怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

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まだらの推理

まだらな探偵

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「そして……今にいたる」
 全てを話し終えて目を開く。話している間は見えなかったそれぞれの反応を確認する。
 角野さんはメモ帳らしき物を持ちながら、堀さんは姿勢を崩さず、下里は何処か眠そうな眼で、そしてひとねは目を閉じて……
「……終わったぞ」
「ああ、わかっているよ」


 数分の沈黙、その後にひとねが目を開く。
「違和感がある。ナイフ……そう、ナイフにおかしな点が二つあった」
「凶器の事か?」
「そうだね」と一言相槌を打ち、ひとねは続ける。
「そのサバイバルナイフの指紋が拭かれていた」
「……普通じゃないか? 衝動的な犯行だったかもしれないけど、殺した後は殺人魔がいなくなって冷静になった可能性だってある」
「ああ、そうだろうとも。元々殺人を計画していたような者だ、しかし冷静だというのならば尚更おかしい」
「……?」
「凶器の指紋を拭き取った理由はなんだと思う?」
「そりゃあ指紋から誰が使ったか分からないようにする為だろ」
「そうだろうね、でも指紋を拭くよりも簡単な方法がある。小難しい事ではなく、普通凶器の使用者を隠すために思いつくような事だ」
「もったいぶるなよ、何がおかしいんだ」
「勿体ぶっている訳じゃあない、私も頭の中で整理しながら話しているんだ」
 ひとねは数秒考え、整理した言葉を外に出す。
「何故現場に凶器が残されている?」
 彼女の言葉を頭の中で反復させ、意味を読み取る。
 確かにそうだ。凶器の指紋を拭くにしても、それより先に凶器自体を持ち出して隠すべきなのだ。
「凶器を持ってる所を見られたくなかったんじゃないですか?」
「持ち出すならばそれも考えられる。しかし隠すなりやりようはあるだろう」
「そう、なのかな?」
「本質はそこに無いんじゃないかな」
 どうにも納得し切れていないらしい下里の横から角野さんが助け舟を出した。
「どーいう事です?」
「彼女は『犯人がわざと凶器を置いていった可能性』があると言いたいんだよ」
「ああ、そういう事だ。それは何故か、凶器を置いていく事で犯人にどんなメリットがあるだろうか?」
 数秒の間の後、角野さんが口を開く。
「死因の固定化……刺殺と思い込ませる事ができるね」
「……!?」
 探偵二人を除く全員が凍りつく。
「睡眠薬を飲ませて抵抗なく殺すという事が出来るくらいだからね、例えば毒を盛るなんてのも出来るんじゃないかな?」
「私もそう思う」
 確かに状況からそういう推測は出来るだろう。しかし……
「流石に飛躍しすぎじゃないか? 状況からの推測というよりは毒殺という結果ありきの推理に感じるぞ」
「今回に限ってはそれでもいいと思うけど……もう一つの違和感が毒殺へと思考を導いたりするのかな?」
「まあ……はい」
 何処まで見透かしているかわからない角野さんに少し戸惑いながらもひとねは続ける。
「もう一つのナイフにもおかしな点があった」
「もう一つのナイフ? そんなのあったっけ?」
「ナイフか」
 記憶を探る。凶器たるサバイバルナイフの他に見たナイフといえば……
「果物ナイフだな」
「その通り、各部屋のフルーツ盛りに添えられていたものだ」
 全てのナイフを記憶の中で重ね合わせるが、種類も同じ、特におかしなナイフは見当たらない。
「何か違いがあったか?」
「大方ナイフだけを抽出して重ね合わせているのだろう? それではダメだ。違和感は他の物の状態と組み合わせないと出てこない」
「状態?」
 状況ではなく状態、ならば人の様子などではなく他の物の変化という事になる。
 果物ナイフが関わり、状態が変化する物は数少ない。一番の候補は例のフルーツ盛りだろう。

 フルーツ盛りの記憶を呼び起こす。
 被害者である四井さんの物はリンゴが半分程食べられていた。
 他三人の物は手をつけられて……
「いや」
 二宮さんの物は手をつけられていなかったが俺たちに振舞われた。
 しかし果物ナイフは使っていなかった。確か既に使用済みで洗い場に……
「……おかしい」
「何がおかしいんですか? 先輩」
「堀さん、二宮さんの果物ナイフは使用された後でしたよね」
 それまで聞きに徹していた堀さんがゆっくりと目を開ける。
「はい、実際に触ってはいませんが。水に濡れていると同時に果汁……かは分かりませんが粘着性のある、糖分系統だと思われるものが付着していました」
「俺たちに振舞われるまで二宮さんの部屋のフルーツ盛りは手をつけられていなかった。それなのに果汁がついているのはおかしいんだ」
「他の果物を切った可能性はないです?」
「二宮さんはあの部屋を何度も利用していた。フルーツ盛りがあるのを知っているのに持ってくる可能性は低いだろ」
「なるほどです……じゃあ何ででしょう?」
「そうだな……」
「被害者の物を切ったからだろう」
 考えが纏まったらしいひとねに推理のバトンが渡る。
「被害者の部屋にあった林檎は半分食べられていた。だというのにナイフを使った形跡がない。つまり……」
「二宮さんが自室のナイフで四井さんの部屋の林檎を切った……?」
 下里の語尾には疑問符がつけられている。理由がわからないのだろう。
「それこそが毒殺のトリックだと考えている」
「むー?」
 なんだかこんがらがってきた。そんな俺たちの雰囲気を察してかひとねは喉を潤し仕切り直す。
「犯人の足取りを追いながら私の推理を纏める事にしよう」
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