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まだらの推理
探偵補佐の推察
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確定では無いが今宵以降は第二の殺人が起きかねない。
「イケると思ったんだけどなぁ」
皆が考えこむ中、一人だけなんだかソワソワとしている者がいた。
「どうした、下里」
「あの……わたしも、推理を披露していいですか?」
「……へ?」
全員の視線を受け、下里は顔をほんのり赤くする。
「その、ハズレでも選択肢を狭める事は出来るかなって」
「ああ、もちろんだ。お願い」
「じゃあ……コホン!」
ひとねに促され、決まりかのように下里は立ち上がる。
漫画の探偵のように人差し指を立て、誰でもない場所に向けて突き出す
「そもそもコレは……殺人事件ではないのです!」
*
「……いや、殺人事件だろ。あれは仮死状態とかじゃないぞ」
「はい、それは堀さんが念入りに調べているはずです。しかし人が死んでるだけでは殺人事件にはなりません」
「……?」
「殺人事件は『人』が『殺』される事によって成り立つ事件なのです」
さすがに俺でもいいたい事が分かってきた。
「被害者も容疑者も同じ、自身で自身を殺す。つまりこれは……自殺です!」
*
「自殺はアリなのか?」
「ダメかな?」
怪奇探偵たるひとねに視線を送る。
「自身を客観的に知覚できればあり得るが……」
「なら大丈夫!」
「へえ、そこまで考えていたのかい。凄いじゃないか」
角野さんからの高評価に少し照れながら下里は探偵……と言うよりひとね風の演技を再開する。
「では犯人かつ被害者の足取りを追いましょう。彼は部屋で一人の時、殺人魔に取り憑かれました。もちろん部屋の鍵は閉めた後です
「彼は殺人衝動に身を任せ、近くにあったサバイバルナイフを持って殺す人を探します。この部屋にはいない。外に探しに行こうとした時、彼は視界の端に人影を見つけナイフを突き出します」
なんだか見てきたような説明だが、恐らく下里による脚色だろう。
「同時に鏡が割れた音が鳴り響きます。彼は人では無く鏡の中の自身を刺し、同時に気付きました
『人ならば此処に、一番近くにいるではないか』
後は最初の通り、彼は自身で自身を殺しました。……どうですか?」
「確かに自分を客観視しているね。だけど……」
模様は消えていない。
「ダメでしたか……」
「いや、可能性を潰せたのなら意味はあったろう。堀ちゃん、再捜査だね」
「次は御同行くださいね、安楽椅子は用意しておりません」
「安楽椅子? ああ、別にそういう探偵スタンスじゃあないんだけどね」
角野さんがこの後に及んでなお面倒くさそうに立ち上がる。
「ひとね、こっちも再捜査か」
「再推理だ』
「捜査じゃなくて推理ときたか、何か違和感でも見つけたのかな」
「いえ、これから見つける」
「……それは捜査じゃ?」
角野さんと同意見ではあるが……わざわざ違う言い方をしたのだ。何か意味があるのだろう。
「私は失念していた。『事前に殺人の準備をしている可能性』『そもそもの殺人方法が違う可能性』その二つが頭にないまま推理していたんだ」
「だから再推理か。それでも捜査は必要じゃないかな? 記憶というのは案外アテにならないものだよ」
「その点については大丈夫……です」
ひとねは予想通り俺の方に視線を向ける。
「君の出番だ」
「だろうな」
「……?」
こればかりは角野さんでも推理のしようがないだろう。俺は横にならえで立ち上がる。
「映像記憶能力のような物を持っているんです。思い出そうと思えば全てを思い出せます」
「へえ……『ような物」ね。根拠はないけど怪奇現象絡みってところかな?」
「その通りです」
「ならその記憶を信用してみよう。僕ももう一度の推理に参加するよ」
角野さんと堀さんが座り、立っているのが俺だけになる。
「じゃあ頼むよ健斗。一挙手一投足、小説のように全てを語ってくれ」
「任せろ」
