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まだらの推理
探偵と三人の候補者
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アリバイが無かったのは三人。被害者と一緒に来ていた男性一人と女性二人である。
まずは一人の女性から話を聞くことになった。
「こっちから特に話すことはないわよ」
どうも不機嫌そうな女性は一条さんと言うらしい。犯行予測時間はこの部屋に一人で居たという。
「じゃあ、あたしから質問でーす!」
「……どうぞ」
物怖じしない下里に押された一条さんは俺たちを座るように促す。
「皆さんは四人一緒に来たんですよね?」
「ええ、そうよ」
「なんでバラバラの部屋なんですか?」
「この部屋だからよ」
「??」
首を傾げる下里を見て彼女は続ける。
「この部屋は一人用なの。二宮くんがこの部屋が良かったって予約したのよ」
「二宮? 誰だそれは」
「この後聞き込みをする男性の方です」
「なるほど」
ひとねと堀さんが情報の確認をしている間にも下里の質問は続く。
「皆さんはどういった関係なんですか?」
「大学の頃登山同好会だったの」
「それにしては他人事みたいだね」
ひとねのこぼした言葉にムッとしながらも一条さんは口を開く。
「四井くん、殺された彼とはあまり話したことがなかったから。三田ちゃんとは時々話していたけど」
話の流れから三田さんというのがもう一人の聞き込み対象なのだろう。
「え? でも同じサークルだったんじゃ」
「あのサークル結構人数がいたから。今回集まったのも同窓会でまだ登山を続けていたのがこの四人だっただけの話よ」
「じゃあ登山をするつもりで来たんだね?」
「ええ、今日近くの山を登る予定だったのよ」
「じゃあ登山道具は全員持っていると」
「もちろんよ、じゃないと登山が出来ないわ」
「ではロープやザイルのような高所を上り下りできる物も?」
「人の持ち物まで確認してないけど持ってるはずよ……何が聞きたいの?」
「いや、何が手掛かりになるか分からないので」
ひとねが確認したい事は理解できた。ロープやザイルがあるのなら窓から出ることが出来る。
しかしバイトくんがいた事で完成した擬似的密室は解かれていない。ただ降りることが出来るというだけの話だ。
ひとねの質問が終わるのを見計らい、堀さんが口を開く。
「彼らの中で揉め事などはありましたか?」
「どーだろ……あ、二宮くんが四井くんにお金を貸したとかなんとか前に言ってたけど」
「金額などは言われていましたか?」
「詳しくは知らないわ、二宮くんに聞いた方がいいんじゃない?」
堀さんからの質問が終わった隙に一条さんはわざとらしくため息をつく。
「もういいかしら? ここから出してもらえなくて温泉にも行けてないからお風呂に入りたいの」
「ありがとうございます。お手数をおかけしました」
「どうだ?」
部屋を出てひとねに聞いて見る。
「主語をいいたまえよ」
「推理は捗っているか?」
「君も気付いているだろうが窓からの脱出は容易だったみたいだね。今のところ分かったのはそれくらいさ」
「次はこちら、二宮さんの部屋です」
「この部屋を予約したのは彼だって言ってましたね」
「その事実確認も含めて、聞き込みといこう」
*
「ああ、君たちが言っていた学生さんか」
部屋から出てきたのは優しそうな男性。軽い挨拶の後、部屋に招き入れてくれた。
「何か飲む?」
「いえ、用意致します」
「あー、僕も犯人候補だったね」
「そうではなく、メイドなので」
「メイドさん? ほんとに?」
「ええ、何を飲まれますか?」
「じゃあコーヒーをブラックでお願い」
堀さんがコーヒーを入れている間、座った俺たちは部屋を見渡す。
他二人の部屋と違いはない。間取りも同じだしフルーツ盛りもある。さっきの部屋にもあったな。
「四人の部屋はあなたが予約したと聞いたけど、事実ですか?」
「ああ、僕はここの常連でね。少し値は張るがサービスがいいんだ」
