Sランクの少年冒険者~最強闇使いが依頼を受けて学園へ~

村人Z

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1巻

1-3

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 勝負は呆気あっけなくついた。
 黒靄ブラウは雷を寄せ付けず、俺はあっさりとメシャフとの距離を詰めた。
 さらに刀に黒靄ブラウの一部を付加して振り下ろす。
 刀の軌跡をなぞるように、一筋の闇がメシャフの真横を通り過ぎ、演習場の地面を深々と斬った。

「降参です~。やっぱり強いですねぇ~、手も足も出ませんでした~」

 しょぼくれながらメシャフが言った。
 底が見えないほど深く割いてしまった地面を覗き込むと、自動防御がほどこされているはずの防壁までも壊れている。
 ……やりすぎたか。
 闇魔法はやっぱり手加減しにくい。もっと修練しなければいけないな。反省反省。
 メシャフは気を取り直すように、一度大きく深呼吸をした。

「それじゃ、授業を受けに行きましょうか~」
「ああ……ん?」

 メシャフがあまりにも自然に言うので、つい乗ってしまった。

「いやいや、お前は豚箱に入るんだよ」
「え~? どうしてですか~? 壁や地面は理事長の施した自動再生式の魔法ですぐに直りますよ~?」
「そうじゃない」

 メシャフは顎に指を当てて呑気のんきに考え込む動作をしている。

「ん~? あ~、ケンカしたと思ってるんですか~? 生徒と教師は戦ってもいいんですよ~?」
「それでもない」
「え~? え~? あ~、教師が教え子にイケナイ遊びを教えたら、さすがに捕まっちゃいますね~」
「――って、どういうことだよ、それ!」

 しらばっくれているのか、それとも本当に分からないのか。メシャフはついに冗談まで言うようになってきた。
 このままではらちがあかない。俺から説明してやらなきゃダメそうだな。

「はぁ……だいたい、なんで俺と戦おうとした?」
「それは好奇心ですねぇ~。その歳でSランクまで上り、魔法学会の本部を壊し、他にもいろいろとやってきたヒスイ君に興味があったのですよ~。それが何か?」
「……えっ?」
「?」

 あ、もしかして俺、早とちりしてたか?
 そういえば、メシャフはただ「戦う」と言っただけで、俺を「殺す」とは一言も言っていない。俺が一方的にそれを「殺し合い」だと認識していただけ、というわけか。
 そもそも、ギルティアスのメンバーだという決定的な証拠はないしな。
 このままだとボロが出てしまうかもしれないので……今は誤魔化ごまかそう。

「あ、ああ。俺の気のせいだった」
「え~? なんですか~。気になるじゃないですか~」

 指でツンツンと俺の胸をつついてくるメシャフ。一見バカそうだけど、こういうやつほど勘が良かったり、意外と頭の中では深く考えてたりするんだよなぁ。
 とりあえず話をそらしておくか……

「俺なんかのことよりも、あの雷天サルデルだっけか。あれはなかなか強かったよ」
「おお~! ですよね、ですよね~。私もその魔法には結構自信があるんですよ~。でも、やっぱりヒスイ君の闇魔法には及ばずでしたけどね~。あの自動で守る靄が邪魔でしたよ~。それに、それに~、刀に闇魔法をまとわせるやつですかね~、とっても格好良かったですよ~! あとはですねぇ~――」

 メシャフは喜々として戦闘の感想を語りまくる。俺に喋る隙を与えてくれない。
 予想以上の反応だ。
 しかし、これで上手く誤魔化せたはずだ。
 なおも語り続けるメシャフだったが、授業開始を知らせる鐘のが聞こえてくると、驚いて飛び上がった。

「しまったです~! 夢中になりすぎて、授業のことを忘れていました~!」

 メシャフは慌てて走り出した。
 どこに行けばいいか分からない俺は、彼女の後についていくしかない。
 つくづく、この学園には適当なやつしかいねーのかよ……
 メシャフが向かった場所は職員室だった。
 職員室は向かい合った机が所狭ところせましと並び、どの机にも資料と思われる紙が山と積まれていた。すでに授業時間だからか、教師の数はまばらだった。

「へぇ、君がもう一人の二年生に入学する子か」

 メシャフに紹介されたのは、青髪で、優男やさおとこ風の青年。どこかで見たことある……そんな印象がするのは、こいつが典型的な教師の風貌ふうぼうだからか?

