怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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ロスト・ホーム

浮遊霊・一人

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「世界が違う? パラレルワールドとかマルチバースってやつです?」
「そう、それなら色々と辻褄があう」
「確かに合うますけど……それも証明が難しくないでしょうか」
「証明には普遍的な物が必要なんだったな」
 ひとねに投げかけた質問には肯定が返ってきた。
「あるかもしれない」
「へえ、なんだい」
「地下図書館だ。彼処には未練を残した浮遊霊が居て、俺とひとねが成仏させたんだ」
 ひとねが「なるほど」と呟く。たとえ記憶が弄られようとトシが戻ってくるなんてあり得ない。つまり……
「地下図書館にトシがいれば此処は違う世界、俺と森当くんは世界移動の怪奇現象に巻き込まれた事になる」

 *

 図書準備室の扉を開く。その先に準備室は無く、古びた階段が下に向かっている。
「……僕にも見えます」
「わたしもです。ひとねちゃんも?」
「ああ、変わらないね」
 俺と共に巻き込まれた森当くん、未だ正規手順で迷家を出ていないこの世界のひとね。どちらも見えるのは当然だろう。
 しかし一人だけは疑問が残る。
「なんで下里も見えるんだよ。件はもういないんだろ?」
「下里さんも正規の手順で出ていないからね」
「下里もこの中に行った事があるのか?」
「倒れている私を助けてくれたのは件に予言されていた時の彼女だよ」
 なんとなく分かってきた。此処は地下図書館で動けなくなっているひとねを助けたのが俺では無く下里の世界なのだ。
 懐かしき巨大本棚の間を歩き、一番奥に向かう。
 本棚の石版を入れ替えると隠し扉が開く。その先はひとねの部屋だった場所。
「……ほほう、帰ってきた瞬間に四人も客とは」
 帰ってくるのに時間差があるのは世界が違うからか、一度帰ってきた後にまた旅に出たからなのか。
 ともかく居たのはシルクハットにタキシード。どこか英国紳士を思わせる男。
 浮遊霊、中本トシであった。
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