怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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悪魔と狸と時々探偵

眠り明けに調査は始まる

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「疲れたから帰れ。明日こい」
 その一言で俺たちはいったん解散した。
 そして翌日やってきた男にひとねは色々と質問をしていた。
「手にタコがあるな。見せてくれ」
「はい」
 見せられた手。特に右手にタコやマメが多いようだ。第二関節とか手のひらの下なんかも少し黄色い。
「右が重点的……右利きは多いからなぁ」
「そうですか……」
 少し落ち込む男の顔は平均的。街ですれ違っても全く違和感を覚えない、特徴の無い顔だ。
「なにか思い出せる事はないか? 狸寝入りはそこまで高位な怪奇現象では無いから少しくらいは記憶が残っている筈だ」
 男は目を閉じて耳を塞ぎ、しばらくしてから小さく口を開いた。
「……合掌」
「合掌?」
 合唱じゃなくて合掌。南無阿弥陀である。
「合掌すると言ったら……寺か神社かな」
「あの、それって手を叩いてますか?」
 俺が聞くと男は目を閉じて口を開く
「叩いてます……パチッと」
 所々黄色く硬くなっている手が合わさるのを見て確定した。
「ひとね、寺じゃなくて神社だ」
「ん? そうなのかい?」
「確か叩くのが神社、静かなのが寺だったはず」
 もちろん一般的なものだけど。特例はあるだろう。神社の方は正しくは拍手らしいけど……まあ合掌にも見えるだろう。
「神社の神主か何かかな? それならば範囲内の神社を回れば済むだろう」
「範囲内?」
 ひとねは頷いてこほんと咳払い。これは怪奇現象の説明をする時の癖らしい。
「狸寝入りには行動範囲がある。君が幽体として目覚めたのは何処だい?」
 ひとねがパソコンに地図を出すと男は迷いながらも地図上のある場所を指した。
 何の変哲もない道である。
「そこから範囲内を地図に示す」
 ひとねが操作をすると画面の一部が薄青丸く染まる。
「どうやってそんなことしたんだよ」
 お前数年間寝てたわりにはなんだそのパソコン知識。
「いや、知らない」
「はぁ?」
「何故かは知らないけどこのパソコンにそういうプログラムがあったんだ。私はそれを使っているだけだよ」
「……なんだ」
「なんだとは失礼な」
 ひとねは俺に背を向けてパソコンを操作する。青丸い範囲の中に赤色の点が幾つか現れた。
「これが範囲内の神社。ここを巡れば君の身体は見つかるだろう」
 そう言ってひとねは立ち上がる。
「……何まったりお茶を飲んでいるんだ、はやく立ちたまえ」
「……は?」
 動くのか? ひとねが?
 確かに最近外に出るようにはなったが、今回は別に出なくとも解決したも同然だというのに。
「この推理が間違っていたら再推理だろ? 時間をあまりかけるわけにも行かないしね」
 ひとねは少し間を置いてドアノブにてをかける。
「ま、君が行かないというのなら止めないけど」
「いやまて、行く。行くから!」
 ひとねを一人で外に出すとか……なんか怖い。具体例はないがなんか怖いのだ。
 焦った俺が立ち上がったのを見てひとねは悪戯な笑みを浮かべた。
「お人好しの君なら、そういうと思っていたよ」
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