135 / 150
ロスト・ホーム
悪食・餌食
しおりを挟む
「腹が減っていたとしても我慢しておくれ、ワタシは外食派なのでネ」
紅茶を振る舞いながら話を聞いたトシはそう言った後、何処からか辞典のように分厚い本を取り出してこちらに渡す。
「異界に関する怪奇現象はその本二冊分ある。異界十字路のようなわかりやすい状況ならともかく、そこから探し出すのはむずかしいだろうねぇ」
「でも片っ端からやっていけばいつかは解決です!」
「いやいや、待ちたまえ」
まさかの無謀に挑もうとした下里から本を取り上げ「なんなのかネ、この子」と呟いた後トシは咳払いをした。
「もっといい解決方法がある。怪奇現象には怪奇現象を、異界移動には百発百中で効果のある怪奇現象が存在するのだよ」
本を机に置き、顔をぐっと近づけられる。
「健斗クンといったねぇ。取引だ、君たちが帰れる目処が立ったならばワタシの望みを叶えて欲しい。内容は……言わなくてもわかるね?」
「……はい、貴方の未練を晴らします」
トシは満面の笑みを浮かべシルクハットを被る。
「では教えよう。使う怪奇現象はみんなお馴染み『ドッペルゲンガー』だ」
「ドッペルゲンガー……もう一人の自分と出会うモノですね」
「ルッキングしたらどっちかが消えちゃうやつですよね」
「ドッペルゲンガーにも種類があるけどネ、どちらも本人であるドッペルゲンガーは一つだけだ」
「どちらも本人……」
確かにこの状況で本来の俺と出会えばどちらも本人だ。
「くだりサンが言った通りドッペルゲンガーは顔を合わせると消える。しかしどちらも本人であった場合消えるのはこの世界にいなかった方だ。そしてその者は……」
「元の世界に帰る」
「その通り、単純だろう?」
*
このまま平日まで此処で過ごしていればこの世界の俺と森当くんが登校して来て出会えるだろう。
そう思っていたのだが、ひとねが「この世界とそちらの世界では微妙に齟齬がある。念のため調べておこう」と言い出した。
そんな訳で俺たちの所属クラスを周り机に貼られている席名簿を確認しに下里が派遣された。
念のための確認だったのだが……
「お二人ともいません!」
的中してしまったようだ。
「クラス分けの時に何かあって違うクラスになったとかは無いのか」
「一年も二年も全クラス確認済みでございます」
一筋縄ではいかなそうな展開に全員の心がしかめ面になる中、森当くんが小さく手を上げた。
「あの、僕がこの学校にいない可能性、理由はなんとなくわかります」
「そうなの?」
「はい。実は僕、一人暮らしでして。両親が此処から転勤する時に此処に残るかついて行くかの選択がありました」
「それでついて行く選択をした、と。でも少し変わってるだけの世界でそんな大きな事が変わるか?」
「決めきれなかったので文字通り賽をふったのですよ。世界が違うのです、サイコロが違う目になるくらいはあり得る話でしょう」
「なるほど……じゃあ会うのは大変そうだな」
「いえ、ちょうど明後日が祖父の命日なのでこっちに墓参りに来る筈です。そこを狙えば簡単でしょう」
「じゃあ……残るは俺か」
「心当たりは無いのかネ?」
此処は俺とひとねが出会わなかった世界。ならば俺は……
「偏食漠にやられて死んでいる」
紅茶を振る舞いながら話を聞いたトシはそう言った後、何処からか辞典のように分厚い本を取り出してこちらに渡す。
「異界に関する怪奇現象はその本二冊分ある。異界十字路のようなわかりやすい状況ならともかく、そこから探し出すのはむずかしいだろうねぇ」
「でも片っ端からやっていけばいつかは解決です!」
「いやいや、待ちたまえ」
まさかの無謀に挑もうとした下里から本を取り上げ「なんなのかネ、この子」と呟いた後トシは咳払いをした。
「もっといい解決方法がある。怪奇現象には怪奇現象を、異界移動には百発百中で効果のある怪奇現象が存在するのだよ」
本を机に置き、顔をぐっと近づけられる。
「健斗クンといったねぇ。取引だ、君たちが帰れる目処が立ったならばワタシの望みを叶えて欲しい。内容は……言わなくてもわかるね?」
