けて頭を下げた。
「私は『分家』の長男、アシック・ユーグと申します。リリア様―いえ、お師匠様。今後ともよろしくお願いいたします」
俺がそうして頭を下げてみせると、お師匠様は驚いたように目を見開いていた。
しばらくそれを眺めていたお師匠様だったが、やがて冷静さを取り戻したらしく、落ち着いた様子で言葉を返してくる。
「アシックくん……ですか。分かりました、こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。それと、お師匠様。重ねて聞くことになるのですが……その『先祖返り』というものについて少し教えて頂いても良いでしょうか?」
「そうでしたね……はい、構いませんよ」
すると、お師匠様はユミィの方に軽く視線を向けた後、ゆっくりと『忌み子』についての話を再開した。
「先程も話した通り、『忌み子』と呼ばれる現象は『先祖返り』と呼ばれるものです。しかし、この現象は広く知られておらず、ほとんどの人からはただ魔力が無い証だと認識されています。それはあなた方もよくご存知だと思いますが……」
お師匠様の問い掛けに、当主様も顔を渋くさせる。
ついこの間まで当主様もそれが理由でユミィを幽閉していただけに他人事とは言えず、葛藤しているようだ。
そんな当主様を置いて、お師匠様はさらに俺達の知らない事実を口にしてきた。
「ですが、一部の人間……王族や魔力に長けた一族の間では昔から『先祖返り』という存在は認識されていました。とはいえ、目撃例もそう多くはありません。実際、私もこの目で彼女を見るまでは知識として存在を認知していただけでしたが……」
「え? つまり、『忌み子』という認識は世界で共通していたわけではなかった……ということですか?」
俺の問い掛けにお師匠様はゆっくりと首を横に振る。
そして、そんな俺の言葉を訂正するように言葉を返してきた。
「いいえ。先程も言いましたが、世の中のほとんどの方はユミィさんのような『先祖返り』を『忌み子』というように考えています。あくまでも、王族などの一部の人々がその真実を知っているに過ぎません」
「知っているなら、それを人々に伝えても良いと思いますけど……王様の言葉ならほとんどの人が信じますし。でも、それをしないってことは『先祖返り』という存在を隠す理由があるってことですよね?」
「ええ。あなたの言う通りです」
お師匠様は俺の言葉に頷くと、手にしていた杖を持ち直しながら悲しそうな口調でそれを口にしていく。
「これはあくまで私の憶測になりますが……それだけの魔力を有している人間は、王族にとっても脅威になり得るからではないかと。『先祖返り』とはその名の通り、大昔に居たと言われる人々に近い特徴を持っていると言われています。その髪の色が何よりの証です。……考えようによっては、大昔の人々が復活したとも取れますし、人々が『先祖返り』という存在を知った場合、神聖化して祀り上げることもあり得るでしょう。しかし、そうなれば、王族からすれば自分達の存在を貶めかねない非常に厄介な存在となるわけです」
何だよ、それ……そんな理不尽なことがあって良いのか?