俺は目を閉じて記憶を探る。求められるはこの旅館到着時から。全てを逃さず、俺はこの事件の記録を語り始めた。
「イケると思ったんだけどなぁ」
皆が考えこむ中、一人だけなんだかソワソワとしている者がいた。
「どうした、下里」
「あの……わたしも、推理を披露していいですか?」
「……へ?」
全員の視線を受け、下里は顔をほんのり赤くする。
「その、ハズレでも選択肢を狭める事は出来るかなって」
「ああ、もちろんだ。お願い」
「じゃあ……コホン!」
ひとねに促され、決まりかのように下里は立ち上がる。
漫画の探偵のように人差し指を立て、誰でもない場所に向けて突き出す
「そもそもコレは……殺人事件ではないのです!」
*
「……いや、殺人事件だろ。あれは仮死状態とかじゃないぞ」
「はい、それは堀さんが念入りに調べているはずです。しかし人が死んでるだけでは殺人事件にはなりません」
「……?」
「殺人事件は『人』が『殺』される事によって成り立つ事件なのです」
さすがに俺でもいいたい事が分かってきた。
「被害者も容疑者も同じ、自身で自身を殺す。つまりこれは……自殺です!」
*
「自殺はアリなのか?」
「ダメかな?」
怪奇探偵たるひとねに視線を送る。
「自身を客観的に知覚できればあり得るが……」
「なら大丈夫!」
「へえ、そこまで考えていたのかい。凄いじゃないか」
角野さんからの高評価に少し照れながら下里は探偵……と言うよりひとね風の演技を再開する。
「では犯人かつ被害者の足取りを追いましょう。彼は部屋で一人の時、殺人魔に取り憑かれました。もちろん部屋の鍵は閉めた後です
「彼は殺人衝動に身を任せ、近くにあったサバイバルナイフを持って殺す人を探します。この部屋にはいない。外に探しに行こうとした時、彼は視界の端に人影を見つけナイフを突き出します」
なんだか見てきたような説明だが、恐らく下里による脚色だろう。
「同時に鏡が割れた音が鳴り響きます。彼は人では無く鏡の中の自身を刺し、同時に気付きました
『人ならば此処に、一番近くにいるではないか』
後は最初の通り、彼は自身で自身を殺しました。……どうですか?」
「確かに自分を客観視しているね。だけど……」
模様は消えていない。
「ダメでしたか……」
「いや、可能性を潰せたのなら意味はあったろう。堀ちゃん、再捜査だね」
「次は御同行くださいね、安楽椅子は用意しておりません」
「安楽椅子? ああ、別にそういう探偵スタンスじゃあないんだけどね」
角野さんがこの後に及んでなお面倒くさそうに立ち上がる。
「ひとね、こっちも再捜査か」
「再推理だ』
「捜査じゃなくて推理ときたか、何か違和感でも見つけたのかな」
「いえ、これから見つける」
「……それは捜査じゃ?」
角野さんと同意見ではあるが……わざわざ違う言い方をしたのだ。何か意味があるのだろう。
「私は失念していた。『事前に殺人の準備をしている可能性』『そもそもの殺人方法が違う可能性』その二つが頭にないまま推理していたんだ」
「だから再推理か。それでも捜査は必要じゃないかな? 記憶というのは案外アテにならないものだよ」
「その点については大丈夫……です」
ひとねは予想通り俺の方に視線を向ける。
「君の出番だ」
「だろうな」
「……?」
こればかりは角野さんでも推理のしようがないだろう。俺は横にならえで立ち上がる。
「映像記憶能力のような物を持っているんです。思い出そうと思えば全てを思い出せます」
「へえ……『ような物」ね。根拠はないけど怪奇現象絡みってところかな?」
「その通りです」
「ならその記憶を信用してみよう。僕ももう一度の推理に参加するよ」
角野さんと堀さんが座り、立っているのが俺だけになる。
「じゃあ頼むよ健斗。一挙手一投足、小説のように全てを語ってくれ」
「任せろ」
俺は目を閉じて記憶を探る。求められるはこの旅館到着時から。全てを逃さず、俺はこの事件の記録を語り始めた。
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