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クローバーの葉四つ
薔薇色の語り部
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『これより、文化祭を開催します』
審査員問題をなんとか片付けたらしい生徒会長の号令で文化祭が始まる。
反応はそれぞれである。歓声を上げる者、急いで体育館を出ていく者、この後に始まるオープニングライブを待っている者。
文化祭ではここでの点呼が出席確認となる為、全校生徒が一斉に動き出す。
出入り口のおしくらまんじゅうが終わったところで立ち上がる。渋滞はないが未だ人は多い。
オープニングライブの音漏れを背に受けながら本館のメイン通路から逸れると人は殆どいなくなる。
この先に通常教室は無く、文化祭に参加している部活も殆どいない。
向かうのは文化祭に参加しながらもその喧騒から離れた最果て、図書室である。
俺たち図書部の部室は図書室のさらに奥、旧司書室だが、文化祭中は図書室の一角を使用する事になっている。
文化祭中は本の貸し出しが禁止されている為、一角以外は机で封鎖されており広々と使えるわけでは無いのが残念だ。
図書室の扉を開くと部室から出てきた下里と目が合った。目どころか全身がキラキラした彼女が心底楽しそうに駆けてくる。
「先輩、文化祭です!」
「分かってるよ、それより看板はどうした」
「か弱いわたしは運べませーん。ジエーくんにお任せです」
「僕も力がある方ではないのですけれど……」
部室からヨタヨタと森当くんが少しずつ出てくる。
数日前に俺が見た看板は片手で持てるくらいのサイズだったけど……
「なんかデカくなってない?」
「ただでさえ目立たない場所なのです、看板が小さくてどうしますか! あ、小さいのは宣伝としてどっかにこっそり置くつもりなのでご安心を」
「それ、怒られないか?」
「堂々としてれば許可を貰ったと皆勘違いしますよ」
「ええ……」
やっとこさ部室から這い出してきた森当くんが肩で息をしながら自身の身長より高い木製看板を机にもたれさせる。
「健斗先輩、お手隙なら助力をー」
「ああ、わかった」
看板を横にして片側を持つ。チラリと部室内を見たが人影は無い。
「ひとねはどうした」
「わかんないでーす」
まあ設営終わりくらいに来るのだろう。期待はしない。
看板、売店の設置が終わったところで予想通りひとねは現れた。
「おや、もう設営は終わってしまっていたか。これは悪いことをしたね」
わざとらしい口調も予想通り、しかし想像を超えてきた物が一つ。
「……手に持ってるのはなんだ」
「知らないのかい?」
ひとねは袋に入ったソレを一つ口に放り込む。
「サーターアンダギーという沖縄のお菓子だよ。一般的なのより小さいがこれはこれで食べやすくていいものだ」
「なんでそれを持ってるんだ」
「買ってきたからだよ」
「製菓研のやつだよね。ひとねちゃんもう買ってきたの?」
文化祭を一番満喫するのは恐らく下里だがいち早く満喫しているのはひとねらしい。
設営も手伝わずに個人的買い物をしてくるとは……俺達からの白い目を受けてもひとねは動じない。
色々な甘味が入っているであろうビニール袋を机に置き、ひとねは何故か得意げに言う。
「君たちはわたしに感謝する事になる」
「お裾分けでもしてくれんのか?」
「あげるわけないだろう?」
ですよね。甘味の代わりに出てきたのは一枚の首掛け札。
「文化祭販売許可証。コレがないと売り子は職なしになるよ」
去年の文化祭で未許可模擬店が出没した影響で今年からはこの許可証が必要になった。店一つにつき一枚、出店中は売り子の一人が常に首からぶら下げておかなければいけない。
複製等を防ぐために配布は当日、決まりはないが基本的に部長が取りに行くようになっている。俺たちも基本に習って担当を用意する事は無かった。
「ほら下里さん、頼まれていた許可証だ」
「え、わたし頼んで……」
下里は受け取った許可証を少しの間見つめ「なるほど!」という顔をした。
「頼んでました。ありがとう!」
「下里……」
この大義名分によりひとねの甘味購入はただ通りがけに寄っただけとなった。
まあそれはどうでも良い。
許可証を首から下げた下里に缶を渡す。クッキーの写真が映っているが中身は硬貨である。
「もう一回売り子の説明しとくか?」
「大丈夫です! わたしは部長ですよ?」
ここら辺の設営を考えたのは俺と森当くんだ。下里がやっていたのは看板などの宣伝系である。ひとねは隙あらばサボろうとするので見つけた方が捕まえて仕事を与えていた。
まあ、大丈夫というなら大丈夫だろう。
準備があらかた済んだところで下里がスマホを振って注目を集めた。
「みなさん、シフトはグループに貼ってますのでもう一度確認しておいて下さいね。何かあったら部長たるわたしまで!」
ここでチャイムが鳴る。文化祭中は九時、正午、十七時のみチャイムがなるようになっている。
九時のチャイムと十七時のチャイムが各模擬店の開始と終了の合図になっているが、ひとねが甘味を買ってきたところを見るにあまり守られてはいないようだ。
余韻のスピーカー音が止まったところで下里が机に値段の書かれた立て札を置く。
「設営終了! 頑張りましょー!」