当主様やリーヴも理不尽だけど、お師匠様の言う通りなら王様こそ理不尽の塊じゃないか。その所為でユミィが嫌な思いをしてきたっていうのに……少し王様にイライラしてきた。
俺は王様に心の中で文句を言いながらも、お師匠様との会話を続けていく。
「それはそうかもしれないですけど……だから、王様達は自分達の立場を守る為にその真実を隠しているって言うんですか?」
「いえ、先ほども言った通り、直接陛下に尋ねたわけではないので、あくまでもそういう可能性があるというだけの話です。ですが、悲しいことに世の中にはそういった可能性が存在するのもまた事実です」
「そうなんですね……」
何て言うか、まだ街から出た事は無かったけど、お師匠様の言う通りなら、どこもかしこも似たような人間ばっかりってことだよな……俺がそうして肩を竦めていると、お師匠様はそんな俺に感心したように声を掛けてくる。
「それにしても、ここの方々も例にもれず『先祖返り』のことを誤解していたように思いましたが……あなたは違うのですね」
「あ、はい。僕はこの魔導書のおかげでユミィが魔力を持っていたことを知っていましたから」
「魔導書……?」
俺の言葉に意外にもキョトンとした仕草で頭を傾げるお師匠様。何というか、十八歳って言ってたけど、お師匠様には悪いけどそうは見えないよなぁ。
見た目も相まって、とても可愛いらしい仕草に微笑みながら俺は肩掛けバッグから例の魔導書を取り出すと、お師匠様の方へと差し出してみせた。
「これです」
「……これはまた、すごい魔力が込められた魔導書ですね」
「やはりそうなのですか? 私には何も書かれていないように見えますが……」
父上が驚いたように声を上げると、お師匠様は俺から受け取った魔導書のページをペラペラとめくった後、顔を横に振って父上の言葉に返した。
「無理もないと思います。この本を読める人間はよほどの魔力の持ち主……それこそ、『先祖返り』を果たしたユミィさんくらいのものでしょう」
「なるほど……では、アシックの言っていた事は本当だったということか……」
「それです。私が気になるのはアシックくんがすでにこれを読んでいた、という事実です」
そう言って、お師匠様は俺の方に視線を向けてくる。
綺麗なお師匠様に見られ少し緊張してしまう中、お師匠様はゆっくりと俺へと近付き、俺のことを興味深そうに観察してくる。
「事前に聞いていた話では、あなた方はつい先日まで魔法を使うことが出来なかったと聞いています。ユミィさんに関しては『先祖返り』という特性上、通常のやり方では魔法の会得は難しい為、魔法を使うことが出来なかったのは分かりますが……アシックくん、これをあなたが読めたというのは本当なのですか?」
「えっと……はい。実際、僕自身も通常の魔法の覚え方では制御ができず、使うことが出来ませんでした。しかし、その魔導書に書かれたやり方で実行したところ、すぐに魔法が使えるようになったんです」
「なるほど……それが事実なら、とてもすごいことですよ」
「え? そうなんですか?」
驚く俺に、お師匠様はゆっくりと頷きながら続きを口にしていく。
「はい。生まれつき魔力の量が多い『先祖返り』の方はまだしも、本来であれば、普通の魔法使いがこれを読むだけの魔力を有するのは一生掛かっても難しいでしょう。実際、ほとんどの方にはただの白紙にしか見えないでしょうから……どういう経緯で入手したのかは分かりませんが、それほどの魔力がこの魔導書には掛かっているんです。なのに、『先祖返り』もせずにその年齢でこの本を読めるなんて……アシックくん、あなたは一体何者なんですか?」
最初に見られていた時よりもさらに鋭い目で見てくるお師匠様に、俺は困惑するものの父上達の手前、どう答えたものかと曖昧な形で答える。
「いや、何者と言われても……『ユーグ家』の『分家』の長男という立場なだけですし……でも、お師匠様も読めるんですよね?」
「……私はこれでも『宮廷魔導士』の資格を得ていますからね。私以外にも魔力の多い人であれば読むことは可能です」
俺の言葉にそう答えたお師匠様だったが……何故か少し視線を下に背けられてしまう。
あれ? もしかして今、地雷踏んだ?
なんか、お師匠様の表情が少し暗くなったような気がするけど……。
しかし、そうしていたのも一瞬、お師匠様は再び顔を上げると話を戻すように言葉を投げ掛けてきた。
「いずれにせよ、この魔導書を他の方が読むのは非常に難しいという事です。あなたが何故読めたのかは今後調査していく必要があるかもしれませんね」
「分かりました。ちなみに、魔導書に魔力が掛かっていたのはその事実を隠す為とか、そういうことなんでしょうか?」
「そうかもしれませんね……過去に『先祖返り』をした人か、あるいは『先祖返り』の真実を何かしらのきっかけで知ってしまった人か……いずれにせよ、公に出来ないからこそ、その魔導書に『先祖返り』のことを記した可能性は十分にあります」
そう考えると、俺達の祖先にも『忌み子』―というより、『先祖返り』した人が居たかもしれないって事か。まあ、世間じゃ例え生まれたとしても隠される存在だし、過去にうちの家系で生まれていたとしても家系図にすら載せてもらえなかったのかも。
ふと気になってユミィの方を見ると、お師匠様の話を聞かされたユミィや父上達も複雑な顔を浮かべていた。『忌み子』という存在が魔導書以外の情報でさらに根本的な考えが変えられたし、無理もない。
そんな中、俺達の様子を見届けたお師匠様はゆっくりとため息を吐いて気分を落ち着けると、俺達の方に向き直り空気を変えるように言葉を向けてくる。
「では、『先祖返り』についてはここまでにして……アシックくん、ユミィさん。今日からあなた達の指導をさせて頂きます。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。お師匠様」
そう俺が答えると、お師匠様は小さく微笑み返してくれたのだった。
-------------------
本日、KADOKAWA直営ストアのBOOK WALKER、及び楽天Koboでも『悪行貴族のはずれ息子』の電子書籍版が発売されました!
