怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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幕間5

愚者の推理劇・後編

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 鍋を食べる事、コレはもちろん口実だろう。
 考えるべきは鍋を食べる事で何を得たか、何を達成できたかだ。
 まず一つ目、俺と別れて一人買い物にいけた。コレは無い。下着を買いに行くと宣言できるようなやつだ、後鍋を食べる必要はない。 

 二つ目、家に帰りたくない。コレはどうだろうか?
 家に帰りたく無いから買い物に行った、それでも限度があるので俺の家に居る口実を作り出した。なるほど、ありそうな事だ。
 しかし一人暮らしの家に帰りたくないという状況はあまり思いつかない。
 例えば朝に虫を見て逃してしまったとか、そういうのだろうか?
 否、違う。そうだとしたら俺を連行して虫退治をさせている。
 てかよくよく考えてみれば制服から着替えている時点で一度家に帰っている。これも却下。

 三つ目、一人になりたくない。
 何かしら一人になりたく無い心情であり、俺の家に居座る為に口実を作った。
 これは否定できない。しかし肯定できる材料もないし何より可能性が低い。殺人事件において偶然死の線で推測するくらい無い。却下よりの保留。

 さて四つ目、これが本命。
 俺の家に入りたかった。普段の俺の家なら無さそうな説だが今日は違う。
 細かく言えば俺の家にある物を狙っている。
 正直なところコレが正解である事はほぼ分かっていた。否定したくて他の可能性を探っていたのだが……難しそうだ。
「…………」
 ヒントはあった。しかしほんの僅かな、それとも分からないくらいのヒントだし俺も誤魔化していた筈だ。
 なぜひとねは俺の家にアレがある事を推測出来た?

 テレビの音が唐突に途切た。
「なぜバレた? そう考えているのだろう?」
 ひとねが口の端を上げて言う。
「君の事だから少しくらいは推理しただろうし、何より心当たりがあるはずだ」
「……なんの話だ」
「ここにきてしらばっくれるのか。よろしい、では私の推理を披露しよう」
 ひとねはゆっくりと人差し指で冷蔵庫を指名する。
「そこに私の求める物がある」

 *

「ソレを知ったのは言うまでも無いけどあの人、マッカだっけ? あの人との会話だ。
 彼女から何かを貰った。君はソレをハムだと言ったね」
「ああ、言った」
「そこで私はおかしいと思ったのだよ。ハムである可能性は低そうだ、と」
「なんでだよ」
「会話の中に貰った物を推測できるヒントが幾つかあった」
 ひとねは近くのプリントを裏返し、シャープペンシルを走らせる。

『○保管方法がある
    ○上記を守っていればある程度の保存が可能である
    ○少しずつ食べる物である
    ○季節はずれの物である
    ○両端が美味しい物である
    ○両端が最後に残る物である』

「上から順に考えていこうか。保管方法、長期保存、コレは別におかしくない
 次は少しずつ食べる物、これもまあいいだろう」
 お茶で喉を潤し、探偵は続ける。
「季節はずれ、これは少し引っかかる。君はコレを誤魔化す為にお歳暮と言っていたけれどね、お中元とか季節による物だとは思えない」
「両端がおいしい、確かに他に比べて肉厚になりがちだけど……個人的好みの問題だろう。私は硬くない真ん中が好きだ」
「最後に両端が最後に残る? 一般的なハムの食べ方とは思えない、君がそうしてるのを否定は出来ないがマッカがさも当然のように話していたからね、コレが一番おかしい」
 ひとねは空いたグラスを流しに置き、水の入ったケトルのスイッチを入れる。
「以上の事から君は私に隠し事をしていると推測した。なぜ隠してるか、それを聞けば私が欲しがるからだ。そうなれば話は早い、甘味だろう」
 ビニール袋から紅茶パックを取り出し、カップに入れる。そう、全ては彼女の掌の上。
「推測としてはそこまでで良かったのだけれどね、暇だったので推理した。それが何かを」
 一度沸かしていた後なのもあり、もうケトルが湯気を上げている。くるくるとカップで回るお湯が綺麗な紅に染まっていく。
「季節があり、少しずつ食べ、保管方法があり、端が残る。ずばり……シュトーレンだろう?」
 俺は最後の食器を洗い、手を拭く。
「……正解だ」
 ひとねは勝ち誇ったような笑みでもう一つ紅茶を淹れる。
「なあに私も鬼じゃあない、最後の一個を寄越せとは言わないさ」
 俺の分も淹れたのは彼女なりの優しさか、二つのカップを机に置き、彼女は座って手を差し出す。
「両端二つ、あるんだろう? 一緒に食べようじゃないか」
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