「……はい、貴方の未練を晴らします」
トシは満面の笑みを浮かべシルクハットを被る。
「では教えよう。使う怪奇現象はみんなお馴染み『ドッペルゲンガー』だ」
「ドッペルゲンガー……もう一人の自分と出会うモノですね」
「ルッキングしたらどっちかが消えちゃうやつですよね」
「ドッペルゲンガーにも種類があるけどネ、どちらも本人であるドッペルゲンガーは一つだけだ」
「どちらも本人……」
確かにこの状況で本来の俺と出会えばどちらも本人だ。
「くだりサンが言った通りドッペルゲンガーは顔を合わせると消える。しかしどちらも本人であった場合消えるのはこの世界にいなかった方だ。そしてその者は……」
「元の世界に帰る」
「その通り、単純だろう?」
*
このまま平日まで此処で過ごしていればこの世界の俺と森当くんが登校して来て出会えるだろう。
そう思っていたのだが、ひとねが「この世界とそちらの世界では微妙に齟齬がある。念のため調べておこう」と言い出した。
そんな訳で俺たちの所属クラスを周り机に貼られている席名簿を確認しに下里が派遣された。
念のための確認だったのだが……
「お二人ともいません!」
的中してしまったようだ。
「クラス分けの時に何かあって違うクラスになったとかは無いのか」
「一年も二年も全クラス確認済みでございます」
一筋縄ではいかなそうな展開に全員の心がしかめ面になる中、森当くんが小さく手を上げた。
「あの、僕がこの学校にいない可能性、理由はなんとなくわかります」
「そうなの?」
「はい。実は僕、一人暮らしでして。両親が此処から転勤する時に此処に残るかついて行くかの選択がありました」
「それでついて行く選択をした、と。でも少し変わってるだけの世界でそんな大きな事が変わるか?」
「決めきれなかったので文字通り賽をふったのですよ。世界が違うのです、サイコロが違う目になるくらいはあり得る話でしょう」
「なるほど……じゃあ会うのは大変そうだな」
「いえ、ちょうど明後日が祖父の命日なのでこっちに墓参りに来る筈です。そこを狙えば簡単でしょう」
「じゃあ……残るは俺か」
「心当たりは無いのかネ?」
此処は俺とひとねが出会わなかった世界。ならば俺は……
「偏食漠にやられて死んでいる」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
Arachne 2 ~激闘! 敵はタレイアにあり~
聖
ミステリー
学習支援サイト「Arachne」でのアルバイトを経て、正社員に採用された鳥辺野ソラ。今度は彼自身がアルバイトスタッフを指導する立場となる。さっそく募集をかけてみたところ、面接に現れたのは金髪ギャルの女子高生だった!
年下の女性の扱いに苦戦しつつ、自身の業務にも奮闘するソラ。そんな折、下世話なゴシップ記事を書く週刊誌「タレイア」に仲間が狙われるようになって……?
やけに情報通な記者の正体とは? なぜアラクネをターゲットにするのか?
日常に沸き起こるトラブルを解決しながら、大きな謎を解いていく連作短編集ミステリ。
※前作「Arachne ~君のために垂らす蜘蛛の糸~」の続編です。
前作を読んでいなくても楽しめるように書いたつもりですが、こちらを先に読んだ場合、前作のネタバレを踏むことになります。
前作の方もネタバレなしで楽しみたい、という場合は順番にお読みください。
作者としてはどちらから読んでいただいても嬉しいです!
第8回ホラー・ミステリー小説大賞 にエントリー中!
毎日投稿していく予定ですので、ぜひお気に入りボタンを押してお待ちください!
▼全話統合版(完結済)PDFはこちら
https://ashikamosei.booth.pm/items/6627473
一気に読みたい、DLしてオフラインで読みたい、という方はご利用ください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる