怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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ロスト・ホーム

悪食・餌食

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「腹が減っていたとしても我慢しておくれ、ワタシは外食派なのでネ」
 紅茶を振る舞いながら話を聞いたトシはそう言った後、何処からか辞典のように分厚い本を取り出してこちらに渡す。
「異界に関する怪奇現象はその本二冊分ある。異界十字路のようなわかりやすい状況ならともかく、そこから探し出すのはむずかしいだろうねぇ」
「でも片っ端からやっていけばいつかは解決です!」
「いやいや、待ちたまえ」
 まさかの無謀に挑もうとした下里から本を取り上げ「なんなのかネ、この子」と呟いた後トシは咳払いをした。
「もっといい解決方法がある。怪奇現象には怪奇現象を、異界移動には百発百中で効果のある怪奇現象が存在するのだよ」
 本を机に置き、顔をぐっと近づけられる。
「健斗クンといったねぇ。取引だ、君たちが帰れる目処が立ったならばワタシの望みを叶えて欲しい。内容は……言わなくてもわかるね?」
「……はい、貴方の未練を晴らします」
 トシは満面の笑みを浮かべシルクハットを被る。
「では教えよう。使う怪奇現象はみんなお馴染み『ドッペルゲンガー』だ」
「ドッペルゲンガー……もう一人の自分と出会うモノですね」
「ルッキングしたらどっちかが消えちゃうやつですよね」
「ドッペルゲンガーにも種類があるけどネ、どちらも本人であるドッペルゲンガーは一つだけだ」
「どちらも本人……」
 確かにこの状況で本来の俺と出会えばどちらも本人だ。
「くだりサンが言った通りドッペルゲンガーは顔を合わせると消える。しかしどちらも本人であった場合消えるのはこの世界にいなかった方だ。そしてその者は……」
「元の世界に帰る」
「その通り、単純だろう?」

 *

 このまま平日まで此処で過ごしていればこの世界の俺と森当くんが登校して来て出会えるだろう。
 そう思っていたのだが、ひとねが「この世界とそちらの世界では微妙に齟齬がある。念のため調べておこう」と言い出した。
 そんな訳で俺たちの所属クラスを周り机に貼られている席名簿を確認しに下里が派遣された。
 念のための確認だったのだが……
「お二人ともいません!」
 的中してしまったようだ。
「クラス分けの時に何かあって違うクラスになったとかは無いのか」
「一年も二年も全クラス確認済みでございます」
 一筋縄ではいかなそうな展開に全員の心がしかめ面になる中、森当くんが小さく手を上げた。
「あの、僕がこの学校にいない可能性、理由はなんとなくわかります」
「そうなの?」
「はい。実は僕、一人暮らしでして。両親が此処から転勤する時に此処に残るかついて行くかの選択がありました」
「それでついて行く選択をした、と。でも少し変わってるだけの世界でそんな大きな事が変わるか?」
「決めきれなかったので文字通り賽をふったのですよ。世界が違うのです、サイコロが違う目になるくらいはあり得る話でしょう」
「なるほど……じゃあ会うのは大変そうだな」
「いえ、ちょうど明後日が祖父の命日なのでこっちに墓参りに来る筈です。そこを狙えば簡単でしょう」
「じゃあ……残るは俺か」
「心当たりは無いのかネ?」
 此処は俺とひとねが出会わなかった世界。ならば俺は……
「偏食漠にやられて死んでいる」
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