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クローバーの葉四つ
鮮烈なるピンク
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「これがオブジェだ。返却されてから特に触ってはいない」
持ってきたオブジェを机に置き、七道先輩は続ける。
「所々ささくれがあるから気をつけてくれ、あとネジもまだ何本か中に入ってるかもしれん」
ひとねがオブジェを持ったのを見て、七道先輩は背を向ける。
「じゃあ、また何かあれば……」
「いや、このまま居てくれて構わない」
オブジェを数回振った後、ひとねは向きを変えて机に置く。
「これは壊す予定の物だったね、今壊しても?」
「構わん」
「なら遠慮なく。下里さん、この葉の外側を壊してくれる?」
「合点承知!」
下里がハンマーをぶんぶん回す。何処から持ってきたそのハンマー。
一度目、変化無し。二度目、亀裂が入る。そして振りかぶる三度目。
「10tハンマー!」
虚偽報告のハンマーが葉の一枚を砕く。
かいてもない汗を拭う仕草の後、中から出てきた物を見て下里は目を輝かせた。
「これって……羽柴先輩の?」
「ああ、アイツが渡す予定だった物だ」
中から出てきたのは四葉のクローバーのキーホルダー。根本のネジに引っかかる形でぶら下がっている。
「……ピニャータサプライズ?」
下里の視線を受けてひとねが説明を始める。
「始まりは新聞部の取材だった」
*
「新聞部に取材されてしまった羽柴孝一、彼は記事にされる事が嫌だった。しかし彼の元にあるクローバーのキーホルダーが見つかってしまえばいい訳の余地なく押し切られてしまう。
そこで彼は咄嗟にキーホルダーを隠したんだ……近くにあったオブジェの中に。
見ての通り今年のオブジェは隙間が多い、キーホルダーを入れるのは簡単だっただろう」
キーホルダーに視線が集まる。確かに簡単に入るサイズである。
「新聞部を上手く交わした後、彼はオブジェからキーホルダーを回収しようとした。そうだね……傾けて隙間の近くまでキーホルダーを落とし、指で取れば簡単だろう。しかしキーホルダーは出てこなかった、不運にもキーホルダーはひっかかってしまっていたんだ」
まだ誰も触っていないキーホルダーは確かにネジに引っかかっている。
「人に見える場所でオブジェに触るのにも限界がある。彼は一時的にオブジェを拝借し、別の場所でキーホルダーを取り出す事にした。選んだのは工芸室、美術室も人が少なくいざとなれば隠せる場所だったが……美術室には工具類がない」
「でもひとねちゃん、工芸室の工具も使えないんじゃない? 鍵をかけてたんでしょ?」
「ああ、それが羽柴孝一の誤算だね。せっかく工芸室に行ったのに工具が使えない。そうこうしているうちにオブジェの紛失が見つかり、新聞部が記事にした。記事によって存在しない怪盗が作られたのを知った彼はそれを利用する事にした。
怪盗を称して必要な道具を集めたんだ」
ピンセット、マグネット、ドライバー。確かにオブジェの中に入ったキーホルダーを取り出すのに使えそうな物ばかりである。
「怪盗クローバー……羽柴孝一の動機が何だったか、もう言う必要は無いね?」
七度先輩は眉間に皺を寄せ。
「とりあえず新聞部に苦情は出しておく」
と一言。俺たちに礼を言うと複雑そうな表情を浮かべて部室を去った。
やむを得ない理由だけれど学校側に言うのも憚られる、分かってもどうしようもない事実だったのだから仕方がない。
下里がホワイトボードの文字を消し、ひとねが伸びをする。
「やっと終わったね」
「いえ、申し訳ありません藤宮探偵。もう一つだけ仕事が」
森当くんが言い終わると同時に部室の扉が勢いよく開かれた。
「新聞部のJJです! 実行委員長が出ていくのをお見かけしました、トリックが解けたという事ですね!」