「メシャフ先生。あとは僕に任せて、三年生の教室に向かってください」
「はい~。では、遅刻してるので、お言葉に甘えますね~。あとは頼みます、ヒューリアン先生」

 男は二年生を担当する教師。ヒューリアンという名前らしい。
 俺もユアと同じ二年生なのか。
 そして、メシャフは三年生担当ということが今判明した。

「じゃあ、行こうか」

 ヒューリアンがそう言って歩き出した。
 職員室を出て廊下を進む。俺も黙ってその後ろについていく。

「君は平民だよね?」

 唐突な質問だった。

「ああ」

 嘘をついてもすぐにバレるだろうから、俺は素直すなおに答えた。

「そうかい。ちなみに、人間族なんだよね?」
「人間族以外に、どの種族に見えるんだ?」
「ははっ。念のためさ」

 ヒューリアンが笑った。だが、俺を振り返った彼の笑みには、差別と嘲笑が込められていた。その顔を見ただけでもすぐに分かった。
 こいつは――

「なら、あまり僕に話しかけないでくれよ? 平民ごときと話すと、貴族様と話す時のテンポを忘れてしまうからね」

 ――差別する人間なんだな。
 喋り方だけは優しそうだが、こいつには明らかに悪意しかない。厄介な教師だ。
 大体なんだよ、話す時のテンポって。そんなに気をつかうほど貴族のやつらは相手するのが面倒なのかよ。

「見えてきたね。あれが二年生の教室だよ」
「二年」と書かれた室名札が見えてきた。
 ていうか、お前が俺に話しかけるのはアリなんだな。なんて鬼畜ルールだよ。
 文句の一つでも言おうかと思ったが、その暇もなくヒューリアンが教室の扉を開けた。

「おはようございまーす」

 やる気のない挨拶。教室にいる全員の視線がヒューリアンと、その後ろにいる俺に集中した。
 教室は二年生全員が入れるだけあって大きい。全部で百か二百はいそうだな。
 ユアは一番後ろの席に座っていて、周りには数人の獣人族の連中が集まっている。
 新入りの挨拶ってところか。暴力的な意味じゃなくて、仲良くしようねーみたいな感じの。

「みんな席に座ってねー。まずは新しい子たちの紹介からいくよー」

 教卓の前に立ったヒューリアンがユアを指差した。

「見ての通り、獣人族の可愛い女の子だよ。名前はユア・ミューリュッフィちゃん。もう仲良くしている子が何人かいるね」

 教室中が沸き立った。主に男子たちが。
 次に、ヒューリアンの指先が俺に向いた。

「平民のヒスイ君。よろしくしてやってね」

 ユアの時とは違ってぞんざいな紹介だ。
 それを受けて、貴族の子弟らしきやつらがこっちを鋭く睨んでくる。
 ヒューリアンが言った「よろしくしてやってね」ってのは、要するに生意気しないようにしつけろよってことか。
 あーあ。これだから学校は面倒なんだよな。

「席は自由だから、勝手に座ってね」

 なおも優しい教師のフリをし続けるヒューリアン。もう本性バレバレなんだから、もっと正直に振る舞ってもいいのに。
 まぁ、席が自由だっていうのなら勝手に座るかな。一番後ろの窓側がいいか。
 極力目立ちたくないから、ああいう隅っこが一番なんだ。
 次に、学年の中でどの授業を受けるか決める必要があるようだ。
 実戦科、魔法科、近接戦闘科、治癒ちゆ科、他にも色々あるみたいだな。
 俺は魔法を含めた戦闘技術の実技を中心に履修する実戦科を選んだ。
 ユアは魔法科を選択したようだ。
 あいつの場合は近接戦闘科の方がいいと思うんだがな。
 魔法はすでに十分。さらに接近戦もできるようになれば、相当な実力を持てるはずなのに。
 まあ、こういうのは自分で気づくのが一番だ。
 もっとも、この学園のレベルだと学ぶものがないから、選んでも無意味かもしれないけどな。




