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まだらの推理
安楽椅子探偵の推理
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「問題点は変わらない。部屋への出入り方法と刺し傷の量に対して抵抗した跡がない事」
角野さんは移動して扉の前に立つ。
「まずは出入り方法だが、出入り口はこの扉だ」
入口では無く出入り口、窓は使わないという事だろう。
「答えは単純明快、鍵を使う事だ。もちろんマスターキーは監視下、簡素な鍵だったが旅館やホテルの合鍵を作るというのは難しいだろう。では残る鍵は一つ、被害者に渡された鍵だ」
「え? 鍵は旅館が持っているんじゃないんです?」
「ああ、確かに旅館側は鍵を持っている。しかしそれを見つけたのは死体発見の少し後だ。死体発見の時、隙を見つけて部屋の中に入れるのは容易だっただろう」
確かに被害者も鍵が無かったからといって盗まれたとは思わないだろう。大抵は無くしたと思い込む。
「これで仮密室は破られた。次は無抵抗だが、これはより簡単だ。睡眠薬で眠らせてしまえばいい」
「え?」
俺たち三人の疑問符を無視して、角野さんは続ける。
「犯人の足取りはこうなる。
まず被害者の部屋に入る。これは彼女と同じく「入れて」と言えばいい。この時に鍵を盗み、睡眠薬を盛る。
睡眠薬が効いた頃を見計らい、鍵を使って部屋に侵入。被害者を殺す。
その後部屋を密室にし、死体発見の時に鍵を部屋の中に入れる。これで犯行は成立だ」
「た、確かにそうですけど……」
「もしかしたら犯人の当初の予定では刺殺では無く絞殺、その後首吊りに見せかけるつもりだったのかもしれない。そうすればある程度アリバイ工作の余地もあっただろう」
「え? じゃあなんで刺殺に?」
「それが殺人魔による殺人衝動のせいだと考えている。絞殺より刺殺の方が手っ取り早いからね。まあ、これは運が悪かったとしか言いようがない」
角野さんが終わりというように座る。
「え、いや……」
あまりの衝撃に固まっていた俺とひとね。いち早く動いたのはひとねだった。
「それはおかしい」
確かに殺人事件として成立はしている。
しかしこれは怪奇事件である。今回の殺人は殺人魔による殺人衝動、最初にひとねが言っていた通り咄嗟の犯行。
ならば睡眠薬や鍵を盗むなどという事前準備なんてできようも無いのだ。動機もなければ準備もない、それが今回の殺人であるはずだ。
ひとねがソレを指摘しても角野さんの顔は変わらない。予想していた質問に予定通り返すように再度立ち上がる。
「確かに突発的犯行が確定しているならこんな推理は成立しない。しかし君たちは一つの可能性を見過ごしている」
「可能性? 殺人魔による殺人が突発的でなくなる……」
少しの沈黙の後、ひとねが「ああ」と呟く。珍しく眉間に皺をよせ「失念していた」と角野さんに続きを促す。
「魔がさす人に条件はない。ならば低い可能性だがありえてしまうんだ『元々殺人を計画していた人に殺人魔が憑く』という事がね」
「………!」
ああ、そうだ。それならば準備ありきの殺人が成り立ってしまう。
角野さんの推理通り犯行の最後、一歩手前で魔がさせば成立する。
「ま、ハズレの用だけどね」
「え?」
目線の先には何一つ変わらない模様が残っている。
「え、て事は……」
「ああ、推理し直しだ」
角野さんは移動して扉の前に立つ。
「まずは出入り方法だが、出入り口はこの扉だ」
入口では無く出入り口、窓は使わないという事だろう。
「答えは単純明快、鍵を使う事だ。もちろんマスターキーは監視下、簡素な鍵だったが旅館やホテルの合鍵を作るというのは難しいだろう。では残る鍵は一つ、被害者に渡された鍵だ」
「え? 鍵は旅館が持っているんじゃないんです?」
「ああ、確かに旅館側は鍵を持っている。しかしそれを見つけたのは死体発見の少し後だ。死体発見の時、隙を見つけて部屋の中に入れるのは容易だっただろう」
確かに被害者も鍵が無かったからといって盗まれたとは思わないだろう。大抵は無くしたと思い込む。
「これで仮密室は破られた。次は無抵抗だが、これはより簡単だ。睡眠薬で眠らせてしまえばいい」
「え?」
俺たち三人の疑問符を無視して、角野さんは続ける。
「犯人の足取りはこうなる。
まず被害者の部屋に入る。これは彼女と同じく「入れて」と言えばいい。この時に鍵を盗み、睡眠薬を盛る。
睡眠薬が効いた頃を見計らい、鍵を使って部屋に侵入。被害者を殺す。
その後部屋を密室にし、死体発見の時に鍵を部屋の中に入れる。これで犯行は成立だ」
「た、確かにそうですけど……」
「もしかしたら犯人の当初の予定では刺殺では無く絞殺、その後首吊りに見せかけるつもりだったのかもしれない。そうすればある程度アリバイ工作の余地もあっただろう」
「え? じゃあなんで刺殺に?」
「それが殺人魔による殺人衝動のせいだと考えている。絞殺より刺殺の方が手っ取り早いからね。まあ、これは運が悪かったとしか言いようがない」
角野さんが終わりというように座る。
「え、いや……」
あまりの衝撃に固まっていた俺とひとね。いち早く動いたのはひとねだった。
「それはおかしい」
確かに殺人事件として成立はしている。
しかしこれは怪奇事件である。今回の殺人は殺人魔による殺人衝動、最初にひとねが言っていた通り咄嗟の犯行。
ならば睡眠薬や鍵を盗むなどという事前準備なんてできようも無いのだ。動機もなければ準備もない、それが今回の殺人であるはずだ。
ひとねがソレを指摘しても角野さんの顔は変わらない。予想していた質問に予定通り返すように再度立ち上がる。
「確かに突発的犯行が確定しているならこんな推理は成立しない。しかし君たちは一つの可能性を見過ごしている」
「可能性? 殺人魔による殺人が突発的でなくなる……」
少しの沈黙の後、ひとねが「ああ」と呟く。珍しく眉間に皺をよせ「失念していた」と角野さんに続きを促す。
「魔がさす人に条件はない。ならば低い可能性だがありえてしまうんだ『元々殺人を計画していた人に殺人魔が憑く』という事がね」
「………!」
ああ、そうだ。それならば準備ありきの殺人が成り立ってしまう。
角野さんの推理通り犯行の最後、一歩手前で魔がさせば成立する。
「ま、ハズレの用だけどね」
「え?」
目線の先には何一つ変わらない模様が残っている。
「え、て事は……」
「ああ、推理し直しだ」
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