楽天やKADOKAWAの通販サイトで自分の作品が商業作品と一緒に並んでいるのを見て、一人でテンション上がってました……なんというか、自分の作品が電子書籍とはいえ、本として発売されているというのがとても嬉しいです。
AmazonのKindleでは6巻まで発売されていますが、上記は現在1~2巻のみ販売しており、3巻以降は順次発売予定です!
また、作者の都合で大変申し訳ありませんが、今後の投稿時間は毎朝7時更新にさせて頂きました。
今後ともよろしくお願いします。
「もしかして……その『先祖返り』というのはユミィのこの現象―巷では『忌み子』と呼ばれる現象のことでしょうか?」
「ええ、そうです。しかし、なるほど……その様子だと、『先祖返り』の全てを知っているわけではなさそうですね」
「はい。僕が知っているのはこの髪を持った人間は世間では魔力がないと言われているものの、実際は真逆……誰よりも魔力の量が多い、ということくらいです」
「その認識で問題ありませんよ。あ、いえ……子供に使う表現ではありませんでしたね。ええと……それで合っています」
ふと、俺が子供であることを思い出したのか、不慣れな様子でそう言い換える師匠。
そんな師匠に微笑むと、俺は普段大人を相手にしている時のようにしっかりとした口調で言葉を返す。
「いえ、父や母に付き大勢の大人の話を聞いてきましたので、そのようにお気遣い頂かなくとも大丈夫ですよ」
「……一日の間に二度も同じ相手から驚かされることになるとは思いませんでした。あなたのような年齢で、そこまで大人を相手に話せる人間に出会ったのは初めてですよ」
「とても嬉しいですが、あまり持ち上げないで下さい。ただの慣れですから。とはいえ、まだ私も若い身であります。失礼のないよう努めますが、もし粗相があればお申し出下さい」
「……分かりました。そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね。あなたも今後は私の指導に入ってもらうわけですから、先にお名前を聞かせてもらっても良いですか?」
「これは大変失礼いたしました」
俺はそう言って、少し前へと出る。
そして、ユミィや父上の顔に泥を塗らないよう、丁寧な仕草を心掛けて頭を下げた。
「私は『分家』の長男、アシック・ユーグと申します。リリア様―いえ、お師匠様。今後ともよろしくお願いいたします」
俺がそうして頭を下げてみせると、お師匠様は驚いたように目を見開いていた。
しばらくそれを眺めていたお師匠様だったが、やがて冷静さを取り戻したらしく、落ち着いた様子で言葉を返してくる。
「アシックくん……ですか。分かりました、こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。それと、お師匠様。重ねて聞くことになるのですが……その『先祖返り』というものについて少し教えて頂いても良いでしょうか?」
「そうでしたね……はい、構いませんよ」
すると、お師匠様はユミィの方に軽く視線を向けた後、ゆっくりと『忌み子』についての話を再開した。
「先程も話した通り、『忌み子』と呼ばれる現象は『先祖返り』と呼ばれるものです。しかし、この現象は広く知られておらず、ほとんどの人からはただ魔力が無い証だと認識されています。それはあなた方もよくご存知だと思いますが……」
お師匠様の問い掛けに、当主様も顔を渋くさせる。
ついこの間まで当主様もそれが理由でユミィを幽閉していただけに他人事とは言えず、葛藤しているようだ。
そんな当主様を置いて、お師匠様はさらに俺達の知らない事実を口にしてきた。
「ですが、一部の人間……王族や魔力に長けた一族の間では昔から『先祖返り』という存在は認識されていました。とはいえ、目撃例もそう多くはありません。実際、私もこの目で彼女を見るまでは知識として存在を認知していただけでしたが……」
「え? つまり、『忌み子』という認識は世界で共通していたわけではなかった……ということですか?」
俺の問い掛けにお師匠様はゆっくりと首を横に振る。