先ほども言ったがこの文化祭を一番楽しむのは下里だろう。この四人の中で選ぶとしたら、今回の主役は彼女である。
審査員問題をなんとか片付けたらしい生徒会長の号令で文化祭が始まる。
反応はそれぞれである。歓声を上げる者、急いで体育館を出ていく者、この後に始まるオープニングライブを待っている者。
文化祭ではここでの点呼が出席確認となる為、全校生徒が一斉に動き出す。
出入り口のおしくらまんじゅうが終わったところで立ち上がる。渋滞はないが未だ人は多い。
オープニングライブの音漏れを背に受けながら本館のメイン通路から逸れると人は殆どいなくなる。
この先に通常教室は無く、文化祭に参加している部活も殆どいない。
向かうのは文化祭に参加しながらもその喧騒から離れた最果て、図書室である。
俺たち図書部の部室は図書室のさらに奥、旧司書室だが、文化祭中は図書室の一角を使用する事になっている。
文化祭中は本の貸し出しが禁止されている為、一角以外は机で封鎖されており広々と使えるわけでは無いのが残念だ。
図書室の扉を開くと部室から出てきた下里と目が合った。目どころか全身がキラキラした彼女が心底楽しそうに駆けてくる。
「先輩、文化祭です!」
「分かってるよ、それより看板はどうした」
「か弱いわたしは運べませーん。ジエーくんにお任せです」
「僕も力がある方ではないのですけれど……」
部室からヨタヨタと森当くんが少しずつ出てくる。
数日前に俺が見た看板は片手で持てるくらいのサイズだったけど……
「なんかデカくなってない?」
「ただでさえ目立たない場所なのです、看板が小さくてどうしますか! あ、小さいのは宣伝としてどっかにこっそり置くつもりなのでご安心を」
「それ、怒られないか?」
「堂々としてれば許可を貰ったと皆勘違いしますよ」
「ええ……」
やっとこさ部室から這い出してきた森当くんが肩で息をしながら自身の身長より高い木製看板を机にもたれさせる。
「健斗先輩、お手隙なら助力をー」
「ああ、わかった」
看板を横にして片側を持つ。チラリと部室内を見たが人影は無い。
「ひとねはどうした」
「わかんないでーす」
まあ設営終わりくらいに来るのだろう。期待はしない。
看板、売店の設置が終わったところで予想通りひとねは現れた。
「おや、もう設営は終わってしまっていたか。これは悪いことをしたね」
わざとらしい口調も予想通り、しかし想像を超えてきた物が一つ。
「……手に持ってるのはなんだ」
「知らないのかい?」
ひとねは袋に入ったソレを一つ口に放り込む。
「サーターアンダギーという沖縄のお菓子だよ。一般的なのより小さいがこれはこれで食べやすくていいものだ」
「なんでそれを持ってるんだ」
「買ってきたからだよ」
「製菓研のやつだよね。ひとねちゃんもう買ってきたの?」
文化祭を一番満喫するのは恐らく下里だがいち早く満喫しているのはひとねらしい。
設営も手伝わずに個人的買い物をしてくるとは……俺達からの白い目を受けてもひとねは動じない。
色々な甘味が入っているであろうビニール袋を机に置き、ひとねは何故か得意げに言う。
「君たちはわたしに感謝する事になる」
「お裾分けでもしてくれんのか?」
「あげるわけないだろう?」
ですよね。甘味の代わりに出てきたのは一枚の首掛け札。
「文化祭販売許可証。コレがないと売り子は職なしになるよ」
去年の文化祭で未許可模擬店が出没した影響で今年からはこの許可証が必要になった。店一つにつき一枚、出店中は売り子の一人が常に首からぶら下げておかなければいけない。
複製等を防ぐために配布は当日、決まりはないが基本的に部長が取りに行くようになっている。俺たちも基本に習って担当を用意する事は無かった。
「ほら下里さん、頼まれていた許可証だ」
「え、わたし頼んで……」
下里は受け取った許可証を少しの間見つめ「なるほど!」という顔をした。
「頼んでました。ありがとう!」
「下里……」
この大義名分によりひとねの甘味購入はただ通りがけに寄っただけとなった。
まあそれはどうでも良い。
許可証を首から下げた下里に缶を渡す。クッキーの写真が映っているが中身は硬貨である。
「もう一回売り子の説明しとくか?」
「大丈夫です! わたしは部長ですよ?」
ここら辺の設営を考えたのは俺と森当くんだ。下里がやっていたのは看板などの宣伝系である。ひとねは隙あらばサボろうとするので見つけた方が捕まえて仕事を与えていた。
まあ、大丈夫というなら大丈夫だろう。
準備があらかた済んだところで下里がスマホを振って注目を集めた。
「みなさん、シフトはグループに貼ってますのでもう一度確認しておいて下さいね。何かあったら部長たるわたしまで!」
ここでチャイムが鳴る。文化祭中は九時、正午、十七時のみチャイムがなるようになっている。
九時のチャイムと十七時のチャイムが各模擬店の開始と終了の合図になっているが、ひとねが甘味を買ってきたところを見るにあまり守られてはいないようだ。
余韻のスピーカー音が止まったところで下里が机に値段の書かれた立て札を置く。
「設営終了! 頑張りましょー!」
先ほども言ったがこの文化祭を一番楽しむのは下里だろう。この四人の中で選ぶとしたら、今回の主役は彼女である。
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