「このフルーツもサービスの一つなんです?」
「ああ、そうだよ。多すぎるくらいだけど言えば持って帰る事も出来る。知り合いの農家と提携しているらしい」
そう言って二宮さんが取り出して来たのはこの旅館のパンフレット、部屋の内容が書いている。
一人泊まり限定というのがこの部屋だろう。あまり売れない一人用の部屋にオプションを付けて売る作戦といったところだろうか。
「どうせ食べきれないし食べるかい? まだどれも手をつけていないから」
「いいんですか!」
下里の目がキラキラと光る。二宮さんはその様子を見て少し笑いながら梨を手に取る。
「あれ? ナイフが無いですね」
「こちらにありますが」
簡易キッチンにいた堀さんが洗い場に置いていた果物ナイフを手に持つ。
「ああ、ついた果汁がベタつくから洗おうとしたんだ」
「洗いましょうか?」
「いや、大丈夫」
二宮さんはカバンからケースを取り出す。その中には……
「……!?」
「え? ……あっ、ごめん」
彼が手に持っているのはサバイバルナイフ。今回の凶器である。
「だいじょーぶですよ。少し驚いただけです」
「それは登山用かい?」
「ああ、全員持っているよ。山の上で料理をしたりするからね」
「全員同じ物を?」
「いや、底面の色が違っていて四井のは青だった」
「健斗」
「りょうかい」
俺は記憶を探る。被害者、四井さんの胸に刺さっていたナイフの色は……
「青、だな」
「その場咄嗟の犯行ならある物を使う。妥当だね。そういえばナイフの指紋は……」
「検出されませんでした。簡易な物なので警察が調べればわかりませんが、拭き取られたような印象を持ちました」
カップを湯であっためていた堀さんは投げかけられた質問に淡々と答えた。
「ふむ」と相槌らしきものを発した後、ひとねは二宮さんに向き直る。
「因みに四井さんとの関係は」
「あいつとは親友さ。大学で出会ってから長いこと一緒にいたんだ……」
少し出かけた涙を拭い、慣れた手つきで梨を切り分ける。
「あの日電話に出なかった時点で気付くべきだった……そうすれば助かったもしれない」
「電話?」
ポケットから出されたスマートフォンの画面には四井さんに何度も連絡をした履歴が残っていた。時間は犯行予測時間内である。
「不在か……何か用事でも?」
「一緒に酒でも飲もうと思ってね。いきなり押しかけるとあいつは断れないから」
「なるほど」
「お待たせしました」
堀さんの入れてくれたコーヒーも揃い、聞き込みが再開される。
「常連と言っていましたけど、毎回この部屋に?」
「ああ、正確には四つある部屋のどれかになるけどね。山登りの後はここの温泉が最高なんだよ」
「なるほどです」
「そうだ、一条さんと三田さんにあまり面識がないというのは本当かい?」
「ああ、同窓会からだから僕たち程長くはないね」
「彼、四井さんはザイルを持っていた?」
「ああ、確信はないけど持ってるはずだ」
「なるほど、ありがとう」
今ひとねが行ったのは一条さんの証言を確かなものにする作業だろう。全員にコレをすれば証言内の嘘が限りなくゼロに近くなる。
「一つ、よろしいでしょうか?」
ひとねが座椅子に背を預けたタイミングで堀さんが話し出す。
「もちろん」
「四井さんと何かトラブルなどはありませんでしたか?」
「トラブル……そうだね、少し前にお金の貸し借りで揉めはした。でも終わった話だよ」
「解決しているという事ですね」
「ああ、もちろん」
返答を受けた堀さんは壁にかかっている時計を見る。
「そろそろ三田さんに話を聞く時間ですね」
「ああ、次は三田ちゃんか。彼女は意外と繊細だから四井の名前はあまり出さないであげて欲しいな」
「承知しました、そのように計らいます」
「よろしく、メイドさん」
「何かわかったか?」
部屋を出て再度尋ねる。
「少し推理としては不足だが……まあ、推論はある」
「なるほど」
今回の事件は間違いが許され、数を打ってもいい。なので不確定な推理もありなのだが……ひとねにとっては推論らしい。
*
「あれ? あの格好良さげな人が探偵じゃなかったの?」
