怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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ロスト・ホーム

年・相違

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 地下に陽が入る事はない。だから目を覚ましたけれど今が朝なのか夜中なのかもわからない。
 いつもと違う布団のせいか強張った身体くねらせて起き上がる。
 あの後帰るところもないので俺と森当くんはそのまま地下図書館に泊まった。
 久々に立つキッチンで簡単な料理を振る舞い、トシと少しばかり話をしてから眠りにつき……今に至る。

 時計の場所がわからない。繋がらないスマホだけど時計にはなる、そう思って置いていた上着のポケットを探っていると勢いよく扉が開き、元気な声とその主が突進する闘牛の如く飛び込んできた。
「おっはよーございまーす!」
「……いま何時だ」
 闘牛少女……下里に目をやる。
 彼女は正座し、旅館の女将かのようにお辞儀をする。
「朝の七時でございます」
「なんだその落差、てか早いな」
 時間を打ち合わせてはいなかったがなんとなく学校が始まる八時半以降だと思っていた。
「明日以降はわたしたち学校なので、今日が一番時間を使えるのです」
「ひとねも来てるのか?」
「はい、引っ張ってきました」
「……不機嫌だろうな」
「ケーキを置いてきたのでそろそろ機嫌が良くなってると思います。もちろん皆さんの分もありますよ」
 放っておくとひとねが全て食べてしまいそうな気がする。さっさと起きるとしよう。
 立ち上がってぐっと背中を伸ばす。
「それにしても朝からケーキとは豪勢だな」
「パンが無かったのですわ」
 高笑いをしようとして咽せた後、下里は肩をすくめる。
「昨日弟の誕生日だったので買ったんですけど友達と泊まりがけのパーティをするって。親は甘いの食べないんで余っちゃったんですよ」
 下里がしたジェスチャーは三角ではなく丸。まさかホールを持ってきたのか?
「とりあえず行くか」
 俺を先頭に森当くん、下里が続くが……
「ああ、くだんの少女は少し待ちたまえ」
「なんです? トシさん」
「キミには渡しておくものあるのだよ」
「んー?」
 体全体で頭の中のクエスチョンマークを表現している下里に俺は手を振る。
「俺たちは先行ってるぞ」
 これで心配事が無くなった。あとはこの世界の俺を探すだけである。

 *

「さて、少し整理しようか」
 クリームひとつ残っていない綺麗な皿にフォークを置き、ひとねはそう切り出した。
「まずこの世界と君たちの世界の大きな違いはなんだろうか、言ってしまえば分岐点だね」
「地下図書館で眠っていた藤宮さんを見つけたのが健斗先輩ではなく、くだりさん出会った。ですかね」
 確かに結果的にはそうなる。しかし下里が件の時に見つけたというのならばそこには一年の誤差がある。
「もし俺たちの世界でも俺がいなければ下里がひとねを見つけていた可能性がある。だから明確な分岐点は俺がひとねを見つけなかった、じゃないか?」
「そこを主軸として考えてみよう。私と出会わない事でこの学校に来なくなる、何か心当たりはないかい?」
「そうだな……」
 偏食漠にやられたのは昨日否定されている。
 よくよく考えてみればひとねと出会う前から俺はこの学校に通っていた。
「無いな。断言していい」
「じゃあ中退しちゃったとか?」 
「そんな人がいたら耳に入っていそうだけどね」
「それもそっかあ」
「あの、あり得る話じゃないですか?」
 皆の視線を受けながら森当くんは続ける。
「もし僕たちの入学前に健斗先輩が学校を去っていればお二人が聞いたこと無いのもおかしくない話です」
「そりゃあ君はそうかもしれないけどね、私たちはそうならないだろう」
「……なんでだよ」
「今のは私たちの方が後に入学していたら成立する話だろう?」
「だから成立……ん?」
 俺とひとねは目を合わせる。ひとねは口を閉じたままなので俺がひとねに質問する。
「いま、何年生?」
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