そして、そんな俺の言葉を訂正するように言葉を返してきた。
「いいえ。先程も言いましたが、世の中のほとんどの方はユミィさんのような『先祖返り』を『忌み子』というように考えています。あくまでも、王族などの一部の人々がその真実を知っているに過ぎません」
「知っているなら、それを人々に伝えても良いと思いますけど……王様の言葉ならほとんどの人が信じますし。でも、それをしないってことは『先祖返り』という存在を隠す理由があるってことですよね?」
「ええ。あなたの言う通りです」
お師匠様は俺の言葉に頷くと、手にしていた杖を持ち直しながら悲しそうな口調でそれを口にしていく。
「これはあくまで私の憶測になりますが……それだけの魔力を有している人間は、王族にとっても脅威になり得るからではないかと。『先祖返り』とはその名の通り、大昔に居たと言われる人々に近い特徴を持っていると言われています。その髪の色が何よりの証です。……考えようによっては、大昔の人々が復活したとも取れますし、人々が『先祖返り』という存在を知った場合、神聖化して祀り上げることもあり得るでしょう。しかし、そうなれば、王族からすれば自分達の存在を貶めかねない非常に厄介な存在となるわけです」
何だよ、それ……そんな理不尽なことがあって良いのか?
当主様やリーヴも理不尽だけど、お師匠様の言う通りなら王様こそ理不尽の塊じゃないか。その所為でユミィが嫌な思いをしてきたっていうのに……少し王様にイライラしてきた。
俺は王様に心の中で文句を言いながらも、お師匠様との会話を続けていく。
「それはそうかもしれないですけど……だから、王様達は自分達の立場を守る為にその真実を隠しているって言うんですか?」
「いえ、先ほども言った通り、直接陛下に尋ねたわけではないので、あくまでもそういう可能性があるというだけの話です。ですが、悲しいことに世の中にはそういった可能性が存在するのもまた事実です」
「そうなんですね……」
何て言うか、まだ街から出た事は無かったけど、お師匠様の言う通りなら、どこもかしこも似たような人間ばっかりってことだよな……俺がそうして肩を竦めていると、お師匠様はそんな俺に感心したように声を掛けてくる。
「それにしても、ここの方々も例にもれず『先祖返り』のことを誤解していたように思いましたが……あなたは違うのですね」
「あ、はい。僕はこの魔導書のおかげでユミィが魔力を持っていたことを知っていましたから」
「魔導書……?」
俺の言葉に意外にもキョトンとした仕草で頭を傾げるお師匠様。何というか、十八歳って言ってたけど、お師匠様には悪いけどそうは見えないよなぁ。
見た目も相まって、とても可愛いらしい仕草に微笑みながら俺は肩掛けバッグから例の魔導書を取り出すと、お師匠様の方へと差し出してみせた。
「これです」
「……これはまた、すごい魔力が込められた魔導書ですね」
「やはりそうなのですか? 私には何も書かれていないように見えますが……」
父上が驚いたように声を上げると、お師匠様は俺から受け取った魔導書のページをペラペラとめくった後、顔を横に振って父上の言葉に返した。
「無理もないと思います。この本を読める人間はよほどの魔力の持ち主……それこそ、『先祖返り』を果たしたユミィさんくらいのものでしょう」
「なるほど……では、アシックの言っていた事は本当だったということか……」
「それです。私が気になるのはアシックくんがすでにこれを読んでいた、という事実です」
そう言って、お師匠様は俺の方に視線を向けてくる。
綺麗なお師匠様に見られ少し緊張してしまう中、お師匠様はゆっくりと俺へと近付き、俺のことを興味深そうに観察してくる。
「事前に聞いていた話では、あなた方はつい先日まで魔法を使うことが出来なかったと聞いています。ユミィさんに関しては『先祖返り』という特性上、通常のやり方では魔法の会得は難しい為、魔法を使うことが出来なかったのは分かりますが……アシックくん、これをあなたが読めたというのは本当なのですか?」