最後に聞き取りをする三田さんは俺たちを見て疑問符を浮かべた。
「角野さんは安楽椅子探偵らしいです」
「安楽椅子? 柔らかいやつだっけ?」
「簡潔に言ってしまえば現場に赴く事もしない横着者です」
堀さんの容赦ない評価に苦笑いしながらも三田さんは俺たちを中に入れてくれた。
「…………」
記憶と照合するが、他の部屋と大差はない。部屋の形も同じでフルーツ盛りなどのサービスも変わりない。
「で、何を聞きたいの?」
「じゃあまず事実確認から行う」
ひとねが今までの二人の証言を丁寧に確認していく。特に矛盾はなく信用して良さそうだ。
下里も幾つか質問を投げかけたが、有用な答えは得られなかった。
そろそろ終わろうかというタイミングで堀さんが口を開く。
「お三方との関係はどういうものでしたか?」
「ニノ……二宮くんとは大学からの仲、あまり登山はしなかったけどね。他の二人とは同窓会以降」
「なるほど、ありがとうございます」
部屋を出て恒例のように俺は問いかける。
「何かわかったか?」
「あまり良い証言はなかったね。でも分からない事が一つある」
「と、いうと?」
ひとねは堀さんの方を向く。
「やけに四人の関係を気にしていたね? 普通の殺人事件なら確認すべき事だが、今回は違う。何を得ようとしていたのだい?」
「わかりません」
「……え?」
予想外の言葉にひとねが固まる。
「聞き込みにあたり『彼女達は絶対に聞かないだろうから確認しておいてくれ』と念を押されていたので」
つまりは角野さんの意向というわけだ。
「聞いておきましょうか?」
「いや、ただの興味だ。必要ない」
「承知しました。では、解散と致しましょう」
自身の部屋へと戻りかけた堀さんが「そういえば」と振り向く。
「今回の事件、解決の期限はどれくらいでしょうか?」
問いたいのは殺人魔による第二の犯行タイミングだろう。
ひとねは俺の腕を掴み、付いている時計を見て離す。
「明日の深夜までは安全だ。それ以降は確率は低いが万が一が発生する」
「なるほど、では明日の夕方がよろしいですね」
「ああ、それまでにどうにか推理……推論を立てておこう」
まずは一人の女性から話を聞くことになった。
「こっちから特に話すことはないわよ」
どうも不機嫌そうな女性は一条さんと言うらしい。犯行予測時間はこの部屋に一人で居たという。
「じゃあ、あたしから質問でーす!」
「……どうぞ」
物怖じしない下里に押された一条さんは俺たちを座るように促す。
「皆さんは四人一緒に来たんですよね?」
「ええ、そうよ」
「なんでバラバラの部屋なんですか?」
「この部屋だからよ」
「??」
首を傾げる下里を見て彼女は続ける。
「この部屋は一人用なの。二宮くんがこの部屋が良かったって予約したのよ」
「二宮? 誰だそれは」
「この後聞き込みをする男性の方です」
「なるほど」
ひとねと堀さんが情報の確認をしている間にも下里の質問は続く。
「皆さんはどういった関係なんですか?」
「大学の頃登山同好会だったの」
「それにしては他人事みたいだね」
ひとねのこぼした言葉にムッとしながらも一条さんは口を開く。
「四井くん、殺された彼とはあまり話したことがなかったから。三田ちゃんとは時々話していたけど」
話の流れから三田さんというのがもう一人の聞き込み対象なのだろう。
「え? でも同じサークルだったんじゃ」
「あのサークル結構人数がいたから。今回集まったのも同窓会でまだ登山を続けていたのがこの四人だっただけの話よ」
「じゃあ登山をするつもりで来たんだね?」
「ええ、今日近くの山を登る予定だったのよ」
「じゃあ登山道具は全員持っていると」
「もちろんよ、じゃないと登山が出来ないわ」
「ではロープやザイルのような高所を上り下りできる物も?」
「人の持ち物まで確認してないけど持ってるはずよ……何が聞きたいの?」
「いや、何が手掛かりになるか分からないので」
ひとねが確認したい事は理解できた。ロープやザイルがあるのなら窓から出ることが出来る。
