怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ

文字の大きさ
上 下
101 / 150
まだらの推理

安楽椅子探偵の推理

しおりを挟む
「問題点は変わらない。部屋への出入り方法と刺し傷の量に対して抵抗した跡がない事」
 角野さんは移動して扉の前に立つ。
「まずは出入り方法だが、出入り口はこの扉だ」
 入口では無く出入り口、窓は使わないという事だろう。
「答えは単純明快、鍵を使う事だ。もちろんマスターキーは監視下、簡素な鍵だったが旅館やホテルの合鍵を作るというのは難しいだろう。では残る鍵は一つ、被害者に渡された鍵だ」
「え? 鍵は旅館が持っているんじゃないんです?」
「ああ、確かに旅館側は鍵を持っている。しかしそれを見つけたのは死体発見の少し後だ。死体発見の時、隙を見つけて部屋の中に入れるのは容易だっただろう」
 確かに被害者も鍵が無かったからといって盗まれたとは思わないだろう。大抵は無くしたと思い込む。
「これで仮密室は破られた。次は無抵抗だが、これはより簡単だ。睡眠薬で眠らせてしまえばいい」
「え?」
 俺たち三人の疑問符を無視して、角野さんは続ける。
「犯人の足取りはこうなる。
 まず被害者の部屋に入る。これは彼女と同じく「入れて」と言えばいい。この時に鍵を盗み、睡眠薬を盛る。
 睡眠薬が効いた頃を見計らい、鍵を使って部屋に侵入。被害者を殺す。
 その後部屋を密室にし、死体発見の時に鍵を部屋の中に入れる。これで犯行は成立だ」
「た、確かにそうですけど……」
「もしかしたら犯人の当初の予定では刺殺では無く絞殺、その後首吊りに見せかけるつもりだったのかもしれない。そうすればある程度アリバイ工作の余地もあっただろう」
「え? じゃあなんで刺殺に?」
「それが殺人魔による殺人衝動のせいだと考えている。絞殺より刺殺の方が手っ取り早いからね。まあ、これは運が悪かったとしか言いようがない」
 角野さんが終わりというように座る。
「え、いや……」
 あまりの衝撃に固まっていた俺とひとね。いち早く動いたのはひとねだった。
「それはおかしい」
 確かに殺人事件として成立はしている。
 しかしこれは怪奇事件である。今回の殺人は殺人魔による殺人衝動、最初にひとねが言っていた通り咄嗟の犯行。
 ならば睡眠薬や鍵を盗むなどという事前準備なんてできようも無いのだ。動機もなければ準備もない、それが今回の殺人であるはずだ。
 ひとねがソレを指摘しても角野さんの顔は変わらない。予想していた質問に予定通り返すように再度立ち上がる。
「確かに突発的犯行が確定しているならこんな推理は成立しない。しかし君たちは一つの可能性を見過ごしている」
「可能性? 殺人魔による殺人が突発的でなくなる……」
 少しの沈黙の後、ひとねが「ああ」と呟く。珍しく眉間に皺をよせ「失念していた」と角野さんに続きを促す。
「魔がさす人に条件はない。ならば低い可能性だがありえてしまうんだ『元々殺人を計画していた人に殺人魔が憑く』という事がね」
「………!」
 ああ、そうだ。それならば準備ありきの殺人が成り立ってしまう。
 角野さんの推理通り犯行の最後、一歩手前で魔がさせば成立する。
「ま、ハズレの用だけどね」
「え?」
 目線の先には何一つ変わらない模様が残っている。
「え、て事は……」
「ああ、推理し直しだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

Arachne 2 ~激闘! 敵はタレイアにあり~

ミステリー
学習支援サイト「Arachne」でのアルバイトを経て、正社員に採用された鳥辺野ソラ。今度は彼自身がアルバイトスタッフを指導する立場となる。さっそく募集をかけてみたところ、面接に現れたのは金髪ギャルの女子高生だった! 年下の女性の扱いに苦戦しつつ、自身の業務にも奮闘するソラ。そんな折、下世話なゴシップ記事を書く週刊誌「タレイア」に仲間が狙われるようになって……? やけに情報通な記者の正体とは? なぜアラクネをターゲットにするのか? 日常に沸き起こるトラブルを解決しながら、大きな謎を解いていく連作短編集ミステリ。 ※前作「Arachne ~君のために垂らす蜘蛛の糸~」の続編です。  前作を読んでいなくても楽しめるように書いたつもりですが、こちらを先に読んだ場合、前作のネタバレを踏むことになります。  前作の方もネタバレなしで楽しみたい、という場合は順番にお読みください。  作者としてはどちらから読んでいただいても嬉しいです! 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 にエントリー中! 毎日投稿していく予定ですので、ぜひお気に入りボタンを押してお待ちください! ▼全話統合版(完結済)PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/6627473 一気に読みたい、DLしてオフラインで読みたい、という方はご利用ください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...