ひとねが大きく息を吸う。きっとため息となって返ってくるのだろう。
文化祭の薔薇色は、思ったより長く付きまとってくるらしい。
持ってきたオブジェを机に置き、七道先輩は続ける。
「所々ささくれがあるから気をつけてくれ、あとネジもまだ何本か中に入ってるかもしれん」
ひとねがオブジェを持ったのを見て、七道先輩は背を向ける。
「じゃあ、また何かあれば……」
「いや、このまま居てくれて構わない」
オブジェを数回振った後、ひとねは向きを変えて机に置く。
「これは壊す予定の物だったね、今壊しても?」
「構わん」
「なら遠慮なく。下里さん、この葉の外側を壊してくれる?」
「合点承知!」
下里がハンマーをぶんぶん回す。何処から持ってきたそのハンマー。
一度目、変化無し。二度目、亀裂が入る。そして振りかぶる三度目。
「10tハンマー!」
虚偽報告のハンマーが葉の一枚を砕く。
かいてもない汗を拭う仕草の後、中から出てきた物を見て下里は目を輝かせた。
「これって……羽柴先輩の?」
「ああ、アイツが渡す予定だった物だ」
中から出てきたのは四葉のクローバーのキーホルダー。根本のネジに引っかかる形でぶら下がっている。
「……ピニャータサプライズ?」
下里の視線を受けてひとねが説明を始める。
「始まりは新聞部の取材だった」
*
「新聞部に取材されてしまった羽柴孝一、彼は記事にされる事が嫌だった。しかし彼の元にあるクローバーのキーホルダーが見つかってしまえばいい訳の余地なく押し切られてしまう。
そこで彼は咄嗟にキーホルダーを隠したんだ……近くにあったオブジェの中に。
見ての通り今年のオブジェは隙間が多い、キーホルダーを入れるのは簡単だっただろう」
キーホルダーに視線が集まる。確かに簡単に入るサイズである。
「新聞部を上手く交わした後、彼はオブジェからキーホルダーを回収しようとした。そうだね……傾けて隙間の近くまでキーホルダーを落とし、指で取れば簡単だろう。しかしキーホルダーは出てこなかった、不運にもキーホルダーはひっかかってしまっていたんだ」
まだ誰も触っていないキーホルダーは確かにネジに引っかかっている。
「人に見える場所でオブジェに触るのにも限界がある。彼は一時的にオブジェを拝借し、別の場所でキーホルダーを取り出す事にした。選んだのは工芸室、美術室も人が少なくいざとなれば隠せる場所だったが……美術室には工具類がない」
「でもひとねちゃん、工芸室の工具も使えないんじゃない? 鍵をかけてたんでしょ?」
「ああ、それが羽柴孝一の誤算だね。せっかく工芸室に行ったのに工具が使えない。そうこうしているうちにオブジェの紛失が見つかり、新聞部が記事にした。記事によって存在しない怪盗が作られたのを知った彼はそれを利用する事にした。
怪盗を称して必要な道具を集めたんだ」
ピンセット、マグネット、ドライバー。確かにオブジェの中に入ったキーホルダーを取り出すのに使えそうな物ばかりである。
「怪盗クローバー……羽柴孝一の動機が何だったか、もう言う必要は無いね?」
七度先輩は眉間に皺を寄せ。
「とりあえず新聞部に苦情は出しておく」
と一言。俺たちに礼を言うと複雑そうな表情を浮かべて部室を去った。
やむを得ない理由だけれど学校側に言うのも憚られる、分かってもどうしようもない事実だったのだから仕方がない。
下里がホワイトボードの文字を消し、ひとねが伸びをする。
「やっと終わったね」
「いえ、申し訳ありません藤宮探偵。もう一つだけ仕事が」
森当くんが言い終わると同時に部室の扉が勢いよく開かれた。
「新聞部のJJです! 実行委員長が出ていくのをお見かけしました、トリックが解けたという事ですね!」
ひとねが大きく息を吸う。きっとため息となって返ってくるのだろう。
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