しかしバイトくんがいた事で完成した擬似的密室は解かれていない。ただ降りることが出来るというだけの話だ。
ひとねの質問が終わるのを見計らい、堀さんが口を開く。
「彼らの中で揉め事などはありましたか?」
「どーだろ……あ、二宮くんが四井くんにお金を貸したとかなんとか前に言ってたけど」
「金額などは言われていましたか?」
「詳しくは知らないわ、二宮くんに聞いた方がいいんじゃない?」
堀さんからの質問が終わった隙に一条さんはわざとらしくため息をつく。
「もういいかしら? ここから出してもらえなくて温泉にも行けてないからお風呂に入りたいの」
「ありがとうございます。お手数をおかけしました」
「どうだ?」
部屋を出てひとねに聞いて見る。
「主語をいいたまえよ」
「推理は捗っているか?」
「君も気付いているだろうが窓からの脱出は容易だったみたいだね。今のところ分かったのはそれくらいさ」
「次はこちら、二宮さんの部屋です」
「この部屋を予約したのは彼だって言ってましたね」
「その事実確認も含めて、聞き込みといこう」
*
「ああ、君たちが言っていた学生さんか」
部屋から出てきたのは優しそうな男性。軽い挨拶の後、部屋に招き入れてくれた。
「何か飲む?」
「いえ、用意致します」
「あー、僕も犯人候補だったね」
「そうではなく、メイドなので」
「メイドさん? ほんとに?」
「ええ、何を飲まれますか?」
「じゃあコーヒーをブラックでお願い」
堀さんがコーヒーを入れている間、座った俺たちは部屋を見渡す。
他二人の部屋と違いはない。間取りも同じだしフルーツ盛りもある。さっきの部屋にもあったな。
「四人の部屋はあなたが予約したと聞いたけど、事実ですか?」
「ああ、僕はここの常連でね。少し値は張るがサービスがいいんだ」
「このフルーツもサービスの一つなんです?」
「ああ、そうだよ。多すぎるくらいだけど言えば持って帰る事も出来る。知り合いの農家と提携しているらしい」
そう言って二宮さんが取り出して来たのはこの旅館のパンフレット、部屋の内容が書いている。
一人泊まり限定というのがこの部屋だろう。あまり売れない一人用の部屋にオプションを付けて売る作戦といったところだろうか。
「どうせ食べきれないし食べるかい? まだどれも手をつけていないから」
「いいんですか!」
下里の目がキラキラと光る。二宮さんはその様子を見て少し笑いながら梨を手に取る。
「あれ? ナイフが無いですね」
「こちらにありますが」
簡易キッチンにいた堀さんが洗い場に置いていた果物ナイフを手に持つ。
「ああ、ついた果汁がベタつくから洗おうとしたんだ」
「洗いましょうか?」
「いや、大丈夫」
二宮さんはカバンからケースを取り出す。その中には……
「……!?」
「え? ……あっ、ごめん」
彼が手に持っているのはサバイバルナイフ。今回の凶器である。
「だいじょーぶですよ。少し驚いただけです」
「それは登山用かい?」
「ああ、全員持っているよ。山の上で料理をしたりするからね」
「全員同じ物を?」
「いや、底面の色が違っていて四井のは青だった」
「健斗」
「りょうかい」
俺は記憶を探る。被害者、四井さんの胸に刺さっていたナイフの色は……
「青、だな」
「その場咄嗟の犯行ならある物を使う。妥当だね。そういえばナイフの指紋は……」
「検出されませんでした。簡易な物なので警察が調べればわかりませんが、拭き取られたような印象を持ちました」
カップを湯であっためていた堀さんは投げかけられた質問に淡々と答えた。
「ふむ」と相槌らしきものを発した後、ひとねは二宮さんに向き直る。
「因みに四井さんとの関係は」
「あいつとは親友さ。大学で出会ってから長いこと一緒にいたんだ……」
少し出かけた涙を拭い、慣れた手つきで梨を切り分ける。
「あの日電話に出なかった時点で気付くべきだった……そうすれば助かったもしれない」
「電話?」
ポケットから出されたスマートフォンの画面には四井さんに何度も連絡をした履歴が残っていた。時間は犯行予測時間内である。
「不在か……何か用事でも?」