 2


「はーい。じゃあ、みんな木剣を構えてね」

 ヒューリアンが第三演習場のど真ん中で言った。彼が実戦科の授業を担当しているらしい。
 俺は事前に配られた木剣を正眼せいがんに構える。

「それじゃ、適当に周りの人と打ち合って。一撃でも誰かの攻撃を受けた人は演習場から出ていってね」

 バトルロイヤル形式か。
 それにしても雑な教え方だな。普段からこんな授業なんだろうけど、俺でももう少しマシに教えられるぞ。
 周りからはカンカンと木剣同士が打ち合う音が聞こえはじめた。

「でぇや!」

 俺の背後から気合の声が響く。
 さっきから存在感を消していた俺に、剣を向けるやつが現れたようだ。
 振り向かずに二、三歩前に歩く。
 すると後ろから「うおっとっと!」と慌てる声がした。標的を失って剣が空振りに終わったのだ。
 俺は振り返って、一撃入れようとした猿っぽい顔の生徒の肩に木剣を当てる。   
 本気を出すと肩が砕けかねないので、あくまで優しく打つ。

「チッ。参った」

 うわ、舌打ちされた。
 でもそれ以上突っかかってくることはなく、そいつは大人しく演習場を出て行った。
 それからも何度か俺に攻撃を加えようとするやつがいたが、避けては一発入れるだけの簡単な作業の繰り返しだった。
 だんだん演習場にいる人間が少なくなってきた。
 そろそろ俺も出るか。目立ちたくないし。最後まで残ってたら確実に注目されるもんな。
 黙って演習場の扉まで歩いていくと、ヒューリアンから声をかけられた。

「待って。君、誰かに攻撃された?」
「ああ、腹に打撃があったよ」
「そうかい」

 嘘だけどね。
 ヒューリアンは俺の嘘に気づいてないのか、それとも興味を失ったのか、あっさり納得して、別の生徒の監視をはじめた。
 演習場を出る際、ふと背後から視線を感じた。
 まだ顔を合わせたことのないやつが見ているのか。気になって振り返ってみたが、結局誰なのか分からずじまいだった。
 しかし、授業時間が終わって、あっさりその視線の主が分かった。


「おい、平民。ついてこい」

 短く切られた赤髪の目つきが悪い少年が、横柄おうへいな態度で俺を呼んだ。
 赤髪少年の後ろには腰巾着こしぎんちゃくのようなやつらがひかえている。その中の一人は、さっきの授業で俺が肩に一撃打ち込んだやつだ。
 断っても面倒事になりそうだし、俺は了承の返事をした。
 腰巾着によって逃げられないように囲まれた状態で、赤髪の少年の後をついて歩く。
 いやまあ、簡単に逃げられるんだけどね。

「ここでいいか」

 連れてこられたのは、校舎の裏にあるちょっとした森だった。木々や雑草が生い茂っているので外からは完全に死角になっていて、誰かに見られることはないだろう。

「さっきボシから聞いたが……平民、あまり調子に乗るなよ? それがこの学校でお前らが生き残るための知恵だ」

 赤髪の少年が俺の襟を掴んですごんだ。
 そのまま俺は突き飛ばされて、背中を木にぶつける。

「貴族に手を出したらどうなるかくらい分かっているだろう? お前の家なんて簡単に潰せるぞ?」

 少年がたいして怖くもない目で俺を睨む。

「あっそ。お好きにどうぞ」
「チッ。だから言っているだろうが。あまり調子に乗るな、と!」

 腹に一発もらった。
 全然重たくない拳だな。それこそ、に刺されるレベルだぞ。手加減でもしてるんじゃないか?

