怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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ロスト・ホーム

最初・回想

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「と、言うわけで頑張りましょー!」
 部活会議にて下里が言ったのはどう考えても第一声とは思えない台詞であった。
「ちょっとまて、あんま理解してねぇ」
「おや? 先輩ともあろうお方が忘れたと」
「全部覚えてる、説明されてないんだよ」
「しょうがないですねー」
 下里は立ち上がり部室の端からホワイトボードを引っ張ってくる。
「まず最初に、みどセンセの証言によりエアコンがあまり保たない事が判明しました」
「ああ、買い直さないといけないって話だったな」
「そこで生徒会に掛け合ってみたんですけど……全額とは言わないが部費から幾分か出さないといけないみたいなんですよ」
「なるほど」
 下里は払うべき値段と今年度の予算を書き出す。中々の金を使う事になりそうだ。
「もし来年度も今年と同じ予算だったら我が図書部は火の車です。なので来年度の部費を増やして貰わなければいけません。で、その方法を探していたら……」
 下里はペンで森当くんを指す。指名された森当くんは立ち上がる事なく口を開く。
「大会などの無い、実績を出しにくい文化部の予算を決める指標、その大半以上が文化祭での評価になるのです」
「評価? 誰がするんだ」
「個人名は分かりませんが生徒会が指名したとある生徒らしいです」
「公平じゃ無さそうだな」
「ある程度のマニュアルに則って行うようですよ」
 森当くんが目で主導権を下里に返した。
「そういう訳で、文化祭がんばりましょー!」
「図書部って何するんだ?」
「え」
 俺の発言に三人が固まる。
「……なんだよ」
「先輩知らないんですか?」
「俺よりお前の方が情報通だろ?」
 下里はひとねと森当くん、そして自身を指す。
「我々フレッシュな一年生」
 続いて俺が指される。
「先輩イズ先輩、二年生」
 つまり俺だけは去年の文化祭を見ているだろうと言うことだ。念のため記憶を探ったが……
「こっちには用が無かったから来てない」
「しおりは見なかったんです?」
「見たけど……創作集か何かだったな。スペースが狭すぎてそれしか書いてなかった」
「創作集ってなんでしょう?」
「知らん」
「探せばあるんじゃないか? ここは図書室だからね」
 今まで無言だったひとね本を閉じてそう言った。
「藤宮さんの言う通りですね。無いとは思いますが僕は念のため図書室内を散策して見ます」
「じゃあわたしは図書倉庫を、ひとねちゃんはこの部屋、先輩は広いからジエーくんと一緒にお願いします」
「わかった」
 心底面倒臭そうな顔をしていたひとねが口を挟む間もなく俺たちは捜索を始めた。

 *

「あっりましたー!」
 たくさんの冊子を持った下里が倉庫から出てきた。過去の卒業アルバムとかは彼処にあるし一番の候補ではあった。
 全員部室に戻り、各々冊子を見る。
『図書部 創作集』
 それぞれ年の末尾の数字が振られている。たまに飛んでいるところはあるが受け継がれていっているようだ。
 しかし俺たちには先人が無し。この冊子を見て推測するしかない。
 とりあえず、読むか。

「……見事にバラバラだな」
「ですね」
 漫画、小説、絵本、絵画、ポエム、コラム、論文、校内ニュース。後半は怪しいが共通してるのは創作って事くらいだ。
「フリーダム、なんでもありって感じ……一番困りますよね、これ」
「皆さん何か創作経験はございますか?」
 森当くんの質問に全員が首を横に振る。
「ないな」
「扉をノックしたくらいならありますけど世に出すのは少しアレです」
「無いね」
「僕もありません……困りましたね」
 このまま皆で長考タイムかと思われたが、チャイムと下校を促す放送が流れ、それは遮られた。
「……とりあえず帰ろっか」



 以上が昨日の出来事。俺の頭の中に記憶されている紛れもない真実。
 なぜこんな事を思い出しているかと聞かれても一言で答えるのは難しい。俺としてもまだ理解できていないのだ。
 なのであるがままを思い出す。次は数分前を、今の回想から言えば翌日の記憶を探る事にする。

 *

 校内に人は少なく、いつもは雑踏に紛れている野球部の声が校内にまで響いている。
 なぜ文化系に位置付けられているかわからないほど走りまくっている吹奏楽部とすれ違いながら俺は図書室へと入る。
 中に人はいない。今日は土曜日、三連休の初日である。
 部活動らしい事なんぞしていないので我らが図書館は休みを学校と共有しているのだが今日だけは違う。文化祭のアレを早めに決めておきたいという皆の意見一致により休みながら集まる事となったのだ。
 他三人は昼前から来ているはずだ。俺はどうしても外せない用事があり昼過ぎからの参戦となった。
 少しくらい話が進んでいればいいが……部室の扉を開く。

 中にいたのはひとねと下里。森当くんはトイレだろうか?
 明確な言葉ではない声だけの惰性挨拶をして部室に入る。扉を閉め、いつもの席に座ろうかとした時、違和感を感じた。
「……なんだよ」
 二人が俺をじっと見つめている。遅れるのは事前報告済みだぞ。
「えと、その……」
 珍しく下里が戸惑っている。言いにくい事か? ズボンのチャックは閉まってるよな。
 どういう状況かは分からないがこういう時のひとねは心強い。躊躇なく彼女は俺に向けて言う。
「君は誰だい?」
「へ……?」

 回想、終。
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