怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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幕間4

心の当たりがあるならば・後編

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「三者面談にされたらダメな事も書いてたのか?」
「お母さんにバレるのはいいですけどそこまで重要なやつだと思ってなかったんです。天運に祈るのはロマンチックですけど行き先を決めるには決め手無しです!」
「書き直して提出しろよ」
「出来れば最終手段にしたいのです。どんな夢を書いても怒らないですけどテキトーにやったと知れたら……」
 悪寒が全身をくまなく全力疾走して筋肉を震えさせた。
「ああ、下里さんの担任は彼だったね」
「俺はあまり知らないんだけどその浅黄先生ってのは下里の言うようなタイプなのか?」
「ああ、生徒に理解を示す良い教師だよ。怒る時も怒鳴らず静かに怒る、下里さんの苦手なタイプだね」
 やっぱりひとねちゃんには見透かされているらしい。その説明で先輩も大方理解してくれたらしい。
「あの先生ならば提出物を引き出しに入れずクリアファイルに入れて自身の机に置いているはずだ、盗み見したらどうだい?」
「……そうしよっかな」
「冗談だよ」
「わたしもジョーダン」
 二人で声を出さずに笑う。その後ひとねちゃんの顔が探偵のそれに切り替わる。
「提出したのが三者面談されても問題ない物ならそのままでも怒られない。その可能性にかけたいわけだ」
 そう、今回はわたしのわがままである。それは一番最初に宣言しておいた。
 それでも二人は快く聴いてくれた。ひとねちゃんは早速推理してくれている。
「乱雑になっている紙から一枚を慌てて取ったのだよね」
「うん、走りながらパッと」
「混ぜたりはしていないのだろう?」
「うん、書いてテキトーに置いて書いての繰り返し」
「ならば後の方に書いた物の可能性が高いね」
「あ、確かにそうかも」
「何枚書いたかしらないけど……最後の方に書いたやつは覚えているかい?」
「えっとね……多分だけど」
 先輩くらいの記憶力があれば確実なんだけど……それどころかこんな事件も起こらないんだけど。
 わたしはメモを取るため鞄から何かのプリントを取り出して裏返す。
 隅が黒ずんでいるのは何かしら落書きをして消したのだろう、わら半紙はちゃんと消えないから嫌いだ。
 そういえばわら半紙を使う機会も減って来ているらしい、技術の向上で普通の紙の方が安いとか……
 じゃ、なくて。そう、最後の方に書いた進路希望である。
 記憶を探りながら記入していく。
『教師、宇宙飛行士、プログラマー、警官、石油王、女優、お嫁さん』
「……くらいですかね」
「下里的にアウトなのはどれだ?」
「石油王、宇宙飛行士、お嫁さん……あと女優も無しです」
「女優も無しなのか」
「なんだか面倒くさそうなので」
「そんなの書くなよ……」
 右手を頭に、舌を出してテヘペロ☆
 先輩がため息をついた事でこの話はフィニッシュ。
「……情報が少ないな、提出した時の事も一応教えてくれるかな」
 ひとねちゃんに言われて記憶を探る。そう、あれは昨日の事であった……

 *

「先生……受け取ってください!」
「……ああ、ようやく持って来たか」
 朝礼の後、職員室に戻ろうとする先生を引き止めて進路希望の紙を渡す。
 我が担任に下里流ジョークはあまり通用しない。此処はラブレターを受け取ったかのようにして欲しかった。
 かと言ってユーモアのない先生ではない。センサーが弱いだけなのでとても分かりやすいボケであれば拾ってくれるのだ。
 紙を受け取った先生はチラリと内容を見て。
「確かに受け取った、他には何かあるか?」と尋ねてきた。
 本日の要件はこれだけ、わたしは先生に手を振って教室に入っていった。

 *

「と、言う感じですけど……ホント何もないですね」
「先生が内容を見て何も無かったなら大丈夫じゃないか?」
「基本的に何でも許してくれそうな先生ではあるが……まあ、石油王って書いてたら流石に何か言われてるだろう」
「お嫁さんはいけるのか」
「浅黄先生は想像力逞しいですから、心に決めた相手がいるならそれもよし! ってなるかもです」
「この学校は本当に特異な先生ばかりだな」
「怪奇現象よりはマシですよ」
 ひとねちゃんは「ううん」と珍しく唸った。
「情報があまりにも少ないね」
 もう出せそうな話は無い。ひとねちゃんに分からないなら怒られるしかないか……そう思った時、ひとねちゃんが人差し指を立てた。
「ただ……可能性が低いがわかるかもしれない方法がある」
「ホント!?」
「注目すべき点は下里さんも先生も紙に疑問を持たなかったと言う事だ」
「神に疑問?」
「神様じゃなくてペーパー、進路希望調査の紙だ。取るときも提出する時も違和感は無かったのだろう?」
「うん、先生も、うん」
「ならば一つだけ分かるかもしれない可能性がある。もちろん下里さんの記憶も必要だけどね」

 *

 わたしたちは職員室を覗き込んでいた。珍しくひとねちゃんもついて来てくれた。
「……どうだい?」
「もう少し……」
 浅黄先生の机は入口から覗いてギリギリ見える場所にある。
「みえ……そう」
 幸いにも進路希望の紙は
 机の一番上に置かれていた、どれがそのファイルか一目瞭然である。
 一応注釈しておくが盗み見しに来たわけではない、もし泥棒になるなら鼠になりたい物だ。
 わたしが見るべきはそのファイルの紙、詳しく言えば紙質だ。
 ひとねちゃん曰く「原本一枚を家でコピーしたのならば原本だけは見分けがつく、下里家のコピー機がわら半紙を使っていなければね」との事だ。
 わら半紙は最後に使った、流石に最後のやつは内容を把握してある。
 もしあの紙束の中がわら半紙だけならば解答はひとつ、コピー用紙があればそれ以外と言うわけだ。
 そして結果は……
「わら半紙だけだった」
「ならばそれで確定というわけだね」
「そういえば聞き忘れてたけど、わら半紙にはなんて書いてたんだ?」
 先輩の問いにわたしは悪寒と共に走り出す。
「お嫁さん! 先生とこ行ってきます!」

 さて、わたしは明日の違うわたしを拝めるのだろうか。
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