「もう一回やられたくなければ、大人しくしていることだな」

 そう言って赤髪の少年は颯爽さっそうと歩き去り、腰巾着の数人は彼についていった。
 俺が一撃食らわせたやつを含む三人はまだこの場に残って、ゲスのような笑みを浮かべている。

「デルデアス様は優しいなぁ、相変わらず。でも、俺は違うぜ? ぐしし」

 さっきの赤髪はデルデアスっていうのか。

「よぉ、平民。俺はボシっていうんだ」
「授業中に俺の後ろから剣を振ってきたやつだろ?」
「ああ……結局はやられちまったけど、なッ!」

 ボシ。猿っぽい顔のやつがまた俺の腹を殴ってきた。
 実害なさそうだし、このままやらせてやるか。

「ぐしし……もうこの辺で許してやるよ……」

 肩で息をしている猿顏のボシ。正直言って、痛いと感じたパンチは一度もなかった。
 殴られた俺の腹じゃなくて、逆にボシの手が赤く腫れ上がっているくらいだ。

「ああ、そろそろ授業だから、終わりにしとけ」
「生意気なやつだな……まだりてねぇのか……?」

 再度殴ろうと構えるボシ。
 目立ちたくないからやり返さないだけなんだけど……いっそ、逆に目立ちまくってユアを動きやすくするっていうプランに変更して、こいつら全員殴り倒してやろうかな。
 ――と、思っていると、ボシの後ろにいるやつが冷静に言った。

「マジでそろそろ授業が始まっちまうぞ。続きはまた今度にして、早く行こうぜ」
「チッ……しょうがねぇな。おい、平民。ここには貴族の学校だ。立場をわきまえろよ。あまり調子に乗っていると、もっといてェ目にあってもらうことになるからな?」

 それだけ言うと、ボシはデルデアスと同じ方向に歩いていった。
 俺も少し間を空けて後を追って、次の授業の場所を目指すことにした。


  ◆


「……迷った」

 やつらと同じ道を歩けばいいだけのはずなのだが、予想以上に複雑な森だったようだ。
 この学園の大きさをめていた。
 もう鐘が鳴ったのに……面倒くせえな。
 これからどうしようか考えていると、後ろからガサガサと草木がこすれる音がした。
 振り返ると、木々と見間違えてしまうほどの鮮やかな緑色の髪をした少女がいた。見た目は幼いが、制服を着ているところをみると、学園の生徒のようだ。

「……誰?」

 少女は俺に眠そうな目を向けて、出し抜けにぽつりと呟いた。

「いや、それはこっちのセリフな」
「私……シニャ・フィルド……」
「俺はヒスイだ」
「……家名は?」

 苗字を名乗らないことに違和感を覚えたのだろう。
 この王国では、苗字がない連中は平民と決まっている。緑色の髪をしている少女――シニャも「フィルド」という家名が付いているので、間違いなく貴族だ。

「家名はない」
「……そう。授業、いいの?」
「ん、なんつーか、道に迷った」
「……ついてきて」

 シニャは態度を変えずに手招きした。
 平民を差別しないのだな。珍しい。
 貴族になったばかりで、元は平民の一族なのだろうか。まあ、あまり深く関わる必要はない。
 どうやら道案内してくれるようだし、下手に質問して機嫌を悪くされても面倒だからな。
 俺が頷いて了承を示すと、シニャの方も「……うん」と言って、歩き出した。

「……」
「……」

 会話はない。
 シニャはあまり喋らないタイプみたいだ。あるいは眠たいだけなのかもしれない。
 目を見ても眠たそうに半開きだ。

「……着いた」
「お――ん?」

 シニャがようやく口を開いた。それは俺にとって嬉しい知らせとなるはずだったのだが。
 俺が連れてこられたのは、木漏こもれ日が綺麗きれいに照らす森の中の廃屋はいおくだった。
 建物は生い茂る木の根や草などにむしばまれて、見事なまでに周囲に溶け込んでいる。
 なかなか神秘的な光景だ。