「一緒に酒でも飲もうと思ってね。いきなり押しかけるとあいつは断れないから」
「なるほど」
「お待たせしました」
堀さんの入れてくれたコーヒーも揃い、聞き込みが再開される。
「常連と言っていましたけど、毎回この部屋に?」
「ああ、正確には四つある部屋のどれかになるけどね。山登りの後はここの温泉が最高なんだよ」
「なるほどです」
「そうだ、一条さんと三田さんにあまり面識がないというのは本当かい?」
「ああ、同窓会からだから僕たち程長くはないね」
「彼、四井さんはザイルを持っていた?」
「ああ、確信はないけど持ってるはずだ」
「なるほど、ありがとう」
今ひとねが行ったのは一条さんの証言を確かなものにする作業だろう。全員にコレをすれば証言内の嘘が限りなくゼロに近くなる。
「一つ、よろしいでしょうか?」
ひとねが座椅子に背を預けたタイミングで堀さんが話し出す。
「もちろん」
「四井さんと何かトラブルなどはありませんでしたか?」
「トラブル……そうだね、少し前にお金の貸し借りで揉めはした。でも終わった話だよ」
「解決しているという事ですね」
「ああ、もちろん」
返答を受けた堀さんは壁にかかっている時計を見る。
「そろそろ三田さんに話を聞く時間ですね」
「ああ、次は三田ちゃんか。彼女は意外と繊細だから四井の名前はあまり出さないであげて欲しいな」
「承知しました、そのように計らいます」
「よろしく、メイドさん」
「何かわかったか?」
部屋を出て再度尋ねる。
「少し推理としては不足だが……まあ、推論はある」
「なるほど」
今回の事件は間違いが許され、数を打ってもいい。なので不確定な推理もありなのだが……ひとねにとっては推論らしい。
*
「あれ? あの格好良さげな人が探偵じゃなかったの?」
最後に聞き取りをする三田さんは俺たちを見て疑問符を浮かべた。
「角野さんは安楽椅子探偵らしいです」
「安楽椅子? 柔らかいやつだっけ?」
「簡潔に言ってしまえば現場に赴く事もしない横着者です」
堀さんの容赦ない評価に苦笑いしながらも三田さんは俺たちを中に入れてくれた。
「…………」
記憶と照合するが、他の部屋と大差はない。部屋の形も同じでフルーツ盛りなどのサービスも変わりない。
「で、何を聞きたいの?」
「じゃあまず事実確認から行う」
ひとねが今までの二人の証言を丁寧に確認していく。特に矛盾はなく信用して良さそうだ。
下里も幾つか質問を投げかけたが、有用な答えは得られなかった。
そろそろ終わろうかというタイミングで堀さんが口を開く。
「お三方との関係はどういうものでしたか?」
「ニノ……二宮くんとは大学からの仲、あまり登山はしなかったけどね。他の二人とは同窓会以降」
「なるほど、ありがとうございます」
部屋を出て恒例のように俺は問いかける。
「何かわかったか?」
「あまり良い証言はなかったね。でも分からない事が一つある」
「と、いうと?」
ひとねは堀さんの方を向く。
「やけに四人の関係を気にしていたね? 普通の殺人事件なら確認すべき事だが、今回は違う。何を得ようとしていたのだい?」
「わかりません」
「……え?」
予想外の言葉にひとねが固まる。
「聞き込みにあたり『彼女達は絶対に聞かないだろうから確認しておいてくれ』と念を押されていたので」
つまりは角野さんの意向というわけだ。
「聞いておきましょうか?」
「いや、ただの興味だ。必要ない」
「承知しました。では、解散と致しましょう」
自身の部屋へと戻りかけた堀さんが「そういえば」と振り向く。
「今回の事件、解決の期限はどれくらいでしょうか?」
問いたいのは殺人魔による第二の犯行タイミングだろう。
ひとねは俺の腕を掴み、付いている時計を見て離す。
「明日の深夜までは安全だ。それ以降は確率は低いが万が一が発生する」
「なるほど、では明日の夕方がよろしいですね」
「ああ、それまでにどうにか推理……推論を立てておこう」
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