「えっと……はい。実際、僕自身も通常の魔法の覚え方では制御ができず、使うことが出来ませんでした。しかし、その魔導書に書かれたやり方で実行したところ、すぐに魔法が使えるようになったんです」
「なるほど……それが事実なら、とてもすごいことですよ」
「え? そうなんですか?」
驚く俺に、お師匠様はゆっくりと頷きながら続きを口にしていく。
「はい。生まれつき魔力の量が多い『先祖返り』の方はまだしも、本来であれば、普通の魔法使いがこれを読むだけの魔力を有するのは一生掛かっても難しいでしょう。実際、ほとんどの方にはただの白紙にしか見えないでしょうから……どういう経緯で入手したのかは分かりませんが、それほどの魔力がこの魔導書には掛かっているんです。なのに、『先祖返り』もせずにその年齢でこの本を読めるなんて……アシックくん、あなたは一体何者なんですか?」
最初に見られていた時よりもさらに鋭い目で見てくるお師匠様に、俺は困惑するものの父上達の手前、どう答えたものかと曖昧な形で答える。
「いや、何者と言われても……『ユーグ家』の『分家』の長男という立場なだけですし……でも、お師匠様も読めるんですよね?」
「……私はこれでも『宮廷魔導士』の資格を得ていますからね。私以外にも魔力の多い人であれば読むことは可能です」
俺の言葉にそう答えたお師匠様だったが……何故か少し視線を下に背けられてしまう。
あれ? もしかして今、地雷踏んだ?
なんか、お師匠様の表情が少し暗くなったような気がするけど……。
しかし、そうしていたのも一瞬、お師匠様は再び顔を上げると話を戻すように言葉を投げ掛けてきた。
「いずれにせよ、この魔導書を他の方が読むのは非常に難しいという事です。あなたが何故読めたのかは今後調査していく必要があるかもしれませんね」
「分かりました。ちなみに、魔導書に魔力が掛かっていたのはその事実を隠す為とか、そういうことなんでしょうか?」
「そうかもしれませんね……過去に『先祖返り』をした人か、あるいは『先祖返り』の真実を何かしらのきっかけで知ってしまった人か……いずれにせよ、公に出来ないからこそ、その魔導書に『先祖返り』のことを記した可能性は十分にあります」
そう考えると、俺達の祖先にも『忌み子』―というより、『先祖返り』した人が居たかもしれないって事か。まあ、世間じゃ例え生まれたとしても隠される存在だし、過去にうちの家系で生まれていたとしても家系図にすら載せてもらえなかったのかも。
ふと気になってユミィの方を見ると、お師匠様の話を聞かされたユミィや父上達も複雑な顔を浮かべていた。『忌み子』という存在が魔導書以外の情報でさらに根本的な考えが変えられたし、無理もない。
そんな中、俺達の様子を見届けたお師匠様はゆっくりとため息を吐いて気分を落ち着けると、俺達の方に向き直り空気を変えるように言葉を向けてくる。
「では、『先祖返り』についてはここまでにして……アシックくん、ユミィさん。今日からあなた達の指導をさせて頂きます。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。お師匠様」
そう俺が答えると、お師匠様は小さく微笑み返してくれたのだった。
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本日、KADOKAWA直営ストアのBOOK WALKER、及び楽天Koboでも『悪行貴族のはずれ息子』の電子書籍版が発売されました!
楽天やKADOKAWAの通販サイトで自分の作品が商業作品と一緒に並んでいるのを見て、一人でテンション上がってました……なんというか、自分の作品が電子書籍とはいえ、本として発売されているというのがとても嬉しいです。
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今後ともよろしくお願いします。
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