「ここ、どこ?」

 俺は当然の疑問を口にする。

「……研究室」
「誰の?」
「……私の」
「なんで俺をここに連れてきた?」
「……魔力が多そうだったから。いい『実験材料』……」

 ハメられた……。そういえばシニャは「ついてきて」とは言ったが、森の外へ連れて行くとは言ってないな。
 しかも、けっこう歩いたぞ。森の奥にまで来たんじゃなかろうか。
 可愛い顔して、なかなかやりやがる。

「……行こ」
「いや、俺は授業があるから無理だ」
「……授業は出なくても大差ない。成績は月一のテストで全て決まる……」

 こんな森の奥で、どんな研究をしているのか。そして、俺の魔力を測れるだけの力を持つ小さな彼女に興味が湧いてきた。
 彼女の言う通りなら、ほんの少しくらい授業をサボってもよさそうだ。ヒューリアンには、ボシやデルデアスにボコられたって言えば見逃してくれるだろう。

「しゃーねーな。少しだけだぞ」
「……わーい」

 あまり表情を変えずにシニャが喜んだ。口ぶりはともかく、眠たそうな目には変化が一切ない。
 それでもどこか愛嬌あいきょうのある彼女とともに、廃屋に入った。
 シニャの研究室は外から見ると廃屋同然だが、中は予想外に清潔だった。考えてみれば、外見も草木と絡み合っているだけで、建物自体は割と綺麗か。
 室内には木の椅子が三つ、大きなテーブルが部屋の中心に一つ、他には複雑な文字が書かれた資料のような紙がそこかしこに散らばっている。
 シニャは迷わず奥の椅子に座った。定位置なのだろうか。
 俺はシニャと向かい合う、玄関に近い位置の椅子に座る。

「……魔法についてどれくらい知ってる?」

 ――魔法。
 唐突なシニャの質問を受け、俺は一旦頭の中で情報を整理する。
 元々は単一魔法の火・水・土・風の四つの属性しかなかった。
 しかし、人が進化するにつれて魔法の種類も増えている。例えば爆・氷・雷・聖などだ。
 各魔法の強さは下位<中位<上位<王位<神位の順に強くなる。
 下位を一つ覚えるには一年ほどの月日が必要とされ、中位は三年ほどが平均だ。
 上位は一般の者であれば五年の年月をかけて到達できる他、知性のある高等の魔物が使うこともある。
 王位を身につけるには多大な年月を費やさなければならない。それこそ十年や二十年は必要だ。その者の保有魔力や才能次第で一生に一つしか覚えられない場合もある。
 よって、習得する王位魔法の選択に、一ヵ月以上時間をかけて熟考する者もいるほどだ。
 だが最近になって、単一魔法の王位を習得するよりも、混合魔法を習得した方が効率的だという考え方が有力になってきた。
 混合魔法とは、単一魔法同士の合成により威力と範囲を格段に上昇させるものだ。場合によっては、単一魔法の上位よりも、混合魔法の中位の方が強いこともある。
 つまり、組み合わせ次第では比較的短期間で単一魔法の王位に匹敵する魔法を四、五個習得できることになる。
 もちろん、混合魔法の元となる単一魔法を二つ以上保有している必要があるため、文字通り「才能」が必要なのだが……

「……基礎は知ってるのね」
「――!? 待て、俺は何も言ってないぞ?」
「……言わなくても分かる」

 なるほど、俺の視線や思考時間を考慮すれば――いや、無理だろ。
 人の考えていることを読みとる魔法なんて未知の技術じゃないか。まさかこのシニャも、昔の俺と同じように世間に認知されていない魔法を持っているのか?

「……冗談。本当は勘」
「だろうな……」

 真顔で言うから、つい本気にしてしまった。シニャが冗談を言うなんて想像すらできていなかった。

「失礼な。冗談くらい言う」
「……お前、絶対に人の考えを読む魔法を持っているだろ?」
「これも冗談」

 心なしか、シニャの表情が楽しそうに見える。
 本当に心を読み取る魔法を持っていそうで不安だが、さすがに混乱してきたので、とりあえず冗談ってことにしておこう。
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